老化をポジティブに受け入れる「選択最適化補償理論(SOC理論)」とは?

年をとっていくと、若いころにできていたことができなくなったり、見た目に表れたりして、喪失感におそわれます。

近年、老化のメカニズムが分かってきたこともあり効果的なアンチエイジングの方法もどんどん生み出されています。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

老化は「宿命」?それとも治療できる「病気」?

 

しかし、アンチエイジングは老化への抵抗、拒絶を意味するため、アンチエイジングが取り沙汰されるほど、老化に対するネガティブなイメージを強めてしまう可能性があります。

 

「老化=ネガティブなこと」というイメージを持っている人が年をとると、循環器疾患や認知症になりやすいことがボルティモア縦断研究の中で明らかになっています。

老いへのネガティブなステレオタイプが日々のストレスとなり、さまざまな身体的・精神的な疾患になるリスクを高めているのです。

一方で、老化に対するポジティブなイメージは、「余命の延長」「疾患の発症予防」「身体的・心理的なwell-beingの向上」「認知機能の向上」などをもたらすことも明らかにされています(日本心理学会,サクセスフル・エイジングとオプティマル・エイジング)。

 

この記事では、老化をポジティブに受け入れるのに役立つ「選択最適化補償理論(SOC理論)」について解説していきます。

老化をポジティブに受け入れる「選択最適化補償理論(SOC理論)」とは?

一般的に、年を重ねていくごとに筋肉は衰え、新しいことを覚えることが難しくなっていきます。

人は自分の立てた目標を達成することでポジティブな気持ちや幸福を感じますが、そのような状況では目標を達成することも困難になります。

しかし、年をとってからでも少し工夫をすれば、目標を達成することは可能です。

年をとった後の目標達成に役立つのが「選択最適化補償理論(SOC理論)」です。

 

選択最適化補償理論(Selective Optimization with Compensation : SOC)」とは、老いに適応するための方法としてドイツの心理学者であるポール・バルテス(1939~2006)が提唱した理論です。

これは若い頃よりも目標をしぼりこみ(選択)それを達成できるように自分の能力を効率的に使い(最適化)、さらに周囲からの援助などのこれまで使っていなかった方法を利用することで能力の低下を補う(補償)というものです。

では、高齢になってからでも目標を達成しつづけたピアニストをご紹介します。

【具体例】ポーランド出身のピアニスト、ルービンシュタイン

【具体例】ポーランド出身のピアニスト、ルービンシュタイン
画像引用;音楽の森ピアニスト:ルービンシュタイン

アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982)はポーランド生まれのピアニストで、20世紀を代表するピアニストの一人で、特にショパンの演奏を得意としていました。

ルービンシュタインは1976年に引退するまで現役を長く続けたことでも知られていますが、彼も他の人と同じように老いによる能力の衰えに悩まされました。

しかし、彼はめげることなく目標を選択・最適化・補償することで達成し続けました。

選択

ルービンシュタインは加齢に伴って今まで通りの演奏が難しくなったため、演奏する曲目を減らしました。

最適化

選択した曲にしぼって、くり返し練習をしました。

補償

筋力の衰えによって演奏のスピードが落ちていましたが、気づかれないように時々テンポを変化させながら演奏しました。

その結果、ルービンシュタインは長きにわたって現役ピアニストとして活躍し続けました。

 

高齢になると若いころに出来ていたことが出来なくなるということが増えます。

できないことをやろうとしても自分が失ったものを改めて実感することになり、ネガティブな気持ちになります。

そこで選択・最適化・補償をうまく行うことで、老いていくカラダに適応できるのです。

たとえば、スポーツするときは若いころよりも目標のスコアを下げる(選択)、出かけるときは念入りに忘れ物の確認をする(最適化)、老眼鏡の利用・家族や友人に車を出してもらい買い物する(補償)など。

老いに適応できないと「老年期うつ病」のリスクも...

老いに適応できないと「老年期うつ」のリスクも...

老化にうまく適応できないと絶望感にさいなまれて、「老年期うつ病」になってしまうこともあります。

高齢になると体力の衰えに加えて、退職・家族・友人の死・子どもの自立といった環境の変化によって気分が落ち込む要因が増えます。

また、がん・脳卒中・認知症・糖尿病などの病気に罹患しやすくなりますが、これらの病気はうつ病を併発しやすいです。

 

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老年期うつ病の特徴

老年期うつ病が一般的なうつ病と違う点としては、心の不調よりも以下のような身体的な症状を訴えることが多い。

  • 頭痛
  • 胃痛
  • 息切れ
  • めまい
  • しびれ

これらの不調を内科などで訴えますが検査をしても原因が見当たらず、精神科を受診してうつ病と診断された、というケースが少なくありません。

 

また、老年期うつ病は記憶力集中力の低下を伴うこともあるとされています。

うつ病が原因で起こる一過性の認知機能障害を「仮性認知症」と言い認知症と症状が似ていますが、治療法は異なるので、専門医によるきちんとした診断を受けることが必要です。

まとめ

  • 人は目標を達成することでポジティブな気持ちや幸福を感じる
  • 加齢に伴う体力や脳の衰えによって目標を達成することが難しくなるが、目標を選択・最適化・補償することで高齢になっても目標を達成することができる
  • 選択最適化補償理論(SOC理論)は若い頃よりも目標をしぼりこみ、それを達成できるように自分の能力を効率的に活用し、周囲からの援助などを利用することで能力の低下を補うというもの
  • 老いにうまく適応できないと「老年期うつ病」になる危険性もある
  • 老年期うつ病と一般的なうつ病の違いは、心の不調よりも身体的な症状を訴えることが多く、記憶力・集中力の低下を伴うことがあるという点
  • うつ病が原因で起こる一過性の認知機能障害を「仮性認知症」と言うが、認知症とは治療法が異なるため、専門医による診断が必要

 

【参考文献】

公益財団法人 日本心理学会:サクセスフル・エイジングとオプティマル・エイジング

科学雑誌「Newton」(2021/04)老いの教科書

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