「自閉症」と聞くと、なんとなく1つのまとまったものとしてイメージしていませんか?
でも、当事者やご家族なら「人によってこんなに違うのに、本当に同じ言葉でくくっていいの?」と感じたことがあるかもしれません。
2026年6月3日に発表された研究で、自閉症には脳のつながり方が異なる「少なくとも2つの生物学的タイプ」があるかもしれない、という手がかりが見つかりました。
この記事では、その内容を専門用語をかみ砕いて解説します。
「自閉症は1種類じゃないかも」研究で分かったこととは?
今回の研究で自閉症の人の脳を調べたら、情報のやりとり(つながり方)のパターンが大きく2通りに分かれました。
これまで研究者たちも、自閉症の現れ方が人によってバラバラなことは分かっていました。
でも「その違いが、脳の中の生物学的な違いから来ている」という直接の証拠は、なかなか掴めていませんでした。
学術誌『Nature Neuroscience』に掲載されたイタリア技術研究所と米国チャイルド・マインド研究所などの国際チームによる今回の研究は、その証拠の一端を見つけたのです。
【見つかった2つのタイプ】
| タイプ | 脳のつながり方 | 関係していそうな仕組み |
| ハイパー(過剰)型 | 脳の領域どうしが、いつもより活発に連絡を取り合う | 免疫(体を守る仕組み)に関わる遺伝子 |
| ハイポ(控えめ)型 | 脳の領域どうしの連絡が、ふだんより少なめ | シナプス(脳細胞のつなぎ目)に関わる遺伝子 |
「ハイパーコネクティビティ(過剰結合)」とは、脳の各エリアがおしゃべりしすぎている状態、「ハイポコネクティビティ(低結合)」はその逆で、連絡がやや少なめの状態、というイメージです。
同じ会社でも、会議が多すぎるチームと、連絡が少なすぎるチームがあるような違いです。
どちらも「うまく回っていない」点は同じでも、原因と対処法は変わってきますよね。

どうやって調べたの? マウスと人間の脳をつなぐ「翻訳作業」
マウス(実験用のネズミ)の脳で「どの仕組みがどんなつながり方を生むか」を先に解き明かし、それを地図がわりにして人間の脳スキャンを読み解いた、という方法です。
研究チームが取った手順を、ざっくり3ステップで見てみましょう。
① マウスで手がかりを集める
遺伝子を少しずつ変えた20種類のマウスの脳を調べ、「この遺伝子が変わると、脳のつながり方はこうなる」という対応表を作りました。
② 人間の脳スキャンと照らし合わせる
自閉症のある子ども・若者940人の脳スキャン(fMRI=脳の活動を撮影する検査)を分析し、1,000人以上の定型発達の人と比べました。
③ 同じパターンを探す
すると、マウスで見つけた2つのつながり方と「同じパターン」が、人間の脳でもちゃんと現れたのです。
研究者はこのマウスのデータを「ロゼッタストーン(古代文字を解読する手がかりになった石板)」と表現しています。
つまり、マウスが、人間の脳という難しい暗号を読み解くための『対訳辞書』になったというわけです。
さらに、低結合の脳ではシナプス関連の遺伝子が、過剰結合の脳では免疫関連の遺伝子が活発で、マウスの結果ときれいに一致しました。

【よくある疑問】じゃあ、すぐ診断が変わるの?
結論から言うと、今すぐ診断や治療が変わるわけではありません。
これは「将来そうなるかもしれない」入り口の発見です。
Q. この2タイプで、自閉症の人みんなを分けられるの?
A.いいえ。今回はっきり2タイプに当てはまったのは、研究に参加した自閉症の人の約25%(4人に1人ほど)でした。
研究者自身も「これは自閉症の多様性の一部にすぎず、データが増えればもっと多くのタイプが見つかるはず」と話しています。
実際、2025年には別チームが4つのタイプを報告しており、分類はこれから育っていく分野です。
Q. タイプによって「重い・軽い」があるってこと?
A.単純な重い・軽いの話ではありません。ただ今回の研究では、過剰結合タイプの人は、標準的な評価で自閉症の特性がやや強めに出る傾向が見られました。
研究者は「脳をもとにした指標は、今の行動チェックだけでは見えない違いを映し出す」と指摘しています。
つまり、見た目の行動だけでなく、脳の中で起きていることまで含めて理解する手がかりになる、ということです。
Q. 自閉症の「原因」が分かったの?
A.「これが原因」と1つに決まったわけではありません。
ただ、シナプス(脳細胞のつなぎ目)の仕組みと、免疫の仕組みという、別々の生物学的な道すじが、それぞれ違うタイプにつながっている可能性が見えてきました。
この発見が大事なのはなぜ?
今回の研究での発見が大事なのは、将来、タイプに応じて支援や介入を個別化する『プレシジョン・メディシン(精密医療)』への道を開く可能性があるからです。
「プレシジョン・メディシン」とは、一人ひとりの体質やタイプに合わせて支援を選ぶ考え方のことです。
同じ「頭痛」でも原因によって対処が変わるように、同じ「自閉症」でも脳のタイプによって合うサポートが変わるかもしれない、ということです。
今はまだ研究段階ですが、いつか『あなたはこのタイプだから、こういう支援が合いやすい』と言える未来につながるかもしれません。
関連して、2026年6月2日には別の知見も報告されています。
お腹の中にいる時期(出生前)の遺伝子と、腸内細菌のやりとりが、自閉症やADHD(注意欠如・多動症)の発達に関わっている可能性がある、というものです。
脳だけでなく、遺伝子や腸内環境まで含めて、多方面から少しずつ理解が進んでいる段階だと言えます。
大切なのは、こうした研究が「自閉症をなくす」ためではなく、「一人ひとりをより正確に理解し、その人に合った支援を届ける」ために進んでいるということです。
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まとめ
- 自閉症は1種類ではないかも:脳のつながり方が違う、少なくとも2つの生物学的タイプがある可能性が示されました(2026年6月3日発表)。
- 2つのタイプ:連絡が多めの「過剰結合型(免疫に関連)」と、少なめの「低結合型(シナプスに関連)」。
- 調べ方:20種類のマウスを手がかりに、940人の脳スキャンを読み解いた国際研究。タイプに当てはまったのは約25%。
- 今すぐ診断は変わらない:でも、将来の個別化支援(プレシジョン・メディシン)への第一歩になりうる発見です。
- 理解は進行中:出生前の遺伝子と腸内細菌の関わりなど、関連研究も同時期に報告。多方面から少しずつ前進しています。
【出典】
ScienceDaily「Brain scans reveal two distinct types of autism」(2026年6月3日)
原著論文:Pagani et al., Autism subtypes identified using cross-species functional connectivity analyses, Nature Neuroscience (2026)
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