- 息ができない!
- 気持ち悪い...
- 胸が締め付けられる
- 手足が痺れる
といった症状があるにもかかわらず、検査しても異常が見つからない。このような予期せぬ発作が繰り返し起こる人は「パニック障害(パニック症)」の可能性があります。
パニック発作自体は10人に1人が人生のうちに一度は経験すると言われていますが、パニック障害を発症する人は100人に1~3人程だとされています(稲田, 2020)。
「パニック障害はストレスや仕事の忙しさが原因だ」とか、「過呼吸になる人はパニック障害だ」と間違って認識されていることが多いです。
そこでこの記事では、パニック障害のしくみや特徴、パニック発作が起こったときはどんな対処をすれば良いのかなどを簡単に解説していきます。
パニック障害(パニック症)のしくみや特徴を簡単に解説
「パニック障害(Panic Disorder:PD)」とは、パニック発作を繰り返す病気です。
身体的には何の異常もないにもかかわらず、さまざまな症状が突然生じるのがパニック発作で「過呼吸」もその発作の一つです。
パニック障害に関して、以下のような勘違いがよくあります。
- パニック発作=過呼吸
- パニック発作を起こす人はパニック障害だ
しかし、過呼吸を起こさないパニック発作もありますし、パニック発作を起こせば必ずその人はパニック障害というわけではありません。
パニック障害の本質は発作を起こしたときに感じる「このまま死んでしまうかもしれない」という強い恐怖・不安感にあります。
パニック障害の人の発作は決まった状況で起こるわけではないのですが、強い恐怖・不安感から起こった状況を再現することを避けようとします。
そして、出来ないことが増えていき、生活に支障をきたすようになるのです。
パニック発作の症状
パニック発作を起こすと以下のような症状が現れます。
- 心臓がドキドキして脈が速くなる
- やたらと汗が出る
- 息切れ、息苦しさがある
- のどが詰まり、窒息しそうな感じがある
- 熱感または寒気がある
- 手足やカラダが震える
- 胸が苦しく、痛みや圧迫される感じがある
- めまい、ふらつき、頭がボーっとして気が遠くなる
- 吐き気、腹痛
- 「死んでしまうかもしれない」と感じる
過呼吸と過換気症候群
パニック発作を起こしたときに、「過呼吸」になることがよくあります。
過呼吸は何回も激しく息を吸ったり、吐いたりしていると、血液中の二酸化炭素濃度がいつもよりも低くなることで生じます。
血液中の二酸化炭素濃度が低下すると、人は息苦しさを感じます。
そのため、脳の延髄にある呼吸中枢が二酸化炭素の排出を抑えるために、呼吸を抑制しようとしますが、高度な認知機能を司る大脳皮質が「息苦しい」と感じるのに、呼吸が抑制されることを異常と捉えて、さらに呼吸をさせようとします。
そうやって、悪循環に陥ってしまうのです。
過呼吸になると、血管が収縮しやすくなり、手足の痺れや筋肉のけいれんが起こりやすくなります。指先はすぼめたような形で硬直し、「助産師の手」と呼ばれる状態になります。
※過呼吸の状態は、息が苦しく本人は「死ぬかもしれない」と感じますが、本当に命の危険がある低酸素状態とは真逆なので、命の危険はありません。
過呼吸は陸上競技や水泳、サッカーなどの呼吸をたくさんするスポーツ後になることが多いですが、精神的な要因が引き金となって生じることもあります。
過呼吸が精神的な要因によって起こる状態は、「過換気症候群(Hyperventilation syndrome:HVS)」と言います。
DSM‐5におけるパニック障害の診断基準
パニック発作を引き起こす疾患は他にもあり、しばしばパニック障害と間違われます。
パニック障害は国際的な精神疾患の診断基準である「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)」で定義されているので、それをご紹介します。
- 予期せぬ発作が繰り返し起こる
- 発作後に次のいずれか、または両方がみられる。①発作が起こるのではないかという強い不安がある(予期不安)②発作が起こりそうだと思う状況や行動を避けている(回避行動)
- 身体的な病気や物質(薬物)によるものではない
- 他の精神疾患では説明がつかない
これらに当てはまる場合は、パニック障害の可能性があるので、早めに心療内科または精神神経科を受診しましょう。
【精神疾患の国際基準に関する記事】
パニック発作が起こるしくみ
パニック障害の人が引き起こすパニック発作は、誰にでも起こる些細な身体的な変化がきっかけになります。
汗がたくさん出てる、心臓がバクバク鳴ってる、息が苦しいなどの誰にでもある些細なカラダの変化を
と不安に感じることで、さらに汗が出たりと症状が悪化し、またその変化に不安な気持ちが強まるというスパイラルに陥ります。
つまり、パニック障害はカラダのちょっとした変化にも気が付く「身体感覚への過敏さ」が引き起こす病気と考えることができます。
もしもパニック発作が起こったら...
それではもしも、あなたがパニック発作を起こした場合にどうすれば良いのかを説明します。
ゆっくり呼吸をする、息を止める
過呼吸が生じているときは、意識的に呼吸数を減らすと息苦しさが改善します。
4秒吸って6秒で吐くなど、呼吸を長く深くすると症状は徐々に収まります。ゆっくり呼吸をするのが難しければ、いったん息を止めるようにすると良いです。
座った姿勢で前かがみになる
落ち着いて座れる場所へ行き、前かがみの姿勢をとります。すると、自然に腹式呼吸になり、呼吸数が減っていきます。
うつ伏せに寝そべる
安全なスペースを確保できる場合は、うつ伏せの姿勢をとりましょう。「座った状態で前かがみの姿勢」と同じように、腹式呼吸になり、呼吸状態が整いやすくなります。
「発作はいつか終わる」「死にはしない」と自分に言い聞かせる
発作は10分~15分ほどで必ず落ち着きます。
息が苦しく、本当にツライと思いますが、「発作はいつか終わる」「死にはしない、大丈夫だ」と自分に言い聞かせましょう。
周囲の人も突然のことにビックリすると思いますが、そこは落ち着いて「ここに座って」「大丈夫だからね」などと、安全な場所への誘導や声がけをするようにしましょう。
パニック障害と「社交不安症」「限局性恐怖症」「PTSD」との違い
パニック発作はパニック障害でのみ生じる症状ではありません。
発作は他の病気や障害でも起こりますし、パニック障害と他の病気・障害が併存している場合もあります。
正確な診断と適切な診断を受けるためには、心療内科や精神科を受診する必要がありますが、ここでは「パニック発作を引き起こす他の疾患」を簡単に紹介します。
社交不安症(Social Anxiety Disorder:SAD)
社交不安症は人から見られたり、注目を浴びたりすることに対して強い恐怖や不安を感じ、そのために日常生活に支障が出る状態です。
緊張して言葉に詰まったり、顔が赤くなったりする「単なる内気」と違いは、社交不安症では、注目を集める状況においてほぼ毎回、動悸・下痢・発汗・パニック発作といった症状がある点にあります。
社交不安症では、パニック発作が起こるのは対人場面に限られるため、その状況から離れれば発作はおさまります。
限局性恐怖症(Specific Phobia)
限局性恐怖症は「動物」「雷雨」「注射」「閉所」「高所」など、ある特定の状況に対して強い恐怖感を持つ状態です。
限局性恐怖症の人は、恐怖を感じる状況を避ける行動をとったり、激しい不安感や恐怖に耐えることで時にパニック発作を起こします。
恐怖の対象が日常生活に支障が出ない場合(例えば、ヘビ恐怖症だが都会に住んでいるため全然接触しないなど)は良いのですが、そうではない場合は行動が制限されて大変です。
心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は命にかかわるような事件や事故、災害などを体験したり、目撃したことがトラウマとなって、長期にわたってさまざまな変調きたす状態です。
トラウマとなった状況を生々しく思い出させる現象「フラッシュバック」が生じると、パニック発作を引き起こすことがあります。
パニック障害の治療法
パニック障害は自身の身体的な変化にとても敏感であったり、脳の危険に対するセンサーが非常に優れているといった個人の体質や脳の特性によるところが大きいです。
その体質や特性は人が危険から身を守るために獲得してきた能力で決して異常ではありません。しかし、外的刺激の多い現代ではそれらの能力が足かせになることもあります。
体質や特性はすぐに変わるようなものではないので、パニック障害とは長い付き合いになることが多いのですが、これからご紹介する治療法を導入することで、生きづらさが軽減するでしょう。
自律神経を整える
パニック発作のきっかけとなる身体的な変化は自律神経の働きと深い関係があります。
人は危険を感じるとそれに対処するために交感神経が活発になり、「闘争・逃走反応」が生じます。
闘争・逃走反応とは、危険に立ち向かったり逃げたりするために、身体を活動に適した状態(心拍の増加、血圧の上昇、呼吸の増加、筋肉の緊張など)になることです。
パニック障害の人はこの闘争・逃走反応が生じやすく、おさまりにくいのです。
そのため、闘争・逃走反応を引き起こす交感神経の高ぶりを抑えて、副交感神経の働きを高めることでパニック発作を落ち着かせることができます。
具体的には、次のような方法が挙げられます。
- 発作を起こした時だけではなく、普段から呼吸法の練習をする
- 筋弛緩法などの筋肉をほぐす練習をする
- ちょっとした合間合間で瞑想をしてみる
- 睡眠不足やカフェインの取りすぎといった交換神経を高ぶらせる習慣を見直す
【自律神経の調整に関する記事】
薬物療法
パニック障害でみられる強い恐怖感と不安感は脳の働きによってもたらされます。脳内には100億以上もの神経細胞(ニューロン)があり、電気信号や神経伝達物質で情報をやりとりすることで、人を動かしています。
薬物療法は、神経伝達物質の量を調整することで脳の働きを整えることができます。
パニック障害の治療によく用いられているのは、「抗うつ薬」や「抗不安薬」です。
抗うつ薬は神経伝達物質のセロトニンとノルアドレナリンの量を調整する作用があります。一方、抗不安薬は神経伝達物質のGABA(ギャバ)の量を調整し、心身をリラックスさせます。
薬物療法で大切なことは、症状が出た時だけ飲むとか、自分の判断で薬の量を調整したり、中断したりせずに、必ず用法用量を守ることです。
【神経伝達物質に関する記事】
認知行動療法
パニック症は基本的に脳の働きによって生じます。
そのため、自分自身が症状をどう捉えるのか、どんな行動をとるかを変えることで症状を改善させることができます。そこで有効とされるのが、人の歪んだ考え方や行動のパターンを見直す「認知行動療法」です。
パニック障害に対する認知行動療法は、本人がパニック発作のコントロール法や対処法を学び、回避行動を克服することを目標に進められていきます。
【認知行動療法に関する記事】
最後に
パニック障害は長く付き合っていくことが多い疾患です。そのため、周囲の人の理解が大切になります。
パニック障害に対する理解のなさが本人を追い詰めてしまうこともあるので、本人だけではなく、周囲の人も病気についての理解を深めましょう。
【引用文献】
稲田 泰之(2020)「パニック症と過呼吸‐発作の恐怖・不安への対処法」講談社
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