1995年から学校に導入されたスクールカウンセラーですが、実際にどんなことをやっていて、どんなことを相談して良いのか、よく分からないという方はけっこういると思います。
そこでこの記事では、スクールカウンセラーが導入された背景、仕事内容、スクールカウンセラーの一日の流れをご紹介していきます。
スクールカウンセラーが導入された背景
「スクールカウンセラー」という言葉は今でこそ、聞きなれてきた感がありますが、導入当初は
「学校に教職免許を持ってない人を配置するのってどうなの?」
という反発もあり、スクールカウンセラーは「教育界の黒船」とさえ呼ばれていました。
では、なぜスクールカウンセラーを導入する流れになったのでしょうか?
1960年前後から「学校に行かない(行けない)子ども」が問題視され始めました。
また同じ時期に学校教師の間で、それまでの厳しい指導や管理教育を見直し、子ども達の心の声に耳を傾けようとする「カウンセリング・マインド」という新しい指導の心得が広がりました。
しかし、厳しい指導が緩むと増え始めたのが校内暴力です。学校の窓ガラスが割られたり、教師への暴力が見られるようになりました。
それまで教師による厳しい指導・管理教育によって押さえつけていた子ども達の反抗的なエネルギーが一気に噴き出したのです。
それに対抗して再び、厳しい指導をする体制が復活し、表面上は収まりました。
しかし、子ども達のエネルギーは「校内暴力」という目に見える形から「いじめ」という見えずらい形に変化しただけでした。
いじめによる自殺者やいじめの報復による殺人事件が相次ぎ、教育現場のすさんだ状況に世間の関心が集まりました。
こうした状況の中、文部科学省がついに動き出し、1995年より全国154の学校にスクールカウンセラーを配置するという「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」が開始されました。
その後、スクールカウンセラーを配置する学校は急激に増加し、現在では1万以上の学校にスクールカウンセラーが設置されています。
仕事内容は?
スクールカウンセラーの勤務形態は都道府県や市区町村によって異なりますが、だいたい週8時間の勤務です。
週に1日8時間のところもあれば、週に2日4時間ずつのところもあります。
スクールカウンセラーの仕事は主に以下の5つです。
- 子どもとの面接
- 保護者の面接
- 教師のコンサルテーション
- 外部との連携
- 研修・講演の実施
それでは1つずつ簡単に内容をご説明します。
子どもとの面接
子ども達は基本的に学校で授業を受けているので、相談は昼休みや放課後が中心となります。
中学生ともなると、自分自身を見つめる力が身についてくるため、相談内容も複雑なってきます。
また、心理的な変化もそうですが、身体も成長期を迎えさまざまな悩みを抱えます。
悩みの中には友人にも、親や教師にも相談できないものがあります。
そういった悩みを抱えたときに必要になるのが、気軽に意見を聞ける第三者の存在、スクールカウンセラーです。
悩みを聞くときは、子どもの大変さに共感しながら「傾聴」します。
▼「傾聴」についてはこちらの記事をご参照ください▼
誰かに悩みを話すだけで気持ちが整理されて帰る子もいます。
中には「どうしてもスクールカウンセラーの意見を聞きたい!」という子もいるので、そういう場合は
「私はこう思うかな」
「私があなたの友達ならこう考えるな」
と自分のこととして預かる形で意見を言うこともあります。
どんな悩みの内容であれ、子ども達は真剣に悩んでいるので、1人の人間として真摯に向き合うことが大切です。
保護者の面接
保護者からの相談の中でも特に多いのが、不登校の子どもの保護者からの相談です。
不登校の子どもを抱える保護者は、
「勉強についていけなくなったらどうしよう」
「このままずっと学校にいけなかったらどうなるんだろう」
という不安な思いを抱えています。
「子どもに不登校のことを直接言うと、焦らせてしまうので直接は言えない。でも何とかしないといけない。」
「近所の人からも何か言われそう。」
そんな悶々とした気持ちを保護者は1人で抱えています。
そんなときに、やり場のない気持ちをスクールカウンセラーにぶつけることで、気持ちが整理され、新たな気持ちで子どもと向き合えるという保護者もいます。
また、スクールカウンセラーは保護者の了解を得て、保護者の思いを学校側に伝えたり、逆に教師の思いや学校の方針を保護者に伝えるという役割を担うこともあります。
そういった意味でスクールカウンセラーは、子どもと保護者、子どもと教師、教師と保護者をつなぐ架け橋的な存在ともいえます。
教師のコンサルテーション
これは教師とともに、子どもの理解を深めたり、子どもへの対応を一緒に考えたりすることを意味します。
その場合はお互い、子どもに接する専門家としてそれぞれの専門性を尊重しつつ、子どもの状態をどう理解すればいいのか、子どもにとって必要なことは何なのか、などを率直に話し合います。
ここで大切なのが、教師との信頼関係の構築です。
教師は子ども達がスクールカウンセラーにどんな悩みを話しているのかを知りたいと思いますが、スクールカウンセラーには秘密保持義務があり、子ども達の悩みを本人の許可なく、話すことができません。
だからといって教師に「秘密保持義務があるので一切話せません」と断ってしまうと、信頼関係の構築は築けず、教師からのクラスでの様子など有益な情報を得ることが難しくなります。
なので、子ども達に「私1人では○○ちゃんの力になることが出来ないので、先生にも話す必要がある」という旨を説明し、許可をもらえるようにします。
すべてカウンセラーが抱え込むのではなく、必要に応じて教師にもフィードバックし、学校全体で子どもたちを守っていくという姿勢が大切です。
外部との連携
学校現場で起こっている問題は多岐にわたっており、学校だけで解決するのは困難です。
無理に学校の中だけで解決しようとすると対応が遅れてしまったり、誤った対応をしてしまうことにもなりかねません。
なので、まずはどのような問題なのか、どんな助けが必要なのか、学校だけで解決できるのか、外部の専門機関との連携も必要なのか、を判断する必要があります。
外部の専門機関は
- 教育委員会が管轄している教育センター
- 児童相談所
- 警察が管轄している青少年センター
などです。
中学・高校生は統合失調症のような精神疾患になりやすい時期です。
その場合はスクールカウンセラーだけでは対応が出来ないので、病院での治療が必要になります。
ただ、まだ「疑いの段階」で「あなたのお子さんは精神疾患だから、病院での受診が必要です」というと、「うちの子は普通です!!」と反発される可能性があります。
親としては自分の子どもが精神疾患だと認めたくはないものです。
その場合は直接、病院を紹介するよりも教育センターや児童相談所を紹介し、そこで正式な判定をしてもらった後で、「病気の疑いがあるので病院へ」と勧めた方が近道になることもあります。
研修・講演の実施
これは直接的な相談活動ではありませんが、学校現場からのニーズは高く、間接的に大きな効果が望めるものです。
内容は主に、子どもの理解の研修やカウンセリング研修、事例検討会などです。
スクールカウンセラーはだいたい週に8時間しか学校にいないので、その短い間で子ども達の悩みをすべて解決するのは困難です。
それに比べ教師は子ども達や保護者と直接対応することが多いうえ、一緒に過ごす時間も比較になりません。
なので、教師がより子ども達のことを理解したり、カウンセリングの基礎を学ぶことは大きな効果が望めるという訳です。
保護者を対象としたものでは「思春期の問題」「子育てについて」などについて講演をすることで、子どもの心理を学んだ専門家からの貴重な情報を共有することができます。
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参考文献
『スクールカウンセラーの仕事」伊藤美奈子 岩波書店 2002年発刊
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