燃え尽きる前に知っておきたいACTの効果的な活用法

 

現代社会では、プロフェッショナルな職場環境で働く人々が抱える「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が大きな問題となっています。

特に医療、教育、福祉などの対人職業では、精神的・肉体的な疲労が蓄積し、ストレスが慢性化しやすく、それが業務パフォーマンスや個人の幸福感に悪影響を及ぼします。

 

そこで近年注目されているのが、Acceptance and Commitment Therapy(ACT)です。

本記事では、ACTがどのようにバーンアウトを軽減し、職場でのメンタルヘルスを向上させるのかについて、最新の研究を交えて解説します。

 

 

【この記事を読んで分かること】

  • Acceptance and Commitment Therapy(ACT)は、職場でのストレス軽減とバーンアウト防止に効果を持つ心理療法。
  • 対人職業(医療、教育、福祉など)のスタッフを対象としたACTの研究が進められ、特に心理的柔軟性を高めることで成果が上がっている。
  • ACTの6つのプロセス(受容、認知的脱フュージョン、自己の文脈、現在に集中、価値観、コミットメント)がバーンアウト軽減に寄与する。

 

 

 

燃え尽きる前に知っておきたいACTの効果的な活用法

バーンアウトとは、慢性的なストレスや過労により、心身ともに消耗し、仕事に対する情熱や意欲が失われる状態を指します。

特に医療従事者、教師、介護スタッフなどの対人関係を扱う職業において、バーンアウトは深刻な問題となっており、スタッフのメンタルヘルスだけでなく、サービスの質にも影響を与えます。

 

バーンアウトの主な症状としては、以下の3つが挙げられます:

1.感情的疲労

業務による過度なストレスやプレッシャーによって精神的に疲弊する。

2.脱人格化

他者に対して冷淡になり、感情的な距離を置くようになる。

3.達成感の低下

仕事での達成感や自己効力感が低下し、自分が無力であると感じる。

 

このような状態が続くと、仕事のパフォーマンスが低下し、最終的には退職や職場離脱に至ることも少なくありません。

 

ACTとは何か

ACTとは何か

ACTの理論的背景

Acceptance and Commitment Therapy(ACT)は、第三世代の認知行動療法として開発された心理療法であり、ストレスや不安に対するアプローチとして注目されています。

ACTは、個人が抱える苦痛や困難な感情を「変えようとする」のではなく、「受け入れる」ことに焦点を当てます。

そして、自分の価値観に基づいた行動を取ることで、より充実した人生を送ることを目指します。

 

ACTの基盤となっているのは、「心理的柔軟性」です。

これは、自分の思考や感情を客観的に捉え、それに対して柔軟に対応する能力を指します。

ACTは、この心理的柔軟性を高めるために、以下の6つのプロセスを用いています。

ACTの6つのプロセス

  1. 受容:不快な感情や思考を無理に変えようとせず、そのまま受け入れる姿勢を持つ。
  2. 認知的脱フュージョン:思考に巻き込まれるのではなく、それをただの「思考」として捉え、距離を取る。
  3. 自己の文脈:自己を「思考」や「感情」そのものではなく、それを体験している存在として捉える。
  4. 現在に集中すること:過去の出来事や未来の不安にとらわれず、今この瞬間に意識を集中させる。
  5. 価値観:自分が大切にしている価値観を明確にし、それに基づいて行動する。
  6. コミットメント:価値観に従った行動を取るための具体的な計画を立て、実行する。

 

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ACTがバーンアウトに与える影響

バーンアウトの一因は、ストレスに対する心理的な硬直性、つまりストレスに対処するために選択肢が狭まっていることにあります。

ACTは、このような状態を改善するため、スタッフが直面するストレスや苦痛を受け入れつつも、それに巻き込まれることなく、柔軟な思考と行動を取れるようサポートします。

これにより、感情的疲労や職務に対するネガティブな態度が軽減され、結果としてバーンアウトの防止に繋がります。

 

ACTの実践的導入例

ACTの実践的導入例

医療現場でのACT導入例

医療現場では、特に患者との密接な関わりや高い責任感が重くのしかかり、バーンアウトのリスクが非常に高いです。

ある研究では、看護師や医師にACTを導入することで、感情的疲労やストレスを効果的に軽減できることが示されています。

例えば、英国の医療従事者を対象にした研究では、ACTをグループセッションで実施し、バーンアウトスコアが著しく改善したと報告されています。

教育現場でのACT導入例

教師は、授業や生徒、保護者対応など多くの業務を抱える中で、精神的な負担が増すことがあります。

スウェーデンで行われた研究では、教師を対象にACTを導入したところ、感情的疲労や自己効力感の低下を防ぐ効果が見られました。

特に、ACTの価値観に基づいた行動計画を立てるプロセスが、教師にとって有効であったとされています。

福祉現場でのACT導入例

福祉現場においても、スタッフが対人関係において負担を感じることが多く、バーンアウトのリスクが高まります。

アメリカで実施された研究では、福祉スタッフを対象にしたACTのセッションを通じて、スタッフの心理的柔軟性が高まり、業務に対するストレスが軽減され、仕事に対する満足感が向上したことが示されています。

 

ACTの課題と今後の展望

ACTの課題と今後の展望

研究の限界と今後の研究方向

ACTは職場でのバーンアウト軽減に効果を示している一方で、まだいくつかの課題が残されています。

まず、多くの研究が比較的小規模なサンプルで行われているため、大規模な検証が必要です。

 

また、ACTの効果を持続させるための長期的なフォローアップも重要です。

さらに、ACTを個別に適用する際のカスタマイズがどのように行われるべきかについても、さらなる研究が求められています。

職場でのACT導入に必要な支援

職場におけるACTの導入には、一定のサポート体制が必要です。

特に、セラピーの時間を確保するためのスケジュール調整や、セッション後のフォローアップが効果的であるとされています。

また、オンラインでのACTセッションを導入することで、忙しい職場環境でも柔軟に対応できる方法が検討されています。

 

今後、職場全体でのメンタルヘルス支援を強化するために、ACTはさらに広く採用されていくことが期待されています。

 

まとめ

Acceptance and Commitment Therapy(ACT)は、職場におけるバーンアウト問題に対処するための有望なアプローチです。

心理的柔軟性を高めることで、職務におけるストレス管理が向上し、スタッフの精神的健康が守られるだけでなく、職場全体のパフォーマンス向上にも貢献します。

 

今後、さらなる研究や実践が進むことで、ACTの効果がより明確になり、より多くの職場で導入されることが期待されます。

 

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【参考文献】

Kim D. Towey-Swift, Christian Lauvrud & Richard Whittington(2023) Acceptance and commitment therapy (ACT) for professional staff burnout: a systematic review and narrative synthesis of controlled trials Journal of Mental Health, 32:2, 452-464

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。