
打てる手は打ったつもりなのに変わらない.
そんな方に、少し違う角度からの研究をご紹介します。
首都圏に住む1,089人を調べたところ、住んでいる街路の見え方と睡眠に関連が見つかりました。
しかも、日本の大都市圏が対象です。
この研究は何を調べたのですか?
一言で言うと、街の風景をAIで解析して、住んでいる人の睡眠と突き合わせた研究です。
学術誌『Building and Environment』に2026年に発表されました。著者はXiaorui Wang氏らの研究チームです。
調べ方が変わっています。
- 対象:首都圏に住む40〜59歳の働いている人1,089人
- 街の測定:21万4,000枚を超える街路の画像を、各地点から4方向で収集
- 解析:AIが画像の1ピクセルずつを「建物」「樹木」「道路」などに自動で分類
このAIの手法は、写真に写っているものを種類ごとに塗り分けるようなイメージです。人手では到底無理な量を処理できます。
睡眠のほうは、次の3つで測っています。
- 不眠症状:アテネ不眠尺度(AIS)
- 日中の眠気:エプワース眠気尺度(ESS)の日本語版
- 睡眠時間:本人が答えた就寝・起床時刻から計算
「囲まれ感」とは何のことですか?
「囲まれ感」とは、建物や樹木といった縦のものが、街路をどれだけ視覚的に囲んでいるかを表す指標です。
英語では enclosure(エンクロージャー)と呼ばれます。
道路や空き地のような開けた要素と対比して計算されます。
イメージしやすいように、両極端を挙げてみます。
- 囲まれ感が高い街路——両側に建物や街路樹が並び、路地がほどよく包まれている
- 囲まれ感が低い街路——広い車道が抜け、空が大きく開けていて、視界を遮るものが少ない
開放的なほうが気持ちよさそうに思えるかもしれません。
でも結果は逆でした。
囲まれ感が高い地域の住民ほど、不眠症状が軽く、日中の眠気が少なく、睡眠時間が長かったのです。
なぜ、街の見え方が睡眠に関係するのですか?
研究チームが示した経路は、安全感と活気でした。
統計的に道筋を調べたところ、こういう流れが見えています。
囲まれ感が高い → その街を安全で活気があると感じる → 睡眠が改善する
つまり、囲まれ感そのものが直接眠らせてくれるわけではありません。街をどう感じているかが、あいだに入っています。
考えてみれば、腑に落ちる部分もあります。
がらんと開けた通りは、見通しは良くても人の気配が乏しく、どこか心もとない。逆に建物や木立に程よく包まれた道は、誰かの生活の気配があって落ち着く。
その感覚が、夜の眠りにまで届いている可能性がある、ということです。
なお、見える緑の割合(緑視率)も、同じく安全感を介して睡眠時間の長さと関連していました。
意外だったのは「歩きやすさ」の結果です
歩きやすさが高い地域ほど、睡眠時間が短いという逆の関連が出ました。
これは直感に反します。
歩きやすい街は健康に良い、というのが一般的な理解だからです。
ただし、ここは指標の中身を見る必要があります。
この研究で歩きやすさとして測られたのは、歩道とフェンスの割合でした。フェンスが多い風景は、必ずしも安心感につながりません。むしろ人を寄せつけない印象を与えることもあります。
実際、この関連も安全感の低下を介していました。
歩道が整っていることが問題なのではなく、そこに写り込む要素が安心感を削いでいた、という読み方になります。
3つの指標をまとめると、こうなります。
| 街路の指標 | 睡眠との関連 |
| 囲まれ感 | 不眠が軽く、眠気が少なく、睡眠時間が長い |
| 緑視率 | 睡眠時間が長い |
| 歩きやすさ | 睡眠時間が短い(安全感の低下を介して) |

引っ越せない場合は、どうすればいいですか?
ご安心ください。
この研究の鍵は街そのものではなく、その手前にある安全感でした。
だとすれば、住む場所を変えなくても手をつけられる余地があります。
以下は研究が直接検証したものではなく、示された経路からの応用ですが、どれも試す価値はあります。
ステップ1:夜の帰り道を、明るいルートに変える
遠回りでも構いません。
人の気配と明かりがある道を選ぶだけで、帰宅後の緊張の残り方が変わります。
ステップ2:休日に、近所を一度歩いてみる
知らない場所は、それだけで脅威に感じられます。
近所の地理が頭に入っているだけで、安心感の土台が変わります。
ステップ3:窓辺に、視線が休まるものを置く
大きな植物である必要はありません。
緑が視界に入る状態を作るだけでも、この研究が扱った緑視率の考え方に沿っています。
ステップ4:家の中の「守られている感」を高める
施錠の確認を寝る前の習慣にする。カーテンを厚手にする。
安全だと頭で分かっていても、体が納得していないことはあります。
大事なのは、街を変えることではなく、安全だと感じられる要素を増やすことです。
この研究を、どこまで信じていいですか?
参考にはなりますが、因果関係は証明されていません。
理由を4つ挙げます。
- ある一時点を切り取った横断研究:「囲まれた街に住んだから眠れるようになった」のか、「よく眠れている人がそうした街に住んでいる」のかは区別できていません。
- 対象は首都圏という単一の大都市圏に限られる:地方都市や農村部に当てはまるかは分かりません。
- 参加者は40〜59歳の働いている人:年齢や就業状況が違えば結果も変わり得ます。
- 分析対象は建物の3階以下に住む人に絞られている:街路の画像は高層階から見える景色を表していないためです。高層階に住む方には、そのまま当てはまりません。
とはいえ、著者らは今後の因果関係の研究や、都市設計への介入研究に向けた指標の候補になると述べています。
眠れない原因を寝室の中だけで探して行き詰まっているなら、視野を一つ外側に広げてみる価値はあるでしょう。
まとめ
- 首都圏の1,089人と21万4,000枚超の街路画像をAI解析して照合した研究
- 街路の囲まれ感が高い地域の住民ほど、不眠が軽く、眠気が少なく、睡眠時間が長かった
- 経路は直接ではなく、安全感と活気を介していた
- 緑視率も安全感を介して睡眠時間の長さと関連
- 一方、歩きやすさ(歩道とフェンスの割合)は逆に短い睡眠と関連
- 横断研究・首都圏・40〜59歳の有職者・3階以下という限界があり、因果は不明
眠れない夜が続いているなら、寝室の中だけを見直しても行き止まりかもしれません。
今夜の帰り道を、少し明るい方へ変えてみる。試せることは、部屋の外にもあります。
【出典】
Wang, X., Yuan, J., Huang, W., & Matsushita, D. (2026). Urban eye-level landscapes and sleep health: Cross-sectional evidence from a megacity using machine learning for objective and perceptual assessment. Building and Environment.
PsyPost「Enclosed neighborhood streets are linked to better sleep, study finds」
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遮光カーテンを買った。枕を替えた。寝る前のスマホもやめた。
それでも、なかなか寝つけない。夜中に目が覚める。朝がつらい。