自分を守る無意識の心理メカニズム「防衛機制」とは?種類・具体例を解説

 

防衛機制(英語:defence mechanism)とは、危険や困難、受け入れがたい苦痛に晒されたときにそれによる不安やストレスを軽減するため、または何かしらの欲求があるがそれを叶えられない欲求不満の状態で心を落ち着かせるため、無意識的に働く心理メカニズムです。

 

言い換えると、自分の心をストレスから守り、心理的な安定を保つための自己防衛メカニズムです。

 

最もオーソドックスな防衛機制が「抑圧」。

抑圧とは、思い出したくない記憶・感情、本当はやりたくても出来ないことを無意識下に押し込んで、意識しないようにする(忘れようとする)心の働きです。

たとえば、「上司に嫌味を言われたことを忘れる」「大好きな人がいるけど、既に付き合っている人がいるので意識しないようにする」などが挙げられます。

 

防衛機制にはたくさんの種類があり、人のよってよく使う防衛機制は異なります。

 

この記事では、防衛機制という概念はどうやって生まれたのか、防衛機制の種類や具体例を解説していきます。

 

自分はどの防衛機制をよく使うのか考えながら、読み進めてみてください。

 

目次

1.自分を守る無意識の心理メカニズム「防衛機制」とは?

2.ジョージ・E・ヴァイラントによる防衛機制の4つの分類

3.精神病的防衛(英語:psychotic defences)

  1. 否認(英語:denial)
  2. 歪曲(英語:distortion)
  3. 投影(英語:projection)
  4. 分裂(英語:splitting)
  5. 転換(英語:conversion)
  6. 原始的理想化(英語:primitive idealization)
  7. 脱価値化(英語:revaluation)
  8. 分割(英語:compartmentalization)
  9. 躁的防衛(英語:manic defence)

4.未熟な防衛(英語:immature defences)

  1. 投影(英語:projection)
  2. 心気症(英語:hypochondriasis)
  3. 受動・攻撃行動(英語:passive-aggressive behavior)
  4. 行動化(英語:acting out)
  5. 解離(英語:dissociation)
  6. 取り入れ(英語:introjection)
  7. 理想化(英語:idealization)
  8. 退行(英語:regression)

5.神経症的防衛(英語:neurotic defences)

  1. 抑圧(英語:repression)
  2. 置き換え(英語:displacement)
  3. 反動形成(英語:reaction)
  4. 知性化(英語:intellectualization)
  5. 操作(英語:controlling)
  6. 外在化・外部化(英語:externalization)
  7. 阻害・禁止(英語:inhibition)
  8. 分離・隔離(英語:isolation)
  9. 合理化(英語:rationalization)
  10. 離脱・逃避(英語:withdrawal)
  11. 身体化(英語:somatization)
  12. 性愛化・性別化(英語:sexualization)
  13. 打消し(英語:undoing)

6.成熟した防衛(英語:mature defences)

  1. 昇華(英語:sublimation)
  2. 抑制(英語:suppression)
  3. 利他主義(英語:altruism)
  4. ユーモア(英語:humour)
  5. 予想・想定(英語:anticipation)
  6. 禁欲(英語:asceticism)
  7. 友好(英語:affiliation)
  8. 自己主張(英語:self-assertion)
  9. 補償(英語:compensation)
  10. 同定と取り込み(英語:identification introjection)
  11. 気晴らし・気分転換(英語:distraction)

7.まとめ

自分を守る無意識の心理メカニズム「防衛機制」とは?

防衛機制とは、不安や罪悪感、恥などの不快な感情を弱めたり、避けたりして心の安定を保つために使われる心理メカニズムです。

 

防衛機制の多くは、幼少期の未熟で弱い自我が不満や不安に対処するために、使ってきたものです。防衛機制には、発動された状況と頻度に応じて、「健康なもの」と「不健康なもの」があります。

不健康な防衛機制ばかりを使うと、偏った人格が形成されていき、社会不適応に陥ってしまったり、精神疾患になったりしてしまいます。

 

ジークムント・フロイト(独:Sigmund Freud)

防衛機制は元々、精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトのヒステリー研究の中で考えられた概念です。

 

その後、フロイトの娘のアンナ・フロイトやアンナ・フロイトと同じく児童分析家のメラニー・クラインによって、防衛機制という概念がより整理されていきました。

 

ジョージ・E・ヴァイラントによる防衛機制の4つの分類

防衛機制には、その人の「心の成熟度」が現れます。

もちろん、人間はとても複雑な生き物ですから、防衛機制だけでその人の心の成熟度が測れる訳ではありませんが、1つの指標としては役立ちます。

 

ハーバード大学医学部教授のジョージ・E・ヴァイラント(George.E.Vaillant)が防衛機制を心の成熟度に沿って、以下の4つのレベルに分類しました。

  1. 精神病的防衛
  2. 未熟な防衛
  3. 神経症的防衛
  4. 成熟した防衛

 

ヴァイラント氏は50年以上にわたって「成人発達の研究」に携わってきた人物です。

長年の追跡研究の中で「幸福な老い」の決め手は、遺伝子や富、人種ではなくて、個人のライフスタイルの選択であることが分かりました。

 

そんな研究の数々の中からヴァイラント氏が考え出した防衛機制の4つのレベルをご紹介します。

 

精神病的防衛(英語:Psychotic defences)

最も原始的な防衛機制です。

発達早期(5歳より前)によく用いられる防衛機制ですが、成人になってからもこのレベルの防衛機制を頻繁に使う人は精神病レベルが高いと言えます。

 

精神病的防衛には次のような防衛機制があります。

  1. 否認(英語:denial)
  2. 歪曲(英語:distortion)
  3. 投影(英語:projection)
  4. 分裂(英語:splitting)
  5. 転換(英語:conversion)
  6. 原始的理想化(英語:primitive idealization)
  7. 脱価値化(英語:revaluation)
  8. 分割(英語:compartmentalization)
  9. 躁的防衛(英語:manic defence)

 

否認(英語:denial)

否認とは受け入れがたい現実、不快な体験を無意識的になかったことにしてしまう防衛機制です。

否認を用いる人は、視界に入っているけど「見えてない」、聞いているけど「聞いてない」、知っているはずだけど「知らない」と言うなど、現実や体験をなかったことにしてしまいます。

 

アルコール依存症などの薬物依存症患者は、よく否認を用いる傾向があります。

 

お医者さん
飲酒の頻度や量を考えると、あなたはアルコール依存症のようですね。
否認する人①
いやっ俺はアルコール依存症じゃない

 

あとは宗教にどっぷりハマっている人も否認を用いる傾向があります。

 

教祖が何かしらの失態をしたとしても認めなかったり、ちょっとそれは違うんじゃないの?と思うようなことを言ったとしても、

否認する人②
教祖様は絶対に信用できる

と他の人の言葉を聞こうとしなかったりします。

 

あとでご紹介する神経症的防衛機制の「抑圧」も不快なことを忘れさせる働きをしますが、否認の特徴は知覚したうえで、その現実や体験をかたくなに認めないことです。

 

「見て見ぬふりをする」といった状態で、現実を知覚している自我と、その現実は受け止められず認めない自我とが分裂した状態とされています。

 

歪曲(英語:distortion)

歪曲とは自分の内なる期待・希望などの内的なニーズに合うように、外の現実世界を歪めて解釈する防衛機制です。

 

痴漢を犯す人は薄着の女性を見て「きっと痴漢して欲しいんだな」と現実を歪めて解釈することがあります。

 

投影(英語:projection)

投影とは自分の中にある受け入れがたい感情や衝動を他者も同じだと思い込む防衛機制です。

 

嫌いな上司がいるとしたら、

投影する人
あの上司は自分のことを嫌っている

と自分の感情を他人に投影して、他人の感情として認識します。

 

分裂(英語:splitting)

分裂とはある対象や自分に対して「良いイメージ」と「悪いイメージ」を別のものとして隔離し、「良いイメージ」が「悪いイメージ」によって汚染・破壊されないようにする防衛機制です。

 

分裂を用いる人は恋人や家族など自分にとって大切な人に対して、悪いイメージを抱きたくないがゆえに、そうした人が持つ悪いところや負の側面を無視します。

そして大切な人が行う悪事を見逃したり、悪事に加担してしまったりしてしまうケースもあります。

 

また、自分が持っている欠点・弱点を認められずに、良いところだけを受け入れ、自分の持っている欠点・弱点は他人に投影して責任転嫁するケースも分裂にあたります。

 

あとでご紹介する抑圧が「臭いものにフタをする」のに対し、分裂は「それぞれ別の箱に入れて」しまうようなものです。

分裂させた自己の悪い部分は、しばしば相手の中に「投影」されます。

 

転換(英語:conversion)

転換は抑圧された衝動や葛藤が、麻痺や感覚喪失といった身体症状として現れる防衛機制です。

 

転換は転換性障害(ヒステリー)の患者によくみられます。転換性障害とは、無意識のうちにストレスが身体に転換されてしまう病気です。

カラダに異常があるわけではないのですが、転換性障害の患者にとっては本当に症状があるのです。

 

その症状の表れ方はさまざまで、

  • 「喉に違和感がある」「吐き気がする」といった臓器症状
  • 「手の感覚がない」「耳が聞こえない」といった感覚欠落症状
  • 「声が出ない」「痙攣してしまった」といった運動症状

人によって症状は異なります。これらの症状は医学的に説明がつけられません。

 

転換性障害は軽いものであれば、3人に1人くらいは経験しています。

その大半は数回だけ起こり繰り返しませんが、中にはストレスがかかるたびに繰り返す方もいます。

 

参考

医者と学ぶ心と体のサプリ「ストレスが症状となる転換性障害とは?転換性障害の症状と治療」

 

原始的理想化(英語:primitive idealization)

原始的理想化は自己と対象が「分裂」している状態で、分裂させた一方を過度に「理想化」してすべて良いものとみなす防衛機制です。

 

幼い頃の自分を思い出してみてください。

悲しい時、ケガをした時などあらゆる場面で、自分を守ってくれた親。

子ども
僕の親は何でも出来るんだ!

 

と何でも超人的にこなすスーパーマンであるかのように、理想化していた人もいるはず。

 

マインドパレッサー
実際、僕は自分の親に限らず、学校の先生や周囲の大人はみんな超人的な振る舞いをする人たちだと理想化していました。

 

脱価値化(英語:revaluation)

脱価値化は自分の期待を満たさない対象を理想化せずに、価値のないものとして過小評価する防衛機制です。

 

対象の価値を下げる意味は、期待に応えない対象に対する「報復」という目的と、怒りを向けた相手がのちのち自分を脅かすだろうと予測されるため、「相手の能力を弱める」という意味があります。

 

児童の発達においては、「理想化」と「脱価値化」は非常に正常なものです。

しかし、幼少期の精神的外傷などによって発達段階が中断された場合は、成人期までこれらの防衛機制を保持することがあります。

 

分割(英語:compartmentalization)

分割は自分の中にある価値観、感情、信念、認知同士が衝突したときに生じる*認知的不協和や精神的な不快感、不安などを避けるために、自分を分割して、別々の個人として行動する防衛機制です。

 

つまり、分割した別々の自分間の相互作用を切り離すことによって、自分の中にある相反する価値観、感情、信念、認知を共存可能にします。

 

分割は多重人格障害などに関連します。

 

躁的防衛(英語:manic defence)

躁的防衛は自分の大切なものを失ったり、傷つけてしまったと感じた時に生じる不安や抑うつといったネガティブな感情を意識しないように、無理して明るく振る舞おうとする防衛機制です。

 

  • 優越感(征服感)
  • 支配感
  • 軽蔑感

の3つの感情に特徴づけられます。

 

うつ気分とは真逆の躁の気分で抑うつの痛みを振り払おうとします。

 

未熟な防衛(英語:Immature defences)

3~15歳の未成年にとっては通常の防衛機制ですが、成人でもしばしば未熟な防衛が用いられます。

 

  1. 投影(英語:projection)
  2. 心気症(英語:hypochondriasis)
  3. 受動・攻撃行動(英語:passibe-aggressive behavior)
  4. 行動化(英語:acting out)
  5. 解離(英語:dissociation)
  6. 取り入れ(英語:introjection)
  7. 理想化(英語:Iidealization)
  8. 退行(英語:regression)

 

投影(英語:projection)

精神病的防衛にも「投影」がありましたが、精神病的防衛での投影は「妄想的投影」や「原始的投影」と言われます。

 

投影は自分の中にある感情・願望・思考を自分以外の誰かのものであると認識する防衛機制です。

 

たとえば、

  • 苦手な人がいてその人を避けていても、自分がその人を避けているとは思わず、その人が自分を避けていると認識する。
  • 自分が性的に魅力を感じている相手がいるが、相手が自分に対して好意を持っていて、「自分は誘惑されている」と認識する。

 

心気症(英語:hypochondriasis)

心気症は他人に対して怒り、恐れ、嫉妬などのネガティブな感情を抱いても、「自分が他人にネガティブな感情を持ってる」とは認識せずに、自分の健康状態に向けてしまい、「自分は健康ではない」「自分は病気だ」と認識する防衛機制です。

 

受動・攻撃行動(英語:passive-aggressive behavior)

受動・攻撃行動は相手に対してネガティブな感情を抱いていても、直接的には表現せずに、黙ったり、義務を放棄するなどで相手に反抗する防衛機制です。

 

行動化(英語:acting out)

行動化は自分の中に抑圧された衝動や願望、葛藤を受け止めたり、管理したりするのではなく、社会的には受け入れがたい問題行動として表現する防衛機制です。

 

  • リストカット
  • 自殺企画
  • 性的逸脱行為
  • 暴言・暴力
  • 過食・拒食
  • 浪費
  • 万引き
  • 薬物依存

などが例として挙げられます。

 

解離(英語:dissociation)

解離は受け入れ難く、解決が難しい現実から遠ざかることで、そのときの感情や思考、体験を自分から切り離して自分を守る防衛機制です。

 

  • ある日の出来事の記憶がスッポリ抜けてしまった
  • 知らないうちに、徘徊していた
  • 自分自身が傍観者であるかのように感じる

などが例として挙げられます。

 

取り入れ(英語:introjection)

取り入れは自分と他人を区別せずに、他人の持っている特性(感情、思考、印象)を自分に取り入れる防衛機制です。

 

簡単にいうと、他人を一部をマネすることです。

 

マインドパレッサー
少年期は好きなタレントや近所のカッコいいお兄さんの髪型や服装、話し方なんかをマネしますよね?それです。

 

理想化(英語:idealization)

理想化は無意識のうちに、自分や他者が実際に有している以上の能力・価値があると認識する防衛機制です。

 

退行(英語:regression)

退行は受け入れがたい状況に直面したときに、現在の自分よりも幼い時期の発達段階に戻る防衛機制です。

 

不安なときに他人の話を鵜吞みにしやすくなったりする現象も退行の一種です。

これは防衛機制の「取り入れ」をよく用いる*発達段階まで退行したことでおこります。

 

退行の多くは無意識的におこりますが、意識的におこる場合もあります。

この場合の退行は特に「病的退行」と呼ばれます。

 

病的退行の他には、「治療的退行」「創造的退行(健康的退行)」などがあります。

病的退行は比較的長い期間、昨日の低下を起こしますが、治療的退行は治療を行ったことで現れる、一時的な現象です。

 

発達段階に関する記事

 

神経症的防衛(英語:Neurotic defences)

ストレスの対処として、成人でも用いる防衛機制です。

 

神経症的防衛には次のような防衛機制があります。

  1. 抑圧(英語:repression)
  2. 置き換え(英語:displacement)
  3. 反動形成(英語:reaction)
  4. 知性化(英語:intellectualization)
  5. 操作(英語:controlling)
  6. 外在化・外部化(英語:externalization)
  7. 阻害・禁止(英語:inhibition)
  8. 分離・隔離(英語:isolation)
  9. 合理化(英語:rationalization)
  10. 離脱・逃避(英語:withdrawal)
  11. 身体化(英語:somatization)
  12. 性愛化・性別化(英語:sexualization)
  13. 打消し(英語:undoing)

 

抑圧(英語:repression)

冒頭でご紹介した最も基本的な防衛機制です。

抑圧は自我にダメージを与えるような不快な記憶・感情・思考などを無意識の世界へ追いやって忘れてしまう防衛機制です。

 

  • 振られた恋人の名前を思い出せない
  • 本当はやりたいことがあるけど、お金がないし、結婚したからと難しいなと次第に忘れていく

 

などが例として挙げられます。

 

置き換え(英語:displacement)

置き換えは強い感情・叶えたい欲求があるけど、そのままの形で叶えるのが難しい場合に、手近で叶えやすいものに対象を移す防衛機制です。

 

  • 赤ちゃんが母親のおっぱいを飲みたいけど飲めないときに、指しゃぶりをする
  • 会社で上司に叱られたけど言い返すことができず、帰宅後、家で妻に八つ当たりする

などが例として挙げられます。

 

【置き換えの対象になりやすい人の特徴】

  • 「自分よりも弱い存在」と本人が認識している人物
  • 欲求不満の対象に近い人物

 

欲求不満の対象に近い人物というのは、たとえば、学校で成績優秀な生徒に見下されたと本人が感じて、たまたま廊下ですれ違った別の成績優秀な生徒に敵意を向けるとかです。

 

反動形成(英語:reaction)

反動形成は意識すると不安・不快な気分になるような感情・欲求を意識しないようにするために、それとは反対の行動を無意識的にとる防衛機制です。

 

  • 嫌いな相手にすごく丁寧に接する
  • 小心者が虚勢をはる
  • 好きな相手にイジワルをする

などが例として挙げられます。

 

本心とは正反対の態度や行動を取り続けることになるため、それがストレスとしてどんどん蓄積していくことになります。

そのため、精神的に追い詰められて、うつ病や神経症といった症状として現れることがあります。

 

知性化(英語:intellectualization)

知性化は自分自身を直視することを避け、難しい専門用語で理論武装する防衛機制です。

 

難しい専門用語やそれっぽい言葉を多用することで、自分では何かを理解しているつもりになっていても、実は本質的なことは何も理解していません。

知性化は不安や無力感から逃れるために、知性の世界、観念的の世界に逃避する防衛機制と言えます。

 

具体例
  • 自分が病気になったとき、病気について色々調べることで不安を和らげる
  • 他人とのコミュニケーションが苦手で、コミュニケーションに関する本などで知識をかき集めるけど、実際に行動に移さず、知識を集めることで満足する

 

知性化の背後には、「他人に対して優越感を持ちたい」「支配したい」という気持ちがあります。

 

知性化は多用し過ぎると、この先でご紹介する「分離・隔離」と同様に、感情が生じなくなってしまいます。

 

感情が自分から切り離され、知性の世界へ逃げ込んでしまうと感情閉鎖的になり、人間関係がうまくいかないという事態に陥ります。

 

操作(英語:controlling)

操作は不安から逃れるために、外部環境を過度に管理または規制する防衛機制です。

 

具体例
友人から「赤ちゃんがいつの間にかうつ伏せに寝ていてヒヤッとした」という話を聞き、我が子を守るためにあらゆる最新機器、カメラを複数台、ベビーシッターを複数人雇う。

 

外在化・外部化(英語:externalization)

外在化・外部化は自分の内部特性を外部の世界、特に他の人びとに投影する防衛機制です。

 

具体例
怒りっぽい人が自分のことは棚に上げて、他の人のことを「あの人は怒りっぽい人だな」と認識して、自分は非の打ち所がないと考える。

 

外在化・外部化も他の防衛機制と同じく、不安から身を守るための通常の機能ですが、行き過ぎると神経症の発症につながる危険性もあります。

 

阻害・禁止(英語:inhibition)

阻害・禁止は不安や葛藤を避けるために、あえて目標達成への意欲を無意識的に抑えてしまい、他の道を選ぶ防衛機制です。

 

分離・隔離(英語:isolation)

分離・隔離は自分の思考・行為と感情を切り離す防衛機制です。

 

具体例

パートナーに暴力を振るうという行為をすると、ふつう加害者は「罪悪感」という感情を抱きます。

しかし、分離を使うと「パートナーに暴力を振るう」と「罪悪感」が切り離されるので、淡々と暴力を振るうようになります。

 

合理化(英語:rationalization)

合理化は満たされない要求や受け入れがたい現実を理論化して考えることにより自分を納得させる防衛機制です。

 

合理化を説明するのに、よくイソップ寓話『すっぱい葡萄』が用いられます。

この話は、キツネが木になっている葡萄を取ろうとするんですが、木の上の方にある葡萄に届かないため、「あの葡萄はすっぱいに違いない」と自分を納得させる、というお話です。

 

「自分の感情(葡萄を食べたい)」と「自分の行動(葡萄に届かない)」が矛盾している状態を心理学の世界では、「認知的不協和」といいます。

 

強盗などの犯罪に巻き込まれた被害者がときおり加害者に好意を抱く「ストックホルム症候群」という状態に陥ることがあります。

 

認知的不協和はストックホルム症候群の原因の一つではないかと考えられています。

 

離脱・逃避(英語:withdrawal)

離脱・逃避は受け入れられない現実や嫌なことから逃げ出すことによって、心を安定させる防衛機制です。

 

離脱・逃避には以下の4つがあります。

  1. 逃避‐状況から逃げ出すことで、不安や緊張などから自分を守る。(例:嫌いな上司に会わないようにする)
  2. 現実への逃避‐困難な状況に直面するのを避けて、それとは直接関係のない別の行動に没頭することで不安を解消する。(例:テスト勉強をしなきゃいけないのに、部屋の掃除を始める)
  3. 空想への逃避‐受入れ難い現実から空想の世界へ逃げて、心を安定させる。(例:テスト勉強をしながら、「学校が家事になってテスト中止にならないかなぁ」と空想する)
  4. 病気への逃避‐病気を理由に困難な状況から逃れる。これは仮病とは異なり、本当に身体症状として現れます。(例:会社へ行こうとすると頭痛がしたり、熱が出たりする)

 

②現実への逃避なんかは多くの人が使っているのではないでしょうか。

 

離脱・逃避は困難な状況から逃げているだけなので、根本的な解決にはなりませんが、逃げている間に心が多少安定して、困難な状況を受け入れる準備をするのに役立ちます。

 

身体化(英語:somatization)

身体化は不安や心理社会的ストレスを身体症状のカタチで訴える防衛機制です。

 

米国精神医学会の定める精神障害の分類基準(DSM)では、身体化は「*身体表現性障害(somatoform disorder)」の中に位置づけられています。

 

身体化の定義は「器官に明確な病理所見を欠いた状態で身体的不調を表現すること」および「病気的に確認された疾病に対する症状の誇張」(Katon et al.)です。

 

そして診断の際に、

  • 器質的な病変および生理的な変化が認められない
  • 薬物を服用していない
  • 医師によって外的な生活規制がない

ことを前提としています。

 

用語解説
身体表現性障害‐ストレスが身体症状となって現れる病気。身体をいくら調べてもどこも悪くないのに、明らかに本人にとっては症状があったり、身体の不安が尽きないといった障害。

 

性愛化・性別化(英語:sexualization)

性愛化・性別化は痛みや恐怖の体験を好ましい興奮の体験に変換する防衛機制です。

 

具体例
虐待などの恐怖を満足のいく体験として感じるために、性的な体験として認識する

 

打消し(英語:undoing)

打消しは他者に対してある行動を取ったあと、不安・罪悪感を感じ、その感情を打ち消すために全く逆の行動を取る防衛機制です。

 

具体例
  • 浮気をした罪悪感から、パートナーに対していつもより優しく接する
  • 子どもと遊ぶ時間を持てない親が過度におもちゃを与える

 

成熟した防衛(英語:Mature defences)

成熟した防衛は精神病的防衛、未熟な防衛、神経症的防衛を制御する上で重要であり、“意識して行われる”防衛機制です。

 

多くは12歳以降で用いられ、精神の安定・豊かな人生・幸福の実感・心身の健康のために必要不可欠なものです。

 

ツライ体験をしたときに、意識して使うことで自然と強化されていきますが、意識することを止めてしまうと、精神病的防衛、未熟な防衛、神経症的防衛に戻ってしまうとも言われています。

 

  1. 昇華(英語:sublimation)
  2. 抑制(英語:suppression)
  3. 利他主義(英語:altruism)
  4. ユーモア(英語:humour)
  5. 予想・想定(英語:anticipation)
  6. 禁欲(英語:asceticism)
  7. 友好(英語:affiliation)
  8. 自己主張(英語:self-assertion)
  9. 補償(英語:compensation)
  10. 同定と取り込み(英語:identificaion introjection)
  11. 気晴らし・気分転換(英語:distraction)

 

昇華(英語:sublimation)

昇華は社会では受け入れられないような欲望、衝動、感情を社会に受け入れられるような建設的な行動のエネルギーへと転化させていく防衛機制です。

 

具体例
学生時代にありあまるエネルギーを暴力や万引きなどには注がず、スポーツで汗を流したり、芸術活動に打ち込む

 

まだ未熟な場合は昇華ができず、非社会的な欲望、衝動、感情が「行動化(未熟な防衛)」してしまいます。

 

抑制(英語:suppression)

抑制は衝動を意識的に我慢したり、抑えたりする防衛機制です。

 

具体例
自宅に部下を連れてきた夫の横柄な態度にムカッとして何か言ってやりたかったけど、夫の部下もいるし、とりあえず帰るまでは我慢しようとする

 

利他主義(英語:altruism)

利他主義は自分の利益よりも他人の利益を優先する防衛機制です。

 

罪の意識などから解放されたくて、他人のために行動することもありますが、ここ言うの利他主義はお互いの共感、他者への理解力、思いやりをベースにした「成熟した利他主義」です。

 

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ユーモア(英語:humour)

ユーモアは言わずもがな、人を和ませるような面白いことです。

 

ユーモアが防衛機制?と不思議に思うかもしれませんが、フロイトは“最も高いレベルの防衛機制である”と述べています。

 

ヴァイラント氏も以下のように述べています。

対人関係の緊張を緩和する上でユーモアほど効果的なものはない。

不快感をユーモアで示すことが重要である。

 

ユーモアはほど良い自己洞察をもたらしてくれますし、対人関係を円滑にする“潤滑油”でもあります。

 

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予想・想定(英語:anticipation)

予想・想定はストレスフルな出来事が待ち受けているとき、色んなパターンを想定したり、失敗に備えたり、良い未来をイメージしたりする防衛機制です。

 

具体例
歯医者が苦手な人が歯医者へ行く前や治療を行っている時に、「前回はあまりい痛みもなく、何事もなく終わったんだから、今回も大丈夫だろう」「もう少しで終わりだ」と自分に言い聞かせる

 

禁欲(英語:asceticism)

禁欲は自分の欲望にこだわらずに手放したり、「放棄」の選択をする防衛機制です。

 

周りの人に合わせて無理に我慢するのでも、「禁欲的であること」を鼻にかけて他の人を下に見るのでも、「自分は欲望を超越した一つ上のステージにいる」という虚栄心でもない。

 

現実をしっかりと見据え、理解と見極めから生じた成熟した諦めです。

 

友好(英語:affiliation)

友好は自分の中で起こっている葛藤を他の人と共有し、助けを求める防衛機制です。

 

自己主張(英語:self-assertion)

自己主張は自分の気持ち・意見・要望を言葉で直接表現して、礼儀正しく敬意を払って他者に伝える防衛機制です。

 

相手を攻撃したり、威圧したり、操作することが目的ではなく、自分や他者の目標を達成することを目指します。

 

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補償(英語:compensation)

補償は自分が失敗したり、劣等感を感じた時、他の領域・分野で成果を出して、傷ついた心を埋め合わせる防衛機制です。

 

具体例
家庭生活が上手くいっていない人が、仕事で頑張って成果を出す。

 

上の例では、仕事で成果を出せると心に余裕が生まれ、家庭生活でも寛大になれるので、好転しやすいです。

 

同定と取り込み(英語:identification introjection)

同定・取り込みは他者の「良いなぁ」という所を見習う防衛機制です。

 

気晴らし・気分転換(英語:distraction)

気晴らし・気分転換は不快になったり、気分がふさぎ込んだりしたときに、気分を前向きに切り替える防衛機制です。

 

まとめ

防衛機制は自分一人では抱えきれないものに対する対処方法です。

 

精神病的防衛や未熟な防衛などの低次の防衛が悪いというわけではなく、成人になっても多くの人が使います。

 

ただ、低次の防衛ばかりを使うのはいけません。

低次の防衛ばかり使うと、精神疾患を患いやすくなってしまいます。

 

逆に高次の防衛を使っていても、同じ防衛ばかりを使っていたら、いずれ破綻してしまいます。

 

大切なのは、どれか特定の防衛機制ばかりを用いるのではなく、複数を組み合わせてバランス良く使うことです。

 

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参考

心 精神の病・健康と創造性の心理学「防衛機制の多元性 未熟から成熟へ」

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。