と考えてしまう方はもしかしたら、「学習性無力感」の状態に陥っているかもしれません。
学習性無力感とは、長期間にわたって回避不可能なストレス状況下に置かれた人や動物が、何の抵抗・努力もしなくなるという現象です。
学習性無力感は、家庭内暴力(DV)や燃え尽き症候群と関係があると考えられています。
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この記事では、学習性無力感を見出した実験や学習性無力感のプロセスや症状、学習性無力感になりやすい人の性格、最後に克服法をご紹介します。
何をやっても無駄だ...「学習性無力感」とは?
学習性無力感(英語:learned helplessness)とは、努力をしても望む結果が得られないという状況・経験が長期間つづくと、「何をしても無意味だ」「どうしようもない」と思うようになり、不快な状況から脱出する努力をしなくなるという現象です。
英語でLearned helplessness(直訳:学習された無力感)といい、日本語では「学習性無力感」または「学習性絶望感」「獲得された無力感」「学習性無気力」と言います。
学習性無力感は、一種の抑うつ状態や学業不振にいたるメカニズムの一つ、DVや児童虐待の被害者が陥りがちな心理として注目されています。
この現象はアメリカの心理学者であるマーティン・セリグマン(Martin E.Seligman)が1967年に発表した学習性無力感理論に端を発します。
そんなセリグマン氏が、学習性無力感理論を提唱するきっかけとなった実験をご紹介します。
セリグマンによるイヌに電撃を与える実験
1967年にセリグマンとマイヤーはイヌに電撃を与えるという実験を行いました。
そんな過激な実験内容は以下の通りです。
研究チームは床から電撃を流すことができる箱を用意しました。
実験対象となるイヌは2つのグループに分けられ、
- 床から電撃が流れているけど、壁に付いてるボタンを押すと電流が止まる箱
- 床から電撃が流れていて、何をしても電流が止まらない箱
にそれぞれ入れられました。
①の箱に入れられたイヌは「ボタンを押すと電撃が止まる」ことを学習してすぐに電撃を止めるようになりました。
一方、②の箱に入れられたイヌは「何をやっても電撃は止まらない」ことを学習し、あきらめて床にうずくまるようになりました。
その後、②の箱に入れられたイヌを①の箱に移しました。
ボタンを押せば電撃は止まるのですが、イヌは①の箱に移ったあとも、床にうずくまっていました。
セリグマンら研究チームはこの実験結果から、自分がどんなことをしても状況が変わらない環境にいると、「何をやっても無意味だ」と考えるようになり、無力感が生じると考えました。
その後の研究で「学習性無力感」の症状がうつ病に酷似していることや、人も回避や抵抗ができない状況でストレスを受け続けると、学習性無力感に陥ることが明らかにされました。
2つの重要な概念
学習性無力感を説明するのに、重要な概念が「統制不可能性(uncontrollability)」「非随伴性(non-contingency)」です。
統制不可能性とは「自分でコントロールが出来ないこと」です。
随伴性は「自分の行動」と「結果」の関係のことで、イヌの実験では②の箱のイヌは何をしても電撃を止められない(結果が変わらない)状況だったので、随伴性がないということになります。
形成されるプロセス
セリグマンは学習性無力感が形成されるプロセスは4ステップに分かれると考えました。
- 経験
- 認知
- 原因帰属
- 予測
①経験
統制不可能な状況に陥った場合、人や動物は何とか結果をコントロールしようと色々と試みます。
何度も試行錯誤してみても自分の行動と結果が随伴しておらず、「何をやっても対処できない」という統制不可能な事態を経験します。
セリグマンは統制不可能な状況を一度だけ経験するのではなく、繰り返し何度も経験することが学習性無力感が形成されるプロセスにおいて重要だと考えました。
②認知
自分が何をやっても結果は変わらないという統制不可能な状況を認知し、「何をしても無意味だ」「どうしようもない」と統制不可能性を学習します。
ただし、統制不可能な状況を経験しても、「今、統制不可能な状況である」ということを認知しなければ、次のステップには進まないため、学習性無力感にはなりません。
③原因帰属
「どうして統制不可能な状況が自分の身に起こっているのか」という原因について考えるときに、ある特徴を持っていると学習性無力感に陥りやすいとされています。
ある特徴というのは、
- 結果はすべての人にとって、コントロール不可能と考えるのではなく、ある特定の人にとってのみコントロール不可能だと考える傾向
- 統制不可能な状況を「このときだけ」とは考えずに、「この先もずっと続く」と考える傾向
- 統制不可能な状況は「ある特定の場面だけ」とは考えずに、「どんな場面でも起こる」と考える傾向
の3つです。
①のような思考傾向があると、自己評価に影響を与えます。
たとえば、一生懸命に勉強をしたのにテストの点数が低かったという経験をしました。
- 生徒A「今回のテストは難しかったから、みんな点数が低いだろう」
- 生徒B「一生懸命に勉強したのに点数が低かった。自分はみんなより劣ってるんだ。ダメだな自分」
と考える生徒がいた場合、生徒Aの思考は自己評価に影響を与えませんが、生徒Bの思考は自己評価を著しく低下させます。
④予測
「この先もずっと、自分がどんなことをしても結果は変わらないだろう」という統制不可能性の予測が形成されます。
統制不可能性が形成されてしまうと、イヌの実験のように最初②の箱に入れられたイヌが自分で電撃を止められる箱に移ったとしても、何の行動も起こさず、無力感にさいなまれるという事態に陥ります。
このようにして、人や動物は学習性無力感を学習していきます。
学習性無力感の症状
学習性無力感の状態に陥ると、次のような症状が現れます。
- モチベーションの低下
- 認知的な障害
- 感情の障害
①モチベーションの低下
自分でコントロールが出来ない状況にいると、「どうにかして結果を変えよう!」というモチベーションが低下し、何に対しても受動的になってしまいます。
②認知的な障害
「何をしても無駄」という統制不可能性を学習したことによって、状況を正しく認識できなくなります。
その後の課題や状況が自分でコントロール可能なものに変わったとしても、「自分の行動で状況を変えられる」と認知することができず、成功に対する認知に歪みが生じます。
③感情の障害
感情のバランスが崩れてしまい、抑うつと不安な感情が心の中を支配します。
精神は不安定・悲観的になり、ネガティブな感情を持ちやすくなります。
学習性無力感になりやすい人の性格
ビッグファイブ性格診断の性格特性の一つ「神経症的傾向」が高い人は学習性無力感になりやすい傾向があります。
ビッグファイブ性格診断とは、血液型占いとは比べ物にならないほど信憑性がある性格診断です。
神経症的傾向は「情緒不安定性」「神経質傾向」などとも言われ、心理的ストレスを受けやすい傾向を表しています。
神経症的傾向が高い人は怒り、不安、抑うつ、脆弱性などのネガティブな感情に敏感に反応する傾向があります。
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どうやって克服すれば良いか?
学習性無力感の状態から抜け出すには、自分の歪んだ認知にアプローチするのが効果的です。
具体的には、
- 瞑想でメタ認知の能力を上げる
- リフレーミングで考え方を変える
などが方法として挙げられます。
メタ認知とは「自分の認知に対する認知」です。
たとえば、道端に一輪のタンポポが咲いているのを見て「綺麗だな」と思いました。
そして、「あっ自分は今、タンポポを見て綺麗だなと思った」という風に、自分の思考・認知を自覚することがメタ認知です。
瞑想では、呼吸やある言葉など、一つのことに意識を集中させて、浮かんできた思考もあるがままにします。
そうしているうちに、自分を俯瞰して見る能力が向上するので、メタ認知の能力もつきます。
リフレーミングに関してはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
学習性無力感の状態になると、幸福度はだだ下がりになりますし、うつ病などの精神疾患にもなりやすくなってしまいます。
神経症的傾向が高く、学習性無力感の状態になりやすい人でも自分の認知の歪みを正したり、自分の歪んだ認知に気づけるようになれば、なりずらくなります。
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参考文献
「学習性無力感における社会的文脈の諸問題」金沢大学 荒木友希子 Japan Psychological Review 2003
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