人には、さまざまな欲求があります。
「お腹がすいた」「眠たい」「愛されたい」「認められたい」などなど。
少し考えるだけでも、たくさん思い浮かんできませんか?
心理学者のエイブラハム・マズロー(Abraham Harold Maslow)は”人間は自己実現に向かって絶えず成長する生き物である”と考え、「自己実現理論」を唱えました。
これは人の欲求を5段階の階層で理論化したもので、「マズローの欲求階層説」とも呼ばれます。
その5段階の欲求とは、以下の5つです。
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認(尊厳)欲求
- 自己実現欲求
この記事では、エイブラハム・マズローとはどんな人物なのか、そして彼の考えた5段階の欲求はどんな欲求か説明していきます。
エイブラハム・マズローってどんな人?
エイブラハム・マズロー(1908~1970)は、アメリカ心理学会の会長も務めたことがある心理学者です。
人間の性格(パーソナリティ)をどう考えるかについては今のところ以下の4つのアプローチがあります。
- 精神分析学によるアプローチ
- 行動主義のアプローチ
- 生物学的アプローチ
- 人間学的アプローチ
マズローは④の人間学的アプローチの立場をとっていました。
「人間学的理論(humanistic theory)」とは、人が色々なことを行おうとする意識や理性を強調し、それに信頼をおく見方をしています(加藤,2001)。
マズローは「心理的健康は人間としての可能性を求める自己実現の欲求へ向かって進むところにある」と考えました。
マズローは自己実現を果たしたとされる人の共通点を調べ上げ、そうした人間性を持つ人を手本にするべきだと考えました。
マズローの研究は「人間性心理学」と呼ばれています。
【精神分析や行動療法に関する記事はこちら】
マズローの欲求階層説(自己実現理論)とは?
マズローの代名詞と言えば、「欲求階層説」です。彼は人の欲求をピラミッドに見たてて表現しました。
マズローによると、人間の欲求は一番下の「生理的欲求」から段々と満たされていくもので、途中でどれかの欲求が満たされないと次の欲求を満たすことはできないと考えました。
そして、一度その階層の欲求が満たされるとそこでの充実感は当たり前のものになってしまうため、同じ階層に留まったとしても満足感を感じられなくなってしまうと指摘しています。
つまり、人間は欲深い生き物で、一度その階層の欲求が満たされるとそこでの満足感は長続きせず、次の階層その次の階層へと欲求がどんどん活性化されていくのです。
それでは、一番下の「生理的欲求」からどんな欲求なのかを順々に解説していきます。
①生理的欲求
「生理的欲求」は生命を維持するために重要な基本的で本能的な欲求で以下のような欲求です。
- 眠りたい
- 食べたい
- 排泄したい
大災害や紛争などで生活のあらゆるものを失った人間は、生理的欲求が他のどんな欲求よりも最も大きなモチベーションとなります。
ただ、通常は生理的欲求しかみられない状況というのは一般的ではなく、すぐに次の「安全の欲求」が出現します。
ちなみに、人間以外の他の動物が生理的欲求よりも上位の欲求へ進むことはほとんどありません。
②安全の欲求
「安全の欲求」は危険を避けて、安全な生活を送りたいと考える欲求です。
- 身の安全性
- 経済的安定性
- 良い健康状態の維持
- 良い暮らしの水準
- 事故の防止
といったものが含まれます。
最も露骨にこの安全の欲求が現すのは、脅威や危険に素直に反応する乳幼児です。
一般的には、露骨に安全の欲求を表に出すことは好ましくないとされているので、大人になるにつれて抑制されていきます。
③所属と愛の欲求
生理的欲求と安全の欲求がある程度満たされると出現するのが「所属と愛の欲求」です。
「所属と愛の欲求」は、集団や社会に所属することで、孤独をさけようとする欲求です。
友人や恋愛のパートナー、家族との充実した人間関係を得たいとする欲求も含まれます。
生理的欲求と安全欲求が満たされ、暮らしの安全が確保されると、「自分とは何なのか」、「自分は何をしようとしているのか」などを模索するようになり、他人や社会との関係性の中でアイデンティティを見いだそうとします。
④承認欲求
「承認欲求」は、社会の中で良い評価を得ることによって自尊心を満たし、他人から尊重されたいと願う欲求です。
承認欲求には、
という「拒否回避欲求」と、
という「賞賛獲得欲求」の2つの面があると考えられています。
「拒否回避欲求」と「賞賛獲得欲求」のどちらがより強く現れるかは、人によってタイプが分かれます。
また、承認欲求の中でも階層があると考えられています。
低層の「他者承認欲求」は周りからの尊敬、名声、地位への渇望などです。
高層の「自己承認欲求」は自分で自分のことを尊重したい、他人の評価よりも自分で自分自身を評価することを重視したいという欲求です。
マズローは、低層の「他者承認欲求」に留まることは、自分の評価を他人に委ねることであり、自分の価値を見いだせなくなる恐れがあり危険であると指摘しています。
承認欲求を満たしたいがために、我が子に毒を持ったり、いたって健康なのに「あなたは病気なのよ!」と吹き込んで、献身的な母親を演じて周囲の人から注目されようとする「代理ミュンヒハウゼン症候群」という精神疾患があります。
興味がある方はこちらの記事をご参照ください。
⑤自己実現欲求
「自己実現欲求」は、自分の可能性を最大限に引き出すことで、成りたいと思う自分に成ることを望む欲求です。
マズローは、個人のあらゆる行動のモチベーションが自己実現欲求のためになると考えました。
また、第1階層から第5階層までの欲求を満たした人を「自己実現者」と表現し、以下の15個の特徴があると述べました(wikipedia,自己実現理論)。
- 現実をより有効に知覚し、より快適な関係を保つ
- 自己、他者、自然に対する受容
- 自発性、素朴さ、自然さ
- 課題中心的
- プライバシーの欲求からの超越
- 文化と環境からの独立、能動的人間、自律性
- 認識が絶えず新鮮である
- 至高なものに触れる神秘的体験がある
- 共同社会感情
- 対人関係において心が広くて深い
- 民主主義的な性格構造
- 手段と目的、善悪の判断の区別
- 哲学的で悪意のないユーモアセンス
- 創造性
- 文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越
まとめ
5つの欲求を全て満たした「自己実現者」は人間関係を上手くマネジメントでき、自発的に行動することが出来る為、他人から見るとすごく魅力的に映ります。
また何か問題が起こっても、冷静に事態を見極め、素早く的確に解決することが出来ると言われています。
自分自身の理解にもなるので、自分はどの階層にいるのか考えてみましょう。
そして、もしまだ低い階層でも焦らず、ゆっくり、着実に次の階層に進んでいきましょう。
マズローは晩年に6つ目の階層、「自己超越欲求」があると発表しました。
もうここまでくると、他人から認められたいとかは関係なく、ただひたすら達成したい目標に向かって進むという段階です。
マズローによると、「自己超越欲求」にまで達している人は人口の2%ほどだそうです。
なかなかこの領域まではいけないですよね。
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【引用文献】
加藤 孝義(2001)パーソナリティ心理学 新曜社
『Newton 2019/12』
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1.エイブラハム・マズローってどんな人?
2.マズローの欲求階層説(自己実現理論)とは?
2-1.生理的欲求
2-2.安全の欲求
2-3.所属と愛の欲求
2-4.承認欲求
2-5.自己実現欲求
3.まとめ