スマートフォン(スマホ)は近年、爆発的に普及し、私たちの生活を便利にしてきました。
その反面、睡眠障害やスマホが常時手放せなくなる「スマホ依存」に陥るなど、さまざまな悪影響も報告されています。
最新の研究では、子どもの脳の発達に与える影響やうつ病リスクを高めるなどの影響も明らかになっていきています。
この記事では、そういったスマホ依存による影響について解説していきます。
スマホが子どもの脳の発達を遅らせる!?スマホ依存の影響まとめ
いまや、スマホ一台あればほとんどのことができてしまうほど便利になりました。
その反面、スマホを使っていないと不安やイライラを感じるほど、スマホに依存してしまう人も多くいます。
この章では、スマホ依存による身体的・精神的な影響について解説していきます。
インターネット使用頻度が高いほど脳の発達が遅れる
スマホに夢中になっているのは大人だけではありません。
子どもも一日中スマホで長時間ゲームや動画視聴に没頭する子が増えてきています。
これまでインターネットやゲーム、動画への過度な依存が子どもの精神面・学習面・視力発達などに与える悪影響は報告されていましたが、近年、「脳の発達自体に悪影響を与える」ことが明らかになってきています。
東北大学の研究チームは、3年間に渡って健康な小児約200人を対象とし、彼らの脳を調査し続けました。
その結果、インターネットを頻繁に使う子どもは、そうでない子どもよりも言語知能が相対的に低下すること、脳の灰白質・白質の容積が小さくなっていったことが明らかになりました(Takeuchi et al., 2018)。
容積が小さくなっていた脳の領域には、注意や意思決定、情動処理、言語処理、報酬系、社会的認知機能などに関わる領域が含まれていました。
研究チームは、「使わないようにする」ことはもはや不可能だと思われるため、「どのように使うか」を改めて考えることが必要だと述べています。
【参考文献】
Takeuchi et al(2018)Impact of frequency of internet use on development of brain structures and verbal intelligence: Longitudinal analyses. , Human Brain Mapping 2018 (DOI: 10.1002/hbm.24286)
【脳の領域に関する記事はこちら】
ブルーライトは体内時計を狂わせる
スマホを含むデジタルデバイスやLEDライトからは、「ブルーライト」が出ています。
ブルーライトは、赤色よりも波長が短い光線のことを指します。
人間の目は、自然光の中でも赤色よりも青色の光をより敏感に感じるため、ブルーライトは眼に負担をかけることがあります。
太陽光にもブルーライトが含まれており、日中に浴びると睡眠リズムを整えたり、活動できるように覚醒させてくれたりしますが、このブルーライトを夜間に浴びると、睡眠に悪影響を与えることもあります。
人間の体温やホルモン分泌は24時間周期のリズムに調整されています。
この24時間周期のリズム(体内時計)は、脳の視床下部という部分が中枢となっており、ここから松果体という部位に信号が出て、「メラトニン」というホルモンが分泌されます。
メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれていて、昼間は少なく、夜間に多く分泌されるように制御されていますが、ブルーライトを夜間に浴びると、メラトニンの分泌が抑制されてしまいます。
そのため、十分な量のメラトニンが分泌されず、夜眠れなくなってしまうのです。
デジタルデバイスを使用する際には、眼を疲れさせないようにするために、ブルーライトカット機能を使用するよう心がけることが重要です。
また、夜間にデジタルデバイスを使用する場合は、就寝の1時間前には、使用をやめるよう心がけることも効果的です。
【睡眠に関する別の記事】
悲観的なニュースばかり見てしまう「ドゥームスクローリング」
「ドゥームスクローリング(doomscrolling)」とは、インターネットやSNS上で悲観的で暗い情報ばかりを見続けてしまう行為のことです。
「ドゥーム(doom)」は絶望や破滅、「スクローリング(scrolling)」はSNSのタイムラインなどをスクロールすることを指します。
就寝前に、ドゥームスクローリングをすると、なかなか寝付けなくなってしまいます。
というのも、ネガティブな情報によってストレスを感じると、体内では「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。
コルチゾールは起床後、カラダを覚醒させるために分泌されたりするホルモンで、交感神経を活性化させる作用があるため、寝る前に分泌されると、入眠の妨げとなってしまうのです。
スマホの使いすぎによって起こる「デジタル健忘症」
知らない言葉があればインターネットで調べたり、覚えておくべき情報をとりあえず写真に撮っておく、ことはないですか?
このように、本来は記憶力を使って行うことをスマホに頼ることで、記憶力が低下してしまう可能性があります。
これを「デジタル健忘症」と呼びます。
記憶には、様々なタイプがありますが、一般的には、短期記憶(Short-Term Memory)と長期記憶(Long-Term Memory)に分けられます。
短期記憶とは、短期的に身の回りで起こった出来事や、直近に受け取った情報を記憶することを指します。
短期記憶は、「暑い」「寒い」など感覚的な情報や、目に見えるもの、聞こえるもの、触れるものなどが保存されます。
短期記憶の一部は繰り返し思い出すことで情報が脳内で固定され、簡単には忘れない「長期記憶」となります。
しかし、思い出そうとするプロセスをすっ飛ばしてスマホで調べてばかりいると、記憶の回路が使われなくなり、得た情報をすぐに忘れて思い出せないという状態に陥りやすくなります。
カナダの研究チームはデジタル依存によって、以下のような状態が引き起こされる可能性があると報告しています。
- 最近の出来事を覚えられない状態(順行性健忘)
- 昔のことを思い出せない状態(逆行性健忘)
- 認知機能(記憶や思考、注意力、言語など)が普通よりも少し低下している状態(軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment))
【記憶に関する記事はこちら】
スマホが「ポケットにある」だけで集中力が低下する
スマホが「ポケットにある」だけで集中力を低下させてしまいます。
アメリカにあるテキサス大学のワード博士らは、500人以上の大学生を対象にある実験を行いました。
その実験内容は以下の通りです。
まず、被験者のスマホを「①机の上」「②カバンかポケットの中」「③別の部屋」という、スマホの保管場所によって3つのグループに分けました。
そして、それぞれのグループに対して、記憶力や集中力を測る検査を行いました。
実験の結果、「机の上」グループの成績が最も低く、「別の部屋」グループが最も高いという結果になりました。
ワード博士らは、スマホが近くにあると無意識のうちに気を取られてしまい、物事へ認知機能が阻害されてしまうのではないか、と仮説を立てています。
【参考文献】
Brain Drain: The Mere Presence of One’s Own Smartphone Reduces Available Cognitive Capacity Journal of the association for consumer research Vol2, No2
まとめ
- インターネット使用頻度が高いほど脳の発達が遅れる
- スマホから出るブルーライトによって、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌が抑制されて、体内時計が狂ってしまう
- 悲観的なニュースばかり見る「ドゥームスクローリング」によって、ストレスホルモンが分泌されて入眠を妨げてしまう
- 記憶機能の一部をスマホやPCなどのデジタル機器に依存することで記憶力が低下する「デジタル健忘症」に陥る
- スマホは視界にある時だけでなく、カバンやポケットにあるだけで集中力が低下する
【参考文献】
1.スマホが子どもの脳の発達を遅らせる!?スマホ依存の影響まとめ
2.スマホが「ポケットにある」だけで集中力が低下する
3.まとめ