「あの職場、変わってる人多いよね」「あの人ってちょっとおかしい」
これらは日常的によく聞くことだと思います。
「変わってる」「おかしい」、つまり「異常」というのは、明確なことだと思われがちですが、「正常」と「異常」との境界が曖昧なことが多いです。
腕から血が出ていたらすぐに異常だと判断できますが、外から見ても分からない心理的なことになると「正常」と「異常」の境界線は一気に曖昧になります。
広辞苑によると、異常とは「普通とは違うこと、普通でないこと」と定義されています。
では、「普通」とは何なのでしょうか?これでは堂々巡りです。
この記事では、「正常」と「異常」の判断基準を5つ解説していきます。
「正常」と「異常」の判断基準。“普通”って一体なんなの?
人が「正常」「異常」について語るとき、そこには何らかの暗黙の規準があり、それに基づいています。
ここでは、その“暗黙の規準”とは具体的にどんな規準なのかを解説していきます。
平均的規準(統計的規準)
平均的(統計的)規準とは、統計学的な標準や平均に近いものを「正常」とし、平均から大きく外れたものを「異常」とする規準です。
たとえば、学校で身長や体重などのデータをとると、「正規分布」と呼ばれる分布が得られます。そして、縦軸に人数、横軸に身長・体重のグラフを作成すると、以下のような形になります。
小学6年生の平均身長は145cmくらいなので、山の頂点が145cmです。平均的(統計的)規準だと、145cmに近い人が「正常」になります。
しかし、中には130cmくらいの子もいるし、160cmくらいの子もいます。そういった平均から外れた子はここでは「異常」ということになります。
ただ、グラフを見ると、ずっと線で繋がっていることが分かります。
病理的規準
病理的規準とは、病理学と医学的健診・検査に基づく医学的判断の結果として健康と診断されれば「正常」、病気(疾患)と診断されれば「異常」とする規準です。
身体的な疾患であれば、目(顕微鏡)で確認したり、触診したりと様々な検査によって科学的・物理的に「異常」だと分かります。
一方、精神疾患では、身体的病変がない場合も多いです。また、不眠・食欲不振・倦怠感などの身体的異常があっても、それらは精神疾患からくる二次的症状です。
このように精神疾患は診断が難しいため、「DSM」「ICD」という国際的な精神疾患の診断基準というものがあります。
【DSM・ICDに関する記事はこちら】
価値的規準
価値的規準とは、大多数で共有される道徳観・倫理観の観点から見て、「正常」「異常」を判断することです。
価値的規準は幼い頃から、学校教育や周囲の大人から教わってきている規準なので、「正常」「異常」の判断を迫られたときの基盤になるものです。
しかし、価値的規準は時代や地域によって大きく異なります。
たとえば、同性愛は今でこそ、受け入れられるようになってきましたが、以前は「異常」だとして、迫害・差別の対象になっていました。
また、食文化だって地域によって異なります。
日本では、納豆や生魚を食べるのは「正常」ですが、他の地域によっては「異常」です。逆にイルカや犬、イモムシなどを食べる地域もありますが、日本では「異常」だと判断されるでしょう。
つまり、価値的規準は絶対的なものではなく、時代や地域によって変化するのです。
民俗的規準(社会学的規準・小集団規準)
民族的規準(社会学的規準・小集団規準)とは、ある特定の制度や集団の持つ固有の規範から見て「正常」「異常」を判断することです。
ここで言う小集団とは、友人グループや少数民族、宗教団体など、少人数から成る集団です。
人が集まるとそこには何らかのルール・決まり事が自然と生まれます。その独自のルール・決まり事はその小集団の中では「正常」ですが、小集団に属さない人から見たら「異常」と判断されることがあります。
たとえば、ある部族では成人になる通過儀礼として、身体の一部を切り落としたり、大きなピアスをあけたりします。
その部族では、長い間行われてきた当たり前のことですが、集団外の人からしてみたら虐待だと思われるかもしれません。
発達的規準
発達的規準とは、どのようなことをいつ頃できるようになったのかを規準として、「正常」「異常」を判断することです。
乳幼児がいつ頃、寝返り・ハイハイ・つかまり立ちなどを出来るようになるのかはかなり分かっています。
たとえば、赤ちゃんが歩き始めるのは、1歳前後ですが、その時期よりも大きく遅れたら、「異常」だと判断されます。
最後に
このように「正常」「異常」を判断する規準はありますが、どれも絶対的なものではないことがお分かり頂けたと思います。
心理臨床家は、客観的に異常かどうかには、あまり関心を持ちません。大切なのは、その人自身がどう感じているか、どのように困っているかなのです。
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