集団心理療法とは?種類や効果、起源を分かりやすく解説

人間は一人では生きていけません。

そのため、人間はさまざまな集団を作り、所属します。

ひとたび集団が形成されると、そこでは何かしらのルール・役割や機能が生まれ、そこに所属する人間に影響を与えます。

集団のそういった特性を積極的に活用して、心理的な成長・訓練・治療を行っていくのが「集団心理療法」です。

 

この記事では、集団心理療法とはどんな心理療法なのか、その種類や効果、集団心理療法のはじまりについて解説していきます。

なお、この記事は『やさしく学べる心理療法の基礎』を参考に執筆しています。

 

集団心理療法とはどんな心理療法なの?

集団心理療法は複数の人が集まって行う心理療法です。

集団心理療法はカウンセリング場面のように、カウンセラーとクライエントが一対一で行うやり方に比べて、人の集まりである集団を用いるという意味でより現実場面に近いと言えます。

集団心理療法は、「集団療法」「グループセラピー」「集団精神療法」「グループ・カウンセリング」などとも呼ばれ、立場によって名称や理論的枠組みが異なります。

それぞれを簡単に説明します。

集団療法(グループセラピー)

「集団療法(英語:group therapy)」は一般的に、集団を用いる治療活動全般を意味します。

つまり、集団療法とは集団精神療法(狭義の集団療法)と、その他のさまざまな方式の集団活動を含んだ治療法の総称を意味します。

集団心理療法は、その中で言語的、または芸術・作業・レクリエーション・遊びなどの行動的な手法全般のことです。

集団精神療法

集団精神療法は集団心理療法の中に含まれます

精神医学者である井村 恒郎は「精神療法」を以下のように定義しています。

言語を媒体とする伝達方式、主として話し合いを介して何らかの心理的影響を患者に与え、その性格や症状の改善をはかる

この定義から、集団精神療法は10人前後の患者グループの間で主として話し合いを介して、メンバー同士の相互作用によって、心理的な影響を与えあい、問題を改善していくというものです。

グループ・カウンセリング

「グループ・カウンセリング」は複数の人に対して行うカウンセリングのことです。

  • 関係がうまくいっていないカップル向け「カップルカウンセリング」
  • 子育てに悩む保護者向け「ペアレント・トレーニング」
  • うまく怒りをコントロールできない人向け「アンガーマネジメントグループ」
  • 自己主張が苦手な人向け「アサーショングループ」

など、比較的健康な人たちを対象として用いられることが多いです。

集団心理療法の起源は「結核患者学級」

集団心理療法の起源は1905年にまで遡ります。

その年、ボストンの内科医プラット(J.H.Pratt)が肺結核患者の教育と指導のために「結核患者学級」という名の治療グループを行ったことが集団心理療法の起源だと言われています。

 

結核患者学級は当初、複数の患者を同時に治療することによって、治療時間を節約することが目的でした。

その後、参加した患者が参加していない患者と比べて、症状の改善がみられることが明らかになりました。

症状の改善がみられた理由は、定期的な集まりが「同じ病気に罹っている」という連帯感を生み、患者同士の良い仲間関係が築かれることによるメンバー間の情緒的相互作用が治療効果を持つからだと考えられています。

その後、さまざまな領域で集団心理療法が使われるようになりました。

次の章では、代表的な集団心理療法をいくつかご紹介します。

さまざまな集団心理療法

さまざまな集団心理療法

一口に「集団心理療法」と言っても、色々な特徴があり、分類の仕方も異なります。

ここでは、代表的な集団心理療法を「心理劇(サイコドラマ)」「精神分析的集団精神療法」「自助グループ」「ベーシック・エンカウンター・グループ」の4つご紹介します。

心理劇(サイコドラマ)

心理劇(サイコドラマ)は、自分自身の課題などに関連した即興的な劇を演じることによって、自己理解や自己洞察をもたらすことを目指した集団心理療法です。

  • 個人に焦点をあてる「サイコドラマ
  • 集団の課題に焦点をあてる「ソシオドラマ
  • 役割機能の発展を目指す「ロールトレーニング

などが含まれます。

【心理劇(サイコドラマ)に関する記事はこちら】

精神分析的集団精神療法

精神分析的精神療法は、クライエント自身も気づいていない心の奥深くにある「葛藤」「苦悩」「欲求」「こだわり」「囚われ」などを解明して、心を解き放つことで症状を改善していくという心理療法です。

それを集団に適用したものが「精神分析的集団精神療法」です。

精神分析的精神療法は以下のようなケースで用いられます。

  1. クライエントの心の問題が症状と深く関係しているケース
  2. クライエント自身も気づかない無意識的な心の葛藤が症状と深く関係しているケース

【精神分析に関する記事はこちら】

自助グループ

「自助グループ」は、何らかの障害・困難・問題・悩みを抱えた人が同じような悩みを抱えている人たちがお互いに支え合い、問題を乗り越えようとする集団です。

自助グループに参加する人たちが抱える問題の専門家にグループの運営をゆだねる訳ではなく、あくまでも自助グループ参加者たちが「相談者」「援助者」という役割を果たすのが特徴です。

専門家からの一方的な援助では、無視されがちな「自尊心」「自分が他人の手助けができるという感覚」を強化できる、ということが自助グループのメリットとして挙げられます。

 

自助グループは1934年にアルコール依存症で入院していたビル(V.Bill)によって始められた「アルコール依存症匿名会(Alcoholics Anonymous ; AA)」が起源だと言われています。

アルコール依存症のほかにも、以下のような様々な悩みを持つ人たちの間で形成されています。

  • 摂食障害
  • コカイン、覚せい剤などのドラッグ依存症
  • 仕事中毒
  • ギャンブル依存症
  • 買い物中毒
  • 恋愛に悩む人

 

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ベーシック・エンカウンター・グループ

ベーシック・エンカウンター・グループはアメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズ(Rogers C.R. ,1902-1987)が提唱した「*パーソン・センタード・アプローチ」の考えに沿った集中的なグループ体験です。

エンカウンター(英語:encounter)は「対面する」「出会う」という意味を持ちますが、ベーシック・エンカウンター・グループにおいては、

信頼と理解に高い評価を置く雰囲気の中で、人々が深く、すなわち、より人として会う

Tuder and Merry,2002

という意味が含まれます。

ベーシック・エンカウンター・グループは他の集中的グループ体験と比較すると、経験の過程を通して、個人の成長・個人間のコミュニケーション、および対人関係の促進をより強調する傾向があり、グループ体験を通じて個々の変化への援助に役立てることを目指すものです。

 

用語解説
パーソン・センタード・アプローチ‐カウンセラーはクライエントに対して、ある特定の行動や考え方をするように助言・指導といった指示的な態度をするべきではなく、人が潜在的に持っている回復力・成長力を信頼するという基本姿勢のこと。

【参考文献】

『ベーシック・エンカウンター・グループにおけるファシリテーターの「自己一致」-ファシリテーター研修グループのふりかえりをもとにー』松本 剛(兵庫教育大学学校教育研究科)人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要), 14, 37-48.

集団心理療法のメリット・デメリット

集団心理療法のどのような要因が働いて、さまざまな効果を現れるのかを明らかにしたのは、アメリカの精神科医アーヴィン・ヤーロム(Irvin .D.Yalom)です。

ヤーロムは「いま、ここで」起こっている集団での交流を通して、治療的な変化が起こると考え、「11の基本的因子」を挙げました。

ただ、集団心理療法にもデメリットはあるので、11の基本的因子と合わせて、デメリットもご紹介します。

集団心理療法のメリット

それでは、ヤーロムの考えた集団心理療法の「11の基本的因子」をご紹介します。

  1. 希望の注入
  2. 普遍性
  3. 情報の伝達
  4. 愛他主義
  5. 社会適応技術の発達
  6. 模倣行動
  7. カタルシス
  8. 原初的家族関係の修正的反復
  9. 実存的因子
  10. グループの凝集性
  11. 対人学習

希望の注入

この集団に来ると落ち着く

などと、集団に信頼を置くこと自体に効果があり、他のメンバーが回復・成長していく姿を目の当たりにすることで、

自分もきっと良くなる!

と希望につながっていきます。

普遍性

この悩みで苦しんでいるのは自分だけじゃない」ということに気付くことによって、安心感を得ることができます。

情報の伝達

グループ内で問題の対処方法、ハマっていること、生活習慣の改善方法など、さまざまな情報を得ることが効果を生み出します。

愛他主義

たとえば、自分が体験したことや試みたことをグループ内で発表して、それが誰かの役に立ったとします。

すると、その人は「自分が誰かのために役立てたんだ」という自尊心の回復につながります。

この「自分が誰かの役に立てた」という体験は驚くほどの価値があります。

社会適応技術の発達

グループのメンバーとの関係を通して、適応的な人間関係を学習することができます。

模倣行動

グループのメンバーの行動を観察することで、「こんな方法があるのか!」と自分が知らなかった新しい方法を身に付けることができます。

カタルシス

集団心理療法のような場では、自分の強く激しい感情を表現しても、メンバーから批判されることはなく、その気持ちはメンバーから受け入れられ、共有されます。

その結果、自分が抱いている激しい感情が少しづつ解放され、薄らいでいきます。

原初的家族関係の修正的反復

幼少期の家庭内における人間関係をグループで再現し、問題を明らかにして、その修正の機会となります。

実存的因子

避けて通れない苦しみ、死などを体験・認識することで、次第に厳しい現実とも折り合いをつけ、受け入れられるようになっていきます。

グループの凝集性

集団に受け入れられるようになることと集団がまとまるということは深い関係があります。

集団のまとまり(凝集性)をよくすることが集団心理療法の成功へとつながります。

対人学習

集団心理療法の場は自分の悩みに対する対処法などを試す絶好の場所です。

それに対して、メンバーからフィードバックなども得られるので、反省の場としても機能します。

集団心理療法のデメリット

たくさんのメリットがある集団心理療法ですが、以下のようなデメリットもあります。

  1. 個人心理療法よりも一人一人に費やせる時間が減る
  2. 集団内のメンバーによっては症状が悪化してしまう可能性も...
  3. 個人情報が洩れる恐れがある
  4. そもそも集団の中にいることが苦痛の人には適さない

②に関しては、自分の苦手とする人との関わり方を学ぶ機会も生まれるので、メリットにもなるかと思います。

③に関しては、心理士には守秘義務があり、個人情報を漏洩するようなことはしませんし、集団内のメンバーにも参加者の個人情報を漏らさないよう必ず言います。

しかし、人数が多くなればそれだけ個人情報が洩れるリスクが上がります。

最後に

集団心理療法における体験は、個人心理療法よりも現実場面に近いものになります。

集団心理療法を行う上での特有の注意点などもありますが、先ほどご紹介したヤーロムの11の基本的因子、心理士の時間的・労力的な負担が減る、参加者の経済的負担が減るなど、たくさんのメリットがあります。

他人を鏡として、自分が気づかなかった自分自身の一面を垣間見る機会にもなります。

 

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