犯罪捜査において、目撃者の証言は非常に重要な手掛かりの1つです。
しかし、近年、目撃証言は僕たちが考えるほど、信憑性はないものだということが様々な実験研究から明らかになってきました。
「目撃証言の信憑性」に関する研究の第一人者が、カリフォルニア大学の心理学者ロフタス(Loftus)さんです。
彼女は、目撃者の記憶は目撃した後に入ってきた情報によって簡単に変わってしまう、ということを実験によって明らかにしました。
この記事では、ロフタスさんが行った実験内容を紹介し、子どもと高齢者の目撃証言の信憑性にも言及したいと思います。
目撃証言の信憑性はどのくらい?事後情報効果の影響
カリフォルニア大学の心理学者ロフタスさんは、目撃者に質問する際に使う言葉によって、証言内容が大きく変わってしまうということを実験で明らかにしました。
その実験では、参加者に交通事故を描いた映像を見せて、その後で「どのくらいのスピードで車がぶつかっていたのか?」を尋ねました。
すると、興味深いことにその質問で使う動詞によって、実験参加者の答えが大きく違っていたのです。
その質問と参加者の答えたスピードは以下の通りです。
「その車が激突したときのスピードはどのくらいでしたか?」
→65キロ
「その車が衝突したときの~」→63キロ
「その車がドスンとぶつかったときの~」→61キロ
「その車がぶつかったときの~」→55キロ
「その車が接触したときの~」→51キロ
このことから、事件の後の取り調べで使われるちょっとした言い回しの違いで、記憶自体を変えてしまう可能性がある、ということを示しています。
このように、何らかの出来事を経験した後に、その出来事に関連した情報を与えられると、目撃者が元々の出来事の記憶ではなく、事後に与えられた情報または元々の出来事と事後の情報を混ぜた内容を報告する現象が起こります。
この現象をロフタスさんは事後情報効果(post-event information effect)と呼びました。
子どもの目撃証言の特徴
悲しいことですが、子どもが犯罪の被害者になったり、子どもが目撃者になることがあります。
特に、子どもに対する性犯罪や児童虐待の捜査においては、子どもの証言が唯一の手掛かりや証拠になる場合もあるので、子どもの証言にはどのような特徴があるのか、を理解しておくことは重要なことです。
子どもの証言の最大の問題は、子どもは被誘導性(suggestibility)が高いということです。
被誘導性とは、質問する人の誘導的な質問によって証言が変わってしまう傾向のことです。
例えば、性犯罪にあった子どもにランダムで写真をみせて、
と聞くと、初めは否定していても、何回か繰り返し聞くと、
と言ってしまうことがあります。
また、子どもは質問に対して必ず答えないといけない、と感じて適当なことを言ってしまったり、逆に自分が答えることの出来る質問にも「分からない」と答えてしまう、こともあります。
このような状況に対処するために、世界各国で子どもから適切な証言をとるためのインタビュー方法が日々、研究されています。
高齢者の目撃証言の特徴
先進国の中でも高齢者の割合が高い日本では、現在4人に1人が65歳以上、2025年には日本の経済を支えてくれた団塊の世代の方々が75歳を迎える、いわゆる2025年問題も控えています。
となると、高齢者が犯罪の被害者、目撃者になる可能性も高くなります。
高齢者の日常生活中での記憶力は年齢とともに、そこまで大きく低下しないということが分かっていますが、いくつかの高齢者特有の問題が生じることが指摘されています。
①ソース・モニタリングエラー
これは「見たもの」自体は記憶しているのですが、それを「どこで見たのか」を覚えていないという現象です。
つまり、事件に全く関係ない場面で見た人物を「この人、事件現場にいた!」と誤って証言してしまう可能性があるということです。
②被誘導性
子どもの目撃証言でも出てきましたが、高齢者でも起こります。
なぜなら、高齢者はものを思い出すときに何かの手掛かりを使うことに慣れているので、質問者の反応や会話のパターンから質問者が期待しているような答えを読み取り、それに合致した証言をしてしまう可能性があるからです。
目撃者の証言だけを頼りに犯人を特定すると、えん罪の生んでしまうことにもなりかねない、ということですね。
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参考文献
「犯罪心理学」越智啓太 サイエンス社
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1.目撃証言の信憑性はどのくらい?事後情報効果の影響
2.子どもの目撃証言の特徴
3.高齢者の目撃証言の特徴