人が怖いから外に出られないんでしょう?
ひきこもりについて、そう思われることがよくあります。
でも2026年に発表された日本の研究は、その常識をくつがえしました。
ひきこもり当事者の52%は、生活の困りごとがとても重いのに、人からどう見られるかへの不安は高くなかったのです。
この記事では、研究が見つけた3つのタイプと、家族や身近な人が今日からできる関わり方を、できるだけやさしい言葉で解説します。
ひきこもりの3つのタイプとは?
ひきこもりの3タイプとは、「同じように家にいても、家に居続ける理由は3通りに分かれる」ということです。
外から見える行動は似ています。
でもその行動を続けさせている心の仕組みが、人によってまったく違っていました。
この研究について
- 対象:18〜59歳の日本の成人400人(ひきこもり群200人/比較のための対照群200人、平均41歳)
- 調査方法:オンライン調査パネルによる質問紙
- 発表:学術誌『Psychiatry Research』(2026年)
- 研究者:武蔵野大学 人間科学部の野中俊介准教授らのチーム
ひきこもり群の条件は、仕事にも学校にも行っておらず、週のほとんどを家で過ごす状態が6か月以上続いていること。
さらに、専門の尺度で一定以上の重さがあることでした。
ひきこもり3つのタイプの内訳
| タイプ | 割合(人数) |
| ① 軽度型 | 11%(22人) |
| ② 中等度引きこもり型 | 52%(104人) |
| ③ 社会回避型 | 37%(74人) |
① 軽度型(11%)──行動はあるが、心理的な動機は弱い
家にいる時間は長いものの、それを支える心理的な動機は弱いグループです。
日常生活の支障も、ほかの2タイプにくらべて軽めでした。
頼れる人の数は対照群より少なかったのですが、今ある人間関係への満足度は対照群と同じくらい。
数は少なくても、本人はそこそこ納得している状態です。
② 中等度引きこもり型(52%)──見過ごされた多数派
最大のグループであり、この研究のいちばんの発見です。
生活の支障の重さは、いちばん重い③社会回避型とほとんど同じレベルでした。仕事も、人間関係も、家のことも、深く困っている状態です。
ところが、「人から悪く思われることへの恐れ」は、対照群と統計的な差がありませんでした。
日々のストレスも、③にくらべると低め。
研究チームは、この状態を「つらい気持ちを避け、家で安定を保つ」という機能が働いている状態と考えています。
野中准教授は、論文タイトルでこの層を「見過ごされた多数派(the overlooked majority)」と呼んでいます。
③ 社会回避型(37%)──古典的なイメージどおり
いわゆる「ひきこもり」のイメージにいちばん近いグループです。
- 引きこもりの重さが3タイプで最も強い
- 人から悪く評価されることへの恐れが強い
- 頼れる人がいちばん少ない
- 日々のストレスがいちばん高い
- 結婚している人・大学卒業の人の割合が、ほかのタイプより低い
このタイプには、社会不安を直接やわらげる従来型の心理療法が合いやすいと考えられます。
うちの場合はどのタイプ?見分ける3つのステップ
家族や支援者がまずできるのは、行動を変えようとする前に「何がその行動を続けさせているか」を知ることです。
これを心理学では機能分析と呼びます。
「機能分析」とは、その行動が本人にとってどんな役に立っているかを調べること。
たとえば、雨の日に傘をさす行動を見て「濡れないため」と理解するのと同じで、行動の目的を先に知る作業です。
ステップ1:「家にいる時間」ではなく「理由」に注目する
何時間家にいたか、何日外出したかを数えても、タイプは見分けられません。
研究でも、外から見える行動の量はタイプ間で大きく重なっていました。
ステップ2:3つの「維持要因」のどれが強いか探る
研究が測ったのは、次の3つです。
本人と話せる関係があるなら、それとなく聞いてみてください。
- 人との接触を避けられるから(誰にも会わずに済むのが助かる)
- 家が安心できて楽しいから(家にいること自体に心地よさがある)
- つらい気持ちから逃れられるから(外に出ると嫌な感情がわいてくる)
②の中等度引きこもり型では、3つ目の「つらい気持ちを避ける」働きが目立ちます。
ステップ3:困りごとの重さは、別ものとして測る
いちばん大事なポイントです。
不安が目立たないことと、困りごとが軽いことは、まったく別のことでした。
野中准教授はこう述べています。
強い社会不安は目立たないかもしれません。しかしそれは、その人の困難が小さいという意味ではありません。
「外に出よう」と言ってはいけないの?よくある3つの疑問
Q1:不安が高くないなら、本人はラクなのでは?
A.いいえ、そうではありません。
②のグループは、生活の支障が③とほぼ同じ重さでした。
仕事・学業・人間関係・家事など、広い範囲で困りごとを抱えています。
野中准教授も「社会不安が目立たないことは、その人が苦しんでいないという意味ではない」とはっきり否定しています。
Q2:「外に出よう」と誘うのはダメですか?
A.誘うこと自体が悪いのではありません。ただ、それだけでは届きにくい層が最大多数だということです。
野中准教授の言葉を借りると、こうなります。
ただ外に出るよう促すだけでは足りません。まず、その人が何から自分を守ろうとしているのかを理解し、そのうえで、より安全で続けやすい別の方法を一緒につくっていく必要があります。
まず「何から守っているのか」。それを知ってからでも遅くありません。
Q3:甘えや怠けではないのですか?
A.研究チームは、この見方をはっきり否定しています。
強い不安、つらい経験、過剰な社会的プレッシャーに直面したとき、家にいることは短期的に自分を守る数少ない手段になりうる、というのが研究者の立場です。
ただし同時に、長く続けば選択肢や人とのつながりが狭まり、新しい困難を生むことも認めています。
守る働きがあるからそのままでいい、という話ではありません。
なぜ「不安を減らす支援」だけでは約4割にしか届かないのか?
数字にすると、はっきりします。
社会不安を直接やわらげるタイプの支援が素直にはまるのは、③社会回避型の37%。
残る63%には、別の入り口が必要になります。
支援の方向性は、タイプごとに変わる
| タイプ | 支援の方向性 |
| ① 軽度型(11%) | 本人の困り感を尊重しつつ、つながりを細く保つ |
| ② 中等度型(52%) | 何が引きこもりを維持しているかの機能分析から |
| ③ 社会回避型(37%) | 社会不安への従来型アプローチが合いやすい |
「うつ」との関係でわかっていること
同じ研究チームが1年間の追跡調査で見つけたことがあります。
人との接触を避けるために家に居続ける場合は、うつとひきこもりがお互いを強め合う関係が見られました。
一方、家で心地よさや楽しさを見つけている場合は、その後うつが悪化することとは結びついていませんでした。
同じ「家にいる」でも、その意味は正反対になりうるということです。
この研究の限界も知っておく
信頼できる記事にするために、研究者自身が挙げた注意点も書いておきます。
- 52%は「日本のひきこもり全体の52%」ではない。この研究の比較的きびしい条件で選ばれた参加者のなかでの割合です
- 一時点だけを切り取った調査なので、原因と結果はわかりません。長く引きこもるうちに社会不安が下がったのか、もともと高くなかったのかは判断できません
- すべて自己申告。強く孤立している人ほど、自分の困難を低く見積もる可能性があります
- オンライン調査パネルを使ったため、ネット環境がない人や調査に参加する気力がない、最も重い層は含まれていない可能性があります
- 3つのタイプは診断名でも、変わらない固定タイプでもありません
野中准教授の長期目標は、ひきこもりの多様な状況を示す「地図」を作ることだといいます。
人を分類するためではなく、本人と周りの人が今いる位置を確かめ、進みやすい道を一緒に考えるための地図です。
さらに深く知りたい人へ
ここまで読んで「もっと体系的に理解したい」と感じた人には、次の2冊が入り口になります。
家族が具体的にどう関わるかを知りたいなら、『CRAFT ひきこもりの家族支援ワークブック』(金剛出版)。
本人ではなく家族が動くことで状況を変えていく方法をまとめた一冊で、この研究の共著者である境泉洋氏が編著者です。
そもそもひきこもりとは何かを日本の文脈から知りたいなら、斎藤環『社会的ひきこもり』(PHP新書)が定番です。
どちらも本を読めば解決する類の話ではありません。
専門機関への相談と並行して、理解を助ける道具として使うのが現実的です。
まとめ
- ひきこもり当事者は1種類ではなく、維持している理由によって3タイプに分かれる(軽度型11%/中等度引きこもり型52%/社会回避型37%)
- 最大の52%は、生活の支障は重いのに社会不安は対照群と差がなかった。これが「見過ごされた多数派」
- 社会不安が目立たない=困難が軽い、ではない。ここを取り違えると支援が届かない
- 社会不安を直接やわらげる支援が合いやすいのは約4割。残りには「何が引きこもりを維持しているか」を見る機能分析が必要
- 「外に出よう」と促す前に、何から自分を守っているのかを理解することが出発点になる
まずできることは、行動の量を数えるのをやめて、理由に耳を傾けてみることです。
そのうえで、お住まいの地域のひきこもり地域支援センターや精神保健福祉センターに相談してみてください。
本人が動けなくても、家族だけで相談できる窓口が各都道府県にあります。
【出典】
- Nonaka, S., Kubo, H., Takeda, T., & Sakai, M. 『The overlooked majority of hikikomori: Latent profiles reveal a discrepancy between social anxiety and life functioning』Psychiatry Research(2026)
- PsyPost「New hikikomori research identifies three distinct profiles of extreme social withdrawal」(2026年8月2日)
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