自分の心と他人の心が違うと気づくのはいつ頃?心の理論とは

 

発達心理学は「20世紀において最も影響力の大きかった心理学者の一人であるジャン・ピアジェ(Jean Piaget,1896-1980)」らの影響を受けながら、大いに発展してきました。

 

やがて、心理学者たちは子どもの発達を研究する中で、「心の理論」と呼ばれる概念に注目するようになります。

「心の理論」とは、自分ではない誰かの立場に立って物事を考える心の働きのことで、他人が置かれた立場や状況を理解した上で、その人の気持ちや考えを察するころです。

 

つまり、人間関係を円滑に進めるのに欠かせないものが心の理論だと言えます。

 

この記事では、「心の理論」はいつごろ獲得されるものなのか、心の理論を獲得したかを調べる代表的な実験などをご紹介します。

 

 

「心の理論」の起源

「心の理論」はアメリカの霊長類研究者で心理学者のデイヴィッド・プレマック(David Premack)氏が『チンパンジーは心の理論をもつか?(原題:”Does the Chimpanzee Have a “Theory of Mind”)』と題した1978年の論文を出したことに端を発します。

プレマック氏はチンパンジーなどの霊長類が同種の仲間や他の動物が感じていることを推測しているかのような行動をとることに注目し、「心の理論」という機能が働いているからではないかと指摘しました。

この能力があるため、人は他人にも心が宿っているとみなすことができ、他人の心の働きを理解し、それに基づいて他人の行動を予測できるとプレマック氏は考えました。

 

「心の理論」は次にご紹介する誤信念課題のなどの様々な研究によって、およそ4歳で獲得されると考えられています。

 

自分の心と他人の心が違うと気づくのはいつ頃?代表的な誤信念課題

哲学者のダニエル・デネット(Daniel Dennett)氏は子どもが「心の理論」をもったと言えるためには、「他人が状況によっては間違った判断をすることもあるし、正しい判断をすることもある」ということを理解する必要があると考えました。

その能力を試す課題が誤信念課題(False-belief task)です。

この課題を解くためには、他人が自分とは違う誤った信念(誤信念)を持つことを理解できなければなりません。

それでは、代表的な誤信念課題「サリーとアンの課題」をご紹介します。

 

サリーとアンの課題

「心の理論」を獲得したかを調べるために、子どもたちに以下のような紙芝居を見せて、正しく状況を理解できるかを調べました。

 

引用:「からすのひろいもん
  1. サリーとアンは同じ部屋にいます。
  2. サリーはボールをかごにしまいました。
  3. その後、サリーどこかに行ってしまいました。
  4. サリーがどこかに行っている間にアンはかごに入っているボールを箱に移動しました。
  5. そこに、サリーが戻ってきました。さて、サリーがボールを探すのはかごと箱のどちらでしょう?

 

と紙芝居を見ている子どもたちに聞きます。

ポイントは「ボールがかごから箱に移された事実をサリーは知らない」という状況を子どもたちは理解できるかどうかです。

「心の理論」を獲得できていて、サリーの立場に立って考えられると、正解の「かご」と答えられるはずです。

 

実験の結果、3歳までの幼児のほとんどはサリーの立場に立って考えることができず、「箱」を探すと答えました。

ところが、4、5歳で心の理論を獲得すると、「かご」を探すと正しく答えられるようになりました。

 

子どもが嘘をつくのも「心の理論」の働きによるもの

4、5歳になると子供は嘘をつき始めます。

例えば、親や先生に叱られたくないときに

 

親「ここにあったお菓子食べたでしょ!?」

子ども「えっ?何のことかさっぱり分からないよ?」

 

先生「机に落書きしたでしょ!?」

子ども「えっ?初めから書いてありましたけど?」

 

実はこれらも「心の理論」を獲得したからできることなのです。

つまり、「こう説明すれば、叱られないはずだ」と大人の気持ちを想像できるようになったからこそ、子どもは嘘をつくのです。

 

最後に

「心の理論」は、他人の気持ちを察することが難しい自閉症などの発達障害との関連が指摘されています。

自閉症の中核的障害が「心の理論」の欠如にあるのではないか?という意見がある一方で、自閉症児の中にも誤信念課題をクリアできる子もいるので、少なからず反対意見もあります。

 

また、最近では他人の気持ちに人一倍敏感な子ども(HSC,Highly Sensitive Child)の存在にも注目が集まっており、「心の理論」をめぐる研究は現在でも進められています。

 

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参考文献

『Newton 2019/12』

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