「依存」と「自立」。本当の自立とは依存先がたくさんあること

あなたは「自立」と聞くと、どんなイメージが湧きますか?

 

一般的には「誰にも頼ったり、依存したりせずに、独力で生活できる」みたいなイメージがあるのではないでしょうか。

しかし、脳性麻痺という障害を持ちながら小児科医として活躍されている熊谷晋一郎先生は、“自立とは依存先がたくさんあることではないか”と指摘しています。

 

一体どういうことなのでしょうか?

この記事では、依存と自立の関係、本当の自立とは何なのか、当事者研究などについて簡単に解説していきたいと思います。

「依存」と「自立」。本当の自立とは依存先がたくさんあること

「自立」の意味を検索してみると、“自分以外のものの助けなしで、または支配を受けずに、自分の力で物事をやって行くこと”と説明されていました。(引用:Oxford Languages)

つまり、自立とは「何にも依存しない状態」のようです。

 

たしかに、依存は英語で「dependence」、自立は 「independence 」で、否定を意味する「in」がついてるので、依存と自立は対立の概念とされています。

しかし、何にも依存せずに生きている人なんて、一人もいません。

例えば、会社員も収入をその会社に依存していると言えます。

 

熊谷先生は「自立」とは、特定の依存先から支配されることなく、たくさんの依存先から自由に選択できる状態だと言います。

それでは、次に依存先にはどんなものがあるのかご説明します。

 

4つの依存先をバランスよく持つ

人間が生きていく上で依存できる資源には、以下の4つあります。

1.水平的な人間関係

家族や友人のような、お互いが一人の人間として対等に接している人間関係。

 

2.垂直な人間関係

カリスマ的な人物、自分の言いなりになるような立場の弱い他者など、対等ではない人間関係。

 

3.物質

アルコール、タバコ、ゲーム、薬物、食べ物など。

 

4.自分自身

自分の能力や容姿、腕力など。

 

子供の頃に虐待やいじめといった辛い体験をした人は、人を信頼しづらくなります。

すると、①水平的な人間関係が持ちづらくなり、他3つへの依存度が高くなります。

物質への依存度が高くなると、アルコール依存や薬物依存などになります。

 

「誰にも頼らず生きていく」と自分自身への依存度が高くなる人もいます。

この「自分依存」も、とてもしんどい状態です。

自分依存の人は一人でも生きていけるように、容姿や腕力、能力を向上させつづけようとします。

いわば、「等身大の自分ではダメだ!」と自分自身に鞭を打ち続けている状態です。

 

人は心の奥底で、「あるがまま、等身大の自分を認めてほしい」という思いがあります。

しかし、自分に鞭打ち創り上げた“仮面”をまとった状態では、他の人から認められても、「等身大の自分が認められたわけではない。」と虚しさや空虚感が胸に残ります。

 

そうならないためには、4つの依存先をバランスよく持つことが大切なのです。

 

依存症の方はなぜ寂しいのか

依存症の方はなぜ寂しいのか

依存症の方の中には、依存症ではない人から見ると理解し難い、独特な言動をとることがあります。

人との交流を求めているのに、周りからは腫れ物扱いされて、寂しい思いを感じている方がたくさんいるのです。

 

この章では、そんな依存症に苦しんでいる方のことを理解するのに役立つと思います。

ぜひ最後まで読み進めてください。

 

依存症の方は「応援団」が少ない

依存症、特に薬物やアルコール依存症の女性は、家族の中に何かしらの問題があったケースが多いです。

例えば、父親のアルコール依存や暴力、両親の不和などです。

 

そんな家庭内では、常に緊張感が漂っているわけですが、子どもは家庭内でしばしば「調整役」を担わせられることが多いです。

母親をかばったり、父親を怒らせないように気を遣ったりなどですね。

 

小さい頃は自分の身の周りで起きていることをうまく言葉にできませんし、大きくなっても「両親に恥をかかせる事になる。」と友人や近所の人など家庭の外の人には相談ができません。

相談できないだけではなく、「誰にも言わずに自分で何とかする。」と周りの人と敵対するようになり、自分たちをサポートしてくれる「応援団」を持たず、孤立してしまうのです。

 

他者に対して「ニコイチ」を求める

依存症の方は周りで起こる問題をすべて自分のせいだ!と考える傾向があります。

そうやって自分一人で問題を背負うと、今度は「自分の問題も誰かに背負って欲しい。」と思うようになり、自分と他人の境界が曖昧になっていきます。

 

そして、自分と相手がピッタリと重なり合うような「ニコイチ」の関係を求めるようになります。

これは異性関係だけでなく、同性でも友人に対しても同様です。

 

ニコイチの関係はDVにつながります。

ニコイチになりたい者同士が恋人関係になったら、それぞれ「自分以外と口を聞かないで!」と要求し、もし自分以外と話していることが分かると暴力へと発展します。

 

健康な人はニコイチのようなピッタリと重なるような関係は疲れてしまうため、大抵の場合その人から離れていくため、依存症の方の「心の穴」は埋まらず、寂しい思いをします。

 

相談することが難しい理由

依存症の方は「近い人にこそ相談しづらい」と感じる傾向があります。

小さい頃から、最も身近な家庭内でこそ問題が起こるという経験をしてきた人たちだからです。

 

身近な人に相談して余計に問題が大きくなったり、自分の弱みを説明すると大切なものを奪われるような気がするのです。

この感覚を乗り越えるには相当の勇気と、学び直し、成功体験の積み重ねが必要になるのです。

 

ここで紹介した内容は以下の本に載っているものです。

この本はご自身も処方薬依存や摂食障害、アルコール依存症である上岡陽江さんと被害体験を有する女性の支援を行う「それいゆ」を立ち上げた大嶋栄子さんの共著です。

対人援助職の方はもちろん、依存症で苦しんでいる方もこの本を読むことで自己理解が深まり、心のモヤモヤが晴れると思われます。

 

まとめ

  • 依存と自立は対立概念であり、人は水平的な人間関係、垂直な人間関係、物質、自分自身という4つの依存先がある。
  • 依存症の人はは自分一人で問題を解決しようとするため、応援団を持たずに孤立してしまうことがある。
  • 依存症の人は自分と他人の境界が曖昧になり、ニコイチの関係を求める傾向があり、DVにつながることもある。
  • 依存症の人は身近な人に相談しにくい傾向があり、それを乗り越えるには相当な勇気と学び直し、成功体験の積み重ねが必要である。

 

 

【参考】

 

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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。