- 忘れ物が多い
- 集中が続かない
- 衝動的
ADHD(注意欠如・多動症)はこうした症状で語られがちです。
でも、それだけでしょうか?
2025年に発表された国際研究は、ADHDのある人が持つ強みに光を当て、その強みを「知って」「使う」ことが、幸福感や生活の質の向上、不安・抑うつ・ストレスの軽減と結びつくことを示しました。
この記事では、研究の中身と、今日から試せる強みの活かし方を、簡単に整理します。
そもそも「ADHDの強み」とは?
ADHDの強みとは、ADHDの特性が、状況によってはプラスに働く「自分が得意なこと・うまくやれる」ことです。
ADHDは長らく「欠けているもの」を中心に語られてきました。
診断基準も、不注意・多動・衝動性といった困りごとを並べたものです。
でも近年、研究の世界では発想を切り替える動きが進んでいます。
困りごとを減らすだけでなく、その人がもともと持っている良い特性に注目する、いわゆる「強みベース(strengths-based)」の見方です。
ここで言う強みとは、特別な才能のことだけではありません。
たとえば、興味のあることにのめり込む集中力、場をなごませるユーモア、人と違う発想、思いついたらすぐ動ける行動力。
こうした日常の中の「うまくやれること」が、ADHDと結びつく強みとして注目されています。
どんな研究だったの?
ADHDのある成人200人と、ない成人200人を比べ、25個の「強み」をどれくらい自分に当てはまると感じるか調べた、世界初の大規模研究です。
この研究は、英国のバース大学(University of Bath)、キングス・カレッジ・ロンドン、オランダのラドバウド大学医療センターの研究チームによるもので、心理学・精神医学の国際学術誌『Psychological Medicine』に2025年に掲載されました。
研究を主導したのはバース大学心理学部のルカ・ハルギタイ(Luca Hargitai)氏らです。
参加者は、創造性・ユーモア・自発性・過集中といった25の前向きな特性について、「自分がうまくやれること・得意なこと」として、どれくらい当てはまるかを回答。
あわせて、自分の強みをどれだけ理解しているか(強みの知識)、日常でどれだけ使っているか(強みの活用)、そして主観的な幸福感、生活の質、メンタルヘルス(不安・抑うつ・ストレス)も測定しました。
ポイントは、ADHDのある人だけでなく、ない人にも同じ質問をしたこと。
これまでの研究はADHD当事者だけに強みを尋ねるものが多く、「それは本当にADHDならではの強みなのか」を確かめにくいという弱点がありました。
両グループを比べることで、ADHDと特に結びつきやすい強みを浮かび上がらせたのです。
| 研究のポイント | 内容 |
| 対象者 | ADHDのある成人200人/ない成人200人(計400人) |
| 調べたもの | 25の前向きな特性への当てはまり度 |
| あわせて測定 | 強みの知識・活用、幸福感、生活の質、不安・抑うつ・ストレス |
| 掲載誌 | Psychological Medicine(2025年) |
| 研究機関 | バース大学/キングス・カレッジ・ロンドン/ラドバウド大学医療センター |
ADHDのある人がより強く感じていた「強み」とは?
過集中・ユーモア・創造性・自発性・直感力など、10個の特性で、ADHDのある人がない人より強く「自分の強み」と感じていました。
25項目のうち、ADHDグループはADHDのない人より10個の強みをより強く支持しました(残り14項目は両グループで同じくらいでした)。
研究やプレスリリースで特に名前が挙がっているのは、次のような強みです。
| 強み | どんな特性か |
| 過集中(ハイパーフォーカス) | 興味のあることに深く没頭し、時間を忘れて取り組める |
| ユーモア | 場をなごませ、笑いを生み出す力 |
| 創造性 | 人と違う発想やアイデアを生み出す力 |
| 自発性 | 思いついたらすぐ動ける、即興で対応できる |
| 直感力 | 理屈より先に「ピンとくる」感覚で判断できる |
ADHDの強み「過集中」とは?
過集中について少し補足します。
過集中とは、興味のあるテーマに入り込むと、周りが見えなくなるほど深く集中できる状態のこと。
たとえば、好きなゲームや創作、調べ物を始めたら何時間も没頭してしまう感覚です。
日常では「切り替えが難しい」と困ることもありますが、向ける先を選べれば、短時間で大きな成果を出す原動力になります。
ADHDの強み「創造性」について
興味深いのは、創造性についての研究です。
ADHDと創造性の関係を整理したレビュー研究では、ADHD傾向の高い人ほど、決まった正解のない問いに対してたくさんのアイデアを出す「拡散的思考」が得意な傾向が示されています。
つまり、アイデアの数で勝負する場面では、ADHDの特性が追い風になり得るということです。
なぜ「強み」がメンタルヘルスにつながるの?
強みがメンタルヘルスにつながる理由は、自分の強みを「知っていて」「日常で使っている」人ほど、幸福感や生活の質が高く、不安・抑うつ・ストレスの症状が少なかったからです。
この研究の最も大切な発見は、強みそのものより「強みとどう付き合っているか」がカギだった点です。
研究では、ADHDのある人もない人も、強みの知識や活用の度合いに大きな差はありませんでした。
そして両グループに共通して、自分の強みをよく理解し、より多く使っている人ほど、次のような良い状態と結びついていました。
- 主観的な幸福感が高い
- 生活の質が高い(身体・心理・社会・環境のすべての面で)
- 不安・抑うつ・ストレスの症状が少ない
研究チームの上席著者であるバース大学のプニート・シャー(Punit Shah)准教授は、以下のように述べています。
自分が持っているスキルや良い特性を理解し、それを適切な場面で使うことが、私たちの幸福につながる。当たり前に聞こえるかもしれないが、研究でこの仮説が確かめられたことで、この新しい根拠をもとに心理的な支援を設計し始められる。
もう一つ注目したいのは、ADHDのある成人は、仕事・人間関係・メンタル面でさまざまな困難を抱えやすいにもかかわらず、強みを認識し日常で使う度合いは、ADHDのない人と変わらなかったという点です。
困りごとがあっても、強みを活かす力はちゃんと備わっている。
これは多くの当事者にとって心強いメッセージです。
自分の強みを見つけて活かす5つのステップ
研究が示すのは、強みを「知る」ことと「使う」ことの両方が大切だということ。
特別な才能を探す必要はありません。
日常の中の「うまくやれること」に気づき、それを意図的に使う回数を増やすだけでも一歩です。
次の手順を参考にしてください。
① 強みを書き出す
過集中・ユーモア・創造性・自発性・直感力などのリストを見ながら、「これは自分にも当てはまるかも」と思うものに印をつける。
完璧でなくてかまいません。
② 過去の成功を思い出す
その強みが役立った具体的な場面を一つ思い出す。
「あの企画でアイデアが次々わいた」「あの作業に没頭して仕上げた」など、小さくてもOK。
③ 使う場面を一つ決める
今週、その強みを意識して使えそうな場面を一つ選ぶ。
たとえば「単調な作業より、創造性が活きるタスクを先にやる」。
④ 環境を強みに合わせる
- 過集中なら通知を切って没頭できる時間をつくる
- 自発性なら締切より先に勢いで着手する
というように、強みが出やすい状況を整える。
⑤ 振り返って調整する
週末などに「強みを使えた場面」「うまくいったこと」を振り返る。
研究でも、強みを使うほど良い状態と結びついていました。
【よくある誤解】「強みに注目する」って甘えなの?
困りごとを無視することでも、ポジティブに考えれば治るという話でもありません。
困難への支援と、強みを活かす視点は両立します。
Q. 強みに注目すると、困りごとが見過ごされない?
A.強みベースの考え方は、困りごとへの治療や支援を否定するものではありません。
研究者たちも、ADHDには現実の困難が伴うことを前提にしたうえで、「困難だけでなく強みも教育することが、生活の質を高め、仕事や教育でのリスクを減らす」と述べています。
困難への対処と、強みの活用は、どちらか一方ではなく両輪です。
Q. 「ADHDは才能・ギフト」と単純化していい?
A.慎重さも必要です。研究は「ADHDなら誰もが特別な才能を持つ」と言っているわけではありません。
ADHDのない人も同じ強みの多くを認めており、一部の強みでADHDのある人がより強く支持した、という結果です。
大切なのは「自分の強みを知って使う」こと自体が、誰にとっても幸福につながるという点。
過度な美化も、過度な悲観も避け、現実的に向き合うのが健やかです。
Q. 子どもにも当てはまる?
A.この研究の対象は「成人」です。子どもへの一般化には注意が必要ですが、強みに目を向ける関わり自体は、年齢を問わず本人の自己肯定感を支える助けになり得ます。
子どもの場合は、まず本人が夢中になれること(過集中の対象)を一緒に見つけ、それを認めてあげることから始めると良いでしょう。
【これからのADHDケア】「強みベース」の支援とは?
これからのADHDケアでは、困りごとを減らすことに加えて、本人の強みを見つけて伸ばすことを軸にした支援が大切になってくると思われます。
強みベースのアプローチは、自閉スペクトラム症(ASD)の支援では広がりつつありますが、ADHDではまだ研究が少ない分野でした。
今回の研究は、その有効性を裏づける「最初の根拠の一つ」と位置づけられています。
具体的には、心理教育(ADHDについて学ぶこと)、コーチング、本人の強みを見つけて活かすことを助ける個別の心理療法などが想定されています。
実際、成人ADHDの支援を整理した研究では、心理教育とコーチングが効果的な介入としてよく挙げられます。
あるオランダの研究では、ADHDのある成人が、困りごとや症状を中心に扱う公的なメンタルヘルスケアよりも、本人の強みや解決に焦点を当てる「ストレングス・ベースのコーチング」を前向きに評価した、という報告もあります。
シャー准教授は、以下のように、今後の展望を語っています。
次のステップは、強みの認識と活用を促す介入が、成人ADHDのメンタルウェルビーイングを実際に改善できるかを検証すること。ADHDや他の神経多様性のある人たちは、長くこれを求めてきた。
研究はまだ始まったばかりですが、向かう方向ははっきりしています。
| 従来の見方 | 強みベースの見方 |
| 困りごと・症状を中心に扱う | 困りごとへの対処に加え、強みを見つけて活かす |
| 「直すべきところ」を探す | 「うまくやれること」を伸ばす |
| 欠けているものに注目 | 持っているものに注目 |
家族・支援者にできることは?
ご家族や支援者にできる事としては、本人の「うまくやれること」に気づき、言葉にして伝え、それが活きる場面を一緒に増やすことがあります。
当事者を支える立場の人にとって、強みベースの視点はとても実践しやすいものです。
難しい専門知識がなくても、日々の関わりの中で取り入れられます。
- 強みを言葉にして返す:「さっきの集中力すごかったね」「そのアイデア面白い」と、本人が気づいていない強みを具体的に伝える。
- 困りごととセットで語らない:強みを伝えるときに「でも片付けはね…」と困りごとを付け足さない。良い面はそのまま受け取ってもらう。
- 強みが活きる役割を任せる:創造性や直感が活きる場面、過集中で力を発揮できる作業を、意識的に任せる。
- 本人のペースを尊重する:自発性を活かせるよう、勢いがあるうちに着手できる環境を整える。
さらに学びたい・実践したい人へ
ここまで読んで「自分や子どもの強みをもっと体系的に整理したい」と感じた人もいるかもしれません。
そんなときに役立つ選択肢を少しだけ紹介します。
ADHDの特性を強みの面からとらえ直したい人には、当事者・家族向けに書かれたADHD入門書を一冊手元に置くと、困りごとと強みの両面を落ち着いて学べます。
特におすすめなのは、具体的な生活のハックが詰まった『発達障害サバイバルガイド』や、認知行動療法をベースに自分の思考パターンを客観視できる『もしかして、私、大人のADHD?』です。
過集中を活かしたい人には、まわりの音を抑えて没頭しやすくするノイズキャンセリングイヤホンのようなアイテムが、無理なく集中環境を整える助けになります。
コストパフォーマンスで選ぶなら「Anker Soundcore Liberty 4 NC」、圧倒的な静寂を求めて極限まで没入したいなら「ソニー WF-1000XM5」が口コミでも高い評価を集めています。
まとめ:強みを「知って・使う」ことから始めよう
2025年の国際研究は、ADHDの困りごとだけでなく、その人が持つ強みに光を当てました。
要点を振り返ります。
- ADHDのある成人は、過集中・ユーモア・創造性・自発性・直感力などの強みを、ない人より強く感じている傾向があった。
- 強みを「知っていて」「使っている」人ほど、幸福感・生活の質が高く、不安・抑うつ・ストレスが少なかった(ADHDの有無を問わず共通)。
- 困りごとがあっても、強みを認識し活かす力は、ADHDのない人と変わらず備わっていた。
- 困難への支援と、強みを活かす視点は両立する。これからのADHDケアでは「強みベース」が一つの軸になり得る。
- まずは自分の強みを書き出し、使う場面を一つ決めるところから始められる。
ADHDは「直すべき欠点の集まり」ではありません。
困りごとと向き合いつつ、自分の強みを知り、それを日常で少しずつ使ってみる。
その小さな積み重ねが、より自分らしく、心地よく生きるための確かな一歩になります。
今日、あなたの「うまくやれること」を一つ書き出すことから始めてみませんか?
【出典・参考文献】
Hargitai LD, Laan ELM, Schippers LM, Livingston LA, Fairchild G, Shah P, Hoogman M. The role of psychological strengths in positive life outcomes in adults with ADHD. Psychological Medicine. 2025;55:e278.
University of Bath. ‘Playing to your strengths’ improves wellbeing in ADHD, new research shows(プレスリリース, 2025年10月6日)
ScienceDaily. Researchers find ADHD strengths linked to better mental health(2025年12月31日)
Hoogman M, et al. Creativity and ADHD: A review of behavioral studies, the effect of psychostimulants and neural underpinnings. Neuroscience & Biobehavioral Reviews. ScienceDirect
Schrevel SJC, Dedding C, Broerse JEW. Why Do Adults With ADHD Choose Strength-Based Coaching Over Public Mental Health Care? SAGE Open. 2016.
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