「やりがいを探し続ける」ほど燃え尽きる!?

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この仕事、何のためにやってるんだろう?

そう思いながら、それでも毎日出勤している。

 

もっとやりがいのある働き方があるはずだと、転職サイトを開いては閉じる。自己分析の本を買っては、途中でやめてしまう。

そして探せば探すほど、なぜか疲れていく。

もし心当たりがあるなら、あなたが弱いわけでも、努力が足りないわけでもありません。

 

英国・アイルランドの働く人1,239人を3年間追いかけた研究が、こう示しました。

 

「意味を探し続けること」それ自体が、燃え尽きと結びついている。

 

この記事では、その研究が何を明らかにしたのかを解説します。そのうえで、「探す」の前にやるべきことを、具体的な手順としてお伝えします。

読み終わるころには、「探さなきゃ」という焦りが少しほどけているはずです。

目次

「意味を持つ」と「意味を探す」はまったく別のもの

人生の意味には「すでに感じている(所有)」と「これから見つけたい(探索)」という別々の2つの側面があり、この2つは正反対の働きをします。

 

心理学ではこれを次のように区別します。

  1. 意味の所有(presence):いまの自分の人生には意味・方向性があると感じている感覚
  2. 意味の探索(search):意味を見つけたい、もっと深めたいと能動的に動いている状態

前者は「ある」という手ざわり。後者は「探している」という動作。

まったく別の心の状態です。

 

そして重要なのは、この2つは独立して動くということ。

意味を強く感じているのに、さらに探し続けている人もいます。逆に、意味が薄いのに探すのをやめてしまった人もいます。

 

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これまで信じられていた「自動補償」の考え方

長いあいだ、心理学ではこう考えられてきました。

意味が失われれば、人は自然と意味を探しはじめる。だから探索は回復のプロセスだ。

つまり、探すことは前向きな成長の証だ、という前提です。

 

「やりがいを見つけよう」「自分探しをしよう」という励ましも、この前提の上に立っています。

ところが今回の研究は、この前提そのものに疑問符をつけました。

1,239人を3年追跡してわかったこと

3年間の追跡調査から分かったことは一言で言うと、意味を「感じている」人ほど燃え尽きにくく、意味を「探している」人ほど燃え尽きやすいという結果でした。

 

研究の概要はこうです。

  • 対象:英国・アイルランドの医療・福祉の最前線で働く人 1,239人(初回調査時)
  • 期間:2020年3〜4月に開始し、2021年・2022年・2023年に追跡調査(計4時点・3年間)
  • プロジェクト名:CV19 Heroes Project
  • 掲載誌:Journal of Health Psychology

 

著者はブリストル大学のRachel C. Sumner氏、リムリック大学のElaine L. Kinsella氏、エセックス大学のWijnand A. P. van Tilburg氏です。

意味の測定には10項目の質問紙を使いました。

5項目が「所有」を、残り5項目が「探索」を測ります。

 

燃え尽きは9項目の尺度で測定。

過去1か月の「消耗」「シニシズム(冷めた気持ち)」「無力感」の強さを評価しました。

バーンアウトの3つの顔

そもそもバーンアウト(燃え尽き症候群)は、3つの要素で定義されます。

要素 どんな状態か
情緒的消耗 心が空っぽで、もう何も出せない感じ
シニシズム 仕事や人に対して冷めていく、距離を取る
無力感 何をやっても成果につながらない感覚

 

この3つはセットで進むことが多く、順番に深まっていく傾向があります。

結果①:意味を「感じている」ことは守りになる

意味の所有が高い人ほど、消耗・シニシズム・無力感のすべてが低いという結果でした。

 

しかもこれは、2つの角度の両方で確認されています。

  1. 個人間の比較:意味を感じている人 vs 感じていない人 → 前者のほうが燃え尽きが軽い
  2. 個人内の変化:同じ人の中で意味の感覚が高まった年 → その年は燃え尽きも軽い

 

同じ人の中でも成り立つ、というのが大事なところです。

「もともと明るい性格の人が意味も感じやすいだけ」という説明では片づかない、ということだからです。

結果②:意味を「探すこと」は一貫して悪化と結びついた

一方、意味の探索が強い人ほど、燃え尽き全体の水準が高いという結果が出ました。

こちらも個人間・個人内の両方で一貫しています。

 

つまり、探しているという状態そのものが、消耗のサインだったわけです。

結果③:最悪の組み合わせは「意味が薄い×よく探している」

もっとも注目すべきはここです。

シニシズムと燃え尽き全体については、2つの側面のあいだに相互作用が見られました。

具体的には、意味の所有が低い人ほど、探索と燃え尽きの結びつきが強くなる。

 

つまり、こういうことです。

いまの人生には意味を感じられない。だから必死に探している。

 

この状態にある人が、もっとも深いシニシズムと燃え尽きを抱えていました。

分析を主導したvan Tilburg氏は、以下のように述べています。

誰かが意味を探しているかどうかを知るだけでは足りない。その探索が、意味の感覚とともに起きているのか、それが欠けた状態で起きているのかを理解することが決定的に重要だ。

結果④:消耗と無力感には、探索が単独で効いていた

さらに細かく見ると、情緒的消耗と無力感については話が少し違いました。

これらについては、意味を感じているかどうかに関係なく、探索が単独で悪化と結びついていたのです。

すでに人生に十分な意味を感じている人であっても、「もっと探そう」とし続けることは、それだけで消耗と結びついていた。

 

これは深い示唆です。

探索は成長のプロセスというより、満たされない心理的欲求のサインに近い、と研究者たちは解釈しています。

なぜ「探すこと」がこんなに疲れるのか

理由は、探索という行為には終わりがなく、常に「いまは足りない」という前提が組み込まれているからです。

もう少しほどいてみます。

理由1:探すことは「いまは不足している」の宣言だから

「探す」という動作は、必ず「まだ手元にない」という認識とセットです。

やりがいを探すたび、心は「いまの自分にはやりがいがない」と確認し直すことになります。

これを毎日繰り返せば、消耗しないほうが不思議です。

理由2:ゴールが設定できないから

売上目標なら達成があります。資格試験なら合格があります。

でも「人生の意味」には、達成の判定基準がありません。

終わりの見えないタスクを抱え続けている状態が、心の負荷として積み上がっていきます。

理由3:反すう(同じ考えのループ)と近い性質を持つから

意味の探索は、心理学の測定上、反すう(同じことを繰り返し考え込む思考パターン)や抑うつ傾向と相関することが知られています。

一方で意味の所有は、幸福感の高さや不安の低さと結びつきます。

同じ「意味」という言葉がついていても、心の中で起きていることの性質はまるで違うのです。

 

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「探す」前にやること。今ある意味を確認する5ステップ

探索を増やすより先に、すでに手元にある意味を見つけ直して言葉にすることが先決です。

ここからは実践編です。どれも今日から一人でできます。

ステップ1:「探す活動」を2週間だけ止めてみる

転職サイトの巡回、自己分析ワーク、キャリア系の本。

これらを一時停止します。やめるのではなく、期間限定で止めるだけです。

探索を止めると、消耗の一因が減ります。

まずは負荷を下げることが先です。

ステップ2:「意味を感じた瞬間」を1日1つ書き出す

大きなやりがいではなく、小さくて具体的な出来事を探します。

  • 同僚に「助かった」と言われた。
  • 面倒な処理を、自分なりに早くする工夫ができた。
  • 後輩の質問に、ちゃんと答えられた。

1行で構いません。夜寝る前に1つだけ。

これは「探す」ではなく「気づく」作業です。方向が逆であることに注意してください。

ステップ3:週1回、書き出したものを読み返す

1週間分たまったら、まとめて読み返します。

ここで初めて、バラバラだった出来事に共通点が見えてきます。

「自分は、人が困っている場面で動くとき手ごたえを感じているらしい」といった具合に。

 

これが「言語化」です。

探して見つけるのではなく、すでにあったものに名前をつける作業です。

ステップ4:意味の「所有」を減らしている要因を疑う

意味が薄れているとき、原因は自分の内側だけにあるとは限りません。

研究でも、最前線で働く人たちの意味の低下は、社会や政治からの支援の変化と結びついていたと報告されています。

 

チェックしてみてください。

  1. 労働時間が長すぎて、回復の時間が取れていないのでは?
  2. 職場で孤立していないか?
  3. 自分の仕事が誰にどう届いているのか、見えなくなっていないか?

 

日本の調査でも、燃え尽き状態にある人は勤務時間が長く休憩が短い傾向があり、職場での孤独を感じている割合が高いことが報告されています(マイナビキャリアリサーチLab、2026年4月・20〜50代の正社員4,096名対象)。

 

環境の問題を、意味の問題だと誤診しない。

これが4つ目です。

ステップ5:休む。まず、休む

同じ調査で、燃え尽きを乗り越えた人が取った行動の第1位は「休息を取った」(53.8%)でした。転職した人は23.2%です。

意味を考えるのは、エネルギーが要る作業です。

消耗しきった状態で人生の意味を考えても、出てくる答えは暗くなります。

順番として、休息が先です。

よくある疑問と誤解

Q1. 「探すのをやめろ」ということですか?

A.いいえ、そうではありません。

 

この研究が示したのは相関関係であり、探すことが燃え尽きを引き起こすと証明されたわけではありません。

研究者自身も、「すでに燃え尽きの初期症状が出ている人が、対処法として探しはじめている」という逆の順序の可能性を明確に認めています。

因果の方向は未確定です。

 

言えるのは、探索と消耗はセットで現れやすいので、探索が増えているときは自分の状態を点検したほうがいい、ということです。

Q2. 意味を感じたことがない人はどうすれば?

A.ステップ2の「小さい瞬間を書き出す」から始めてください。

多くの場合、意味がゼロなのではなく、意味が小さすぎて認識されていないだけです。

「天職」レベルの意味を探すから見つからない。

基準を下げると、すでにあるものが見えてきます。

Q3. 転職を考えるのは間違い?

A.いいえ。環境が原因なら、環境を変えることは正しい対処です。

ただし、順番が大事です。

 

消耗しきった状態での判断は、視野が狭くなります。

まず休息(ステップ5)、次に環境要因の点検(ステップ4)。

そのうえでの転職判断なら、精度は上がります。

Q4. 部下や友人が「やりがいがない」と言ってきたら?

A.「やりがいを見つけよう」という励ましは、いったん置いてください。

 

善意のアドバイスですが、消耗している相手にとっては「探索」というタスクの追加になり得ます。

代わりに、こう聞いてみてください。

最近の仕事で、少しでも手ごたえがあった場面ってあった?

 

探させるのではなく、すでにあるものを一緒に見つけて、言葉にする。

順序を逆にするだけで、相手の負荷はまるで変わります。

この研究の限界を、正直に押さえておく

信頼できる情報として扱うために、弱点も知っておく必要があります。

① 因果の方向がわからない

前述のとおり、探索が燃え尽きを招いたのか、燃え尽きが探索を誘発したのかは特定されていません。

② 参加者がかなり減った

初回1,239人に対し、2023年の最終調査を完了したのは286人です。

研究者は、もっとも消耗した人ほど途中で離脱した可能性を指摘しています。

だとすると、実際の深刻さはデータが示す以上かもしれません。

③ 対象者の偏り

参加者の約87%が女性、約95%が白人でした。

職種も医療・福祉が中心です。

他の業界や、異なる背景の人に同じパターンが当てはまるかは、まだわかりません。

④ 何が意味を変動させるのかは未解明

意味の感覚が上下する原因は、個人の状況・職場・社会情勢の複雑な組み合わせだと考えられていますが、具体的なメカニズムは確認されていません。

 

つまり、この研究は、「探索は成長の証だ」という前提を揺さぶったものであって、行動指針を確定させたものではありません。

そのつもりで受け取るのが誠実な読み方です。

さらに深めたい人へ

もし「意味とは何か」をもっと根本から考えたくなったなら、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』が古典としてよく読まれています。

極限状況の中で、人が意味をどう保つのかを描いた作品です。

この記事のテーマと直接つながる視点が得られます。

ただし内容は重いので、消耗が激しいときは無理に読まないほうがいいかもしれません。

まとめ

最後に、要点を整理します。

  1. 人生の意味には「所有」と「探索」の2側面があり、両者は独立して働く。 意味を感じることと、意味を探すことは別物です。
  2. 意味の所有が高いほど、消耗・シニシズム・無力感のすべてが低い。 個人間の比較でも、同じ人の中の変化でも成り立ちました。
  3. 意味の探索は一貫して燃え尽きと正の関連。 特に「意味が薄い×よく探している」の組み合わせで、シニシズムと燃え尽き全体が最悪になりました。
  4. 消耗と無力感については、意味を感じていても探索が単独で悪化と結びついた。 探索は成長のプロセスというより、満たされない欲求のサインに近いと解釈されています。
  5. 支援するときは、探させる前に、すでにある意味を確認して言葉にする。 「やりがいを見つけよう」という善意の助言は、消耗している人には負荷になり得ます。

 

この記事を閉じたら、「今日の仕事で、ほんの少しでも手ごたえがあった場面」1つだけ書き出してみてください。

 

探すのではなく、思い出す。

それだけです。

 

3日続けば、見えてくるものがあります。

 

※この記事は心理学研究の紹介であり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。強い消耗や気分の落ち込みが続いている場合は、産業医・かかりつけ医・専門の相談窓口にご相談ください。

 

【出典】

 

 

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北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師資格を取得。月に5冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。