脳の発達が生まれつき通常と異なることで、生活に支障をきたしてしまう場合があるのが「発達障害」です。
厚生労働省が2018年4月9日に、在宅の障害児の生活実態とニーズを把握することを目的とした「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」の結果を公表しました。
その調査によると、医師から発達障害と診断された人は、48万1000人と推計されました。
近年、「大人の発達障害」が注目されていますが、発達障害は大人になってから急に発症するというものではありません。
幼少期から発達障害の特性はあったものの周りから気づかれず、社会人になって業務やコミュニケーションに支障が出てはじめて気づくというパターンが多いです。
この記事では、そんな発達障害の主要な3つの症状を分かりやすく解説していきます。
主要な3つの発達障害とその症状を分かりやすく解説
発達障害のうち主なものは「自閉スペクトラム症(ASD)」「注意欠陥多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」の3つです。
さらに、3つの中でも実際に診断を受けることが多いのは、ASDとADHDだと言われています。
それでは、主要な3つの発達障害の症状を解説していきます。
自閉スペクトラム症(ASD)
「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)」とは、正常な社会的関係を構築することができず、言葉の使い方に異常がみられる、または全く言葉を使おうとせず、興味や行動のこだわり(かたより)がみられる精神疾患です。
ASDは以前まで、「自閉症」や「アスペルガー症候群」と呼ばれていました。
国際的な精神疾患の診断基準である「DSM」の第5版であるDSM-5から、「自閉症」と「アスペルガー症候群」は新たに作られた名称である「ASD」にまとめられました。
元々、自閉症は言葉の発達に遅れがみられるもので、アスペルガー症候群はその遅れがみられないものと区別されていましたが、現在では自閉症もアスペルガー症候群も本質的には同じ、連続した(スペクトラム)一つの発達障害だと考えられています。
ASDの症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 人とのコミュニケーションの難しさ
- 俗に言う「空気が読めない」
- 雑談ができない
- 要点が分からない
- 報・連・相ができない
- 重要な約束、業務を忘れる
- 計画的に物事が進められない
- マルチタスクが難しい
- 適度な息抜きができない
上記の症状以外にも、興味があることに関しては、専門家顔負けの知識を持っているといった一面もあります。
ASDの症状は軽度から重度までと幅広いものの、大半が他者とコミュニケーションを取ったり、関係を持ったりするのが苦手、行動・興味・動作のパターンが限定的で、多くの場合、決まった行為に従って毎日を過ごすといった面で支援が必要になります。
ASDの症状は2歳までに現れることもありますが、軽症の場合は学齢期まで分からないこともあります。
最近の統計によると、ASDは約68人に1人の割合で起き、女児よりも男児で4倍高くみられます。
自閉スペクトラム症をより深く理解したい方は2021年3月26日公開予定の「旅立つ息子へ(英題:Here we are)」を観てみてください。
東京国際映画祭で2度グランプリを獲得しているイスラエルのニル・ベルグマン監督の作品で、自閉スペクトラム症の息子を守る父と、心優しい青年に成長した二十歳の息子を描いた感動作です。
注意欠陥多動性障害(ADHD)
「注意欠陥多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)」とは、注意力の乏しかったり注意の持続時間が短いといった状態、年齢不相応の過剰な活動性や衝動性のため機能や発達が妨げられている状態のうち一方、もしくは両方がみられる精神疾患です。
ADHDは脳の病気で、生まれたときからみられる場合もあれば、出生直後に発症する場合もあります。
ADHDの症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 長期間とりかかる必要がある仕事は後回し
- 時間の見込みが甘い
- 遅刻が多い
- 注意散漫、集中力が持続しない
- ケアレスミスが多い
- 業務の優先順位がわからない
- 失言が多い
- 思いつきと見られるような行動をとる
上記の症状以外に、気配りが上手く、困っている人がいれば誰よりも早く気づき、手助けすることができるといった一面もあります。
ADHDの徴候の多くは4歳までに気づかれ、ADHDの症状が12歳までにはほぼ明らかになります。しかし、中学生になるまで、学業成績や社会生活に大きな悪影響を及ぼさないこともあります。
ADHDの患者数は、学齢期の小児の8~11%がADHDと推定されており、男児に2倍多くみられます。
ADHDをより深く理解したい方は、2006年にアメリカで公開された「サムサッカー」を観てみてください。
親指を吸う癖(サムサッキング)が止められない17歳の少年の成長を、彼を取り巻く人々との交流を通して優しく描いたヒューマン・ドラマです。
学習障害(LD)
「学習障害(Learning Disability:LD)」とは、知能の遅れが見られないにもかかわらず、読む・書く・聞く・話す・推論するなどの行為に関して、何らかの障害を示す精神疾患です。
学習障害は「知的障害」と同じと考えている人もいますが、学習障害は知的障害とはまったく異なるものです。
学習障害は知能が正常であったり高かったりする場合にも生じ、ある特定の機能に限って障害がみられます。
一方、知的障害は認知機能全般に障害が認められます。
よくある学習障害には、以下の3つのタイプがあります。
- 読字障害(ディスクレシア)
- 書字障害(ディスグラフィア)
- 算数障害(ディスカリキュラ)
読字障害(ディスクレシア)
「読字障害(ディスレクシア)」とは、知的能力および一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害です。
失読症、難読症、識字障害、(特異的)読字障害、読み書き障害、とも訳されます。
「ET」「ジュラシックパーク」など知られるスティーブン・スピルバーグ氏もこの読字障害であると公表しています。
書字障害(ディスグラフィア)
「書字障害(ディスグラフィア)」とは、学習障害のうち、文字を書くことに困難を抱える障害です。
「文字を書くことが困難」と言っても、努力していないから書けないわけではありません。単に書くのが苦手ということとは質的に異なります。
算数障害(ディスカリキュラ)
「算数障害(ディスカリキュラ)」とは、数の理解・数の扱い方の学習・数学的計算の実行・数学における事実の学習などの算術の学習、あるいは理解の困難を抱える障害です。
算数障害の一般的な症状は、暗算、時間の分析とアナログ時計の解読に困難のあること、数を伴う系列反応課題に苦労することで、また彼らはよく数を足し合わせる際に指で数えます(“算数障害”, wikipedia)。
ASD・ADHD・LDの3つの関係とその他の発達障害
自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)・学習障害(LD)をそれぞれ解説してきましたが、実はこれらの症状は互いに重なり合っており、完全に区別することは困難だとされています。
つまり、ASDによく見られる症状もADHDによくみられる症状も現れるといったことも多いのです。
これら3つの他にも、以下のようなものも発達障害に含まれます。
- チック症・・・突発的で、不規則な体の一部の速い動きや発声を繰返す状態 が一定期間継続する障害
- 吃音症・・・言葉が円滑に話せなかったり、スムーズに言葉が出てこない障害
発達障害のある人が職場以外で困ること
発達障害のある人たちは日常生活の場面でもさまざまな困りごとを抱えています。
- 自分の給料に見合わないモノを衝動買いをするなど、金銭管理ができない
- リフレッシュするためのレパートリーが少なく、ストレスを上手くコントロールできない
- 身なりを整えるために定期的に洗濯する、衣類をクリーニングに出す、散髪するなどができない
- 家中散らかっているけど、片づけられない
- 約束を忘れる
- 同じものばかり食べるなど、栄養のバランスを考慮した食事ができない
これらのような困りごとを放置しておくと、仕事に集中できなくなったり、生活が破綻し就労継続が困難になることもあります。
発達障害のある人たちが仕事を続けていくためには、日常生活を送るうえで必要な基本的なスキルも大切になります。
最後に
発達障害は遺伝的な原因に加えて、妊娠時の母親の糖尿病、出産時の低酸素状態などが原因ではないかと考えられています。
親のしつけや愛情不足が原因だと誤解されていることがありますが、それらは現在では否定されています。
【参考文献】
科学雑誌「Newton」2020/10 精神の病気の取扱説明書
渡辺 慶一郎(2020)大人の発達障害の理解と支援 金子書房
【あわせて読みたい】
【BlogPickerオススメ記事】
▼このブログを応援する▼
1.発達障害の主要な3つの症状を分かりやすく解説
2.ASD・ADHD・LDの3つの関係とその他の発達障害
3.発達障害のある人が職場以外で困ること
4.最後に