2026年7月から、パスポートの発行手数料が大幅に値下げされます。
しかも、日本のパスポートは世界で2番目に“強い”。
190の国と地域へビザなしで行けます。
この記事では、値下げの中身から、パスポートという小さな冊子が持つ意外な歴史を、まるっと解説します。
2026年7月から、パスポートはいくら安くなる?
10年用パスポートがオンライン申請で「15,900円 → 8,900円」に。
約44%の値下げです。
値下げは2026年7月1日の申請分から始まります。
旅券法の改正によるもので、外務省が正式に発表しています。
主な新料金は次のとおりです。
- 10年用(18歳以上):オンライン申請 8,900円(旧15,900円)/窓口 9,300円
- 5年用(12歳以上18歳未満):オンライン申請 4,400円ほど(旧10,900円)
- 12歳未満:4,400円(旧5,900円)
大きな変更点がもう一つ。
18歳以上の「5年用旅券」は廃止され、大人は10年用に一本化されます。
なぜ国は値下げをするのでしょう?
理由はシンプルで、日本人がパスポートを持たなさすぎるからです。
次で詳しく見てみましょう。
※注意
値下げと同時に、出国時にかかる国際観光旅客税(出国税)が1,000円 → 3,000円に引き上げられます。
日本人のパスポート保有率は、たった約18%
日本人でパスポートを持っているのは6人に1人ほど。先進国のなかでは異例の低さです。
外務省の旅券統計によると、2025年末時点の保有率は約17.8%。
有効なパスポートは全国で約2,281万冊です。
他国と比べると差は歴然です。
アメリカは約5割、韓国は約6割、台湾は約6割とされます。
日本の「持っていなさ」が際立ちます。
政府はこの状況を変えたい。
だから手数料を下げて、海外への一歩を後押ししようとしているのです。
オンライン申請の利用率も、2024年の約9%から2025年には約36%へ急増しました。
そもそもパスポートって、いつ生まれたの?
今のパスポート制度は約100年前、第一次世界大戦をきっかけに生まれた“意外と新しい”仕組みです。
大昔、国境はもっと曖昧でした。
人々はほとんど手続きなしで国から国へ移動できたのです。
通行のための文書自体は古くからありました。
- 古代エジプトの「安全通行証」
- 漢の時代の中国やテューダー朝イングランドの「旅行許可証」など
でも、全員に義務づけられたものではありませんでした。
転機は1914年。
第一次世界大戦が始まると、各国はスパイや脱走を防ぐため、国籍を確認する必要に迫られました。
こうして国境の検問と初期のパスポートが一気に広まります。
戦争が終われば廃止される、と多くの人はそう期待しました。
ところが、そうはならなかったのです。
なぜ一時的な制度が、100年も続いているのか?
現在も続いている理由は、1920年のパリ会議で世界共通の規格が決まり、便利すぎて誰もやめられなくなったからです。
1920年10月、国際連盟のもとで42カ国が集まる「パリ会議」が開かれました。
ここで史上初めて、パスポートの国際規格が合意されます。
決まったのは、今も使われる「32ページの冊子型」というスタイル。
発行国の言語と、少なくとももう一つの言語(当時は主にフランス語)」を併記すること、というルールも生まれました。
廃止どころか、1926年までに40を超える国がこの規格を採用。
滞在期間や就労・就学を管理する「ビザ(査証)」の仕組みも、この流れで各国に広がっていきました。
パスポートは、実は「権力の道具」でもある
パスポートは移動を許す紙であると同時に、国が人を管理し、選別するための道具でもあります。
歴史を振り返ると、この小さな冊子はしばしば人を分断してきました。
- 植民地支配:1920年代の英国は、本国民には英国パスポート、インドの人々には別扱いの旅券を発行し、市民を階層化した。
- 反体制派の抑圧:冷戦期の米国は、公民権活動家E.B.デュボイスらのパスポートを取り上げた。
- デジタル監視:20世紀後半以降、空港とデータベースの発達で、個人の移動はより細かく追跡されるようになった。
一方で、同じ紙が命を救ったこともあります。
第二次大戦中、スイス駐在のポーランド外交官アレクサンデル・ワドシュらの一団は、中南米の偽造パスポートを大量に発行しました。
この「ワドシュ・グループ」が救ったユダヤ人は、数千人にのぼると推定されています。
一枚の紙が、生と死を分けたのです。

日本のパスポートは、なぜ「世界最強クラス」なの?
日本の旅券は190の国・地域にビザなしで行ける、世界ランキング2位の「最強クラス」です。
英ヘンリー社の指数(2025年)では、日本はビザなし渡航190カ国で世界第2位。
1位はシンガポール(193カ国)でした。
つまり、日本人が持つパスポートの「行ける範囲」は世界トップ級。
持っていないのは、とてももったいない状態なのです。
なぜ日本のパスポートは「強い」の?
日本のパスポートで多くの国へビザなしで渡航できる背景には、以下のように国際社会からの高い信頼があります。
- 不法滞在や不法就労のリスクが低いこと
- パスポートの信頼性が高いこと
- 安定した外交関係を築いてきたこと
など、さまざまな要因の積み重ねによるものです。
また、日本人旅行者は滞在ルールを守る傾向があり、法令違反や不法滞在の割合が比較的低いことも、各国がビザ免除を維持する一因と考えられています。
なお、ビザが不要ということは「入国審査がない」という意味ではありません。
ビザ取得のための事前審査が不要になるだけで、入国時には現地の入国審査を受け、入国の可否は各国の入国管理当局が最終的に判断します。
この「強さ」は生まれた国が決めた、いわば「くじ引き」の結果です。
低所得国の旅券では、ビザなしで行ける国が数十カ国にとどまることもあります。
さらに、お金で市民権と旅券を買える「ゴールデン・パスポート」を用意する国さえあります。
同じ地球で、移動の自由はこれほど不平等なのです。
移動と自由を、もっと深く考えたい人へ
パスポートの話は、突きつめると「なぜ人は移動するのか」「自由とは何か」という問いにつながります。
もう一歩踏み込みたい人に、2冊を紹介します。
『移動する人はうまくいく』(長倉顕太)は、環境を変え、動くことで人生が開けていく、という視点をくれる一冊。
パスポートを眠らせている人の背中を押してくれます。
『目的への抵抗』(国分功一郎)は、「何のために動くのか」を一度立ち止まって問い直す哲学書。
効率や目的だけでは測れない、移動や自由の意味を考えたい人におすすめです。
まとめ
- 2026年7月から、10年用パスポートはオンライン申請で8,900円(約44%値下げ)。大人の5年用は廃止。
- 同時に出国税は1,000円→3,000円に引き上げ。トータルの負担も確認を。
- 日本人の保有率は約18%。でも日本の旅券は193カ国にビザなしで行ける“世界2位”。
- 今のパスポート制度は約100年前、戦争を機に生まれた比較的新しい仕組み。
- パスポートの“強さ”は生まれた国次第。その不平等をどう見るかは、私たち次第。
値下げは、あなたが世界へ戻るきっかけになるかもしれません。
まずは、引き出しで眠っているパスポートの有効期限を確認してみませんか?
【参考】
- 旅券手数料改定 関連情報|外務省
- パスポート発行手数料を引き下げへ|TravelVoice
- 日本人のパスポート保有率は18%に上昇(2025年)|TravelVoice
- 旅券統計|外務省
- The Official Passport Index Ranking|Henley & Partners
- Paris Conference on Passports (1920)|Wikipedia
- Aleksander Ładoś|Wikipedia
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