「自分も心当たりある!」という方は、もしかしたら過剰適応になっているかもしれません。
「過剰適応(英語:Over adaptation)」とは、“環境からの要求や期待に個人合が完全に近い形で従おうとすることであり、内的な欲求を無理に抑圧してでも、外的な期待や要求に応える努力を行うこと”(石津,2006)と定義されています。
平たく言うと、周りの期待などに応えようと無理してしまう状態です。
過剰適応に関する研究は2000年以降、急激に増えており、それだけ人々の関心が高まっていると言えます。
そこでこの記事では、過剰適応とは何なのか?過剰適応になる要因や過剰適応が及ぼす影響について簡単に解説していきます。
過剰適応とは?
適応には、「内的適応」と「外的適応」とがあります(北村,1965)。
内的適応は心理的適応とも言われていて、幸福感や満足感を経験し,心の状態が安定していることを意味します。
それに対して外的適応は、社会的・文化的適応と言われ、個人が生きている社会的・文化的環境に村する適応を意味します。
一般的に「適応している」と言われるときには、外的適応も内的適応も共に良いことを意味します。
しかし、一方の適応のために他方が犠牲となる場合もあります。
過剰適応的な状態とは、外的適応が過剰なために内的適応が困難に陥っている状態なのではないかと考えられます(桑山, 2003)。
言い換えると、自分を取り巻く社会・文化に適応しようと頑張るあまり、自分の心の中のバランスが崩れている状態です。
「過剰適応」は日本特有!?
日本では、周囲との和を重んじる文化があります。
そのためには、自分の主張・要求などを抑えることも必要になってきます。
海外においては、個人的な欲求を過度に抑えることを適応的とは見なさないので、「過剰適応」という概念は日本特有の概念であると考えられます(石津・安保・大野, 2007)。
過剰適応になる要因。“よい子”はなりやすい?
過剰適応になりやすい人の特徴として、以下のようなもの挙げられます。
- 真面目
- 頑張り屋
- 頼まれると嫌と言えない
- 相手の期待に沿う
- 周囲に気を遣う
- よい子
(桑山, 2003)
「よい子」という言葉は誰もが何気なく使っている言葉ですが、使う人によってニュアンスは若干違うと思います。
“よい子”の特徴に関する文献中の定義を紹介します。
「おとなしくて手のかからない子ども」(平尾,1978)
「大人の望んでいることに敏感で、大人の価値観で生活し、常に大人の動きに気を配って先回りして迷惑をかけまいとして振舞う」(羽田,1992)
“よい子’’とは親や教師など大人にとって都合のよい子の略語である(河合,1996)とも言われています。
性格的な要因の他にも以下のような要因も過剰適応と関連があります。
- 母親の養育態度:母親からの信頼は過剰適応を高める(石津・安保, 2009)。
- 承認欲求・見捨てられ不安:承認欲求は過剰適応の自己抑制的な側面を高め、見捨てられ不安は過剰適応の適応方略的な側面を高める一方で、承認欲求と見捨てられ不安とが繋がることで自己抑制的な側面も高める(益子, 2008)。
- 年齢:大学生の方が高校生、壮年期、中年期の成人よりも過剰適応の得点が高い(益子, 2010)。
過剰適応が及ぼす影響
過剰適応が及ぼす影響には、以下のようなものがあります。
精神的健康
個人の精神的健康にネガティブな影響を与えます。
特に抑うつやストレスとの関連が指摘されています。
過剰適応の自己抑制的な側面が、抑うつなどの精神的健康や攻撃反応を高めています(桑山, 2003)。
個人の特性や状態
個人の状態にネガティブな影響を与えます。
過剰適応の得点が高いほど、自分らしくある感覚は低下します(益子, 2010)。
まとめ
- 過剰適応とは、自分自身の欲求などを無理に抑えつけてでも、周りの期待や要求に応えようとすること。
- 適応は幸福感や満足感を経験して心が安定している状態「内的適応」と個人が生きている社会的・文化的適応「外的適応」に分けられる。
- 過剰適応は外的適応が過剰なために、内的適応がおざなりになっている状態とも言える。
- 過剰適応になる要因としては、真面目・頼まれると嫌と言えない・周囲に気を遣うなどの性格特性や養育態度、個人の欲求などがある。
- 過剰適応は抑うつ感やストレスを高めたり、「自分らしくある感覚」が低下したりとネガティブな影響を及ぼす。
【あわせて読みたい】
【引用文献】
石津 憲一郎(2006)「過剰適応尺度作成の試み」 日本カウンセリング学会第39回大会発表論文集,137
石津 憲一郎・安保 英勇(2009)「中学生の過剰適応傾向が学校適応感とストレス反応に与える影響」教育心理学研究 56. 23-31
河合 温(1996)「大人によい印象を与えようとする子ども」児童心理 Vol.50,No.1,pp.110-11
北村 晴朗(1965)「適応の心理」 誠信書房
桑山 久仁子(2003)「外界への過剰適応に関する一考察 : 欲求不満場面におけ
る感情表現の仕方を手がかりにして 」京都大学大学院教育学研究科紀要 (2003), 49: 481-493
羽田 鉱一(1992)「よい子が危ない」児童心理 Vol.46,No.7,pp.128-13
平尾 美生子(1978)「学校に背を向ける子」児童心理 Vol.32,No.3,PP.41-4
益子 洋人(2008)「青年期の対人関係における過剰適応傾向と性格特性、見捨てられ不安、承認欲求との関連」カウンセリング研究 41.151-160
益子 洋人(2010)「過剰適応傾向の発達的変化」文学研究論集 34.137-144