サイコドラマ(心理劇)ってどんな心理療法?特徴や期待される効果を解説

「サイコドラマ(心理劇)」とは、言葉ではうまく表現できないことを即興的なドラマで表現することで、自己洞察・自己理解を深める心理療法です。

サイコドラマは心理療法としてだけではなく、矯正施設や教育現場にも適応できるとして注目を集めています。

この記事では、サイコドラマのはじまり、特徴や期待される効果を解説していきます。

サイコドラマ(心理劇)ってどんな心理療法?特徴や期待される効果を解説

サイコドラマ(心理劇)ってどんな心理療法?特徴や期待される効果を解説
Photo by Annie Gavin on Unsplash

サイコドラマ(英語:psychodrama)はクライエントの抱える問題について演技、すなわち行動を通じて理解を深め、解決を目指す集団精神療法の一つです。

サイコドラマにはあらかじめ書かれた脚本はなく、参加者が即興で作り上げていきます。

参加者はそのプロセスを通じて、自己の問題に向き合い、自己理解を深めたり、感情を表現して*カタルシスを得たりすることを目標としています。

 

カタルシス(英語:catharsis)」はギリシャ語で「排泄」「浄化」という意味ですが、現在では「心の浄化」という意味で用いられます。

現代ではカタルシスは「心の中のわがかまりやモヤモヤが解消されて、スッキリした気分になること」という意味で使われます。

感動する映画や本、心理カウンセリングを受けるとその効果が得られます。

【カタルシス効果について書いてる記事】

 

サイコドラマのはじまり

サイコドラマはルーマニア生まれの精神分析家のヤコブ・モレノ(Jacob L.Moreno,1889-1974)と心理療法士で妻のザーカ・モレノ(Zerka T.Moreno,1917-2016)によって創設されました。

モレノは1917年にウィーン大学で医学博士を取得し、医師として活動していました。

当時、心理学界の巨匠フロイトとの出会いもありましたが、フロイトの「精神分析」を行う手法に対しては批判的な立場を取り、即興劇を活用した療法を行うようになります。

 

モレノは個人が状況に対して創造的に反応するためには自発性、すなわち即興で作り、瞬間的に反応することが重要であると考えました。

自発的に反応し、自分の中にある無意識的な衝動に基づいた創造的な方法で、個人が問題に立ち向かうよう励まします。

そうすることで、生活の中で問題に対する新たな解決策を発見し、彼らがその中で生活できるような役割を見に付けられるようになります。

 

1925年にモレノはニューヨーク州に「ビーコンハウス」というサイコドラマのスクールを開設しました。

この地で多くのサイコドラマティストが誕生し、世界的にサイコドラマが広まっていきました。

 

フロイトの精神分析に関してはこちらの記事をご覧ください。

 

5つの構成要素

サイコドラマは以下の5つの要素から構成されています。

  1. 監督
  2. 補助自我
  3. 主役
  4. 観客
  5. 舞台

監督

監督(ディレクター)は、サイコドラマのセッションを指導・進行する人です。

セッション全体を管理し、参加者が安心して自己表現できるよう支援します。

主にシナリオの調整や参加者への指示、感情の引き出しなどを行います。

 

補助自我

補助自我は、主役の周囲の人々(家族、友人など)や、主役の内面的な感情を代わりに演じる役割です。

補助自我は、主役が特定の場面をより現実的に体験できるよう、サポートを提供します。

 

演者が行き詰ったときには、主役の代弁をしたり、支えたりもします。

また、助監督として監督を補佐する役割も担います。

 

主役

主役は、セッションで取り扱うテーマや問題の中心人物であり、主に自分の感情や体験を演じます。

サイコドラマは、主役が抱える問題の解決や理解を深めるために行われます。

 

観客

観客は、サイコドラマのセッションを見守る参加者です。

他の役割を演じない人々ですが、観客として主役の演技を見て、自分も似たような経験があったとか、共感したといったエピソードを提供することで、セッションに貢献します。

 

舞台

舞台は、サイコドラマの演技が行われる場所であり、設定が再現される空間です。

物理的な場所だけでなく、過去の場面や想像上のシーンなども含まれ、演技を通じてさまざまな場面が展開されます。

 

観客って劇を見てるだけで、あまり意味ないんじゃない?
マインドパレッサー
観客はクライエントを支えると同時に、劇を客観的に観る社会を代表していて、サイコドラマにおいて重要な役割なんですよ。

 

サイコドラマの手順

サイコドラマは一般的に10人前後が適当とされていて、所要時間は60~90分です。

手順は以下の通りです。

  1. ウォーミングアップ
  2. ドラマ
  3. シェアリング

ウォーミングアップ(約20分)

軽い体操や身体運動を伴ったゲームなどで緊張をほぐすための時間です。

この時間にドラマのテーマや配役を決定します。

 

ドラマ(約40分)

演者が場面設定した舞台上で即興のドラマを演じます。補助自我は監督と連携しながら演者を助けます。

他の参加者は監督の指示で観客になったり、演者になったりしながらドラマに参加します。

 

シェアリング(約20分)

ドラマが終わったら、演者を中心に感想を話し合います。

これによって、お互いに新しい発見や気づきがもたらされて、内面の成長や変化につながっていくのです。

 

期待される効果

心の内面を即興ドラマで表現するサイコドラマには以下のような効果が期待できます。

  1. 客観的に自分を捉えることができるため、自己理解・自己洞察が深まる
  2. 自分や他者に対する新しい気づきや発見が得られる
  3. 自主性や創造性を育むことができる

サイコドラマの主な技法

サイコドラマの主な技法

モレノによると、クライエントが即興的に表現する心の中の葛藤は性的・社会・文化的に規定された役割の葛藤です。

つまり、固定した役割観念にとらわれて、現実の対人関係の中で求められている役割を発見することができないことによるものとみなされています。

 

こうした葛藤を明らかにし、解決するためにさまざまな技法が考案されています。

ここでは、その中の主な技法を3つご紹介します。

 

役割交換法

即興ドラマにおいて、途中から役割を交換する技法です。

演者と補助自我が役割を交換することで、お互いに相手の感情や感覚を理解することを目的としています。

 

二重自我法(ダブル)

補助自我が演者の「もう一人の自分」(ダブル)を演じる、つまり、2人で1人の役を演じる技法です。

補助自我は演者が気づいていない内面の感情を明らかにしていきます。

 

補助自我は演者の少し後ろにいて、演者の表面上の演技から本音(気づいていない内面の感情)を読み取って、後ろからそれを話すことで、演者に自分の本音を気づかせます。

 

鏡映法(ミラー)

自分の役割を他者に演じてもらい、鏡を見るように自分を観察する技法です。

これら3つのサイコドラマの技法はいずれも、自己理解を深めて、自己洞察をすることが中心的な目的となります。

 

サイコドラマの基礎概念

サイコドラマの基礎概念

自発性(spontaneity)

自発性(spontaneity)は、サイコドラマのバックボーンとなる思想で、治療目標でもあります。

自発性とは、その場の状況に即した適応的かつ創造的な反応を指します。

 

自発的に色んなことにチャレンジする子供も、さまざまな知識を培い、経験が増えてくると、既存の知識に頼った生活をするようになり、周囲から求められる役割やステレオタイプな役割を演じるようになります。

そうなると、自発性はだんだんと失われていきます。

 

サイコドラマでは、参加者が固定観念や決まった役割から解放され、新しい視点や行動を自由に試せる場が提供されます。

この「自発性」が高まることで、柔軟に問題に向き合う力が養われるのです。

 

余剰現実(サープラス・リアリティ)

余剰現実(サープラス・リアリティ)とは、現実では起こりえないけど、体験することが有益な状況や場面を再現することです。

 

余剰現実は、実際に経験したことのない出来事や、過去に解決されなかった問題を再び体験する機会が得られます。

このプロセスを通じて、抑え込まれた感情や未解決の問題が明らかになり、解決に向けて進むことができるのです。

 

例えば、亡くなった親と再会し、話す機会があるとしたら何を伝えるかを演じるなど、現実では不可能な場面が再現されます。

これにより、参加者は解決できなかった感情を処理する機会を得ることができます。

 

ソーシャル・アトム

ソーシャル・アトム
Image by Alexandra ❤️A life without animals is not worth living❤️ from Pixabay

ソーシャル・アトムとは、個人の重要な人間関係の核となる人々(家族、友人、恋人など)の集合を指します。

サイコドラマでは、参加者が自分にとって重要な人物を役者として配置し、その関係性を目に見える形にして体験します。

これにより、日常生活で気づかなかった人間関係の影響を新たな視点から理解できます。

 

例えば、参加者が家族構成や重要な友人を配置し、各人物の位置や距離から人間関係の親密さや距離感を再確認します。

これにより、自己理解や対人関係の改善につながります。

 

ソシオメトリー

ソシオメトリーは、グループ内の人間関係のパターンや心理的距離を測定・可視化する方法です。

これにより、グループ内での相互関係や絆が理解され、どのように人々が他者とつながりたいと感じているかが浮き彫りになります。

サイコドラマの準備段階として行われることも多く、個々の人間関係の強さや弱さが明らかにされます。

 

例えば、参加者同士が「最も信頼できる人は誰か」などの問いに対してグループ内での位置を示し、相互の関係性を確認します。

これにより、グループ内での感情的な結びつきや距離感が視覚化されます。

 

サイコドラマとソシオドラマの違い

サイコドラマとソシオドラマの違い

サイコドラマと同様に演劇・ドラマを使った心理療法に「ソシオドラマ」があります。

ソシオドラマは、個人ではなく、グループ全体で関わる問題や、集団内の役割や立場に焦点を当てて、社会的な関係や役割を演じ、理解を深める方法です。

 

ソシオドラマは、異なる立場や視点を経験することで、他者への共感や社会的な洞察を得るのに役立ちます。

例えば、職場での人間関係の問題を扱いたい場合、参加者が上司や部下の役割を演じて、各自が感じるプレッシャーやコミュニケーションの課題を探ります。

これにより、集団内の動きや役割の重要性について学び、現実の人間関係に役立つ洞察を得ることができます。

 

サイコドラマとソシオドラマの違いを以下にまとめます。

サイコドラマ ソシオドラマ
対象 個人の内面の問題 集団の社会的な問題
焦点 個人の感情や過去の体験 集団内の役割や社会的な状況
目的 自己理解と感情の解放 他者理解と社会的洞察

 

まとめ

サイコドラマは近年増えてきていると言われる大人の発達障害者に対する支援としても用いられます。

大人になって初めて発達障害だと診断された方の多くは幼少期にいじめや虐待のようなネガティブな経験があり怒り・不安・妬みなどの感情を抱いても、グッと感情に蓋をすることで何とか社会に適応しようとしてきた方です。

 

つまり、彼らに対する支援で大切なことの一つは、ずっと蓋をしてきた怒り・不安・妬みなどの感情を解放して、社会に対するネガティブな感情を減らすことです。

その方法としてサイコドラマは有効なのです。

 

【参考文献】

窪内節子、吉武光世(2003)やさしく学べる心理療法の基礎 培風館

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。