緘黙症とはどんな疾患?症状、診断基準、原因、治療法を徹底解説

 

緘黙症(かんもくしょう)とは、発声器官には特に問題がなく、言葉を理解することもできる人がある特定の場面や状況で話すことができなくなってしまう精神疾患です。

 

緘黙症は多くの場合、2~5歳頃発症します。

 

話せなくなる場面や状況は人によって異なりますが、家族に対してや家庭では話せる人が多いため、幼稚園・保育所・学校へ通い始めて初めて、緘黙症だと判明するというケースが多いです。

 

日本国内での発症率は、0.2~0.5%だとされています。

 

この記事では、緘黙症とはどんな疾患なのか、その症状・診断基準・原因・治療法などを解説していきます。

 

緘黙症とはどんな疾患?

緘黙症(英語:mutism)の人は「声を聞かれること」「話す姿を見られること」に恐怖を感じて、声を出せなくなってしまいます。

 

緘黙症には、「場面緘黙症(選択性緘黙症)」と「全緘黙症」という2つの種類があります。

 

場面緘黙症(選択性緘黙症)

場面緘黙症(選択性緘黙症)はある特定の場面、状況において、話す能力に問題がないにも関わらず、話せなくなってしまう疾患です。

 

一般的には「場面緘黙症」と呼ばれることが多いですが、医学的な診断名としては「選択性緘黙症」が用いられています。

 

患者の多くは「話したいという意思はあるけど、話せない」、話す場面を“選ばざるを得ない”ということから、選択性緘黙症と呼ばれていると考えられています。

 

しかし、“選択”という言葉が、「患者が意図的に場面を選んで、黙っている」ような印象を与えやすいため、誤解を避けるために一般的には「場面緘黙症」と呼ぶ人が多いです。

 

以前まで、「場面緘黙症は大人になれば治る疾患」と考えられてきましたが、近年では、適切な支援がない状態でそのまま過ごした場合、長期にわたるストレス状況から、うつ症状、不登校などの二次的な問題へとつながるケースも見られます。

 

海外の資料によると、たとえ話せるようになったとしても、成人後に社会不安障害などの不安障害に悩まされることも多く、早い時期からの適切な対処の重要性が強調されています。

 

全緘黙症

場面緘黙症(選択性緘黙症)がある特定の場面で話せなくなるのに対し、全緘黙症はあらゆる場面で話せなくなる疾患です。

 

全緘黙症の発現率は、場面緘黙症(選択性緘黙症)よりも低いです。

 

緘黙症と内気、人見知りとの違いは?

緘黙症の特徴を聞くと、

 

一般的な意見
えっ?それって、よくある内気な性格とか、人見知りとかじゃないの?

 

と疑問に思う方もいらっしゃいますが、緘黙症と内気、人見知りは異なります。

 

内気、人見知りというのは、多くの場合、最初は相手に不安を感じて話すことができないですが、慣れてくれば普通に話せます。

 

緘黙症は一度ある状況(相手・場所・活動など)で話せないと、その状況ではずっと話せません。

 

診断基準

精神疾患の診断基準には大きく分けて2つあります。

 

1つ目は、アメリカ精神医学会が出版している「精神疾患の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)」です。

 

2つ目は、世界保健機関が公表している「国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)」です。

 

ここでは、DSMの第5版、DSM‐5における場面緘黙症の診断基準をご紹介します。

  1. ある特定の状況、場面以外では話すことができるが、そのある特定の社会的状況、場面では常に話すことができない。
  2. この疾患により、学業上、職業上の成績が適正に評価されない、または対人コミュニケーションを円滑に行えない。
  3. この疾患が少なくとも一か月以上続いている。
  4. 場面に応じた知識があり、会話の楽しさを知っているが、話すことができない。
  5. コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症、吃音)ではうまく説明されず、自閉スペクトラム症、統合失調症またはその他の精神病障害の経過中にのみ起こるものではない。

引用:DSM‐5 精神疾患の診断・統計マニュアル

原因

現段階では、緘黙症の原因はハッキリとは分かっておりません。

 

  • 内気な性格などの心理的な要因
  • 暴言を吐かれる、暴力を振るわれる、ネグレクトなどの社会的な要因
  • 扁桃体が過剰刺激されているなどの生物学的な要因

などの要因が複雑に絡み合って、生じていると考えられています。

 

また、入園・転校・ケガ・大切な人の死などがきっかけとなるケースもあります。

 

治療法

緘黙症の治療として、主に心理療法を行います。

 

心理療法にも色々な療法がありますが、効果的だとされている心理療法は「段階的曝露療法」です。

 

曝露療法はエクスポージャー療法とも呼ばれ、不安障害、強迫性障害、パニック障害などの疾患で用いられる行動療法の一つです。

 

曝露療法では患者が不安や苦痛を克服するために、不安・恐怖を抱いているモノや状況に対して、直面させるという技法です。

 

段階的曝露療法では、不安を感じるレベルの低い状況から徐々に慣れされていきます。

 

【具体例】

Aくんは家庭では普通に話せるのに、学校では話せなくなってしまう場面緘黙症でした。

学校の外でも友だちと話せないAくんでしたが、家族のメンバーが一緒にいると友だちと話すことができました。

 

そこで公園などで、Aくん・家族のメンバー・学校の友だちでお話する機会を多く作ることにしました。

 

そのうち、Aくんは家族のメンバーが離れた場所にいるとき、完全にいないときでも友だちと話せるようになりました。

といった具合に、一歩一歩、不安・恐怖を克服できるように手伝います。

 

行動療法に関してはこちらの記事をご覧ください。

 

最後に

緘黙症の社会的な認知度は低いです。

日本国内では発症率0.2~0.5%とされていますが、内気な性格・人見知りなどの性格と緘黙症の状態との区別は難しいため、実際には潜在的にもっと多くの人が緘黙症の可能性があります。

 

また、緘黙症の人は問題行動をほとんど起こしません。

そのため、周囲の人間が緘黙の状態を「治療が必要なもの」として認識しないことが多いです。

 

緘黙症は治療が可能な社交不安症の一つと考えられているので、適切な治療的介入を行えば、症状の改善が十分に可能です。

 

しかし、積極的な介入が行わなければ、症状が改善されずに固定化してしまい、成人後に社会不適応状態になって重大な悪影響を及ぼしかねません。

 

緘黙症の社会的な認知度を上げて、治療の大切さを広めていくのが必要ですね。

 

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参考

かんもくネット「場面緘黙とは」

日本緘黙研究会「場面緘黙(ばめんかんもく)の簡単な説明」

 

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