ストレス、溜まっていませんか?
対処法を調べると「問題焦点型」「情動焦点型」という言葉が出てきます。
ただ、分類を覚えても、実際に何をすればいいのかは分からないままです。
本記事では、公認心理師である筆者が、分類の話で終わらせずに実践まで落とし込みます。
前半で全体像を、後半で実践手順を解説します。分類だけ知りたい方は前半、すぐ試したい方は後半から読んでください。
ストレスコーピングとは?
「ストレスコーピング」とは、一言で言うと、ストレスに気づいて、意識的に対処することです。
厚生労働省の「こころの耳」では、ストレスに対処する行動をストレスコーピングと呼んでいます。ポイントは「意識的」という部分です。
無意識に起きる心の防御反応(防衛機制)とは区別されます。
防衛機制についてはこちらの記事で解説しています。
ストレスは3つの段階でできている
コーピングを理解するには、ストレスの仕組みを知る必要があります。
ストレスは、次の3段階で起こります。
- ストレッサー:ストレスの原因になる出来事
- 認知:その出来事をどう受け取るか
- ストレス反応:結果として出る心身の変化
上記のとおりです。
たとえば「上司に叱られた」がストレッサーです。
それを「嫌われている」と受け取るのが認知。その結果、眠れなくなるのがストレス反応です。
ここが重要です。
同じ出来事でも、認知が違えば反応が変わります。
だからコーピングは、3つのどこにでも仕掛けられます。
原因を変える、受け取り方を変える、出てしまった反応を鎮める。
この3方向です。
「ストレス解消法」との違い
コーピングは、ストレス解消法より広い概念です。
カラオケや運動といった発散は、コーピングの一部にすぎません。
原因そのものへの働きかけや、人に相談することも含まれます。
※補足:解消法だけに頼ると、原因が残り続けます。ここが後半の話につながります。
ストレスコーピングの5種類
結論から言うと、コーピングは大きく5種類に分けられます。
- 問題焦点型:原因そのものを変える
- 社会的支援探索型:人の力を借りる
- 認知的再評価型:受け取り方を変える
- 情動処理型:感情を外に出す
- 気晴らし型:気分を切り替える
上記のとおりです。
厚生労働省の「こころの耳」では、このうち問題解決型・社会的支援型・感情焦点型の3つが挙げられています。
ここではより細かい5分類で解説します。順番に見ていきます。
① 問題焦点型:原因そのものを変える
ストレスの原因に直接手を入れる方法です。
苦手な上司との関係なら、次のような手があります。
- 業務の進め方を変えて接点を減らす
- 面談で具体的な依頼のしかたを相談する
- 異動希望を出す
根本から解決できるのが強みです。
ただし、自分の力で変えられる相手にしか使えません。
社会的支援探索型:人の力を借りる
一人で抱えず、周囲を巻き込む方法です。
厚生労働省の「こころの耳」でも、自分の力と周囲の力を合わせることの重要性が挙げられています。
具体的にはこうなります。
- 先輩に「どう対処したか」を聞く
- 上司に業務量の調整を相談する
- 産業医や相談窓口を使う
日頃から相談できる人を持っておくこと自体が、予防になります。
認知的再評価型:受け取り方を変える
出来事の意味づけを変える方法です。
たとえば、上司が不機嫌なとき。「自分のせいだ」ではなく「今日は忙しいのだろう」と考える。
事実は変わりませんが、ストレス反応は変わります。
ただし注意点があります。
無理なポジティブ変換は逆効果になりやすいという点です。
事実を歪めるのではなく、他の解釈も成り立つと気づくのがコツです。
※補足:この考え方は認知行動療法の中核でもあります。当ブログの「イラショナル・ビリーフ」の記事でも扱っています。
情動処理型:感情を外に出す
溜まった感情を言葉にして出す方法です。
- 信頼できる友人に話を聞いてもらう
- ノートにその日の出来事を書き出す
- カウンセリングを利用する
話すだけで解決しなくても構いません。
言葉にする過程で、感情が整理されます。
気晴らし型:気分を切り替える
活動によって気分を変える方法です。
運動、入浴、音楽鑑賞、料理。手軽で、誰でもすぐ使えます。
即効性がある一方、原因は残ったままです。ここが弱点になります。
【重要】最新研究では、別の分け方のほうが当たっていた!?
ここからが、他の解説記事にはない話です。
2026年のメタ分析では、「問題焦点か情動焦点か」より「向き合うか避けるか」のほうが、心理的な苦痛をよく予測しました。
先に限界を書いておきます。この研究の対象は心疾患のある人に限られます。
健康な人にそのまま当てはまるとは言えません。
その上で、示された数字を見てください。
学術誌『Health Psychology』に2026年に掲載されたメタ分析(19研究)の結果です。数字が大きいほど、苦痛との結びつきが強いという意味です。
| コーピングの型 | 不安との関連の強さ |
| 回避型(避ける) | .39 |
| 情動焦点型 | .32 |
| 関与型(向き合う) | .17 |
最も苦痛と結びついていたのは、避けることでした。
一方、問題焦点型の関連は有意ではありませんでした。
なぜか。
理由は、従来の分類が「何に働きかけるか」しか見ていないからです。
同じ「気晴らし」でも、中身は正反対のことがあります。
- 散歩に出て気分を変える → 向き合っている
- 考えたくなくて何時間もSNSを見る → 避けている
分類上はどちらも気晴らし型です。
しかし前者は回復につながり、後者は問題を先送りします。
判断の軸は「何をするか」ではなく「向き合っているか」です。
避けるコーピングの見分け方
回避型かどうかは、次の3つで判定できます。
- 時間が延びる——やめどきが自分で決められない
- 後味が悪い——終わったあとに罪悪感が残る
- 問題を思い出す——中断すると不安が戻ってくる
上記のとおりです。
飲酒、動画の連続視聴、衝動買い、先延ばし。
これらは避けるコーピングになりやすい行動です。
※補足:これらが絶対に悪いわけではありません。短時間で切り上げられるなら、有効な気晴らしになります。
問題焦点型は「万能」ではない!
意外に思われるかもしれませんが、問題焦点型が逆効果になる場面があります。
『Journal of Behavioral Medicine』に2006年に発表されたメタ分析では、小児がんの子ども1,230人を対象に解析が行われました。
その結果、問題焦点型コーピングは適応の悪さと関連していました。
なぜか。
理由は単純です。がんという状況は、本人の努力では変えられないからです。
変えられないものを変えようとし続けると、無力感が強まります。
ここに「使い分け」が必要な理由があります。
判断はシンプルで構いません。
- 変えられる → 問題焦点型・社会的支援探索型
- 変えられない → 認知的再評価型・情動処理型・気晴らし型
- 分からない → まず人に相談する
上記のとおりです。
たとえば「上司の性格」は変えられません。でも「関わる頻度」は変えられることがあります。
問題を小さく割ると、変えられる部分が見つかります。
本当に効くのは「切り替える力」
ここが本記事の核心です。
大事なのは種類を増やすことではなく、効かなかった方法を手放して別のを試すことです。
これを心理学では「コーピングの柔軟性」と呼びます。東洋大学の加藤司氏が、日本人を対象に一連の研究を行っています。
柔軟性は、2つの動作でできています。
- 手放す——効いていない方法をやめる
- 切り替える——別の方法を用意して試す
上記のとおりです。
『PLOS ONE』に2015年に発表された研究では、日本の大学生1,770人が対象になりました。
結果はこうです。
- 効果を見極める力が高い人ほど、抑うつ症状が少ない(オッズ比0.86)
- 別の方法に切り替える力が高い人ほど、抑うつ症状が少ない(オッズ比0.91)
オッズ比が1より小さいほど、抑うつになりにくいという意味です。
さらに2020年には『Frontiers in Psychology』で、累計6,752人を対象とした検証が報告されています。手放すことと切り替えることは、他の枠組みよりも抑うつの少なさをよく予測しました。
日本人を対象にした研究である点も、実感に合いやすい理由だと考えられます。
ここで最初の話に戻ります。
コーピングを5種類覚えても実践できないのは、覚える段階で止まっているからです。
必要なのは、試して、効果を見て、効かなければ変えることでした。
実践編:今日からできる4ステップ
お待たせしました。ここから手順です。
やることは4つだけです。
- STEP1 ストレスに気づく
- STEP2 変えられるか見分ける
- STEP3 リストを作る
- STEP4 点数をつけて手放す
上記のとおりです。順に説明します。
STEP1:ストレスに気づく
まず、自分がストレスを感じていることに気づく必要があります。
意外に思われるかもしれませんが、ここでつまずく方が最も多い印象があります。
筆者が医療機関で働いていたときも、限界まで気づかない方は珍しくありませんでした。
気づくコツは、時間を決めることです。
- 入浴中
- 寝る前の5分
- 通勤の帰り道
上記のような「一人になる時間」に、今日の疲れ具合を確認します。
チェックする対象は感情だけではありません。体のサインのほうが早く出ます。
- 肩や首のこわばり
- 寝つきの悪さ
- 食欲の変化
このうち1つでも当てはまれば、対処のタイミングです。
STEP2:変えられるか見分ける
次に、そのストレスが変えられるものかを判断します。
紙に1行で書いてみてください。「何が」「どうなったら」楽になるかを書きます。
- 変えられる → 原因に働きかける
- 変えられない → 受け取り方と感情に働きかける
判断に迷ったら、変えられない前提で進めて構いません。
変えられないものに力を注ぐほうが、消耗が大きいためです。
STEP3:コーピングリストを作る
自分用の対処法リストを作ります。これがコーピングリストです。
作るときのコツは3つあります。
- 調子がいいときに作る——ストレス中は思いつきません
- 質より量——くだらないものも入れる
- 1分でできるものを混ぜる——職場でも使えるように
上記のとおりです。
数の目安は30個以上。多いほど、状況に合わせて選べます。
たとえばこんな粒度で構いません。
- 温かい飲み物を1杯飲む
- 階段を1階分だけ上る
- 好きな曲を1曲聴く
- 手を洗って顔を上げる
「気分が良くなること」だけでなく「少し落ち着くこと」も入れてください。
無料で使える情報源もあります。厚生労働省の「こころの耳」には、働く人向けのセルフケア情報が公開されています。まずはここを見るだけでも十分です。
そのうえで、体系的にリストを作りたい方には、伊藤絵美氏の『セルフケアの道具箱』が向いています。
100個のコーピングを書き出すワークが載っており、手を動かしながら進められます。弱点を挙げるとすれば、読むだけの本ではないため、書き込む時間を確保する必要がある点です。
STEP4:点数をつけて、効かなければ手放す
ここが最も重要な工程です。
実行したら、効果を10点満点で採点します。
- 実行前の苦しさを10点満点でメモ
- コーピングを実行
- 実行後の苦しさを採点
- 差が2点未満なら、その方法は今回は合わなかった
上記のとおりです。
大事なのは、合わなかった方法を責めずに手放すことです。加藤氏の研究が示した「手放す力」は、まさにこの動作にあたります。
合わなかった記録も消さないでください。
「どんなときに効かなかったか」が分かると、次の選び方が上手くなります。
繰り返しになりますが、実践は「気づく」「見分ける」「リストを作る」「点数をつけて手放す」の4ステップです。
よくある質問
Q. コーピングリストは何個必要ですか?
A.30個を目安にしてください。
少ないと、その日の状況に合うものが見つかりません。書き出す時点では実行可能性を考えず、思いついた順に並べて構いません。
Q. お酒でストレスを解消するのはダメですか?
A.量と目的によります。
食事とともに楽しむのであれば気晴らしです。一方、考えたくないから飲む場合は回避型に傾きます。
先ほどの3つの見分け方(時間が延びる・後味が悪い・中断すると不安)に当てはまるなら、別の方法に切り替えてください。
Q. 気晴らしばかりなのは逃げでしょうか?
A.逃げではありません。
原因が変えられない状況では、気晴らしが最適解になります。
2006年のメタ分析が示したように、変えられないものに解決を挑むほうが消耗します。
問題は「気晴らししか持っていない」状態です。選択肢が1つだと、切り替えができません。
Q. 効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A.気晴らし型はその場で、認知的再評価型は数週間が目安です。
ただし個人差があります。
2週間続けても変化がなく、眠れない・食べられない状態が続くなら、医療機関の受診を検討してください。
まとめ
本記事の要点は次のとおりです。
- ストレスコーピングとは、ストレスに気づいて意識的に対処すること
- 種類は5つ。問題焦点型・社会的支援探索型・認知的再評価型・情動処理型・気晴らし型
- ただし2026年のメタ分析では、「向き合うか避けるか」のほうが苦痛をよく予測した
- 問題焦点型は万能ではない。変えられない状況では逆効果になりうる
- 日本人6,752人の研究が示したのは、効かない方法を手放して切り替える力
繰り返しになりますが、実践は4ステップです。
気づく、見分ける、リストを作る、点数をつけて手放す。
コーピングは、種類を暗記するものではありません。自分に合うものを探す作業です。
まずは調子のいい日に、リストを10個書き出すところから始めてみてください。
相談先
つらさが続くときは、以下も利用できます。
- こころの耳(厚生労働省)——働く人向けのメンタルヘルス情報
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
- 勤務先の産業医・保健師、地域の精神保健福祉センター
参考文献・出典
- 厚生労働省「こころの耳」働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト https://kokoro.mhlw.go.jp/
- Sowan, W., et al. (2026). Which coping classifications – problem versus emotion or engaged versus disengaged – best predict psychological distress in individuals with cardiac diseases? A systematic review and meta-analysis. Health Psychology, 45(7), 786-795. https://doi.org/10.1037/hea0001581
- Aldridge, A. A., & Roesch, S. C. (2006). Coping and adjustment in children with cancer: a meta-analytic study. Journal of Behavioral Medicine, 30(2), 115-129. https://doi.org/10.1007/s10865-006-9087-y
- Kato, T. (2015). The impact of coping flexibility on the risk of depressive symptoms. PLOS ONE, 10(5), e0128307. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0128307
- Kato, T. (2020). Examination of the Coping Flexibility Hypothesis Using the Coping Flexibility Scale-Revised. Frontiers in Psychology, 11, 561731. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.561731
- Kato, T. (2012). Development of the Coping Flexibility Scale. Journal of Counseling Psychology, 59(2), 262-273. https://doi.org/10.1037/a0027770
※原著論文の抄録はPubMedで確認しています。
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