眠れないのは街のせい?囲まれ感と睡眠の研究

A quiet residential lane at dusk, low houses and street trees on both sides gently enclosing the path, warm light spilling from a few windows. Wide calm composition, no people, inviting rather than lonely. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, soft terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, muted clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, no readable signage, calm and reassuring mood, never eerie or threatening, high resolution.

 

遮光カーテンを買った。枕を替えた。寝る前のスマホもやめた。

それでも、なかなか寝つけない。夜中に目が覚める。朝がつらい。

 

 

打てる手は打ったつもりなのに変わらない.

そんな方に、少し違う角度からの研究をご紹介します。

 

首都圏に住む1,089人を調べたところ、住んでいる街路の見え方と睡眠に関連が見つかりました。

しかも、日本の大都市圏が対象です。

この研究は何を調べたのですか?

一言で言うと、街の風景をAIで解析して、住んでいる人の睡眠と突き合わせた研究です。

学術誌『Building and Environment』に2026年に発表されました。著者はXiaorui Wang氏らの研究チームです。

 

調べ方が変わっています。

  • 対象:首都圏に住む40〜59歳の働いている人1,089人
  • 街の測定:21万4,000枚を超える街路の画像を、各地点から4方向で収集
  • 解析:AIが画像の1ピクセルずつを「建物」「樹木」「道路」などに自動で分類

このAIの手法は、写真に写っているものを種類ごとに塗り分けるようなイメージです。人手では到底無理な量を処理できます。

 

睡眠のほうは、次の3つで測っています。

  • 不眠症状:アテネ不眠尺度(AIS)
  • 日中の眠気:エプワース眠気尺度(ESS)の日本語版
  • 睡眠時間:本人が答えた就寝・起床時刻から計算

 

A simple street scene on the left rendered in normal illustration, and the same scene on the right rendered as flat color-blocked regions where buildings, trees, road and sky are each filled with a distinct solid tone. Side-by-side comparison, clean, no text. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, soft terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, muted clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, no readable signage, calm and reassuring mood, never eerie or threatening, high resolution.

「囲まれ感」とは何のことですか?

「囲まれ感」とは、建物や樹木といった縦のものが、街路をどれだけ視覚的に囲んでいるかを表す指標です。

英語では enclosure(エンクロージャー)と呼ばれます。

道路や空き地のような開けた要素と対比して計算されます。

 

イメージしやすいように、両極端を挙げてみます。

  • 囲まれ感が高い街路——両側に建物や街路樹が並び、路地がほどよく包まれている
  • 囲まれ感が低い街路——広い車道が抜け、空が大きく開けていて、視界を遮るものが少ない

開放的なほうが気持ちよさそうに思えるかもしれません。

 

でも結果は逆でした。

囲まれ感が高い地域の住民ほど、不眠症状が軽く、日中の眠気が少なく、睡眠時間が長かったのです。

なぜ、街の見え方が睡眠に関係するのですか?

研究チームが示した経路は、安全感と活気でした。

 

統計的に道筋を調べたところ、こういう流れが見えています。

囲まれ感が高い → その街を安全で活気があると感じる → 睡眠が改善する

 

つまり、囲まれ感そのものが直接眠らせてくれるわけではありません。街をどう感じているかが、あいだに入っています。

 

考えてみれば、腑に落ちる部分もあります。

がらんと開けた通りは、見通しは良くても人の気配が乏しく、どこか心もとない。逆に建物や木立に程よく包まれた道は、誰かの生活の気配があって落ち着く。

 

その感覚が、夜の眠りにまで届いている可能性がある、ということです。

なお、見える緑の割合(緑視率)も、同じく安全感を介して睡眠時間の長さと関連していました。

 

A two-panel scene: on the left a narrow lane softly framed by low buildings and leafy trees; on the right a wide empty road with a vast open sky and almost nothing vertical. Both drawn calmly and without menace, no people. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, soft terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, muted clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, no readable signage, calm and reassuring mood, never eerie or threatening, high resolution.

意外だったのは「歩きやすさ」の結果です

歩きやすさが高い地域ほど、睡眠時間が短いという逆の関連が出ました。

 

これは直感に反します。

歩きやすい街は健康に良い、というのが一般的な理解だからです。

 

ただし、ここは指標の中身を見る必要があります。

この研究で歩きやすさとして測られたのは、歩道とフェンスの割合でした。フェンスが多い風景は、必ずしも安心感につながりません。むしろ人を寄せつけない印象を与えることもあります。

 

実際、この関連も安全感の低下を介していました。

歩道が整っていることが問題なのではなく、そこに写り込む要素が安心感を削いでいた、という読み方になります。

 

3つの指標をまとめると、こうなります。

街路の指標 睡眠との関連
囲まれ感 不眠が軽く、眠気が少なく、睡眠時間が長い
緑視率 睡眠時間が長い
歩きやすさ 睡眠時間が短い(安全感の低下を介して)
A minimal horizontal bar chart on warm cream with a centered vertical zero line: two bars extending right in terracotta and sage green, and one bar extending left in muted grey. Thin hand-drawn axis, no text labels. Warm natural editorial illustration. Palette: warm cream #F7F1E8, soft terracotta #C97B5A, sage green #8AA08A, muted clay brown #8C6B58. Soft diffused daylight, gentle organic shapes, hand-drawn feel with subtle paper grain, generous white space, no text, no readable signage, calm and reassuring mood, never eerie or threatening, high resolution.

引っ越せない場合は、どうすればいいですか?

ご安心ください。

この研究の鍵は街そのものではなく、その手前にある安全感でした。

だとすれば、住む場所を変えなくても手をつけられる余地があります。

 

以下は研究が直接検証したものではなく、示された経路からの応用ですが、どれも試す価値はあります。

ステップ1:夜の帰り道を、明るいルートに変える

遠回りでも構いません。

人の気配と明かりがある道を選ぶだけで、帰宅後の緊張の残り方が変わります。

ステップ2:休日に、近所を一度歩いてみる

知らない場所は、それだけで脅威に感じられます。

近所の地理が頭に入っているだけで、安心感の土台が変わります。

ステップ3:窓辺に、視線が休まるものを置く

大きな植物である必要はありません。

緑が視界に入る状態を作るだけでも、この研究が扱った緑視率の考え方に沿っています。

ステップ4:家の中の「守られている感」を高める

施錠の確認を寝る前の習慣にする。カーテンを厚手にする。

安全だと頭で分かっていても、体が納得していないことはあります。

 

大事なのは、街を変えることではなく、安全だと感じられる要素を増やすことです。

この研究を、どこまで信じていいですか?

参考にはなりますが、因果関係は証明されていません。

 

理由を4つ挙げます。

 

  1. ある一時点を切り取った横断研究:「囲まれた街に住んだから眠れるようになった」のか、「よく眠れている人がそうした街に住んでいる」のかは区別できていません。
  2. 対象は首都圏という単一の大都市圏に限られる:地方都市や農村部に当てはまるかは分かりません。
  3. 参加者は40〜59歳の働いている人:年齢や就業状況が違えば結果も変わり得ます。
  4. 分析対象は建物の3階以下に住む人に絞られている:街路の画像は高層階から見える景色を表していないためです。高層階に住む方には、そのまま当てはまりません。

 

 

とはいえ、著者らは今後の因果関係の研究や、都市設計への介入研究に向けた指標の候補になると述べています。

眠れない原因を寝室の中だけで探して行き詰まっているなら、視野を一つ外側に広げてみる価値はあるでしょう。

まとめ

 

  1. 首都圏の1,089人と21万4,000枚超の街路画像をAI解析して照合した研究
  2. 街路の囲まれ感が高い地域の住民ほど、不眠が軽く、眠気が少なく、睡眠時間が長かった
  3. 経路は直接ではなく、安全感と活気を介していた
  4. 緑視率も安全感を介して睡眠時間の長さと関連
  5. 一方、歩きやすさ(歩道とフェンスの割合)は逆に短い睡眠と関連
  6. 横断研究・首都圏・40〜59歳の有職者・3階以下という限界があり、因果は不明

 

 

眠れない夜が続いているなら、寝室の中だけを見直しても行き止まりかもしれません。

今夜の帰り道を、少し明るい方へ変えてみる。試せることは、部屋の外にもあります。

 

【出典】

Wang, X., Yuan, J., Huang, W., & Matsushita, D. (2026). Urban eye-level landscapes and sleep health: Cross-sectional evidence from a megacity using machine learning for objective and perceptual assessment. Building and Environment.

PsyPost「Enclosed neighborhood streets are linked to better sleep, study finds」https://www.psypost.org/enclosed-neighborhood-streets-are-linked-to-better-sleep-study-finds/

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師資格を取得。月に5冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。