【服従の心理学】人はどこまでも残酷になれる!?

第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーによって、大量のユダヤ人が強制収容所に運ばれて、虐殺されました。

このユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」に関与したのが、アドルフ・アイヒマンです。

1961年4月11日にエルサレムにて始まったアイヒマンの罪を裁く「アイヒマン裁判」において、ドイツ政府のユダヤ人迫害について、「大変遺憾に思う」と述べましたが、自分が行った残虐な行為に関しては「ヒトラーからの命令に従っただけだ」と責任を否定しました。

アイヒマン裁判の様子。真ん中のスーツ姿の男がアイヒマン。
無表情なアイヒマン… – 映画『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』より – (C) Feelgood Films 2014 Ltd.

「何百万人もの命を奪った男」は、それはもう見るからに残忍な顔をしている人を想像することでしょう。

しかし、上の写真をご覧いただくとお分かりになるかと思いますが、アイヒマンは驚くほど「凡庸な男」だったのです。

 

アイヒマンは死刑となりましたが、彼の処刑後に様々な学者が「なぜこのような凡庸な男がこれほどまでに残忍な行為ができたのか」ということを研究しました。

それらの研究の中で最も有名なのが、アメリカの社会心理学者スタンリー・ミルグラム(1933~1984)が行ったミルグラム実験です。

この実験によって、アイヒマンに限らずどんな人間でも条件さえ整えば、残酷な行動をとってしまうということが明らかになりました。

この記事では、ミルグラム実験内容、なぜ人は服従してしまうのか?について解説したいと思います。

 

 

人はどこまでも残酷になれる!?ミルグラム実験の内容

アメリカの社会心理学者スタンリー・ミルグラムは「記憶力のテスト」と称して、次のような実験を行い、人の服従してしまう心理について検証を行いました。

 

ミルグラムは実験の参加者を集めるために時給4ドルの謝礼、50セントの交通費を支給しました。

マインドパレッサー
意外と安いですよね。笑

この実験では、20~50歳までのアメリカ人男性で

  1. 会社員
  2. 博士
  3. 教師
  4. エンジニア

など、さまざまな職業の被験者を集めました。

 

ミルグラムは被験者に「先生役と生徒役に分かれて、簡単なテストをしてもらいます」と説明した上で、被験者全員を先生役にしてテストを行いました。

ちなみに生徒役は全員がサクラです。

先生役は生徒役に問題を出して、生徒役が答えを間違うと罰として電気ショックを与えます。

先生役が操作する電源には15~450ボルトの電撃スイッチがあり、生徒役が答えを間違えるたびに15ボルト上げなければなりませんでした。

また、スイッチの下にはそれぞれの電圧の危険度を示す言葉が記載されていました。

 

  1. 15ボルト‐BLIGHT SHOCK (軽い衝撃)
  2. 75ボルト‐MODERATE SHOCK (中度の衝撃)
  3. 135ボルト‐STRONG SHOCK (強い衝撃)
  4. 195ボルト‐VERY STRONG SHOCK (かなり強い衝撃)
  5. 255ボルト‐INTENSE SHOCK (激しい衝撃)
  6. 315ボルト‐EXTREME INTENSITY SHOCK (はなはだしく激しい衝撃)
  7. 375ボルト‐DANGER SEVERE SHOCK (危険で苛烈な衝撃)
  8. 435ボルト‐✖
  9. 450ボルト‐✖

ただし、先生役が電源を操作しても実際に生徒役に電流が流れる訳ではありません。

しかし、生徒役は電圧が上がるにつれて、うめき声をあげたり、絶叫したりといった演技をします。

最後の方になると、生徒役は問題の答えを言うこともなくなり、気絶した演技をします。

 

先生役が「実験を止めるべきではないか?」という提案をしてきた場合は、先生役の横にいる白衣を着た博士っぽい実験者が「続行してください!」と実験を続けるように指示をします。

先生役は自分の意思で実験を放り出すこともできたはずでしたが、権威があるように見える実験者からの指示に従って電圧を上げ続けました。

この実験では、なんと被験者の65%が電圧が最大になるまで実験を続けたといいます。

ミルグラムはこの結果を「被験者が権威に服従した結果である」と考えました。

 

なぜ人は服従してしまうのか?

一般的な意見
自分が先生役だったら、絶対に電気ショックを与えたりしないな!

と思いますか?

ミルグラム実験を応用した様々な実験を通して、研究者たちは人が服従してしまう要因をいくつか導きだしました。

それらの要因がそろえば、アイヒマンだけではなく、あなたも残酷になる可能性があります。

 

権威効果

白衣を着た実験者の存在を被験者は“権威的存在”とみなします。

すると、先生役は「実験者の言うことだから、間違いないだろう」と考えて、より服従しやすくなります。

これは想像しやすいですよね?

「その道の専門家が言うんだからそうなんだろう!」と考えるのは普通だと思います。

白衣を着た医者が病気の説明をしたら、「そうなんだ!」と思いますし、警察官の制服を着た人が「ある事件の捜査をしているから協力して欲しい!」と言ってきたら、色々と個人情報でも何でも話しちゃいますよね?

人は権威があるように見える人には服従しやすいのです。

特にその道に関する知識が乏しい場合は顕著にこの傾向が表れます。

責任の認知

これは被験者が自分の行為に対して感じる責任のことです。

「実験の責任は実験者にある」と聞かされると、被験者はあまりプレッシャーを感じないので、服従しやすくなります。

階層の意識

上には実験者がいて、先生役の自分はその下で、生徒役は自分の下という階層を強く意識した人は服従しやすいです。

つまり、自分の下にいる生徒役の身の心配よりも、自分の上にいる実験者からの命令を重視したのです。

約束

被験者は実験に参加するのにあたり、時給4ドルと交通費50セントの報酬をもらい、「実験に参加する」と約束をしました。

その事実が実験者からの命令を断りずらくさせます。

共感の破断

被験者が生徒役を自分と同じように1人の人間として捉えるのではなく、「単なる実験対象」という風に捉えた場合、被験者は生徒役に対する共感を失いやすく、実験者に服従しやすくなります。

 

最後に

ミルグラム実験は、自分自身の善悪の分別や倫理に逆らってでも、権威者の命令に服従してしまいやすいという人間の本性を浮き彫りにしました。

「どんな人でも残忍な行為をしてしまう可能性がある」ということを示したこの実験は多くの人に衝撃を与えました。

しかし、ミルグラム実験は

  • サクラを用いて被験者を騙すような手順を踏んだこと
  • 被験者に自分が虐待や拷問をしていると錯覚させることで心理的な苦痛を与えたこと

などの点で倫理的な問題があるのではないか、と批判を受けました。

 

いくら権威があるように見える人が言うことでも、「本当にそうだろうか?」と自分の頭で考えてみることが大切ですね。

 

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参考文献

『Newton』2019/12月号

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