「妬み」は消さなくていい。変えるべきは「感情の行き先」だった

A single small plant sprouting from a cracked ceramic pot, placed on a sunlit wooden windowsill, with a second taller plant slightly out of focus in the background. Wide calm composition suggesting comparison without hostility. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, soft clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, calm and encouraging mood, high resolution.

 

同期の昇進、友人の結婚報告、SNSに流れてくる誰かの成功。

 

胸の奥がちくりとして、そんなふうに感じた自分に落ち込む。

素直におめでとうと言えない自分は、心が狭いんじゃないか...

 

そう思ったことはありませんか?

 

でも、成人442人を対象にした研究が示したのは、意外な事実でした。

感情の扱いがうまい人でも、妬みは消えていなかったのです。

 

この記事では、その研究をもとに「妬みとの正しい付き合い方」をお伝えします。

そもそも妬みには2種類あるって知っていましたか?

妬みには「自分を引き上げる妬み」と「相手を引きずり下ろす妬み」の2種類があります。

心理学ではそれぞれ「良性の妬み」「悪性の妬み」と呼ばれています。

 

オランダの研究者ヴァン・デ・ヴェン氏らが2009年に整理した区別で、今では世界中の研究で使われています。

2つの違いは、感情が向かう先です。

  1. 良性の妬み——「悔しい。自分もあそこまでいきたい」と、自分を持ち上げる方向に向かう
  2. 悪性の妬み——「あいつさえいなければ」と、相手を引き下ろす方向に向かう

 

たとえば、同期が先に昇進したとき。

「自分も来期こそ結果を出そう」と資料を作り直すのが良性、「あいつは上司に取り入っただけだ」と陰口を言うのが悪性です。

どちらも出発点は同じ「悔しい」という不快感です。

違うのは、その悔しさをどこに使ったかだけ。

 

ここが大事なところです。

妬みそのものに良いも悪いもなく、行き先で結果が変わるのです。

A simple diagram: one starting point at the bottom center from which two arrows diverge - the left arrow curves upward toward a small rising figure, the right arrow curves downward pulling a figure down. Symmetrical, flat illustration, no text. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, soft clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, calm and encouraging mood, high resolution.

感情の扱いがうまい人は、妬みを感じずに済むのか?

答えは「いいえ」です。

感情の扱いがうまい人でも、妬みは同じように湧いていました。

 

フランスのemlyonビジネススクールのクリストフ・ハーグ氏が、学術誌『Personality and Individual Differences』に2026年に発表した研究です。

18歳から72歳までの成人442人が対象でした。

 

この研究がおもしろいのは、測り方です。

「あなたは感情のコントロールが得意ですか」と本人に聞く自己申告方式ではありません。

参加者に4つの場面を提示し、「この状況で最も効果的な対処はどれか」を選ばせる、テスト形式で測りました。

実技試験に近いイメージです。

ちなみに全体の正答率は平均54%でした。

 

その結果が、こうです。

妬みの種類 感情調整力との関係
良性の妬み 高いほど強くなる(+0.165SD)
悪性の妬み 関連なし(統計的に有意でない)

「+0.165SD」というのは、感情の扱いのうまさが人並み以上に1段階上がると、良性の妬みもそれに応じて少し強まる、という意味です。

つまり、感情の扱いがうまい人は妬みを感じなくなっていたのではなく、感じた妬みを自己向上のほうに流していたわけです。

 

著者自身も、感情調整力は不快な感情を抑え込む力ではなく、その向きを変える仕組みとして働いている可能性がある、と述べています。

Two side-by-side minimal scatter plots on a warm cream background: the left plot shows points following a gentle upward trend line in terracotta, the right plot shows scattered points with a flat sage-green trend line. Thin hand-drawn axes, no text labels. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, soft clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, calm and encouraging mood, high resolution.

では、妬みの向きはどう変えればいいのか?

日常でできる4つのステップに落とし込みました。妬みを感じた「その場で」使えます。

ステップ1:まず「今、妬んでいる」と名前をつける

妬みを押し殺さずに、心の中で言葉にします。

「あ、いま羨ましいんだな」で十分です。

 

感情に名前をつけるだけで衝動的な行動が減ることは、複数の研究で確認されています。

ふたをすると、かえって圧力が高まります。

ステップ2:「何が」羨ましいのかを一段細かくする

「あの人が羨ましい」で止めないでください。人そのものではなく、要素まで分解します。

たとえば「あの人の年収」ではなく「あの人が自分の裁量で仕事を選べていること」。

ここまで具体化すると、次にやることが見えてきます。

ステップ3:「引き上げる」か「引き下ろす」かを自分に問う

これがこの記事の核心です。

頭の中に浮かんだ次の一手を、2つに仕分けます。

自分が動くこと(資料を作り直す、話を聞きに行く)は引き上げる方向と、相手を減点すること(あら探し、陰口、SNSのミュート)は引き下ろす方向です。

ステップ4:引き上げる方向で、24時間以内にできる小さな行動を1つ決める

大きな目標は立てなくて大丈夫です。

羨ましかった要素に近づく、いちばん小さな一歩を1つだけ決めます。

「その人が読んでいた本を1冊買う」でも構いません。

行動が伴うと、妬みは燃料に変わります。

 

A vertical four-step flow of four rounded cards connected by soft downward arrows, each card holding a simple hand-drawn icon: a name tag, a magnifying glass, a two-way fork, and a single small footstep. Warm textured background, no text. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, soft clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, calm and encouraging mood, high resolution.

「妬む自分は嫌な人間だ」と思っている人へ

よくある3つの誤解に答えます。

Q. 妬まない人が、心の広い人なのでは?

A.そうとは限りません。

この研究で妬みの平均点を見ると、良性の妬みは6点満点で3.74、悪性の妬みは1.66でした。

多くの人が良性の妬みを日常的に感じています。妬まないことが成熟の証ではないのです。

Q. 悪性の妬みが湧いてしまったときは、どうすれば?

A.湧いたこと自体を責めなくて大丈夫です。問題になるのは感情ではなく、その後の行動だけです。

陰口を言う前に一拍おけたなら、それで十分うまくやれています。

Q. 距離を取る(見ない・ミュートする)のはダメなこと?

A.一時避難としては有効です。ただし、それだけで終わると何も動きません。

落ち着いたところでステップ2に戻り、「何が羨ましかったのか」を言葉にしてみてください。

悪性の妬みに傾きやすいのは、どんなときか?

研究では、2つの心理的な要因が浮かび上がりました。

① 自尊心

「自分にはそれなりの価値がある!」と感じられている人ほど、良性の妬みが強く、悪性の妬みは弱い傾向が出ました。

② 愛着不安

「見捨てられるのではないか」「嫌われているのではないか」と対人関係で不安を感じやすい傾向を指します。

これが強い人ほど、悪性の妬みと強く結びついていました。

 

言い換えると、悪性の妬みは性格の悪さというより、自分の立場が脅かされていると感じているサインに近いということです。

だとすれば、対処法も変わります。

妬みを我慢する訓練より、「自分は大丈夫だ」と思える土台を整えるほうが本質的です。

 

なお、この研究には限界もあります。

ある一時点だけを調べた横断研究なので、「感情調整力が高いから良性の妬みになる」という因果関係までは確定していません。

参加者の88.5%が女性という偏りもあります。

 

数値をそのまま鵜呑みにせず、考え方の枠組みとして受け取るのが良い距離感でしょう。

さらに深めたい人へ

「不快な感情を消さずに、行き先を決める」という発想をもっと知りたい方には、2冊おすすめできます。

 

考え方の土台から学びたいなら、ラス・ハリス氏の『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』が入り口として読みやすいです。

嫌な感情と戦わずに、大事なことに向かって動く方法を扱っています。

 

仕事や人間関係の場面に引きつけて考えたい方には、スーザン・デイヴィッド氏の『EA ハーバード流こころのマネジメント――予測不能の人生を 思い通りに生きる方法』が向いています。

まさに「感情を敵にしない」ことがテーマの一冊です。

まとめ

  1. 妬みには「自分を引き上げる良性」と「相手を引き下ろす悪性」の2種類がある
  2. 成人442人の研究で、感情の扱いがうまい人ほど良性の妬みが強かった(+0.165SD)
  3. 一方、悪性の妬みとは関連が見られなかった。つまり妬みは消えていない
  4. 変わっていたのは感情の有無ではなく、感情の行き先だった
  5. 悪性に傾きやすいのは、自尊心が低いときや対人不安が強いとき

 

【出典】

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師資格を取得。月に5冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。