人は日常生活の中でよくエラーを起こします。
ただ、日常生活の中で起こるエラーが大きな問題につながるということはそんなにありません。
たとえば、焼き魚に塩をかけようとして、誤って砂糖をかけても焼き魚が甘くなるだけで大きな問題ではありません。
しかし、それがバスや電車、飛行機の運転手、医療従事者などであれば話が違います。
ヒューマンエラーによって、誰かがケガをしたり、最悪の場合は命を落としてしまったりと重大な問題となる可能性があります。
ヒューマンエラーにはいくつかのタイプがあり、原因も異なります。
ヒューマンエラーのタイプや原因を理解していないと、有効な対策を立てることができません。
重大な問題を起こさないためにも、しっかりと理解しておきましょう!
参考文献
ヒューマンエラーの定義
「ヒューマンエラー」とは、リーソンの定義(Reason,1990)によると、
エラーとは、計画された一連の精神的または身体的活動が、意図した結果に至らなかったものであり、これらの失敗には、他の偶発的事象の介在が原因となるものを除く。
引用:『産業・組織心理学』古川 久敬 朝倉書店 2006/11/25
とされています。
この定義によると、結果として観察できる行動の失敗だけではなく、行動を起こす計画段階のミスも含まれます。
ヒューマンエラーのタイプと原因
リーソンがヒューマンエラーの定義に「身体的活動」だけではなく「精神的活動」を含めたように、精神的活動の要素はエラーの発生メカニズムを理解する上で非常に重要です。
ノーマン(Norman,1981)は、エラーの発生段階を以下の2つに分けました。
- 一連の行動を計画する段階‐ミステイク
- 計画を実行する段階‐スリップ、ラプス
ミステイク(mistake)
ミステイク(mistake)は、行動を計画する段階でのエラーです。
たとえば、「Aのボタンを押さなければいけない状況で、Bのボタンを押すべきだと判断して、Bのボタンを押してしまった」場合のように、計画自体が誤っているエラーです。
スリップ(slip)
スリップ(slip)は、計画を実行に移す段階でのエラーです。
たとえば、「Aのボタンを押そうとして、誤ってBのボタンを押してしまった」場合のように、計画自体は正しいのに、実行の段階で失敗したエラーです。
ラプス(lapse)
ラプス(lapse)も、スリップと同様に計画を実行に移す段階でのエラーですが、スリップのように周りの人が観察できるエラーではなく、記憶の違いやド忘れのようにその人の内面で起こるエラーです。
たとえば、「Aのボタンを押しに行ったのに、他の人に話しかけられて、ボタンを押さずに帰ってしまった」場合のように、記憶に関わるエラーです。
習熟度の違いによる分類
初心者でも、ベテランでもエラーを起こしますが、その頻度やエラーのタイプは異なります。
ラスムッセン(Rasmussen,J.)は習熟度や注意にどれだけ傾けているかに着目し、
- 知識(ナレッジ)ベース
- ルールベース
- スキルベース
の3段階に分類しました。
知識(ナレッジ)ベース
知識(ナレッジ)ベースは、これまでに全く経験したことのない問題であり、スキルも知識もなく、対処方法も分からないため、マニュアルを見ながら対処する段階です。
- 新しい会社に就職して、新しい業務に取りかかる
- 最新機器が導入されて、初めて操作する
などが知識(ナレッジ)ベースです。
全く経験したことのない問題に直面する訳ですから、注意の使用量は最大になります。
知識(ナレッジ)ベースでのエラーは、主に計画段階でのエラー「ミステイク」です。
知識(ナレッジ)ベースでのエラーを防ぐためには、足りない知識やスキルを身に付けることが大切になります。
ルールベース
ルールベースは、常に行う作業ではないが、たまにやる作業でマニュアルを見なくても、一つ一つ動作を確認しながら行えば対処できる段階です。
- 月に一回行う経理作業で、一つ一つ作業を確認しながら行う
- ペーパードライバーで久しぶりに運転する際に、一つ一つ動作を確認しながら行う
などがルールベースです。
ルールベースでのエラーも知識ベースと同じく、主に計画段階でのエラー「ミステイク」です。
ルールベースでのエラーを防ぐためには、足りない知識やスキルを補いながら、「指差確認」など一つ一つの動作を確認しながら行うことが大切です。
スキルベース
スキルベースは、ルーティンワークのようないつも行う作業・動作であり、意識をしなくても身体が勝手に動くような段階です。
- アパレルで働く人が特に意識せずに服を綺麗にたたむ
- いつも車を運転する人は意識しなくても車を動かす
などがスキルベースです。
スキルベースでのエラーは、主に「スリップ」「ラプス」です。
スキルベースでのエラーを防ぐためには、「指差確認」などで一つ一つの動作を確認すること、そして、自分が頭の中で考えている過程をもう一人の自分が監視する機能「メタ認知機能」を働かせることが大切です。
不安全行動とヒューマンエラーの違い
「不安全行動」には、意図したものと意図しないものがあります。
意図的に取られた不安全行動を「リスク・テイキング」(あえて危険を冒すこと)の一種と考えられています。
リスク・テイキングの定義(芳賀,2000)は、
本人または他人の安全を阻害する意図を持たずに、本人または他人の安全を阻害する可能性のある行動が意図的に行われたもの
引用:『産業・組織心理学』古川久敬 朝倉書店 2006/11/25
としています。
不安全行動とヒューマンエラーの違いは、意図した結果になるか、ならないかの違いです。
ヒューマンエラーは「自らとった行動が意図した結果に終わらなかったもの」です。
一方、不安全行動は「飲酒運転」「信号無視」「シートベルトを着用しない」など、「その行為がルール違反だと知りながらもとる行動」です。
不安全行動をしてしまう理由
芳賀は不安全行動の発生理由を以下のように整理しています。
- リスクに気づかないか、主観的に小さい
- リスクをおかしても得られる目標の価値が大きい
- リスクを避けた場合(安全行動)のデメリットが大きい
- リスクを・テイキング行動自体に効用がある
つまり、不安全行動のリスクがそんなに大きくなく、安全行動をとるメリットよりも、不安全行動をとるメリットの方が大きいときに、不安全行動をしてしまうのです。
まとめ
人は誰でも間違いを冒します。
失敗から学び、改善していくことは可能ですが、失敗した原因を理解していないと、効果的な対策を立てることは出来ません。
そのため、ヒューマンエラーのタイプや原因を知っておくことが重要な意味を持つのです。
原因が分かれば、結果を変えることができます。
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参考文献
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1.ヒューマンエラーの定義
2.ヒューマンエラーのタイプと原因
2-1.ミステイク(mistake)
2-2.スリップ(slip)
2-3.ラプス(lapse)
3.習熟度の違いによる分類
3-1.知識(ナレッジ)ベース
3-2.ルールベース
3-3.スキルベース
4.不安全行動とヒューマンエラーの違い
4-1.不安全行動をしてしまう理由
5.まとめ