クライエント(来談者)中心療法の理論の概要や治療の目的を徹底解説

この記事では、カール・ロジャーズ(Carl R.Rogers,1902-1987)が創始した「クライエント(来談者)中心療法」の理論の概要や治療の目的を詳しく解説していきます。

 

クライエント中心療法はその名の通り、クライエントを中心に据え、クライエントの自主性・自律性を尊重する心理療法です。

クライエント中心療法が登場するまでの心理療法は精神分析的心理療法はじめ、多くの心理療法ではクライエントの問題を見つけ、診断し、治療するという「指示的なアプローチ」でした。

そのような状況の中で、ロジャーズが創始したクライエント中心療法は「特定の問題を解決することではなく、クライエント個人の成長を援助すること」が重要だとし、「非指示的アプローチ」が大切だと考えました。

 

クライエントに共感し、共に悩むという姿勢は日本人の考えともマッチし、受け入れられるようになり、現在でもそのような姿勢はカウンセラーの基本的な態度として広く浸透しています。

それでは、本文に入っていきます。

「患者(patient)」ではなく「来談者(client)」

クライエント中心療法が誕生する前までは、治療者が主導的に関わるというのが一般的でした。

言うなれば、「治療者→クライエント」という縦の治療関係です。

しかし、ロジャーズはクライエントを中心に置いた、治療者とクライエントがより対等な横の治療関係を目指しました。

 

それに関連してロジャーズは治療が必要な人のことを“病める人”を意味する「患者(patient)」は不適切だとし、“専門的な援助を求めに来た人”を意味する「来談者(client)」という言葉を使いました(野島,1995)。

クライエント(来談者)中心療法の理論の概要を徹底解説

クライエント(来談者)中心療法の理論の概要を徹底解説
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ロジャーズはクライエント中心療法の理論体系を『クライエント中心療法の立場から発展したセラピィ、パーソナリティおよび対人関係の理論(ロジャーズ,1959)』という論文の中で説明しています。

クライエント中心療法は大きく分けて以下の5つの理論に分類されます(窪内,吉武,)。

  1. セラピィ理論
  2. パーソナリティ理論
  3. 十分に機能する人についての理論
  4. 対人関係の理論
  5. 種々の人間の活動に対する理論的な示唆

この記事では、①セラピィ理論 ②パーソナリティ理論 ③十分に機能する人についての理論について解説していきます。

セラピィ理論

セラピィ理論は治療におけるカウンセラーの技術よりもその背後にあるカウンセラーの態度の重要性を強調した理論です。

 

ロジャーズはクライエントの人格(パーソナリティ)が建設的に変化していくためには、以下の6つの条件が必要だと考えました。

  1. 二人の人間が心理的に接触していること
  2. 第一の人(クライエント)は不一致(incongruent)の状態にあり、傷つきやすく、不安な状態にある
  3. 第二の人(セラピスト)は、この関係の中で一致(congruent)しており、統合されている
  4. セラピストはクライエントに対して、無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)を経験している
  5. セラピストはクライエントの内的枠組みに共感的理解(empathic understanding)を経験しており、そしてその経験をクライエントに伝達するように努力していること
  6. セラピストの共感的理解と無条件の肯定的配慮をクライエントに伝達することが最低限達成されていること

この6つのうち、③④⑤がカウンセラーの態度条件であることから、この3つを「カウンセラーの3条件」としています。

 

それでは、この3つの条件を簡単に解説していきます。

カウンセラーの3条件(純粋性・無条件の肯定的配慮・共感的理解)とは?

ロジャーズが治療的な援助をしていくために重要視した「カウンセラーの3条件」を簡単に解説していきます。

  1. セラピストの純粋性(genuineness)※自己一致とも呼ばれる
  2. 無条件の肯定的配慮(積極的関心)
  3. 共感的理解

セラピストの純粋性(自己一致)

セラピストの純粋性(自己一致)」はセラピストが関係の中で自分自身であること、つまり純粋で偽りのない姿であることと説明されています。

ロジャーズはこのような在り方を“純粋(genuine)”という言葉を使って表現しています。

 

面接では、クライエントは不安・緊張・安堵など様々な感情を体験しますが、カウンセラーだって同じように様々な感情を抱きます。

時には「このクライエント、ちょっと苦手だな」と感じることもあります。

そのときに「自分がこんな感情を抱くはずがない!」と否定するのではなく、「自分は今、このクライエントのことを苦手だと感じている」と受け入れることが大切です。

 

つまり、セラピストの純粋性は面接中のクライエントとの、今この瞬間瞬間において、自分の統合がなされるように努力することの重要性が説かれています。

無条件の肯定的配慮(積極的関心)

無条件の肯定的配慮(積極的関心)」についてロジャーズ(1980)は次のように述べています。

それは受容について何も条件がないことであり、あなたがかくかくである場合にだけ、私はあなたがすきなのです、というような感情をもっていないことである。それはデューイ(Dewey,J.)がこの言葉を用いている場合と同じように、人間を高く評価するということである。

それは選択的な評価的態度(a  selective evaluative attitude)‐あなたはこういう点では良いが、こういう点では悪いというような‐態度とは正反対のものである。

 

それはクライエントの“良い”ポジティブな、成熟した、自信のある、社会的な感情の表現を受容するのとまったく同じくらいに、彼のネガティブな“悪い”苦しい、恐怖の、防衛的な、異常な感情の表現を受容することである。

また、クライエントの一致している(consistent)やり方を受容するのとまったく同じくらいに、彼の一致していない(inconsistent)やり方を受容することである。

それはクライエントに心を配ることであるが、所有的な、あるいはセラピスト自身の欲求を満足させるためだけの心配りではない。

 

それはクライエントを分離した人間として心を配ることであり、彼に自分自身の感情をもち、自分自身の体験をもつように許すことである。」(野島,1995)

つまり、クライエントの態度がどんなに否定的であろうが、肯定的であろうが、その瞬間瞬間の相手をそのまま受け取ろうとすることです。

共感的理解

共感的理解」とは、クライエントの怒り、恐怖、混乱をあたかも自分自身のものであるかのように感じ取り、しかも自分の怒りや恐怖や混乱がその中に巻き込まれないようにすることです。

つまり、相手に焦点を合わせ、その人のあり方・感情・思考・態度すべてを含むその人の存在そのものに耳を傾ける極めて積極的な行為です。

パーソナリティ理論

パーソナリティ理論

パーソナリティ(自己)理論」では、「自己概念(自己構造)」と「体験」との一致・不一致によって、パーソナリティや心理的不適応のメカニズムです。

下の図をご覧ください。

自己理論の図式的説明

左の図は心理的緊張の強いパーソナリティ構造を表しており、右の図は潜在的な緊張も不安も減少しているパーソナリティ構造を表しています。

自己概念(自己構造)」とは、自分が自分にどんなイメージをもっているか、自分で自分をどう評価しているかといった自己に対するイメージのことです。

 

第Ⅰ領域は、自己構造と個人の*感覚的・内臓的経験が調和・一致していることを示しています。この領域が大きい右の図の人は、自分の経験を十分に意識化できており、適応的だと言えます。

 

第Ⅰ領域が大きくなると、自己受容のための基盤が準備され、全体的経験が直接的に自己の中に受け入れることが出来るため、他人をより多く受け入れられる状態にあるとロジャーズは考えました。

 

用語解説
感覚的・内臓的経験‐ロジャーズが原文で使用した「sensory and visceral experience」を訳したものです。意識されている現象以上の感覚的・本能的経験を意味します。

十分に機能する人についての理論

ロジャーズは人間が最高に実現された状態を「十分に機能する人(the fully functioning person)」と呼び、それがセラピーの目標であり、社会適応の目標であるとしました。

 

ロジャーズはカウンセリングをしていく中でクライエントに生じる人格変容の過程を一つの連続体として捉えていました。

人格が連続的に変化していく過程とは、「自分は十分に受け入れられている」ということが体験されている中で、「固定性」という一つの極から、「変易性」・「流動性」というもう一つの極へと変化し、個人的感情の豊かな体験の過程に満足している水準に至るという方向への変化です(窪内,吉武,2003)。

ロジャーズはこのようにして、人格が変容していく過程に人間の心理的な成長をみたのです。

 

クライエントはカウンセリングを通して人格変容が生じ、その結果、心理的に成熟した状態に進むことが出来れば、その人は十分に機能する人になったと言えます。

 

ロジャーズは十分に機能する人の特徴を3つ挙げています。

  1. 自分の経験に開かれている
  2. 実存的な在り方で生きている
  3. 自分という有機体をそれぞれの実存的な状況で、最も満足できる行動に到達するための信頼できる手段としてみなすことができる

①経験に開かれている(=経験への開放性)とは、現象学的な立場から問題にされる経験の世界(world of experience)に対する十分な意識性(awareness)を意味するものとされ、この概念の意味として次のような特徴が挙げられています(Rogers,1954)。

  1. 外界の事態や自己の内面に対する意識性や受容性
  2. 柔軟性
  3. 曖昧さに対する耐性

これらの特徴はカウンセラーの無条件の肯定的配慮・共感的理解に基づく信頼関係の中で高められ、それとともに自分自身を評価の主体として経験するようになるとされています(Walker, Reblen,& Rogers, 1960)。

 

ちなみに「経験への開放性」は「ビッグファイブ」というかなり信ぴょう性の高い性格診断の要素の一つです。

▼ビッグファイブに関する記事はこちら▼

 

【まとめ】クライエント中心療法の治療目標とは?

今まで述べてきたことをまとめると、クライエント中心療法では自己構造(自己概念)と感覚的・内臓的経験の間にかなりの不調和がある人が心理的緊張をもち、不適応に陥ると考えます。

こうした考えに基づいているため、クライエント中心療法の治療目標は、自己構造(自己概念)と感覚的・内臓的経験を調和させ、自己を受け入れること、すなわち自己受容を目指します。

 

そのためには、カウンセラーはクライエントとの関係において、

  1. セラピストの純粋性(自己一致)
  2. 無条件の肯定的配慮
  3. 共感的理解

を満たしている必要があります。

 

【引用文献】

  • 窪内 節子,吉武 光世 共著(2003)やさしく学べる心理療法の基礎 培風館
  • 野島 一彦(1995)臨床心理学への招待 ミネルヴァ書房
  • Rogers, C.(1954) Toward a theory of creativity. A Review of General semantics, Summer, 11,249-260. Reprinted in H.H. Anderson (Ed.),Creativity and its cultivation. New York:Harper & Raw. 1959 Pp.69-82.
  • Rogers, C.(1959):A theory of therapy, personality, and interpersonal relations, as developed in the clientcentered framework. In Koch, S. (Ed.) Psychology: A study of a science. Vol3. Formulations of the person and the social context. McGraw-Hill. 184-256.(伊藤博(1967)パースナリティ理論 ロージァズ全集 8 岩崎学術出版社。)
  • ロジャーズ,C.R. 畠瀬稔・畠瀬直子(訳)個人尊重の心理学 創元社 Rogers,C.R.1980 The way of being. Houghton Mifflin
  • Walker, A.M., Reblen, R.A., & Rogers, C.R. 1960 Development of a scale to measure process changes in psychotherapy. Journal of Clinical Psychology, 1, 79-85.



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tetsuya
北海道在住の35歳。 元ホテルマン。30歳で一念発起して、大学に入り直し、心理学を学ぶ。医療機関で実務経験を積んだのち、公認心理師を取得。月に10冊以上本を読んだり、論文を読み漁ったりして得た知識をブログでシェアします。