「鬱」には意味がある!?進化心理学から考える「うつの機能」とは?

 

「鬱(depression)」は何かを失ったことで生じる感情です。

進化心理学の観点から考えると、個人が所有する繁殖していくための資源(配偶者、財産など)の減少によって生じます。

 

鬱はただ単に社会的に不適応な状態だとみなされがちですが、否定的な状況で長く、強力に生じる感情であることから、人間の進化の過程で獲得した何らかの適応的意味があるのではないかと考えられます。

 

というのも、実は恐怖・悲しみ・怒りといった感情も人間が生き残るために獲得したシステムなのです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

 

生物は生き残るために、さまざまな能力を身に付けたり、失ったりしてきました。

キリンは高い所にある葉っぱを食べられるように首が長くなり、ダチョウは恐竜の支配から解放され、空に逃げる必要がなくなったので、飛ぶ能力を失いました。

 

つまり、生き残るのに不利になる能力を獲得するというのは考えにくいのです。

 

マインドパレッサー
そう考えると、うつにも何らかの意味があるんじゃないかって思いますよね?

 

この記事では、長期間の深刻なうつ症状がある病的なうつとは区別して、健常な範囲で生じるうつの機能に関する仮説をご紹介します。

 

「鬱」には意味がある!?進化心理学から考える「うつの機能」とは?

“必要のない臓器”と言われていた盲腸(虫垂)も、実は重要な役割があるということが明らかにされています。

人間の心身は非常に精巧に作られています。

 

「要らない」「意味がない」と思われているものにも、実は重要な機能が備わっているのです。

鬱もその一つです。

 

それでは、うつの機能に関する仮説を3つご紹介します。

社会的競争仮説

社会的競争仮説(social competition hypothesis ,Price et al,1994) では、社会的地位を喪失したあと、低くなってしまった地位を受入れられるようになるため、うつになると考えます。

また、うつ状態が他者に対する服従のサインとして機能すると考える仮説です。

 

例えば、会社で降格になってしまった場合、それをそのまま受入れるのは大変です。

そこで一旦、気分が落ち込むことで、

 

降格を受入れる人
しょうがない、受け入れるか

 

となるというわけです。

 

社会的リスク仮説

社会的リスク仮説(social risk hypothesis,Allen & Badcock ,2003)は他者からの搾取・攻撃などの脅威への感受性を高め、自分にかかる社会的負担を小さくするように他者にサインを送り、自分もリスクが高い行動を控えることで、重要な社会関係からのけ者にされるリスクを避けるという仮説です。

 

人はポジティブな気分のときは、リスクがある行動をとりやすくなりますが、ネガティブな気分のときはリスクを回避するような行動をとりやすくなります。

また、人は本来、弱っている、助けが必要な人には救いの手を差し伸べようとします。

 

なので、うつになることで、

 

助けが必要な人
自分は助けが必要な状態ですよー

 

というサインを送ることで、周りの人が助けてくれるのではないかという仮説です。

 

社会的ナビゲーション仮説

社会的ナビゲーション仮説(social navigation hypothesis , Watson & Andrews , 2002)はうつになって、ネガティブなことを何度も頭の中で繰り返し考えることで、その問題の分析を行うとともに、気持ちの落ち込みというコストを他者に示すことで、他者の援助や譲歩を引き出すという機能があるとする仮説です。

 

例えば、詐欺師に騙されて大金を失いました。

 

 

次のリスクに備える人

あ~なんでオレオレ詐欺なんかに引っかかっちゃったんだろう。

息子とはずいぶん話ししてなかったから、声が分からなかったんだわ。

これからはもっと頻繁に連絡を取り合うようにしましょ。

 

 

という風に原因を頭の中で繰り返し考えることで、次からは同じようなリスクを避けることが出来るという仮説です。

 

現代人にうつが多い理由

現代人にうつが多い理由として、アメリカの心理学者デイビット・バスは、

  1. 血縁者を中心とした親密な関係が崩壊
  2. マスメディアの発達によって、「自分には価値がない」と感じる

などを指摘しています。

 

血縁者を中心とした親密な関係が崩壊

かつては、ほとんどの家族が何世代も同居する大家族でした。

しかし、現在では基本的に夫婦、または親子で構成される核家族です。

 

大勢で暮らした方がバラバラで暮らすよりもお金がかからないため、経済的です。

また、自分が培ってきた知識、貴重な体験を次の世代に伝えることも一緒に暮らしていれば、簡単です。

子育てだって、みんなで助け合うことができます。

 

しかし、核家族だとそうはいきません。

 

夫は単身赴任。

息子は都市の大学に通うため一人暮らし。

妻と娘が地元に残る。

こんな風にバラバラに暮らすと家賃・生活費はとても高くなります。

 

子育てのときは、近くに頼れる人がいないため、とても苦労します。

 

といった具合に、ストレスがたまりやすいのです。

 

マスメディアの発達によって、「自分には価値がない」と感じる

マスメディアが発達するまでは、自分と比べる対象は近所の人々だけでした。

 

マスメディアが発達すると、その対象は世界に広がりました。

 

自信喪失中
テレビにとんでもない美女が映ってる!この人に比べたら私なんて、イモよ...

 

自信喪失中
まだ若いのに、こんなに社会的に成功してる。なんで自分は出世できないんだ。

 

美男美女、社会的に成功している人々と自分を比較してしまい、ストレスを感じやすくなります。

 

最後に

産後うつってありますよね。

それも理由があると考えられています。

 

母親の出産後のうつは、母親が負担を減らすために、配偶者などの他者に子供に対する投資をしてもらうよう促す機能があるという説です。

 

気分が落ち込むことは誰にでもあります。

 

落ち込む理由が漠然としていると、それが頭の中でどんどん大きくなってしまいますが、「自分がうつになるのには何らかの理由がある」と考えれば、自分を客観的に見られるようになるので、うつが長期化することも減るのではないかなと思います。

 

今回、紹介した仮説がそのきっかけにでもなれば幸いです。

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。