オレンジジュースとココナッツウォーターに、塩をひとつまみ。
SNSでよく見かける「コルチゾール・カクテル」です。
ストレスホルモンを下げて、疲れや体重増加を解消してくれる。
そんな触れ込みで広まっています。
作ってみた方もいるかもしれません。
おいしそうですし、材料も身近です。
ただ、医科学の専門家が検証したところ、この流行には最初から論理が通っていない部分がありました。順番に見ていきましょう。
そもそもコルチゾール・カクテルとは何ですか?
「コルチゾール・カクテル」とは、一言で言うと、オレンジジュースとココナッツウォーターに塩を加えた飲み物のことです。
標準的なレシピは、こうなっています。
- オレンジジュース:1/2カップ
- ココナッツウォーター:1/2カップ
- 塩:小さじ1/4程度
- (カリウムやマグネシウムの粉末を足すバージョンもあります)
SNSでの説明はだいたい共通しています。
ストレスで高くなったコルチゾールを下げ、同時に「副腎疲労」も回復させてくれる、というものです。
この解説を書いたのは、オーストラリア・ウーロンゴン大学のテレサ・ラーキン准教授です。
医科学が専門の研究者が、この主張を一つずつ検証しました。
コルチゾールは、本当に「悪者」なのですか?
いいえ。
コルチゾールは、朝あなたを起こしてくれているホルモンです。
コルチゾールには、はっきりした1日のリズムがあります。
- 目が覚める直前に上がりはじめる
- 朝にいちばん高くなる
- 午後にかけて下がっていく
- 夜に最も低くなる
つまり、朝すっきり起きられるのはコルチゾールのおかげです。
急な出来事に体が対応できるのも、このホルモンが働いているからです。
ゼロにしたら困るどころか、生きていけません。
にもかかわらず、SNSでは「コルチゾール=ストレス=悪」という単純な図式で語られがちです。
ここが最初のつまずきです。
この流行には、決定的な矛盾がある
ここが一番お伝えしたいところです。
同じ飲み物で「高いコルチゾール」と「副腎疲労」の両方を治す、という主張は成り立ちません。
理由はシンプル。方向が逆だからです。
- 高コルチゾール=コルチゾールが多すぎる状態
- 副腎疲労=副腎が疲れてコルチゾールが出なくなるとされる状態
上げるのか下げるのか、正反対のことを1杯でやると言っているわけです。
しかも「副腎疲労」という病名は、医学的に認められた診断ではありません。
Mayo Clinicのような主要な医療機関も、この用語を病気として扱っていません。
さらに、症状の結びつけ方も逆になっています。
体重が増える、いつも疲れている——SNSではこれらが「コルチゾールが高いサイン」として語られます。
でも実際には、こうした症状はコルチゾールが低いときに起きることのほうが多いのです。
つまり、原因の説明も、解決の方向も、両方ずれています。
塩はコルチゾールを下げてくれるのですか?
むしろ逆です。
塩はコルチゾールを上げる方向に働きます。
ヒトでもマウスでも、塩分の摂取量が多いとコルチゾールが上がることが報告されています。
つまり、コルチゾールを下げたくて塩を入れているのに、体の中では反対のことが起きている可能性があるわけです。
栄養面の数字も見ておきましょう。1杯あたりの内訳です。
| 成分 | 1杯あたりの量 |
| 糖分 | 約16g(1日の上限の約1/3) |
| ナトリウム | 1日の上限の約1/4 |
糖16gの内訳は、オレンジジュースが約11g、ココナッツウォーターが約5gです。
1杯でこれだけ入るのは、決して軽くありません。
毎日の習慣にするなら、なおさら気に留めておきたい数字です。
では、実際にコルチゾールを下げるものは何ですか?
大規模なメタ解析(多くの研究をまとめて分析する手法)で示されたのは、飲み物ではありませんでした。
効果が確認されたのは、次の3つです。
- マインドフルネス
- 瞑想
- リラクセーション
いずれも、飲むものではなく、行動です。特別な道具も材料も要りません。
記事の著者が勧めているのは、こうした「数分のリセット」を毎日の生活に入れることです。
たとえば次のようなものが挙げられています。
- 運動——散歩でも構いません
- 創造的な活動——手を動かして何かを作る時間
- 人との交流——短い雑談でも効果があります
- 呼吸法——その場ですぐできます
どれか1つを完璧にやる必要はありません。短くていいので、毎日入れることのほうが大事です。
もう飲んでしまった人は、どうすればいいですか?
心配いりません。
この飲み物自体が危険というわけではないからです。
オレンジジュースもココナッツウォーターも、普通の飲み物です。
問題なのは、効果の説明のほうです。
ただ、同じ栄養を取りたいなら、より良い選択肢があります。
著者が挙げているのは、オレンジの果実そのものと、ナッツや種子です。
果実なら食物繊維も一緒に取れますし、ジュースより血糖値の上がり方もゆるやかになります。ナッツにはマグネシウムも含まれています。
飲み物として楽しむぶんには、やめる必要はありません。
ただ「これでコルチゾールが下がる」という期待だけは、いったん外しておくのが良さそうです。
まとめ
- コルチゾール・カクテル=オレンジジュース+ココナッツウォーター+塩の飲み物
- コルチゾールは悪者ではなく、朝あなたを起こしているホルモン
- 「高コルチゾール」と「副腎疲労」を同時に治すという主張は、方向が正反対で成り立たない
- しかも副腎疲労は医学的に認められた診断ではない
- 塩はコルチゾールを下げるどころか、上げる方向に働く
- 実際に効果が確認されているのは、マインドフルネス・瞑想・リラクセーション
【出典】
Larkin, T.(University of Wollongong, Associate Professor in Medical Sciences)「Anatomy of a viral wellness trend: why the cortisol cocktail fundamentally misunderstands human stress」PsyPost
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