スマホ使用が子育てに与える悪影響「テクノフェレンス」とは

子育てで大切なことはいくつもありますが、その中心にあるのが「子どもとのやりとり」です。

子どもは親との何気ないコミュニケーションを通じて、言葉や感情のコントロールを育てていきます。

 

ところが近年、そのやりとりを静かに削っているものがあります。

親のスマートフォンです。

 

スマホに気を取られて子どもの呼びかけに気づかない、話しかけられているのに生返事になる。

こうした「電子機器によって親子のやりとりが中断・阻害されること」を テクノフェレンス(technoference) と呼びます。

 

この記事では、テクノフェレンスが子どもに何をもたらすのかを、実際の研究データをもとに整理します。

あわせて「その研究はどこまで言えているのか」という限界にも触れ、最後に今日から試せる対策を紹介します。

 

 

先に結論
  1. テクノフェレンスとは、スマホなどの機器が親子のやりとりを邪魔すること
  2. 授乳中の見落とし、語彙学習の妨げ、問題行動との関連などが報告されている
  3. ただし多くは相関研究で、「スマホが原因で子どもがこうなる」とまでは断定できない
  4. 効果的な対策は「意志で我慢する」ではなく環境を変えること

 

テクノフェレンスとは?

テクノフェレンスとは、テクノロジー(technology)と干渉(interference)を組み合わせた造語で、スマホなどのデジタル機器によって人と人とのやりとりが中断されたり、質が下がったりする現象を指します。

 

この言葉は、ブランドン・T・マクダニエル(Brandon T. McDaniel)とサラ・M・コイン(Sarah M. Coyne)が2016年の論文で提唱しました(オンライン先行公開は2014年)。

もともとは夫婦・カップル間の関係を対象にした概念で、その後、親子関係の研究に広がっていきました。

マクダニエル氏は米国インディアナ州の Parkview Research Center に所属し、家族関係とテクノロジーの研究を続けている研究者です。

「フビング」との違い

似た言葉に フビング(phubbing) があります。

これは phone(電話)と snubbing(無視する)を組み合わせた言葉で、目の前の相手を無視してスマホを見る行為そのものを指します。

親が子どもに対して行う場合は「ペアレンタル・フビング(parental phubbing)」と呼ばれます。

 

ざっくり整理すると次のようになります。

用語 指すもの 視点
テクノフェレンス 機器によってやりとりが妨げられている状態 現象・結果
フビング 相手を無視してスマホを見る行為 行為・振る舞い

 

研究論文では実質的に重なる部分が多く、近年のメタ分析では両者をまとめて扱うことも増えています。

テクノフェレンスが子どもに与える4つの影響

テクノフェレンスが子どもに与える4つの影響

1. 子どもが発するサインを見逃す

乳児は言葉でなく、視線・表情・体の動きで「もういらない」「もっとほしい」を伝えます。

親がスマホを見ていると、このサインを取りこぼしやすくなります。

 

ゴーレンとベンチュラ(2015)は、生後24週以下の乳児と母親28組の哺乳瓶授乳の様子をビデオ撮影して分析しました。

その結果、授乳中に視線を外して気を取られている母親は、乳児のサインへの感受性が低下していました

 

ただし、注意したい点があります。「気を取られると必ず飲ませすぎる」という単純な結果ではありませんでした。

ミルクの摂取量との関連が見られたのは、もともと自己制御の力が弱い気質の乳児の場合でした。

つまり、気質によって影響の出方が違うということです。

 

また、レイデスキーら(2014)はファストフード店で食事をする55組の保護者と子どもを観察しました。

その結果、40組(73%)がモバイル端末を使用しており、そのうち熱心に画面に没入していた保護者は子どもへの反応が乏しく、子どもが注意を引こうとする行動を強めるケースが見られました。

 

補足:「ファミレスで73%」と紹介されることがありますが、原典はファストフード店での観察です。

2. 問題行動との関連が報告されている

マクダニエルとレイデスキー(2018)は、米国の170家族(子どもの平均年齢3.04歳)を対象に調査を行いました。

その結果、約48%の親が「1日に3回以上テクノフェレンスが起きている」と回答しました。

 

そして分析からは、親のデジタル機器の問題的な使用がテクノフェレンスの多さにつながり、テクノフェレンスの多さが、子どもの外在化問題(かんしゃく、攻撃性、多動)と内在化問題(抑うつ、引きこもり傾向)の報告と関連していることが示されました。

 

ここは慎重に読む必要があります。この研究はある一時点で測った横断研究です。

したがって、「スマホが原因で子どもの問題行動が増えた」とは言えません。

むしろ逆方向、つまり子どもが手のかかる状態だから親がスマホに逃げるという流れもありえます。

 

著者ら自身も、双方向的なプロセスを縦断研究で検証する必要があると述べています。

 

3. 語彙の獲得が妨げられる

子どもの語彙は1歳前後から急激に増えていきます。

目安としては2歳半で数百語、4歳で1000語以上とされますが、個人差は非常に大きいので、あくまで参考程度に捉えてください。

この急増する時期は「語彙爆発期」と呼ばれます。

 

この時期の中断が学習にどう影響するかを調べたのが、リードらの研究(2017)です。

38組の母子(子どもの平均月齢27.15か月)に、2つの新しい単語を教えるという課題に取り組んでもらいました。

片方の単語を教えている途中で、母親の携帯電話が鳴って会話が中断されます。もう片方は中断なしです。

 

結果は明快でした。中断されなかった単語は覚えられたのに、中断された単語は覚えられなかったのです。

この研究で最も重要なのは次の点です。

単語を口にした回数は、両条件で差がありませんでした。

 

つまり、「聞かせた量」ではなく、やりとりが途切れずに続いていたかどうかが学習を左右したということです。

4. 子ども自身がスマホに依存しやすくなる

親のスマホ依存傾向は、子ども自身の使い方にも影響します。

ゴンら(2022)の研究では、親がスマホ依存傾向にあると、その子どもも青年期にスマホ依存に陥りやすいことが示されました。

親子関係の質と愛着(parental bonding)がその間を媒介していました。

 

この点については、より大規模な検証も出ています。

パレンタル・テクノフェレンスと子どもの問題的メディア使用に関する2025年のメタ分析(53研究・6万人以上)では、両者の間に一貫した正の関連が確認されています。

エビデンスをどう受け止めるべきか

ここまで研究を紹介してきましたが、鵜呑みにする前に押さえておきたい点があります。

ほとんどが相関研究

「スマホをよく使う親の子どもに問題行動が多い」という関連が見つかっても、原因と結果は特定できません。

「もともと育てにくい子だから親が疲れてスマホを見る」「経済的・時間的に余裕のない家庭で両方が同時に起きている」など、別の説明が成り立ちます。

効果量は小さめから中程度

2023年に発表された、42研究・約5万6000人の子どもを対象としたメタ分析では、親のフビングと子どもの社会情動的適応の間に有意な関連が見られました。

ただし、その大きさは「劇的」というより「無視はできない程度」です。

スマホを見た瞬間に子どもの発達が損なわれる、という話ではありません。

「ゼロにする」のがゴールではない

研究が一貫して示しているのは、やりとりの質の重要性です。

短時間スマホを見ること自体より、子どもが関わりを求めてきたときに応答が返ってくるかどうかが鍵です。

なぜ、やめられないのか?

なぜ、スマホ使用がやめられないのか?

「気をつけよう」と思っても続かないのは、意志が弱いからではありません。

スマホの側が「やめられない」ように設計されているからです。

 

  1. 通知は予測不能なタイミングで来る:いつ報酬が来るか分からない仕組み(間欠強化)は、行動を最も強固に維持させます
  2. 「ちょっとだけ」が伸びる:1分のつもりが10分になるのは、画面上に次のコンテンツが常に用意されているためです
  3. 子どもの前だと言い訳しやすい:「今は仕事の連絡だから」「子どもは遊んでいるから大丈夫」と、自分に許可を出しやすい状況が揃っています

 

つまり、意志の力で抑え込もうとする対策は失敗しやすいということです。

だからこそ、次章では「環境を変える」方向の対策を紹介します。

テクノフェレンスを防ぐ方法

環境を変える(効果が出やすい順)

  1. 物理的に手の届かない場所に置く最も効果的なのは、視界と手の届く範囲から消すことです。別の部屋、引き出しの中、カバンの中。1〜2秒の手間が入るだけで使用回数は目に見えて減ります。
  2. 通知を切るまず、緊急性のない通知はすべてオフに。特にSNS・ニュース・ゲームは即オフで問題ありません。「通知が来たから見る」というループが最大の入口です。
  3. デバイスフリーの時間帯を決める「食事中」「お風呂から寝かしつけまで」「帰宅後の最初の30分」など、時間で区切るのがおすすめです。「使いすぎない」という曖昧なルールは守れませんが、「食事中は置く」なら守れます。
  4. 寝室と枕元から追い出す充電場所をリビングに固定し、目覚ましは時計を使いましょう。就寝前・起床直後のスマホは、親自身の睡眠の質を下げ、翌日の余裕を削ります。
  5. 画面をモノクロにするグレースケール設定にすると、アプリの派手なアイコンによる引きが弱まります。地味ですが効きます。
  6. スクリーンタイムで現状を知るまず1週間、自分が何にどれだけ使っているかを見てください。だいたい、想像より多いです。

使うときは「宣言する」

現実には、子どもの前でスマホを使わざるをえない場面があります。

そのときに有効なのが、何をしているか声に出して伝えることです。

 

今から5分だけ、保育園に連絡するね。終わったら一緒に読もう。

 

子どもにとって一番つらいのは、親が目の前にいるのに心がどこにあるか分からない状態です。

理由と終わりの時間が分かれば、無視されているとは感じにくくなります。

気づいたら、立て直せばいい

親子関係の研究では、やりとりのずれそのものより、そのあとに修復が起きるかどうかが重要だとされています。

 

スマホに気を取られていたと気づいたら、画面を伏せて、子どもの方に向き直る。

それだけで十分です。完璧に応答し続ける親である必要はありません。

「ずれて、戻る」を繰り返す姿こそが、子どもにとっての現実的なモデルになります。

よくある質問

Q1.子どもの前でスマホを使うのは、絶対にダメですか?

A.いいえ。研究が問題にしているのは、子どもが関わりを求めてきたときに応答が返らない状態が繰り返されることです。

子どもが集中して遊んでいる横でメールを返す、といった使い方まで問題視されているわけではありません。

Q2.何歳ごろが一番影響を受けますか?

A.言語発達と愛着形成が集中する0〜3歳ごろが、研究の対象として最も多く扱われています。

ただし、学齢期以降でも「親に話しかけたのに聞いてもらえない」という体験の蓄積は関係の質に影響します。

Q3.テレビやラジオも同じですか?

A.性質が異なります。

テレビは「ついている」状態でも親子の会話が成立しますが、スマホは視線・手・注意を同時に奪うため、やりとりの中断が起きやすいと考えられています。

Q4.仕事でどうしてもスマホを見なければいけません

A.その場合こそ「宣言する」が有効です。

あわせて、まとめて処理する時間帯を決めてしまう(例:子どもが寝たあとに返信をまとめる)ほうが、細切れに中断されるより双方の負担が減ります。

Q5.すでにかなりスマホを見てしまっていました。手遅れですか?

A.いいえ。紹介した研究はいずれも「一度でも中断があれば取り返しがつかない」ことを示すものではありません。

日々のやりとりの積み重ねが問題なので、積み重ねを変えれば方向も変わります。

まとめ

 

  1. テクノフェレンスとは、スマホなどの機器によって親子のやりとりが中断・阻害されること。McDaniel & Coyne(2016)による造語
  2. 報告されている影響は、①乳児のサインの見落とし、②問題行動との関連、③語彙学習の妨げ、④子ども自身のスマホ依存傾向
  3. ただし多くは相関研究で、効果量も中程度以下。「スマホ=子どもの発達を壊すもの」という単純な話ではない
  4. 重要なのは使用時間そのものより、子どもが求めたときに応答が返るかどうか
  5. 対策は意志ではなく環境設計。物理的に離す、通知を切る、時間帯で区切る
  6. 使うときは「何をしているか」を伝える。気づいたら戻る。それで十分

 

 

スマホは便利な道具であり、育児の負担を減らしてくれる場面も多くあります。

悪者にする必要はありません。

ただ、目の前の子どもより優先される時間が積み上がっていないかを、ときどき点検してみる価値はあります。

 

【参考文献】

McDaniel, B. T., & Coyne, S. M. (2016). “Technoference”: The interference of technology in couple relationships and implications for women’s personal and relational well-being. Psychology of Popular Media Culture, 5(1), 85–98.

McDaniel, B. T., & Radesky, J. S. (2018). Technoference: Parent distraction with technology and associations with child behavior problems. Child Development, 89(1), 100–109.

Radesky, J. S., Kistin, C. J., Zuckerman, B., et al. (2014). Patterns of mobile device use by caregivers and children during meals in fast food restaurants. Pediatrics, 133(4), e843–e849.

Golen, R. B., & Ventura, A. K. (2015). Mindless feeding: Is maternal distraction during bottle-feeding associated with overfeeding? Appetite, 91, 385–392.

Reed, J., Hirsh-Pasek, K., & Golinkoff, R. M. (2017). Learning on hold: Cell phones sidetrack parent-child interactions. Developmental Psychology, 53(8), 1428–1436.

Gong, J., Zhou, Y., Wang, Y., Liang, Z., & Wang, Y. (2022). How parental smartphone addiction affects adolescent smartphone addiction: The effect of the parent-child relationship and parental bonding. Journal of Affective Disorders, 307, 271–277.

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師資格を取得。月に5冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。