心理学者のリメイら(Rime et al.1998)によると、「人はポジティブであれ、ネガティブであれ、大半の感情経験をそれが生じたすぐあとに他人に話す」ようです。
リメイらは、感情を他人に話す行動を「感情の社会的共有」と呼び、人に不可欠なものであると考えました。
私たちはどうやら自分の感情を他人に話したいという基本的な欲求を持っているようです。
感情を話すということは日常的な場面だけではなく、宗教的な場面でもみられます。
このように、自分の感情を他人に話すという行為が、基本的な欲求や生活の一部として備わっていると考えると、そこには何らかのメリットがあるのではないかと想像できます。
この記事では、自分の感情を他人に話す、紙に書くメリットをそれぞれ3つずつ解説していきます。
気持ちを他人に話す驚きのメリットとは?
自分の気持ちを他人に話すことは、なかなか勇気がいることだと思います。
特に男性は自分の弱さを見せることに抵抗がある人が多いため、ポジティブな感情ならともかく、ネガティブな感情はなかなか他人に打ち明けられないのではないでしょうか。
しかし、自分の感情を他人に話すことには以下のようなメリットがあります。
- 互いの感情を共有することで、集団内の相互理解が促進され、絆も深まる。
- 感情を共有することで、模倣学習のための情報源となる。
- 他人に感情を話すことで、頭の中で混乱していた経験が整理され、自己理解につながる。
模倣学習とは、「人の振り見て、我が振り直せ」とあるように、自分が直接、経験したことではないが、観察や伝聞によって、学習することです。
感情を「書く」ことで得られる3つのメリット
「感情を書く」というのは、日記を書くとかツイートするとかです。
日記をつける習慣がない人からすると、日記を書くというのはハードルが高いかもしれません。
でも、ツイッターやフェイスブック、LINEの自分だけのグループなどに書き込むのはそんなに難しくないと思います。
感情を書くことで、以下のようなメリットが得られます。
- そのときの気分や気持ちを言葉にして整理する機能(現在)
- 書いたものを後日、読み返して、その時の気持ちを再体験する(過去)
- 現在の気持ちや考えを整理することで、将来の行動や目標を明確にする(未来)
このように「感情を書く」ことは、過去・現在・未来にわたって、自分を明確に形づけるのに役立ちます。
トラウマティックな経験も話した方が良いのか
「感情を話す」ことは、集団内の絆が深まることや情報の共有、自己理解などのメリットがありますが、すべてを他人に話すことにはけっこうな勇気が必要です。
特に過去のトラウマティックな経験やストレスフルな経験などは親しい人にもなかなか話しずらいものです。
そういった経験は精神的に悪影響を及ぼすと考えられていましたが、ペネベーカー(Pennebaker 1989)は次のように考えました。
経験そのものが心身の健康に影響を及ぼすのではなく、その経験によって生じた感情を他人に開示することを抑えることが心身の健康を悪化させると考えました。
つまり、トラウマティックな経験でも話すなり、書くなり、アウトプットすると、心身への影響を軽減することが出来るということです。
ペネベーカーはそれを証明するために次のようなトラウマ開示実験を行いました。
被験者に過去のトラウマティックな経験に関する、心の奥底にある感情や思考を1人きりで1日15~30分間、紙に筆記するという作業を3,4日間続けてもらい、筆記前後の健康指標の変化を測定しました。
その結果、短期的には筆記によって、精神的な動揺などのネガティブな反応が見受けられましたが、長期的には医療機関の受診率が減るという結果が得られました。
その後も現在に至るまでに多くの筆記開示研究がおこなわれ、それらの研究を総合した*メタ分析を行った論文もいくつか発表されました。
その結果、残念ながら、あらゆる人に筆記開示が有効という訳ではないということがわかりましたが、統計的には筆記開示によって、健康指標が向上するということも分かっています。
【筆記開示に関する記事はこちら】
【エビデンスレベルに関する記事はこちら】
最後に
感情を自分の中だけで溜め込んでおくことは、本人に自覚がなくても、ストレスになっていることがあります。
簡単に言ってしまうと、感情はアウトプットすると良いよって話ですね。
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【参考文献】
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