PTSDと急性ストレス障害(ASD)と複雑性PTSDの違いとは

心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)とは、自分または他人の生命に危険がおよぶような急激かつ強烈な状況を体験したためにもたらされる心身の障害です。

自分の身に起こっただけではなく、虐待を間近で目撃したなどの恐ろしい体験によっても引き起こされます。

 

この記事では、PTSDと急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder)、そして最近認知度が上がった複雑性PTSDの違いについて分かりやすく解説してきます。

 

 

PTSDと急性ストレス障害(ASD)と複雑性PTSDの違いとは

心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害(ASD)、複雑性PTSDはいずれも危うく死ぬ、深刻な怪我を負う、性的暴力など、精神的衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験に晒されたことで生じる、特徴的なストレス症状群です。

この章では、それぞれにどのような違いがあるのかを簡単に解説します。

急性ストレス障害(ASD)とは

急性ストレス障害(ASD)とは、トラウマとなりうる強烈なショック体験(心的外傷的出来事)によって、心にダメージを負い生じる一過性の精神障害です。

ASDは心的外傷的出来事を経験してから間もなく生じ、1か月未満で消失します。

症状が1か月以上、継続する場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されます。

 

ASDの主な症状は以下の5つです。

  1. 侵入症状(再体験症状、フラッシュバック)
  2. 陰性気分
  3. 解離症状
  4. 回避症状
  5. 覚醒症状

侵入症状(再体験症状、フラッシュバック)

心の中に封じ込められた心的外傷的出来事の記憶が、普通の記憶に加わろうとするかのように、何度も何度も繰り返して意識にのぼってこようとする状態。

この症状では、過去の外傷的体験をリアルタイムで体験しているかのように、感情的反応として恐怖、無力感、戦慄などを伴います。

また無意識のうちに悪夢となって追体験することもあります。

陰性気分

抑うつ、罪責、悲哀、怒り、無力感などが生じます。

世の中に対する基本的な信頼感が失われたり、何か大きな価値が自分から喪失したと感じることも多いです。

あまりにも大きな悲劇に見舞われたとき、人は自分自身に罪があると感じやすい傾向があります。

自分だけが生き残ってしまった負い目の感情(サバイバーズギルト)や英雄的にふるまえなかった自分を責める(ジョン・ウェイン症候群)など。

解離症状

ボーっとしたり、感情が乏しく麻痺している状態。

自分が自己から切り離されているように感じたり、自分が現実の存在ではないように感じることもあります。

ASDでは、この解離症状に重点が置かれています。

回避症状

心的外傷的出来事に関わることを思い出させる対象(人、場所、会話、活動、物、状況)を避けようとする状態。

覚醒症状

あらゆる物音や刺激に対して気持ちが張り詰めてしまい、不安で落ち着くことができず、イライラしやすくなり、眠りにくくなる状態。

 

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする精神障害です。

PTSDは決して珍しいものではなく、精神医療においては「ありふれた」病気のひとつであると言えます。

PTSDは一定の自然治癒が見込まれる障害で、罹患者の約半数は3か月以内に完治するとされています。

 

PTSDの主な症状は以下の4つで、ASDとほぼ一緒です。

  1. 侵入症状
  2. 回避症状
  3. 認知と気分の陰性の変化
  4. 覚醒度と反応性の著しい変化

 

侵入症状

トラウマとなった出来事に関する不快で苦痛な記憶がフラッシュバックしたり、悪夢として反復されます。

また、思い出したときに気持ちが動揺したり、動悸や発汗といった身体生理的反応を伴います。

回避症状

トラウマとなった出来事に関して思い出したり、考えたりすることを極力避けようしたり、思い出させる対象(人物、事物、状況や会話)を回避します。

認知と気分の陰性の変化

否定的な認知、興味や関心の喪失、陽性の感情(幸福、愛情など)が持てなくなります。

「こんなひどい目に遭う世の中なんて信じられない!」と何を信じれば良いか分からなくなります。

そして、怒りなどの気持ちを手を差し伸べてくれる相手にぶつけたり、助けを拒否したりします。

人と付き合う余裕もなく、「自分は違う世界の人間になったような感覚」を持ち、疎外感・孤立感を抱き、引きこもってしまったりします。

覚醒度と反応性の著しい変化

イライラ感、無謀または自己破壊的行動、過剰な警戒心、ちょっとした刺激にも酷くビクッとするような驚愕反応、集中困難、睡眠障害がみられます。

 

また、PTSD罹患者の80%以上は他の精神疾患(うつ病、アルコール依存症などの物質依存症など)の診断基準を満たすことが知られています。

複雑性PTSDとは

複雑性PTSDは、精神疾患の国際的な診断基準であるDSM-5やICD-10ではまだその名が登場しないものの、ICD-11には収録されています。

その定義によると、複雑性PTSDは以下のように説明されています。

逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期間、反復的に著しい脅威や恐怖をもたらす出来事に曝露されること。

複雑性PTSDは通常のPTSDの症状に加えて、「感情のコントロールの困難」「自己の無価値観」「対人関係の困難」などの症状が現れます。

 

【DSM、ICDに関する記事はこちら】

PTSDの原因となりうる出来事の具体例

PTSDの原因となりうる出来事の具体例

PTSDを引き起こす原因となりうる出来事には以下のようなものがあります。

  • 自然災害
  • 集団毒物汚染被害
  • 大規模事故災害
  • 災害救援者
  • 身体・性的暴力被害
  • 親・兄弟など近親者が虐待を受ける場面の目撃
  • 交通事故
  • 人質事件
  • 難民
  • 遺族 など

どのような出来事がトラウマとなりうる出来事に相当するかは、その人の性格や考え方、文化的背景によって異なります。

裏を返すと、どのような出来事でもトラウマ体験となりうるということです。

PTSDの治療法

PTSDの治療法

PTSDは一定の自然治癒が見込まれる精神疾患ですが、長期化するケースもあります。

その場合はトラウマを扱う認知行動療法薬物療法が用いられます。

 

トラウマを扱う認知行動療法の代表的なものには、持続エクスポージャー療法(PE)、認知処理療法(CPT)、眼球運動脱感作療法(EMDR)があります。

薬物療法では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の投与によって、PTSDの中核症状や合併症状を抑えられるほか、心理療法の効果も高まることが知られています。

 

PTSD罹患者の支援では、生命、身体、生活へのケアが優先されます。

トラウマを生じさせる危険から本人を離し、サポートする人間がいるという安心感を与えることが重要です。

まとめ

  • 急性ストレス障害(ASD:Acute Stress Disorder )とは、トラウマとなりうる強烈なショック体験によって、心にダメージを負い、生じる一過性の精神障害。
  • ASDはトラウマ体験を経験してから間もなく生じ、1か月未満で消失。症状が1か月以上、継続する場合はPTSDと診断される。
  • ASDの症状には、「侵入症状(再体験症状、フラッシュバック)」「陰性気分」「解離症状」「回避症状」「覚醒症状」などがあり、解離症状(ぼーっとしている、感情に乏しいなど)に重点が置かれている。
  • 心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder)とは、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なく、フラッシュバックのように思い出されたり、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする精神障害。
  • PTSDの症状には、「侵入症状」「回避症状」「認知と気分の陰性の変化」「覚醒度と反応性の著しい変化」などがある。
  • 複雑性PTSDは、逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期間、反復的に著しい脅威や恐怖をもたらす出来事に曝露されること、とICD-11で定義されている。
  • PTSDの治療では、まず、安全・安心・安眠を確保した上で、トラウマを扱う認知行動療法や薬物療法が用いられる。

 

【引用文献】

医者と学ぶ心と体のサプリ「PTSDの代表的な4つの症状とPTSDの合併症」

一般社団法人 日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDとは」

厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。