精神疾患は心理的な問題だけではない!?「生物心理社会モデル」とは

たとえば、ある人がうつになってしまい、精神科を受診しました。

精神科医や臨床心理士・公認心理師は、そのクライエントの症状・問題をどのように査定するでしょうか?

 

うつは心の病だから、クライエントの心理的な問題だと考えるんじゃないの?
マインドパレッサー

確かに、心理的な側面からもアプローチしますが、それだけでは足りません。

というのも、クライエントの症状・問題には、その人が過去に罹った病気・身体的特徴・服用している薬・性格・考え方・会社での人間関係・家族間の関係などが複雑に絡み合っているからです。

 

この記事では、クライエントの症状・問題について考えるときに大切な「生物心理社会モデル(Bio-Psycho-Social model)」について解説していきます。

精神疾患は心理的な問題だけではない!?「生物心理社会モデル」とは

精神疾患は心理的な問題だけではない!?「生物心理社会モデル」とは
引用:新しい国家資格「公認心理師」誕生。公認心理師って何?どうやって取得するの?気になる疑問を解決しよう。

 

生物心理社会モデル(Bio-Psycho-Social model)」とは、1977年にロチェスター大学の精神科医であったジョージ・エンゲル(George.L.Engel,1913-1999)が提唱したクライエントに対するアプローチ方法です。

 

クライエントの症状・問題について考えるとき、まずは脳や神経、遺伝といった生物的な側面から捉え、次にそのクライエントの考え方、感情、知能、性格などの心理的な側面で捉えます。

そして、さらにクライエントが置かれている家庭や学校、会社などの社会的な側面から捉え、それらがどのように関連してクライエントの症状・問題を生み出しているのかを考えることが大切だとエンゲルは提唱しました。

 

つまり、人間が抱える症状・問題というのは、「生物的要因」「心理的要因」「社会的要因」が複雑に絡み合っているので、その3つを切り離して考えることはできないということです。

 

「生物学的要因」「心理的要因」「社会的要因」をもう少し詳しく説明します。

生物的要因(Bio)

主な生物的要因
  • 身体的特徴や疾病の有無
  • 過去に罹ったことのある病気の経歴(既往歴)
  • 遺伝的要素
  • 物質使用の有無(お酒、タバコ、飲んでいる薬など)

精神疾患の原因として、身体疾患や物質使用が関係しているかどうかは診断する上で、まず最初に行わなければなりません。

 

なぜなら、身体的な病気をきっかけに精神疾患を患ったクライエントにいくら向精神薬を処方しても、根本的な解決にならないからです。

心理的要因(Psycho)

主な心理的要因
  • 性格
  • 考え方
  • 信念
  • 知能
  • トラウマ

クライエントの訴え(主訴)を聴き、「クライエント本人が主観的に感じる症状」と「心理職が客観的に把握する現象」を総合的に判断し、今の状況を評価していきます。

 

【代表的な状態像】

  • 幻覚・妄想状態‐意識は鮮明で、幻覚と妄想がみられる
  • 不安状態‐明確な対象のない、漠然とした不安と身体症状
  • うつ状態‐うつ気分、精神運動抑制、思考制止を伴う
  • 躁状態‐爽快な気分、精神運動興奮、観念奔脱などを伴う
  • 強迫状態‐強迫観念、強迫行為がみられる

 

社会的要因(Social)

主な社会的要因
  • 職業
  • 家族
  • 教育
  • 人種
  • 経済的状況
  • 社会的サポートの有無

原因として個人生活に関連したもの、社会生活に関連したものがあるかどうかを検討していきます。

 

たとえば、以下のようなことを検討します。

  1. 幼少期の養育上の問題
  2. 現在の家族との関係
  3. ライフイベント(結婚、出産、卒業、死別、昇進など)
  4. 職場での人間関係
  5. 過重労働
  6. 雇用条件の変化

 

生物心理社会モデルを使った具体例

精神科医の近藤直司先生が生物心理社会モデルをもとに、クライエントを包括的・立体的に評価しアプローチする方法を考えました。

近藤先生はそのアプローチを以下の4段階に分けました。

  1. 情報収集
  2. アセスメント
  3. 支援課題
  4. 支援計画

それでは、不登校の生徒を例にとって、説明していきます。

 

情報収集‐クライエントを取り巻く客観的な情報を集める

「情報収集」では、クライエントが語る内容だけではなく、表情・しぐさ・声のトーンなどの非言語な情報も重要になります。

 

不登校の生徒に対するカウンセリングでは、以下のような情報が得られると考えられます。

  • 学校に友達が数人いる
  • 表情は暗く、小声で話す
  • 家族メンバーでは、母親とよく話す
  • テストの成績は国語〇点、数学△点、英語□点

 

「情報収集」と次の段階の「アセスメント」は分けて考える必要があります。

情報収集で集める情報はあくまでもカウンセラーの考えを挟まない「客観的な情報」で、アセスメントではその情報をもとに、カウンセラーが解釈・推測(カウンセラーの主観)していきます。

 

アセスメント‐客観的情報をもとに、症状を解釈する

「アセスメント」では、生物・心理・社会の3つの側面から問題を考えていきます。

アセスメントはカウンセラーの主観的な解釈・推測・理解なので、カウンセラーによっても多少、解釈が異なってきます。

そのため、情報の整合性を考えてアセスメントすることが重要になります。

 

生物・心理・社会の3つの側面から考えると以下のようになります。

  • 生物的な側面‐学校の成績があまり悪くないので、知的発達に遅れがあるかもしれない
  • 心理的な側面‐自己肯定感が低く、自分に自信がないように見える
  • 社会的な側面‐仲の良い友達となら、良好な人間関係を作れるだろう

 

支援課題‐クライエントに必要な支援を考える

アセスメントをもとに、クライエントに必要だと思われる支援を考えていきます。

漠然としてものではなく、実際に実行が可能な支援課題を考えることが重要になります。

 

支援課題は以下のようになります。

  • 知的能力の向上
  • 自己肯定感を向上させる施策
  • 登校しやすい環境整備

 

支援計画‐具体的なプランを立てる

支援課題に対応した具体的な支援プランを立てていきます。

具体的な支援プランとは、「誰が」「どんな方法で」「いつ」をはっきりさせることです。

 

たとえば、次のような支援計画が考えられます。

  • 登校しやすいように、次の席替えで友人A君が近くの席になるように担任が調整する
  • 自己肯定感を上げられるように、週一回スクールカウンセラーによるカウンセリングを受ける
  • 一か月以内にクライエントが授業でつまずいているところを洗い出し、担任が効果的な学習方法を提案する

 

まとめ

「うつ」といっても原因はさまざまです。

  • 職場の人間関係
  • 罹っている身体疾患によって、気分がふさぎ込んでしまった
  • 服用している薬の副作用
  • 何でも自分のせいにしてしまう性格傾向
  • 最近、身近な人が亡くなってしまった

 

精神疾患といっても、こういった生物・心理・社会的な要因が複雑に絡み合って、表に現れています。

いうなれば、心理職はクライエントの症状・問題を立体的に捉え、複雑に絡み合った糸を解きほぐしていくようなものです。

 

当初、僕は

マインドパレッサー
なんで心理学の勉強なのに、「神経細胞がどう」とか「大脳辺縁系の扁桃体はこんな役割がある」とか覚えなきゃいけないんだろう?

 

と疑問に思っていましたが、生物心理社会モデルを知って、すごく腑に落ちました。

 

また、クライエントを支援するために、医者・看護師・作業療法士・管理栄養士などと協力することがあります。

その際にも、ある程度の病気の症状、薬物の効果・副作用・カラダの構造などを知っておかないと、話についていけません。

 

公認心理師になるのは大変だなぁ、と思う今日この頃です。

 

【あわせて読みたい】

【参考】

心理査定における基本的な着眼点である「生物心理社会モデル」とは?/35歳からの臨床心理士への道

生物心理社会モデルを用いたアセスメントと介入/心理学ブログ

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