イラッとしたとき、落ち込んだとき、

と思ったことはありませんか?
ところが2026年8月に発表された研究は、その直感を裏切りました。
感情のコントロールを支えていたのは、処理の速さではなく、人生で積み上げてきた知識の量だったのです。
この記事では、25〜85歳の286人を調べた研究の中身と、今日から使える3ステップをわかりやすく解説します。
そもそも「感情のコントロール」に効く頭の良さとは?
感情のコントロールに効くのは「速く考える力」ではなく、「言葉と経験の引き出しの多さ」です。
心理学では、頭の良さを大きく2種類に分けます。
名前は難しいのですが、中身はシンプルです。
| 2種類の「頭の良さ」 | どんな力か |
| 流動性知能(りゅうどうせいちのう) | その場で速く処理する力。処理速度・記憶の同時処理・切り替えの速さ。たとえるなら「パソコンのCPUの速さ」。20代がピークで、その後ゆるやかに下がる |
| 結晶性知能(けっしょうせいちのう) | 人生で貯めてきた知識。語彙力・読解力・場の空気の読み方。たとえるなら「本棚に並んだ本の冊数」。年をとっても保たれ、むしろ増えていく |
そして今回の研究が明らかにしたのは、この2つが感情に対してまったく違う働き方をしていた、ということでした。
286人で何を調べた?研究の中身を3ステップで
スタンフォード大学のClaire M. Growney氏らが、25〜85歳の成人286人を対象に行った実験です。
学術誌『Emotion』に掲載されました。
ステップ1:頭の良さを2種類テストする
処理速度・記憶・切り替えのテストで流動性知能を、読解と語彙のテストで結晶性知能を測定しました。
認知症の兆候がある人は含まれていません。
ステップ2:感情を揺さぶる動画を見せる
嫌悪・悲しみ・楽しさ・満足感を引き起こす短い映像を見てもらいます。
最初は「自然に反応してください」と伝え、その人の素の反応を記録しました。
ステップ3:今度は「調整して」と指示する
別の映像を見せ、ネガティブな動画では「なるべく嫌な気持ちを減らして」、ポジティブな動画では「良い気持ちを保って、もっと高めて」と指示。
ポイントは測り方です。
本人の申告だけでなく、カメラで顔を撮影しAIが表情を解析しました。
「言葉では平気と言っているが顔は動いている」というズレまで拾える設計です。
結果:知識が多い人は「全方向」に強かった
結果は、きれいに3つに分かれました。
- 結晶性知能(積み上げた知識)が高い人は、ネガティブを下げるのも、ポジティブを高めるのも上手だった
- 流動性知能(頭の回転)が高い人は、悲しみ・嫌悪を下げる場面でのみ有利。楽しさや満足感を高める力とは無関係だった
- この差は、本人の申告でもAIの表情解析でも同じように確認された
なぜ「回転の速さ」はネガティブにしか効かないのか。
悲しみや嫌悪を鎮めるには、注意をすばやくそらす・意味を素早く捉え直すといった瞬発的な操作が必要です。
ここでCPUの速さが効きます。
一方、楽しさを長引かせる作業は「味わう」「思い出を広げる」といった、急がない作業です。
だから速さは関係しなかったわけです。
なぜ語彙力が感情に効くのか?
カギは「感情に正しい名前をつけられるか」です。
たとえば、上司の一言に胸がざわついたとします。
これを「ムカつく」としか呼べない人は、打てる手も「我慢する」しかありません。
でも、同じ状態を「これは怒りではなく、期待されていないと感じた寂しさだ」と言い分けられる人は、選べる対処法が変わります。
相談する、確認する、距離を置くなどなど、選択肢が一気に増えるのです。
語彙とは、感情の解像度そのものです。
研究者も「知識と語彙の蓄積が、使える方略の幅を広げている可能性がある」と述べています。
今日からできる3ステップ
1. 感情に「2語以上」で名前をつける
モヤッとしたら、心の中で言い直します。
「イライラする」→「締め切りが読めない不安と、確認されない悔しさ」。
1日1回、これだけで十分です。
2. 方略の引き出しを増やす
感情への対処は「我慢」だけではありません。
場面を変える、見方を変える、人に話す、体を動かす。
使ったことのない手を、意識して1つ試してみてください。
3. ポジティブを「味わって」から次に行く
良いことがあったとき、すぐ次のタスクに移らない。10秒だけ止まって、何が良かったのかを言葉にする。
研究では、このポジティブを伸ばす力に年齢差はありませんでした。
何歳からでも効く数少ない打ち手です。
よくある3つの誤解
Q1. 頭の回転が速い人ほど、感情的にならない?
A.半分だけ正解です。回転の速さが効くのは、悲しみや嫌悪を鎮める場面だけ。
楽しさや満足感を伸ばす力とは関係がありませんでした。
Q2. 年をとると感情が不安定になる?
A.一律ではありません。研究では、高齢の人ほど悲しみ・嫌悪を下げるのは苦手でした。
ただし、楽しさや満足感を保つ力は若い人と同等だったのです。
研究者は、加齢とともに共感性が高まるため、他人の悲しみから離れにくくなるのではないかと考察しています。
弱さというより、優しさの副作用かもしれません。
Q3. 認知能力が高ければ、加齢の不利は打ち消せる?
A.いいえ。ここは重要です。統計上、年齢の影響と認知能力の影響は互いに独立していました。
「知識さえあれば年齢は関係ない」とは言えません。
両者は別々に効いています。
職場と家族に活かすなら「消す」より「伸ばす」
この研究がいちばん実用的なのは、支援の方向を教えてくれる点です。
高齢の家族や、落ち込んでいる同僚に対して、私たちはつい「元気を出して」「気にしないで」とネガティブを消しにいきます。
でも、そこは年齢とともに難しくなる領域でした。
むしろ効率がいいのは、良い時間を一緒に味わい、増やす方向です。
楽しかった話を掘り下げる、写真を見返す、うまくいった点を具体的に言葉にする。
この力は年齢で衰えていないからです。
チームの1on1でも同じことが言えます。
反省点を潰す会話より、うまくいった瞬間を言語化する会話のほうが、感情面では効きやすいわけです。
さらに学びたい人・実践したい人へ
「感情に名前をつける」をもっと深く知りたい人には、リサ・フェルドマン・バレット『情動はこうしてつくられる』がおすすめです。
感情は生まれつき決まっているのではなく、言葉と経験から組み立てられる——今回の研究結果と地続きの内容が、丁寧に書かれています。
日々の記録から始めたい人は、感情を書き留める専用のジャーナル(日記帳)を1冊用意するのが手軽です。
書く欄が決まっているタイプのほうが、続けやすい傾向があります。
まとめ
- 感情のコントロールを支えるのは、処理の速さではなく、語彙や読解力といった積み上げた知識だった
- 知識が多い人は、ネガティブを下げるのもポジティブを高めるのも上手。自己申告でもAIの表情解析でも一致した
- 頭の回転の速さが効くのは、悲しみ・嫌悪を鎮める場面に限られていた
- 高齢者はネガティブを下げるのが苦手な一方、ポジティブを保つ力は若年者と同等だった
- 年齢の不利と認知能力の有利は独立。知識で加齢を打ち消せるわけではない
まずは今日、モヤッとした感情に2語以上の名前をつけてみてください。
引き出しは、そこから増えていきます。
【出典】
Growney, C. M., Balota, D. A., & English, T. 『Fluid and Crystallized Cognitive Abilities Differentially Predict Successful Regulation of Positive versus Negative Emotion』APA PsycArticles: Journal Article.
「Cognitive abilities predict how well people manage their emotional responses」PsyPost(2026年8月6日)
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