
そんな行き詰まりを感じている方に、一つの手がかりになる研究があります。
中高生878人を3年間追いかけた調査で、攻撃性を予測していたのは怒りだけではありませんでした。
悲しみのほうも、攻撃性を予測していたのです。
「怒りは二次感情」とは、どういう考え方ですか?
「怒りは二次感情」とは、一言で言うと、怒りは一番上に出てくる感情で、その下に別の感情が隠れているという捉え方です。
アンガーマネジメントや心理相談の現場で、よく使われる枠組みです。
たとえば、約束の時間に相手が来ず、連絡もない。ようやく現れた相手に、強い口調で言ってしまう。
このとき最初にあったのは、怒りだったでしょうか?
おそらく違います。
- 心配だった
- 軽く扱われた気がして、悲しかった
- 一人で待つ時間が、心細かった
こうした感情が先にあって、その上に怒りがかぶさっている。
これが二次感情という見方です。
怒りは、氷山の水面上に出ている部分にあたります。だから水面上だけを削っても、下の氷が残っている限り、また同じ形が浮かんできます。
ただし正直にお伝えすると、これは臨床でよく使われる枠組みであって、あらゆる怒りに当てはまることが証明された法則ではありません。
そのうえで、今回の研究結果はこの枠組みとよく重なりました。
878人を3年追った研究は、何を調べたのですか?
厳しい養育を受けた子が、その後どんな道筋で問題を抱えるのかを追跡した研究です。
中国・陝西師範大学のYanli Hou氏らが、学術誌『Journal of Affective Disorders』に発表しました。
調査は3年がかりで行われました。
- 1年目(平均12.7歳・男子56.2%)——家庭で厳しい罰を受けた頻度を回答
- 2年目——反芻(はんすう)の傾向を測定
- 3年目——抑うつ症状と攻撃性を測定
ここで出てくる「反芻」とは、同じことを頭の中で何度も繰り返し考えてしまうことです。牛が飲み込んだ草を口に戻して噛み直す動きから来た言葉です。
| 反芻の種類 | 頭の中で繰り返されるもの |
| 悲しみの反芻 | 失った感覚、無力感、自分には価値がないという思い |
| 怒りの反芻 | 受けた不当な扱いと、やり返したいという思い |
研究では、反芻を2種類に分けて測っています。
攻撃性のほうも2種類に分けられました。
- 反応的攻撃:脅かされたと感じて反射的にキレるタイプ
- 道具的攻撃:優位に立つために計画的に行うタイプ
いちばん意外だったのは、どの結果?
悲しみの反芻が、うつだけでなく攻撃性まで予測したことです。
それぞれ単独で分析したときは、予想どおりでした。悲しみの反芻はうつ症状を、怒りの反芻は攻撃性を予測します。
ところが、悲しみと怒りが同時に起きやすいことを調整し、両方を一つのモデルに入れると様子が変わりました。
悲しみの反芻が、うつと攻撃性の両方を予測したのです。
ここで先ほどの二次感情説を思い出してください。
怒りの下に悲しみがある、という見立てでした。
この研究は二次感情説を検証するために設計されたものではありません。ですが結果は、その見立てとよく整合します。
攻撃的な行動の背後で動いていたのは、怒りそのものよりも、処理されずに残った悲しみだった可能性があるということです。
もう一つ、通説に反する結果が出ています。
原著論文によれば、抑うつに関わる経路は男子でより強く、反応的・道具的な攻撃性は女子でより大きいというパターンでした。
「男子は怒りで表に出し、女子は落ち込みで内に抱える」という一般的なイメージとは逆です。
感情の出方は、性別の思い込みだけでは読めないということかもしれません。
なぜ「怒りを鎮める」だけでは足りないのですか?
怒りを鎮めるだけでは足りないのは、下にある感情が手つかずのまま残るからです。
怒りっぽい人には怒りへの対処を教える。
自然な発想ですし、その場をしのぐ手段としては有効です。
でも、今回の結果が正しければ、それは水面上の氷を削る作業です。下の塊はそのままです。
研究が示唆しているのは、悲しみの反芻に手を入れることが、外に向かう問題にも効く可能性があるということです。
具体的には、次のような方向性が考えられます。
- 行動活性化——考え込む時間を、実際に動く時間に置き換える
- マインドフルネス——思考を止めるのではなく、巻き込まれずに眺める練習
どちらも、もともとはうつへの対処として発展した方法です。
それが怒りの問題にも届くかもしれない、という点が新しい視点です。
怒りが出たとき、下を見る4ステップ
その場で使える手順にまとめました。
ステップ1:まず、その場をしのぐ
6秒待つ、席を立つ。
これは今までどおりで構いません。
下を見る作業は、火が出ている最中にはできません。
ステップ2:落ち着いてから「何が傷ついたか」を1つだけ書く
怒りの理由ではなく、傷のほうです。
「軽く見られた」「無視された気がした」
1行で十分です。
ステップ3:書いたものを、繰り返さずに閉じる
ここが肝心です。
掘り下げすぎると、それ自体が悲しみの反芻になります。書いたら閉じて、別のことをしてください。
考える時間を長くするのではなく、一度だけ言葉にして手放すのが狙いです。
ステップ4:同じ言葉が3回出たら、人に話す
書いたものを見返して、同じ傷が繰り返し出てくるなら、それは自分ひとりで扱う段階を超えています。
信頼できる人か、専門家に話してください。
なお、この研究が扱った「厳しい養育」には、つねる・蹴るといった体罰が含まれます。
日本では2020年4月から、しつけを理由とした体罰は法律で禁止されています。
手が出そうなときは、迷わず相談窓口を使ってください。
この研究を、どこまで信じていいですか?
参考にはなりますが、断定はできません。
理由を4つ挙げます。
- すべて本人の自己申告による質問紙:実際の行動を観察したわけではありません。
- 対象は中国のある地域の私立校の生徒に限られている:文化も教育環境も異なる日本にそのまま当てはまるとは限りません。
- 1年目の時点での反芻の傾向が測られていない:もともと反芻しやすい子だった可能性を、完全には除けていないということです。
- 先ほどの性差についても、この単一サンプルで観察されたパターンにすぎない:日本の子どもで同じ向きが出るとは限らない点に注意してください。
もう少し深めたい人へ
反芻そのものへの対処を学びたい方には、マインドフルネス認知療法の実践書が向いています。
考えを止めようとするのではなく、巻き込まれずに眺めるという練習が、音声ガイド付きで段階的に紹介されています。『うつのためのマインドフルネス実践』は、この領域では定番の一冊です。
まとめ
- 怒りの二次感情説=怒りの下に別の感情が隠れているという臨床でよく使われる枠組み
- 中高生878人を3年追った研究で、厳しい養育が反芻を高め、その先が分岐していた
- 単独では「悲しみ→うつ」「怒り→攻撃性」だが、両方を同時に分析すると悲しみの反芻が攻撃性も予測した
- つまり、攻撃性の背後で動いていたのは処理されない悲しみかもしれない
- 対処は怒りを鎮めることだけでなく、悲しみの反芻を扱う方向にも広げられる
- ただし自己申告・単一地域・因果未確定という限界がある
次にカッとなったら、まずその場をしのいでください。
そして落ち着いてから、たった1行だけ書いてみてください。「何が傷ついたのか」を。
削るべきは、水面の上ではないのかもしれません。
相談先(日本)
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- 児童相談所虐待対応ダイヤル:189(いちはやく)
- 子育て世代包括支援センター——お住まいの市区町村にあります
【出典】
- Hou, Y., Song, S., Guo, R., & Li, C. (2026). When love harms: Longitudinal effects of harsh parenting on adolescents’ depressive symptoms and reactive–proactive aggression. Journal of Affective Disorders, 412, 122065. (陝西師範大学/PubMed経由で原著抄録を確認)
- PsyPost「Harsh parenting predicts teenage depression and aggression through different types of repetitive thinking」
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6秒数える。深呼吸する。その場を離れる。
アンガーマネジメントで習ったことは、ちゃんとやっている。それでも、しばらくするとまた同じところで爆発してしまう。