
そう思ったこと、ありませんか?
でも最新の研究は、少し違う答えを出しています。
不安症になるかどうかを分けていたのは、不安の強さそのものではありませんでした。
分かれ目は「不安が来たときの、反応の硬さ」だったのです。
この記事では、その研究が何を見つけたのかと、私たちの日常に何を意味するのかを、専門用語をかみ砕いて解説します。
「心理的非柔軟性」とは何か?
「心理的非柔軟性」とは、一言で言うと、つらい気持ちを避けるために、いつも同じ逃げ方をしてしまう状態のことです。
「心理的非柔軟性(psychological inflexibility)」は心理学の用語です。難しく聞こえますが、中身はシンプルです。
たとえば、飲み会で緊張を感じた瞬間、毎回かならず席を立って帰ってしまう人。これが「硬い反応」です。
反対に、同じ緊張を感じても「ここに残ることは自分にとって意味がある」と判断して残れる人。これが「柔らかい反応」、つまり心理的柔軟性です。
大事なのは、感じている不安の量は同じだということ。違うのは、そのあとの動き方だけです。
不安そのものは、悪者ではない
そもそも不安には役割があります。
研究者は、脳の危険察知システムを火災報知器にたとえています。
火災報知器はときどき誤作動します。
料理の湯気で鳴ってしまうこともある。それでも、鳴らないよりは鳴ったほうが安全です。
だから人間の脳は、進化の過程で「疑わしきは警報を鳴らす」という設定を選んできました。不安を感じやすいのは、故障ではなく仕様なのです。
問題は、現代の生活ではこの警報が空回りしやすいこと。
「クビになるかも」と不安な人が、資料を何度も確認しすぎる。
その結果、かえって時間が足りなくなってミスが増える。こういう逆転が起きます。
研究は何を見つけたのか?
結論から言います。
心理的非柔軟性のスコアが1点上がるごとに、不安症の診断が1つ以上ある確率が約3倍になりました。
研究したのは、ニューヨーク州立大学アルバニー校とデューク大学の Max Z. Roberts 氏らのチーム。
学術誌『Journal of Clinical Psychology』に掲載されました。
調べ方はこうです。
1つ目のサンプル:地域住民265人
SNSやメンタルヘルス関連団体を通じて集めた成人265人が対象です。
参加者は、過去1週間の不安の強さ、過去2週間の心理的非柔軟性、そしてこれまでに受けた不安症・強迫症の診断数を回答しました。
すると、不安症状が重い人ほど診断歴がある。
ここまでは予想どおりでした。
驚きはその先です。
その症状の重さを統計的に差し引いても、心理的非柔軟性は診断歴と強く結びついたままだったのです。
しかも、複数の不安症を同時に抱えている確率も上がっていました。
2つ目のサンプル:大学生853人
念のため、研究チームはアメリカ北東部の大きな大学の学部生853人にも同じ調査を実施しました。
年齢層も背景も違うグループです。
結果はほぼ同じでした。
効果の大きさはやや小さかったものの、パターンは変わりませんでした。
合計1118人、性質の違う2つの集団で同じ絵が出た。
これがこの研究の強みです。
表面が違う症状に、共通の入り口がある
この見方には、もうひとつ面白い含みがあります。
強迫的なまでの潔癖さと、高いところが怖くて橋を渡れないこと。
この2つは、見た目にはまったく違う症状です。
でも「脅威を避けようとする努力」という点では、機能的に同じことをしています。
つまり、バラバラに見える不安症の背後に、共通の通り道があるかもしれない。
これがACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という心理療法の考え方の土台です。
なお、従来の質問紙は「非柔軟性」と「ただの一般的な苦しさ」を混同していると批判されてきました。
今回の研究は、そこを切り分けた、より精密な新しい尺度を使っています。地味ですが重要な進歩です。
「不安を消す」以外の選択肢を持つ4ステップ
研究が示唆するのは、「不安をゼロにする」ことだけを目標にしなくていいということです。
もうひとつの道があります。
「不安を感じたまま、自分の大事なことに向かって動ける力」を育てること。
以下は、その考え方を日常に落とし込む4ステップです。
ステップ1:不安に気づいて、名前をつける
「あ、いま不安がきたな」と、心の中で言葉にするだけ。
消そうとしないのがコツです。
ステップ2:いつもの逃げ方を1つ書き出す
不安が来たとき、自分は何をしているか。
スマホを見る、予定をキャンセルする、何度も確認する。
具体的に1つで十分です。
ステップ3:「これは自分をどこに連れて行く?」と問う
その行動は短期的にはラクにしてくれます。
でも1年続けたら、自分の生活はどう変わるか。
ここを見ます。
ステップ4:小さく、逆の行動を1つ試す
不安を感じたまま、5分だけ残ってみる。返事を1通だけ送ってみる。
大きくしないことが、続けるコツです。
ここで一番大事なのは、不安が消えるのを待たないこと。
不安を連れたまま歩けたら、それが柔軟性です。
よくある3つの誤解
誤解1「つまり不安を我慢しろということ?」
A.違います。
我慢は歯を食いしばって耐えること。
ここで言うアクセプタンスは「あるものを、あるものとして置いておく」ことです。
力の入れ方が逆です。
誤解2「ポジティブに考えろということ?」
A.違います。「大丈夫」と思い込む必要はありません。
不安なままで構いません。
変えるのは考え方ではなく、そのあとに選べる行動の数です。
誤解3「自分は非柔軟だと分かったら、もう手遅れ?」
A.そんなことはありません。
柔軟性は生まれ持った性格ではなく、練習で伸びるスキルとして扱われます。
この研究の限界
ここは正直に書きます。
この研究は横断研究です。
ある一時点で全員に同時にアンケートを取っただけで、何年も追いかけたわけではありません。
つまり、どちらが先かは分からないのです。
- 非柔軟だから不安症になったのか
- 不安症とともに生きるうちに非柔軟になったのか
このどちらなのかを、今回のデータでは決められません。
さらに、診断は本人の自己申告です。
臨床面接やカルテで確認されたものではありません。
研究チーム自身も、白人であること・女性であることが診断歴と結びついていた点について注意を促しています。
診断を受けられたかどうかは、医療へのアクセスのしやすさや、文化的な受診しやすさを反映しているかもしれないからです。
だからこの記事も「不安症の原因が分かった」とは言いません。
言えるのは、不安への反応の仕方が、独立して注目に値する要素だと分かったということです。
さらに学びたい人・実践したい人へ
もう少し体系的に学びたいなら、今回の研究の背景にあるACTの入門書がわかりやすいです。
『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(ラス・ハリス)は、一般読者向けにACTの考え方をやさしく書いた1冊。
30以上の言語に翻訳された定番書です。
まず1冊、という人に向いています。
まとめ
- 不安症状の重さを統計的に差し引いても、心理的非柔軟性は不安症の診断歴を独立に予測した
- スコアが1点上がるごとに、診断が1つ以上ある確率は約3倍。複数併存の確率も上がった
- 地域住民265人と大学生853人、性質の違う2サンプルで同じパターンが再現された
- 強迫的な潔癖さと高所恐怖のように違う症状も、「脅威の回避」という共通の通り道で説明できる可能性がある
- ただし横断研究のため、非柔軟性が原因なのか結果なのかは特定できない
今日の一歩として、「不安が来たとき、自分がいつもやっていること」を1つだけ書き出してみてください。
そこが、柔らかさの練習が始まる場所です。
※この記事は情報提供を目的としたものです。不安症状で日常生活に支障が出ている場合は、医療機関や専門家への相談をご検討ください。
【出典】
Roberts, M. Z., Boswell, J. F., Merwin, R. M., Lucksted, A. A., & Forsyth, J. P. 『Psychological Inflexibility’s Associations With Lifetime Anxiety Disorders』, Journal of Clinical Psychology.
PsyPost「How we react to anxiety could be just as important as the anxiety itself」(2026年8月10日)
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