
そう思って検索した方に向けて、本記事では仕組み・やり方・研究で確かめられた効果を一気に解説します。
前半で仕組みと研究を、後半でやり方と応用を解説します。すぐ試したい方は「やり方4ステップ」から読んでください。
※更新情報(2026年9月):2019年公開の記事を、2017年以降の脳画像研究と、2021年・2025年に発表されたメタ分析をもとに全面的に書き直しました。
マインドパレスとは何ですか?
「マインドパレス(記憶の宮殿)」とは、一言で言うと、よく知っている場所に、覚えたいことを映像として置いていく記憶術です。
呼び名はいくつかあります。
- マインドパレス(mind palace)
- 記憶の宮殿(memory palace)
- 場所法(method of loci)
上記のとおりです。
すべて同じ技法を指します。心理学の論文では「場所法」と呼ばれることが多いです。
2,000年以上使われてきた技法
起源は古代ギリシャにさかのぼります。
詩人シモニデスが、崩れた宴会場の犠牲者を「誰がどの席に座っていたか」で言い当てた、という逸話が有名です。
古代ローマの弁論家キケロが『弁論家について』で伝えています。
以来、演説を暗記する弁論家や、記憶競技の選手たちに使われ続けてきました。
なぜ「場所」に置くと覚えられるのか
人は文字の羅列より、場所と映像を覚えるのが得意だからです。
初めて行った友人の家でも、帰り道に間取りはだいたい思い出せます。一方、10個の単語を聞いただけでは、数分後にはいくつか抜けています。
マインドパレスは、この「得意な記憶」に「苦手な記憶」を相乗りさせる技法です。
記憶が脳に定着する流れは、記憶のメカニズムの記事で解説しています。
※補足:このブログの名前も、この技法から取っています。BBCドラマ『SHERLOCK』で、シャーロックが「マインドパレスに行く」と言って記憶を探る場面が印象に残り、拝借しました。
記憶の超人は、脳が特別なのですか?
特別ではありません。研究では、訓練の産物だと示されています。
根拠になる研究は3つです。
- 2003年のNature Neuroscience誌(Maguire氏ら)
- 2017年のNeuron誌(Dresler氏ら)
- 2021年のScience Advances誌(Wagner氏ら)
順に見ていきます。
知能でも、脳の構造でもなかった!
2003年、ロンドン大学(UCL)のMaguire氏らは、世界記憶力選手権で活躍する人たちの脳を調べました。
結果、優れた記憶力は、知能の高さや脳の構造の違いでは説明できませんでした。
違ったのは「やり方」です。
選手たちは空間を使う記憶戦略をとっており、記憶と空間認識に関わる海馬などの領域を働かせていました。
6週間の練習で、脳の「つながり方」が選手に近づいた
2017年、マックス・プランク精神医学研究所などのDresler氏らは、世界トップクラスの記憶競技選手23人と、年齢や知能をそろえた一般の人を比べました。
72個の単語を覚えるテストでは、選手17人の平均が70.8語、一般の人は平均39.9語でした。選手の中央値は72、つまり満点です。
ここからが本題です。
記憶術の経験がない51人(平均24歳、全員男性)に、1日30分・40日間の場所法トレーニングをしてもらいました。
- トレーニング後、記憶成績は大きく向上した
- 効果は4か月後も続いていた
- 脳の領域どうしの「つながり方」が、選手のパターンに近づいていた
脳の特定の場所が大きくなったのではありません。
視覚・記憶(内側側頭葉)・デフォルトモードネットワークといった領域のあいだの連携が変わっていました。
なお、トレーニング課題の中では、5分間で覚えられる単語数が平均16.6語から42.3語に増えています。
訓練後の脳は、むしろ「省エネ」になる
2021年、同じ研究チームのWagner氏らが追加の報告をしています。
場所法を身につけた人の脳は、覚えるときの活動がむしろ減っていました。
前頭前野の外側や、海馬のまわりの領域の活動が下がり、それでいて記憶は長持ちしたのです。
なぜか?
慣れた作業ほど少ない労力でこなせるのと同じで、脳が効率よく働くようになったと解釈されています。
※補足:デフォルトモードネットワークとは、何もしていないときに活動が高まる脳領域のまとまりです(Raichle, 2015)。「ぼーっとしているときのほうがエネルギーを使う」と説明されることがあります。正しくは「安静時でも脳は多くのエネルギーを使い続けており、課題中に増える分はそれに比べて小さい」です。
マインドパレスのやり方は?【4ステップ】
やり方は次の4ステップです。
- STEP1:場所を決める
- STEP2:順路と「置き場」を決める
- STEP3:覚えたいことを映像にして置く
- STEP4:歩いて回収し、復習する
今日のやることリストを例に進めます。
覚えるのは次の3つとします。
- ヨーグルトを買う
- Aさんに電話する
- コートをクリーニングに出す
STEP1:場所を決める
まずは自宅か、通勤・通学路を選んでください。
意外に思われるかもしれませんが、家より通勤路のほうが成績が良かったという研究があります。
2009年のMemory誌(Massen氏ら)の実験では、通勤路に置いた群のほうが、家の中に置いた群より多くの項目を思い出しました。
理由ははっきり分かっていません。
ただ、通勤路は置き場どうしの見た目が違い、順番も一本道になりやすい点が有利に働いた可能性があります。
一方で、細部まで知り尽くしている必要はありません。
2012年のActa Psychologica誌(Legge氏ら)では、数分だけ見た仮想の建物でも、慣れ親しんだ場所と同じくらいの効果が出ています。
STEP2:順路と「置き場」を決める
場所の中に、一筆書きでたどれる順路を引きます。
置き場は、まず5〜10か所で十分です。
- 玄関のドア
- 廊下の棚
- リビングのソファ
- キッチンの冷蔵庫
- 寝室のクローゼット
上記のとおりです。
時計回りに進むなど、進む方向を固定しておくと順番を間違えません。
STEP3:覚えたいことを映像にして置く
ここが技法の核心です。
置くのは「言葉」ではなく「映像」です。しかも、ありえない映像ほど記憶に残ります。
- 玄関のドアを開けると、巨大なヨーグルトが床にぶちまけられている
- 廊下の棚の上で、Aさんが受話器を振り回して叫んでいる
- ソファに、泥だらけのコートが人のように座っている
コツは3つあります。
大きさを極端にする、動きをつける、におい・音・感触を足す。
生き物や人が出てくる映像は、さらに覚えやすいことがわかっています。
2021年のMemory & Cognition誌(Blunt氏ら)では、生き物の要素を含めることで、場所法の効果に上乗せが見られました。
STEP4:歩いて回収し、復習する
覚えたら、頭の中で順路を歩いて、置いたものを拾っていきます。
これで終わりではありません。置いた映像も、時間がたてば薄れます。
- その日のうちに1回、頭の中を歩く
- 翌日にもう1回歩く
- 思い出せなかった場所は、映像を派手に作り直す
この「思い出す練習」がなぜ効くのかは、テスト効果の記事と分散学習の記事で解説しています。
繰り返しになりますが、やり方は「場所を決める」「順路と置き場を決める」「映像にして置く」「歩いて回収し、復習する」の4ステップです。
置き場が足りなくなったら?(宮殿の増やし方)
置き場は3つの方向で増やせます。
- 1つの部屋を細かく分ける
- 建物や道を増やす
- 「距離」より「区別」を優先する
1つの部屋を細かく分ける
台所なら、冷蔵庫・食器棚・電子レンジ・シンク・コンロで5か所になります。
注意点は1つ。
同じ置き場に2つ以上を入れないことです。
たとえば、冷蔵庫の「中」に1つ置いたら、次は冷蔵庫の「横」や「上」を使います。同じ場所に重ねると映像どうしが混ざり、思い出すときに干渉します。
建物や道を増やす
自宅の次は、実家、職場、学校、よく行くスーパーと増やしていきます。
順番のある道も使えます。
通勤路、駅から家までの道、旅行で歩いた観光地。
繰り返し遊んだゲームのマップを使う人もいます。
頭の中で迷わず歩けるなら、実在する必要はありません。
「距離」より「区別」が大事
元記事では「以前は置き場どうしの距離が重視されていたが、最近は区別のほうが大切とされている」と書きました。
この点は、その後の研究とおおむね一致しています。
2019年のQuarterly Journal of Experimental Psychology誌(Caplan氏ら)の実験です。
アパート・野原・迷路という、性質の違う3つの仮想空間で場所法を試しました。
結果は次のとおりでした。
- 空間の違いによる成績差は、あってもわずかだった
- 道順をたどる能力の高さは、成績をほとんど左右しなかった
- 場所法は「歩くこと」ではなく、映像を引っかける「掛け金」として場所を使う技法とみるのが妥当
つまり、置き場は遠く離れている必要はありません。互いに見分けがつけば十分です。
※補足:2018年のMemory & Cognition誌(Bouffard氏ら)では、「サンドイッチを作る手順」のような時間の流れに置く方法も試されました。場所に置くのと同等の効果が出ています。
適さない場所
経験則として、次の場所は避けたほうが無難です。
- 細部があいまいで、頭の中で歩けない場所
- 強い嫌な思い出がある場所
前者は順路がぶれ、後者はそもそも思い浮かべたくなくなります。
数字はどうやって覚えますか?
数字は、先に「映像への変換表」を作っておきます。
数字そのものは映像になりません。だから「3」を見たら自動的に浮かぶ絵を、あらかじめ決めておくのです。
変換のしかたは3種類あります。
- 形で変換する
- 音で変換する
- 2桁を人物や動作に変換する(上級者向け)
形で変換する(初心者向け)
数字の見た目に似たものを当てはめます。
| 数字 | 形から連想 |
|---|---|
| 1 | 鉛筆 |
| 2 | 白鳥 |
| 3 | 耳 |
| 4 | ヨット |
| 5 | フック |
| 数字 | 形から連想 |
|---|---|
| 6 | さくらんぼ |
| 7 | 崖 |
| 8 | 雪だるま |
| 9 | 風船 |
| 0 | 卵 |
「352」なら、「耳(3)にフック(5)が引っかかり、白鳥(2)が引っ張っていく」という映像を、置き場に置きます。
自分が連想しやすいものに置き換えて構いません。
表は一度決めたら変えないのがコツです。
音で変換する
英語圏では、韻を使う方法が知られています。
one=bun(パン)、two=shoe(靴)、three=tree(木)という具合です。
イギリスのメンタリスト、ダレン・ブラウン氏の著書でも、この方法が紹介されています。
日本語なら語呂合わせが同じ発想です。
「4=よ」「8=は」のように、音から絵に変換します。
2桁を人物や動作に変換する(上級者向け)
記憶競技の選手は、00〜99の2桁それぞれに人物・動作・物を割り当てる「PAO法」などを使います。
6桁の数字が「1人の人物が、ある動作で、ある物を扱う」1枚の映像になります。
円周率を何千桁も覚える人は、この種の変換表を使っています。
ただし、変換表を覚えるだけで数週間かかります。まずは形の変換から始めてください。
よくある質問
Q. マインドパレスは本当に効果がありますか?
A.はい。ただし「研究の質」には注意が要ります。
2021年のQuarterly Journal of Experimental Psychology誌に、メタ分析(Twomey氏ら)が載っています。13件のランダム化比較試験をまとめた結果、中程度の効果(効果量0.65)が確認されました。
2025年のBritish Journal of Psychology誌のメタ分析(Ondřej氏)では、単純な反復と比べて、順番どおりの即時再生に大きな効果(効果量0.88)が示されています。
一方で、どちらの分析も「研究の質は低い〜非常に低い」と評価しています。参加者の多くが大学生で、バイアスへの対策が不十分な研究が多いためです。
効果はある。
ただし数字を過信しない。これが現時点での妥当な読み方です。
Q. 想像するのが苦手でもできますか?
A.できます。鮮明な映像は必要ありません。
大事なのは、置いたものが互いに「区別できる」ことと、「動き」があることです。
写真のように思い浮かべる必要はありません。
先ほど紹介した2012年の研究のとおり、数分見ただけの仮想空間でも効果は出ています。
※補足:頭の中に映像がまったく浮かばない体質(アファンタジア)の方は、語呂合わせや物語法など、言葉ベースの記憶術のほうが合う場合があります。
Q. 試験勉強や英単語に使えますか?
A.順番のあるリストには、特に向いています。
2014年のAdvances in Physiology Education誌(Qureshi氏ら)の報告があります。
医学生がインスリンと糖尿病の講義で場所法を使ったところ、使わなかった群より試験成績が良くなりました。
ただし、理解が必要な内容は、理解してから置いてください。丸暗記の道具であって、理解の代わりにはなりません。
もう1つ注意点があります。
場所法で鍛えても、記憶力そのものが全般的に上がるわけではないようです。
2021年のScientific Reports誌(Li氏ら)では、別の記憶課題への波及効果は、場所法より作業記憶トレーニングのほうが大きいという結果でした。
「覚えたいリストを確実に覚える道具」と割り切るのが実用的です。
Q. 続かないのですが、どうすればいいですか?
A.最初の1週間は「買い物リストだけ」に絞ってください。
筆者も最初は続きませんでした。
理由は明確で、いきなり英単語50個に使おうとしたからです。映像を作るのに時間がかかり、普通に書いて覚えたほうが早いと感じてやめました。
その後、買い物リストや翌日のやること3〜5個だけに使うようにしたら、続きました。置き場が5か所あれば足ります。
2021年のJournals of Gerontology誌(Sandberg氏ら)では、359人がスマホアプリで場所法を練習しました。
習熟度を決めたのは、才能ではなく練習量でした。
Q. 年齢は関係ありますか?
A.何歳からでも始められます。ただし、伸び方には差があります。
先ほどの359人の研究では、成人のどの年代でも習得できました。一方で、70〜90歳では、練習量に対する伸びが緩やかでした。
年齢が高いほど、短い時間を毎日続けるほうが向いています。
脳が年齢を問わず変わりうることは、脳は何歳でも変われるという記事でも紹介しました。
なお、最近になって急に物忘れが増えたと感じる場合は、記憶術より先に医療機関で相談してください。
さらに学びたい人へ
記事の内容を試すだけなら、道具はいりません。
自宅と、今日のやることリストで始められます。
体系的に学びたい方には、次の2冊が入口になります。
『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア著)は、記者が1年で全米記憶力選手権に優勝するまでの記録です。
場所法の練習過程が具体的に書かれています。
弱点は、2011年の本なので、本記事で紹介した2017年以降の脳研究は載っていない点です。
『メンタリズムの罠』(ダレン・ブラウン著)は、本記事の「音で変換する」数字の覚え方の元になった本です。
記憶術は一部の章にとどまりますが、パフォーマーの視点で書かれた練習法が読めます。
まとめ
本記事の要点は次のとおりです。
- マインドパレスは、よく知っている場所に覚えたいことを映像として置く記憶術。場所法・記憶の宮殿とも呼ばれる
- 記憶の超人は脳が特別なのではなく、訓練で脳の「つながり方」が変わっていた(2017年のNeuron誌)
- やり方は4ステップ。場所を決める→順路と置き場を決める→映像にして置く→歩いて回収し、復習する
- 置き場は「距離」より「区別」。通勤路は家より成績が良かったという報告もある
- メタ分析では中〜大の効果。ただし研究の質は高くなく、記憶力全般が上がるわけではない
繰り返しになりますが、始めるのに必要なのは自宅と、今日のやること3つだけです。
まずは今夜、明日の予定3つを玄関・廊下・リビングに置くところから試してみてください。
参考文献・出典
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- Dresler, M., Shirer, W. R., Konrad, B. N., Müller, N. C. J., Wagner, I. C., Fernández, G., Czisch, M., & Greicius, M. D. (2017). Mnemonic Training Reshapes Brain Networks to Support Superior Memory. Neuron, 93(5), 1227-1235.e6. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.02.003
- Wagner, I. C., Konrad, B. N., Schuster, P., et al. (2021). Durable memories and efficient neural coding through mnemonic training using the method of loci. Science Advances, 7(10), eabc7606. https://doi.org/10.1126/sciadv.abc7606
- Twomey, C., & Kroneisen, M. (2021). The effectiveness of the loci method as a mnemonic device: Meta-analysis. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 74(8), 1317-1326. https://doi.org/10.1177/1747021821993457
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- Massen, C., Vaterrodt-Plünnecke, B., Krings, L., & Hilbig, B. E. (2009). Effects of instruction on learners’ ability to generate an effective pathway in the method of loci. Memory, 17(7), 724-731. https://doi.org/10.1080/09658210903012442
- Legge, E. L. G., Madan, C. R., Ng, E. T., & Caplan, J. B. (2012). Building a memory palace in minutes: equivalent memory performance using virtual versus conventional environments with the Method of Loci. Acta Psychologica, 141(3), 380-390. https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2012.09.002
- Caplan, J. B., Legge, E. L. G., Cheng, B., & Madan, C. R. (2019). Effectiveness of the method of loci is only minimally related to factors that should influence imagined navigation. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 72(10), 2541-2553. https://doi.org/10.1177/1747021819858041
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- Raichle, M. E. (2015). The brain’s default mode network. Annual Review of Neuroscience, 38, 433-447. https://doi.org/10.1146/annurev-neuro-071013-014030
- Raichle, M. E., & Mintun, M. A. (2006). Brain work and brain imaging. Annual Review of Neuroscience, 29, 449-476. https://doi.org/10.1146/annurev.neuro.29.051605.112819
※原著論文の抄録はPubMedで確認しています。Dresler氏ら(2017)の数値は、PubMed Central公開の本文から引用しました。
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