人間の脳の容量は「ウィキペディア7つ分」と言われるほど、膨大な量の情報を記憶しておくことが可能ですが、覚えていたはずの情報を思い出せなくなったということをよく経験します。
忘却のメカニズムに関してはこれまで多くの科学者たちが研究をしてきており、どのような要因が忘却に関わっているのかを調べてきました。
その中で見出された「人が覚えたことを忘れる原因」3つをご紹介します。
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【忘却のメカニズム】人が覚えたことを忘れる3つの原因とは?
といったド忘れは誰もが経験があるものです。
記憶しているはずなのに、思い出せないというのは何とも歯がゆいですよね。
それでは早速、人は覚えたことを忘れる原因を3つご紹介したいと思います。
記憶痕跡の減衰
人間の脳には約1000億個もの神経細胞(ニューロン)があります。
神経細胞同士はつながっており、神経回路(ニューラルネットワーク)を形成しています。
人は何か学習すると、特定の神経回路が活性化して記憶として残ります。
記憶痕跡とは、学習時に活動した特定のニューロン集団(セルアセンブリ)というカタチで脳内に残った物理的な痕跡のことです。
記憶痕跡の減衰仮説では、記憶した情報があまり思い出されなければ、時間の経過とともに記憶痕跡が薄れていって、忘れてしまうと考えます。
ただ、記憶痕跡の減衰仮説は「忘れて思い出せなかったことを後で再び思い出せるようになったということを説明できない」という批判もあります。
記憶の保管に関する記事はこちら
干渉(順向干渉・逆向干渉)
干渉説は記憶された内容が他の記憶の内容によって妨害されるために忘れてしまうとする説です。
アメリカの心理学者ジェンキンズとダレンバック(1924)は大学生2人を被験者として記憶に関する実験を行いました。
学生には10個の無意味な綴りを完全に復唱できるまで繰り返し読んでもらい記憶してもらった後、
- 一定時間眠った場合
- 起きていた場合
の記憶成績の違いを調べた。
その結果、起きていた場合に生じる忘却の方が眠っていた場合の忘却よりも著しいものでした。
つまり、記憶した後に眠った方が起きていた場合よりも覚えていたのです。
人は常に視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感から膨大な量の情報に晒されています。
そのため、せっかく記憶したことが起きている間にさまざまな情報による干渉を受けたことで、眠った場合よりも忘却量が多くなったと考えられます。
干渉は「順向干渉」と「逆向干渉」の2種類に分けられます。
- 順向干渉は前に記憶した内容がそのあと新たに記憶した内容を思い出すことを妨害すること
- 逆向干渉は新たに記憶した内容がそれ以前の記憶の内容を思い出すことを妨害すること
順向干渉 古い記憶 →(干渉)新しい記憶
逆向干渉 新しい記憶 →(干渉)古い記憶
2つの記憶の内容が似ているほど、干渉量は大きくなる(忘れてしまうことが多くなる)ことが知られています。
検索の失敗
記憶にはいくつかの種類があり、学習によって得た知識は主に「意味記憶」です。
意味記憶とは、教科書・辞典などに載っているような自分の生活史とは特に関係がない一般的知識のことです。
意味記憶は「潜在記憶」に分類されており、何らかのきっかけ・手掛かりがなければ、意識のレベルまでのぼってくることはありません。
前置きが長くなりましたが、検索の失敗説とは覚えた情報を検索するための適切な手掛かりが存在しないために、その情報を見つけ出すことができず、思い出せないとする説です。
タルビングとパールストン(1966)は単語記憶課題において、手掛かりがある場合とない場合とでどのくらい違うのかを調べました。
馬・電車・イスなどの「動物」「乗り物」「家具」のカテゴリーに属する単語のリストを被験者に記憶してもらったあとで、
- 半数の被験者は最初は自由に思い出してもらい、次にカテゴリー名を手掛かりとして与える
- もう半数の被験者は2回とも手掛かりを与えて思い出してもらう
実験の結果、手掛かり再生の方が自由に思い出してもらった場合よりも成績が良かったのです。
自由に思い出すときに出てこなかった単語でも、手掛かりが与えられたことで思い出せた場合がありました。
つまり、忘れて思い出せない場合でも適切な検索手掛かりがあれば、思い出せるようになる可能性があるということを示唆しています。
忘却のメカニズムを考慮した記憶術
寝る直前に勉強する
勉強した後に色々な情報に触れると、勉強したことがその情報に干渉されて思い出せなくなる逆向干渉が起こります。
逆向干渉が起こらないようにするために、「勉強したあとはすぐに寝る」のが効果的です。
実際、寝る直前の時間は“記憶のゴールデンタイム”と呼ばれており、何かを記憶するのに非常に適しています。
記憶の特徴についてはこちらの記事をご覧ください
思い出すための手掛かりを増やす
検索失敗説では、適切な手掛かりがあれば、思い出しやすくなるということが示唆されました。
つまり、何かを覚えるとき思い出すための手掛かりを増やせば良いのです。
心理学の勉強をしていると、さまざまな専門用語を覚えなければいけないのですが、僕は用語を覚えるときにその英語も覚えるようにしています。
- 認知行動療法‐CBT(Cognitive Behavioral Therapy)
- 中年期の危機‐Midlife crisis
- 精神障害の診断と統計マニュアル‐DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder)
のような感じです。
たとえば、「精神障害の診断と統計マニュアル」という言葉を忘れたとしても、
と思い出せるという訳です。
「良い国つくろう鎌倉幕府」などの年号をゴロで覚えるのも、手掛かりを増やす効果があるため思い出しやすくなってます。
気分状態依存効果と気分一致効果
他にも手掛かりとなるものはたくさんあって、「勉強したときの状況」「勉強したときの気分」なんかも手掛かりになります。
楽しい気分のときに勉強したことは、楽しい気分で思い出した方が悲しい気分で思い出すよりも記憶成績が良くなることが知られています。
このように覚えたときと思い出すときの気分が一致している方が、気分が不一致の場合と比べて思い出しやすくなる現象を「気分状態依存効果」といいます。
また、人は楽しい気分のときに面白かったお笑い芸人のネタや楽しかった思い出などの楽しいことを思い出しやすいです。
このように覚えるときや思い出すときの気分と記憶材料の感情価とが一致している場合、不一致の場合と比べて、思い出しやすく(あるいは覚えやすく)なる現象を「気分一致効果」といいます。
最後に
- 記憶痕跡の減衰
- 干渉
- 検索の失敗
という3つの忘却のメカニズム、ご理解いただけたでしょうか?
人が覚えたことを忘れる原因が分かれば、忘れないように工夫をすることが可能になります。
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参考文献
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1.【忘却のメカニズム】人が覚えたことを忘れる3つの原因とは?
2.忘却のメカニズムを考慮した記憶術
3.最後に