人は嘘か本当か、よくわからない情報でも、他人に話してしまうことがあります。
なぜ人は真偽もわからない「うわさ」を流してしまうのでしょうか?
そして、うわさの中には社会に影響を及ぼしてしまうほど広まる「うわさ」もあれば、知り合いの中だけで広まる「うわさ」もあります。
広まりやすい「うわさ」とそうでない「うわさ」の違いは何なのでしょうか?
この記事では、広まりやすい「うわさ」とは何なのか、うわさをする意味とは何なのか、について解説していきます。
なお、うわさと似た言葉に「デマ」があります。
心理学の世界では、デマは「嘘であることが分かっているのに、意図的に流す情報」と定義していて、「うわさ」とは区別されます。
【うわさの心理学】広まりやすい「うわさ」とは?
社会に影響を与えるくらい広まる「うわさ」と知り合いの間にしか広まらない「うわさ」。
一体、この違いは何なのでしょうか?
アメリカの心理学者であるスタンレー・シャクターとハービー・バーディックはこの違いを調べるために、うわさの広まりやすい状況を作って実験を行いました。
自分にとって重要な「うわさ」ほど広まりやすい
スタンレー・シャクターとハービー・バーディックはアメリカの小さな女子校を舞台として、中学1年生~高校3年生の6クラス計96人を対象に実験を行いました。
6クラスを2クラスずつの3グループに分けて、うわさを流させる別の「しかけ」をほどこしました。
朝の授業が始まる 8:15 に担任が生徒を呼び出し、勉強の進み具合などについて面談を行いました。この面談は普段から行われているものです。
その面談の終わり際に、担任が「職員室から試験問題が盗まれた」という、いかにも「うわさ」の種になりそうな情報を生徒に伝えました。
「職員室から試験問題が盗まれた」という情報を生徒に伝えたことを「しかけ①」とします。
8:25 朝の授業が始まると、突然、校長が教室に入ってきて、生徒1人に「荷物をまとめてついて来なさい」と言いました。このとき、校長は呼び出す理由に関して、他の生徒に何も伝えませんでした。
校長が「荷物をまとめてついて来なさい」と言い、その理由を他の生徒に伝えなかったことを「しかけ②」とします。
- グループA‐しかけ①のみをほどこした
- グループB‐しかけ①と②をほどこした
- グループC‐しかけ②のみをほどこした
のようにしかけのパターンを変えて、それぞれにどのような違いが出るのかを調べました。
クラス間での交流があったため、片方の「しかけ」しか伝えられていないグループもほぼ全員、両方のうわさを知っていました。
しかし、生徒1人が「うわさ」を伝えた人数に違いが現れました。
- グループA‐平均1.10人
- グループB‐平均2.86人
- グループC‐平均2.28人
という結果になりました。
研究チームは以下のように実験結果を説明しました。
グループBとCは、目の前でクラスメートが校長に呼び出された。これは、場合によってはクラスの日常を揺るがしかねない一大事だ。
そのため、いろいろな人と「うわさ」をした。
一方、グループAにとっては、ほかのクラスの生徒が校長に連れて行かれてもそれほど重大ではないため、うわさを話す量が量が少なかった。
つまり、「しかけが生み出した状況が、彼女たちにとってどれほど重大だったか」が、うわさの拡散に関係したと考えられたのだ。
引用:Newton 2020/6 P122 「うわさとデマ」の心理学
不安を煽る「うわさ」は広まりやすい。「恐怖流言」の力
アメリカの心理学者ロバート・ナップは第二次世界大戦中の1942年にアメリカ全土に流れたとされる約1000のうわさ(流言)を分析しました。
ロバート氏はうわさは以下の3種類に分類しました。
- 恐怖流言‐不安や恐怖を煽る
- 願望流言‐希望や願望を反映する
- 分裂流言‐他人への敵意や偏見を煽る
恐怖流言は願望流言よりも広まりやすいことが分かっています。
それは、アメリカの心理学者チャールズ・ウォーカーとブルース・ブレーンがアメリカの大学を舞台にして行った実験で明らかになりました。
彼らは「学則が厳しくなる」という恐怖流言と、「学則が緩くなる」という願望流言がそれぞれ書かれたポストカードを用意し、学生80人の自宅にどちらかの「うわさ」が書かれたポストカードをランダムで郵送しました。
1週間後、同じ大学に通う約200人の学生に対し、最近知った「うわさ」について聞き取り調査を行いました。
すると、恐怖流言を知っていた割合は73%、願望流言を知っていた割合は27%でした。
つまり、不安や恐怖を煽る「うわさ」の方が、希望や願望を反映した「うわさ」よりも広まりやすいのです。
「うわさ」をする意味・理由とは?
なぜ人は嘘か本当かが不確かな情報を流してしまうのでしょうか?
実は「うわさ」を流すのには、
- 情報の不足を補う
- 不安を和らげる
という意味があるのです。
情報不足を補うための対処法
先程ご紹介した女子校での実験では、「しかけ①」と「しかけ②」をどちらかのうわさしか知らない生徒が3分の2もいたのに、ほぼ全ての生徒が両方のうわさを知っていました。
ここまで急速にうわさが広まったのには、「校長が理由を他の生徒に告げずに生徒を連れ出した」ということに原因があります。
きっと他の生徒は、
と不安に思い、曖昧な状況を打開するために色々と情報を集めようとします。
1966年にアメリカの心理学者タモツ・シブタニは「うわさ」を次のように定義しました。
真偽のわからない情報を知った人々が、自分たちがもっている情報を交換することで、その合理的な解釈をみちびきだそうとするプロセス
引用:Newton 2020/6 P124 「うわさとデマ」の心理学
つまり、うわさを話すことは単なる「おしゃべり」ではなく、情報を収集するための「話し合い」という意味があるのです。
不安を和らげるための手段
また、うわさには「不安を和らげる」という意味もあります。
嘘か本当か、よくわからない情報を知ると人は不安になります。
そんな状況で周りの人がうわさを知らずに平然と暮らしていると、「不安な自分」と「平然としている周囲の人たち」という相反する状況(不協和)が発生します。
人には「不協和を解消しよう」とする性質があるため、周りの人たちに「うわさ」を伝えて自分と同じ不安を共有しようする、という意味もあると考えられます。
認知的不協和に関する記事
自分が誤った情報を発信しないために
現代はSNSがあるので、個人でも簡単に情報を発信できます。
言い換えると、うわさやデマが広がりやすい時代とも言えます。
自分が誤った情報を発信しないために心掛けたいことを2つご紹介します。
- 情報を吟味する
- 相手を攻撃しない
情報を吟味する
何か新しい情報を知ると、誰かに伝えたくなります。
でも、その衝動をグッとこらえて、情報の内容を冷静に吟味してみましょう!
相手を攻撃しない
他の人から知った情報が誤っていたとしても、その人を攻撃するのはやめましょう!
情報の真偽はさておき、その人は「あなたも知っておいた方が良い」と思って、善意で教えてくれている可能性が高いです。
また、攻撃されると、ますます不安な気持ちになり、不安を和らげるため自分の情報を広めるのに執着するかもしれません。
不安なときこそ、助けあいが必要です。
まとめ
先日、僕が住んでいる地域の病院に「新型コロナウイルス感染症の患者が入院した」と新聞に載りました。
それから数日間後、地元の友人と会う機会があり、その話題が出ました。
という食い違いが起こりました。
自分の知った情報が普通に正しいと思っていたので、驚きました。
これからはむやみやたらと、真偽の分からない情報を流さないように心がけたいと思います。
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参考文献
科学雑誌「Newton」2020/6 「うわさとデマ」の心理学
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1.【うわさの心理学】広まりやすい「うわさ」とは?
2.「うわさ」をする意味・理由とは?
3.自分が誤った情報を発信しないために
4.まとめ