
僕は英語のスピーキングの練習をする度に、薄っすらそんな感覚を抱いていました。
今回はそんな些細な疑問を解決するために、色々と調べてみました。
すると、言語にはそれぞれ固有の「口の構え」があり、使う筋肉も、音を作る場所も違うということが分かってきました。
この記事では、日本語・英語・中国語・韓国語を例に、口の使い方と調音点の違い、そしてなぜ日本人が英語の発音を難しく感じるのかを、科学的に解きほぐしていきたいと思います。
なぜ英語を話すと口が疲れるのか?
英語を話すと口が疲れるのは、言語ごとに「話すときのデフォルトの口の構え」が違い、英語は日本語より唇や舌の緊張を多く使うからです。
音声学には「調音設定(ちょうおんせってい/articulatory setting)」、あるいは「調音基礎(basis of articulation)」と呼ばれる考え方があります。
これは、その言語を話す準備をしたときに自然に取る、舌・唇・あご・のどの「基本ポジション」のことです。
スポーツごとに違う「構え」があるのと同じです。
野球のバッターとゴルファーでは腰の落とし方や手の位置がまったく違いますよね?
言語にも、それぞれの母語話者が無意識に共有している「待機姿勢」があるのです。
日本語は口をあまり動かさず、平らな唇のまま話せる場面が多い言語です。
一方の英語は、唇を丸めたり突き出したり、舌先を上の歯ぐきに素早く当てたりと、口周りの筋肉(特に口輪筋=唇をぐるりと囲む筋肉)をこまめに使います。
だから、日本語モードに慣れた口には「よく動かしている=疲れる」と感じられるのです。
面白いことに、この疲労感は「慣れ」で軽くなります。
バイリンガルを対象にした研究では、二つの言語で口の構えをうまく切り替えている例が報告されています。
つまり、英語を話すときの構えは、練習によって体が覚えていける「運動スキル」なのです。
最初に疲れるのは、まだそのモードに筋肉が最適化されていないだけ、と考えてよいでしょう。
【日英中韓を比較】言語で口の使い方はどう違う?
各言語は「使う音の数」「よく動かす部位」「音の作り方の型」が異なり、それが口の使い方の個性になっています。
まずは全体像を、日本語・英語・中国語(標準中国語)・韓国語(ソウル方言)で比べてみましょう。
数字は代表的な目安で、数え方により多少前後します。
| 言語 | 母音の数(目安) | 特徴的な仕組み | 口周りでよく使う動き |
| 日本語 | 5 | モーラ(拍)中心・子音+母音の型 | 口の動きは控えめ・平らな唇 |
| 英語 | 十数種類 | 強弱アクセント・子音連続・二重母音 | 唇の丸め/突き出し・舌先の素早い動き |
| 中国語 | 多数(介音を含む) | 4つの声調+そり舌音・有気/無気の対立 | 舌をそらせる・のどと声の高さの制御 |
| 韓国語 | 7〜8 | 平音/濃音/激音の3系列・パッチム(終声) | のどの緊張・息の強弱の切り替え |
日本語:口をあまり動かさない「省エネ型」
日本語はほとんどの音が「子音+母音」の組み合わせ(CV型=カ=k+a のように、子音のあとに必ず母音がくる形)で、5つの母音もあごや唇を大きく動かさずに出せます。
口周りの運動量は、世界の言語の中でも比較的少ない部類です。
そして、日本語のリズムを決めているのが「モーラ(拍)」という単位です。
難しそうな言葉ですが、手拍子を打ちながら言葉を言ったときの、手拍子1回分だと思ってください。
だいたい「かな1文字=1モーラ」です。
たとえば「さくら」は、さ・く・ら で手拍子3回=3モーラ。
「ねこ」は ね・こ で2モーラ。
それぞれの拍が、メトロノームのようにほぼ同じ長さで流れます。
これが「等間隔でリズムを刻む」ということです。
面白いのは、英語の感覚だと「1つの音」に聞こえるものも、日本語では独立した1拍として数える点です。
「ん」「っ(小さいツ)」「伸ばす音(ー)」も、それぞれ1モーラになります。
- 「にほん(日本)」→ に・ほ・ん で3モーラ
- 「きって(切手)」→ き・っ・て で3モーラ(音のない「っ」も1拍ぶんの間を取る)
- 「ラーメン」→ ら・あ・め・ん で4モーラ
この「どの拍も平等に、同じ長さで」という性質が、日本語を平坦で滑らかに聞こえさせています。
ちなみに俳句の「五・七・五」も、実はこのモーラを数えたもの。
英語:唇と舌先をよく使う「アクティブ型」
英語は母音の種類が多く(あいまい母音や、緊張してはっきり出す母音など)、唇の丸めや突き出しを伴う音が目立ちます。
さらに、strong の str のように子音が連続する(子音連続=クラスター)ため、母音でひと息つく間もなく舌先や唇を動かし続けます。
強く読む音節と弱く読む音節の差(強弱アクセント)も大きく、口の緊張と弛緩をリズミカルに繰り返すのが特徴です。
日本語のリズムを決めているのが「モーラ(拍」でしたが、英語は、「音節(シラブル)」というもっと大きなまとまりでリズムを刻みます。
だから同じ言葉でも、数え方がまるで違ってきます。
| 言葉 | 日本語(モーラ) | 英語(音節) |
|---|---|---|
| 東京 / Tokyo | と・う・きょ・う = 4 | TO-kyo = 2 |
| カード / card | か・あ・ど = 3 | card = 1(一息で言い切る) |
| マクドナルド / McDonald’s | 6 | 約3(強く読むのは1か所だけ) |
中国語:舌をそらせ、声の高さを操る
標準中国語の最大の個性は4つの声調。
同じ「マ」でも音の高さの動きで意味が変わるため、のどと声の高さ(ピッチ)を細かく制御します。
加えて、 zh・ch・sh・r などのそり舌音では舌先を口の天井に向けてそらせます。
日本語にも英語にもないこの動きは、慣れないと舌の付け根が疲れます。
さらに、息を強く出す音(有気音)と出さない音(無気音)を区別するのも大きな特徴です。
韓国語:のどの緊張と息づかいで区別する
韓国語は日本語と語順や音の作りが近いと言われますが、子音に独特の3系列があります。
ゆるい平音、のどを詰めて強く出す濃音、息を強く伴う激音の区別です。
研究では、この3つは「息の量(VOT)」と「声の高さ」の組み合わせで作り分けられるとされます。
日本語話者には同じ音に聞こえがちで、のどの緊張のコントロールが学習のカギになります。
また、音節の最後に子音が来る(パッチム=終声)点も、CV型に慣れた口には新鮮な負荷です。
各言語によって、よく使う「調音点」も違うので、そちらについて次章で解説していきます。
【音が作られる場所】そもそも「調音点」とは?
調音点とは、口の中で舌や唇が触れて音を作る場所のことです。
場所が変われば、使う筋肉も変わります。
私たちは、のどから出た息を、口の中のどこかを狭めたり閉じたりして「子音」を作ります。その「せき止める場所」が調音点です。
主なものを、口の前から奥へ順に見てみましょう。
| 調音点 | 使う場所 | 例になる音 |
| 両唇 | 上下のくちびる | p / b / m(パ行・バ行・マ行) |
| 唇歯 | 下くちびると上の前歯 | 英語の f / v |
| 歯/歯ぐき | 舌先と前歯〜歯ぐき | t / d / s / n、英語の th |
| そり舌 | そらせた舌先と口の天井 | 中国語の zh / ch / sh |
| 硬口蓋 | 舌の中ほどと上あご | 日本語の「や・ゆ・よ」、英語の y |
| 軟口蓋 | 舌の奥と上あごの柔らかい部分 | k / g(カ行・ガ行) |
大切なのは、言語によって「よく使う調音点」の組み合わせが違うということ。
日本語は両唇・歯ぐき・軟口蓋あたりのシンプルな組み合わせで足りますが、英語は唇歯(f/v)や歯(th)を加え、中国語はそり舌を多用します。
母語にない調音点は、その部位を狙って動かす神経と筋肉の連携がまだできていないため、「思った場所に舌が届かない」「妙に疲れる」という感覚になるわけです。
なぜ日本人は英語の発音が難しいのか?
日本人にとって英語の発音が難しい理由は、英語には、日本語にない「音」「音のつなげ方」「リズムの型」が多く、母語の型(CV・モーラ・5母音)が邪魔をするからです。
難しさの正体は「舌が回らない」といった単純な話ではなく、脳と口にしみついた日本語のルールが、英語のルールとぶつかることにあります。
代表的な4つのハードルを見ていきましょう。
① R と L の区別がない
英語の r と l は、日本語のどちらの音にも一致しません。
日本語のラ行は、r・l・d の中間のような音(弾き音)で、1種類しかありません。
そのため、聞き分け・言い分けの両方が難しくなります。
研究でも、日本語話者にとって英語の r と l の識別は代表的な難関として長く扱われてきました。
ポイントは、l は舌先を上の歯ぐきにしっかり付ける、r は舌をどこにも付けずに丸める、と調音点・調音法で覚えることです。
② 子音を続けて出す「子音連続」がない
日本語は基本が「子音+母音」なので、子音が連続しません。
ところが、英語は street(s-t-r)や texts(x-t-s)のように子音が重なります。
日本語の型に引きずられると、つい母音を挟んで「su(ス)to(ト)リート」のように割ってしまうのです。
これは発音のクセであると同時に、単語が実際より長く・別物に聞こえる原因にもなります。
③ モーラのリズムが強すぎる
日本語は各拍を等間隔で刻むモーラ拍リズム。
一方の英語は、強く読む音節を等間隔に置き、弱い音節は素早く弱める強勢拍リズムです。
日本語のリズムのまま英語を話すと、すべての音を平等に・はっきり読んでしまい、いわゆる「カタカナ英語」の平坦な響きになります。
逆に、弱く読む部分を思い切って弱めるだけで、ぐっと英語らしくなります。
④ 母音の数が2倍以上ある
日本語の母音は5つ。
英語は数え方にもよりますが十数種類あり、日本語の「イ」ひとつに対して英語には緊張したイと緩んだイ(sheep と ship の違い)があるなど、1つの日本語母音に複数の英語母音が対応します。
母語に「入れ物」が5つしかないところに十数種類を仕分けるので、聞くときも話すときも取りこぼしが起きるのです。

今日からできる、英語のための口周りトレーニング
「口の構えを英語モードに切り替える練習」を、鏡・録音・少数の音にしぼって毎日短く続けるのが近道です。
次の手順を、1日5〜10分でかまいませんので試してみてください。
- 鏡で「英語の構え」を作る:唇を少し前に出し、舌先を上の歯ぐきに軽く触れさせる待機姿勢を10秒キープ。英語モードの初期位置を体で覚えます。
- R と L をペアで練習:light / right、lead / read のように最小ペアで交互に。l は舌先を付ける、r は付けずに丸める、と意識します。
- 子音連続をゆっくり分解:s-t-r-eet と区切ってから徐々に速く。母音を挟まないことだけを守ります。
- 強弱リズムを大げさに:文の強く読む語だけを手拍子に合わせて強調し、他を思い切り弱く。強勢拍のリズムを体感します。
- 録音して聞き比べる:スマホで自分の声とお手本を録音・比較。ズレを『聞いて気づく』ことが上達の8割です。
コツは、一度にたくさんの音を直そうとしないこと。
今週は r と l だけ、来週は子音連続だけ、と的をしぼると挫折しにくくなります。
口が疲れるのは、新しい筋肉の使い方が始まったサインでもあります。
よくある誤解・疑問(FAQ)
Q. 日本語のラ行は英語の R と同じでは?
A.いいえ。日本語のラ行は r・l・d の中間のような1種類の音で、英語の r とも l とも別物です。
だからこそ、英語では2つを新しく作り分ける必要があります。
Q. 口が大きい人ほど発音が上手?
A.口や顎の大きさと発音のうまさに直接の関係はありません。
重要なのは、狙った調音点に舌や唇を正確に動かせるかという運動スキルです。
Q. 大人になってからでは手遅れ?
A.ネイティブと完全に同じになるのは簡単ではありませんが、口の構えは大人でも練習で切り替えられます。
通じやすさは年齢に関係なく大きく改善できます。
まとめ:発音は「骨格」ではなく「口の構えのスキル」
英語を話すと口が疲れるのは、あなたの口が英語という新しいスポーツの構えを覚えている最中だから。
要点を振り返りましょう。
- 言語ごとに「調音設定(口の構え)」が違い、英語は日本語より唇と舌先をよく使う。
- 日英中韓は母音数・声調・そり舌・のどの緊張など、使う仕組みと部位が異なる。
- 調音点=音を作る場所。母語にない調音点は、まだ動かし慣れていないだけ。
- 日本人の難しさは R/L・子音連続・リズム・母音数という母語ルールの衝突が主因。
- 顎や口の大きさは主因ではない。発音は練習で変えられる運動スキル。
【参考】
調音設定の日英差(Wilson et al., 2025/Basis of articulation, Wikipedia)
R/Lの困難(Wikipedia)
中国語・韓国語の音声(Korean phonology, Wikipedia)
【あわせて読みたい】




















