ビデオゲームを競技としてプレーするeスポーツは、毎年国際大会が開催されるほど、盛り上がりを見せています。
そうした中で、eスポーツやゲームに関する科学的な研究も進んできています。
「ゲーム・eスポーツは健康に悪い」というイメージを持っている人もけっこういると思います。
しかし、最新の研究では脳機能を向上させたり、仲間との絆を深めたりといった、素晴らしい効果があることが分かってきています。
この記事では、ゲーム・eスポーツは脳と健康にどんな影響を及ぼすのかについて良い効果も悪影響も含めて、ご説明します。
ゲーム・eスポーツは脳と健康にどんな影響を及ぼすのか
「eスポーツ(e-sports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略です。
電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉で、コンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称です。
近年、通信の高速化やスマートフォンの普及によって、ゲームがしやすい環境が整い、ゲーム・eスポーツをする人が増えてきました。
eスポーツの魅力の一つはその賞金額です。
eスポーツの賞金の歴代最高金額は、 2021年に開催されたThe International 10で、 優勝賞金は1800万ドル(20億円以上) 、賞金総額約4000万ドル(日本円で44億円以上)にものぼりました。
この大会はMOBAジャンルの大人気ゲーム『Dota 2』で行われました。 世界中を探しても、これほどの賞金が出される大会はそうありません。
eスポーツの競技人口は世界で1億人を超えています。
現在では、身体的なスポーツと同様にeスポーツに対しても科学的な研究が行われ、ゲーム・eスポーツが脳と健康にどんな影響を及ぼすのかが解明されてきています。
ここでいくつかゲーム・eスポーツが脳と健康に及ぼす影響をご説明します。
脳が鍛えられる
ゲームをすると、そのゲームに使う脳の機能が高まります。
- バーチャルサッカーゲーム:左右の方向を判断する脳機能
- 格闘ゲーム:言語性や空間性の脳機能
- FPS(First Person Shooter,一人称視点のシューティングゲーム):空間性の脳機能
これらの機能の向上は、それぞれのゲーム内容に関係しています。
例えば、格闘ゲームで言語性の脳機能が高まるのは、技を繰り出すために複雑なコマンドを入力する操作をするためであると推測されています。
ただし、ゲームで脳を鍛えても、そのゲームで使う脳機能は鍛えられますが、残念ながら他の脳機能へは波及しません。
仲間との「絆」が育まれる
身体的なスポーツでは、チームの一体感が生まれたり、勝敗に関係なく相手を尊重する気持ちが育まれます。
eスポーツでも、同じことが起こるのでしょうか。
そんな疑問に答えるべく、筑波大学でeスポーツ科学の研究を行う松井助教授らは、バーチャルサッカーゲームを使ってオンラインとオフラインでプレーヤーの社会性がどのように変化するのかを調査しました。
オフラインでは対面でプレーし、オンラインでは個々が自宅でプレーし、心拍数や唾液に含まれるホルモンなどの成分の変化を測定しました。
調査の結果、オンラインでもオフラインでも、ゲームに負けるとストレスホルモンである「コルチゾール」が、勝つと男性ホルモンである「テストステロン」が増えることが分かりました。
松井助教が特に注目したのは、愛情ホルモンである「オキシトシン」です。
オキシトシンは人との絆の形成に関わるホルモンで、親子、夫婦間のスキンシップや柔道などのコンタクトスポーツで増加することが知られています。
このオキシトシンが、ゲーム相手が同じ部屋にいるオフライン対戦をすると、勝敗に関係なく増加したのです。
また、オフラインでゲームを行うと、心拍数がそろっていく現象が見られました。
これは「生理的同調」と呼ばれる現象で、この生理的同調が起こると、共同作業の成果が向上することが知られています。
eスポーツをオフラインでプレーすると、生理的同調が生じることがからも対戦相手との絆が育まれている可能性が高まりました。
ゲームによって生じる問題
ここまでゲーム・eスポーツが脳や健康に及ぼすポジティブな効果についてご紹介してきました。
しかし、何事もやりすぎは禁物です。
ここでは、ゲームを長時間行うことでどのような問題が生じるのかについて解説していきます。
長時間行うと睡眠の質が低下する
ゲームを長時間行うと、睡眠の質やメンタル面に悪影響を与えます。
研究チームはFPSのプロeスポーツ選手に活動量計を装着してもらい、睡眠状況とプレー時間、メンタルヘルスの関係を調べました。
調査の結果、平均7時間ほどの睡眠時間は確保できていましたが、睡眠状況を観察すると、プレー時間が長い選手ほど、入眠後の覚醒時間が多いことが明らかになりました。
また、選手への質問紙調査から、プレー時間が長いとうつ病スコアが高くなることが分かりました。
つまり、睡眠時間をちゃんと取っても、1日10時間を超えるような長時間のプレーは睡眠の質を低下させ、うつ病リスクを高めるのです。
「ゲーム障害」にはご注意を!
世界保健機関(WHO)はゲームをやり過ぎることで日常生活に支障が出る「ゲーム障害」を国際疾病として正式に認定しました。
ゲーム障害とは、以下のような状況が原則12ヶ月以上続いた場合を言います。
- ゲームの時間や頻度をコントロールできない
- 日常生活の中で他のことよりもゲームを最優先する
- 生活に支障が出てもゲームを続ける
- 学業や仕事などを行えず、日常生活に大きな支障がある
ゲーム障害はアルコール依存症、ギャンブル依存症、ニコチン依存症などと同じく、ゲームに依存している状態です。
ゲームを週に20時間以上プレーする場合は、依存のリスクが高まるので、注意が必要です。
【依存症に関する記事はこちら】
ゲーム・eスポーツに関する誤解
て2018年2月にアメリカ・フロリダ州の高校で発生した銃乱射事件を受け、トランプ元大統領は事件現場に居合わせた生徒や被害者の保護者たちを前に、「暴力的なビデオゲームが若者の思考に影響を与えている」と述べました。
果たして本当に暴力的なゲームは犯罪者を生むのでしょうか。
暴力的なゲームは犯罪者を生む
暴力的なゲームが人格に及ぼす影響に関する研究はこれまでにいくつか行われてきました。
過去にはゲームが短期的・長期的に社会的行動に悪影響を及ぼすとした論文も出されています。
しかし、統計学的な調査から子どもの暴力性や学力などとゲームの関係性は弱いという結果が2015年に報告されています。
アメリカ心理学会も「銃乱射事件とゲームについて関連があるかのような発言は控えるべきである。」と政治家に提言しています。
ゲーマーは不健康
ゲーマーはポテチを食べながら、エナジードリンクを飲みながらゲームに没頭している、のような不健康なイメージを持っていませんか?
確かに、長時間同じ姿勢でプレーすると、生活習慣病のリスクが高まるなど、健康に悪影響を及ぼします。
しかし、それは仕事で長時間デスクワークをするのも同じですよね。
実はプロeスポーツ選手は日常生活の中で積極的に取り入れています。
オーストラリアのクイーンズランド工科大学の研究グループがFPSの選手に対して、プレーの競技レベルと日常の活動について調査を行いました。
その結果、競技レベル上位10%の選手は、ほかのランクの選手と比べて明らかに身体活動量が多いことが分かったのです。
つまり、ゲームの上手さのためにも、運動が重要ということですね。
まとめ
- ゲームによって、そのゲームをプレイする時に使う脳の機能が向上する。
- チームプレイのゲームをオフラインで行うと勝敗に関係なく、「オキシトシン」が分泌され、さらに心拍数が同調していく「生理的同調」が起こり、絆が生まれる。
- 睡眠時間をしっかり確保していても、長時間ゲームをすると心身ともに悪影響が出る。
- 統計学的な調査から子どもの暴力性や学力などとゲームの関係性は弱いとうことが明らかになった。
- 「ゲーマーは運動もせず不健康」というのは誤解。
【参考文献】
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1.ゲーム・eスポーツは脳と健康にどんな影響を及ぼすのか
2.ゲームによって生じる問題
3.ゲーム・eスポーツに関する誤解
4.まとめ