現代は情報を中心に世界が回る、大情報化社会です。
インターネットを使って、あらゆる情報にアクセスできる便利な時代になりましたが、その中には古い情報や嘘の情報などもたくさんあります。
そういった情報を鵜吞みにしてしまうと、損をしたり、不健康になったりといった好ましくない事態に陥ります。
とは言ったものの、その分野に関する知識がなければ、信憑性の高い情報を見分けるのは至難の業。
そこでこの記事では、信憑性の高い情報をランキング形式で解説したいと思います。
もう、一専門家が言うデタラメに騙されないでください!
信憑性の高い情報ランキング「エビデンスレベル」とは?
「エビデンス(英語:evidence)」は証拠、根拠、裏付けを表す言葉です。
医学および保健医療の分野では、ある治療法などが病気・ケガ・症状に対して、効果があると言える「科学的根拠」を意味します。
つまり、「エビデンスがある」=「科学的根拠がある」ということになり、信憑性が高いことになります。
ここで言う「信憑性が高い」というのは、偏りが少なく(一部の人にだけ通用するのではなく)、たくさんの方に通用する「一般的なもの」を意味します。
運動・睡眠・食事・新たな治療法などが病気やケガ、症状に効果があるのかを調べるため、科学者たちはさまざまな実験・研究・調査を行います。
それらは信頼度が異なるため、「エビデンスレベル」というものがあります。
それでは、信頼度が最も高いものからご紹介したいと思います。
信頼度‐最強:ランダム化比較試験のメタ分析
「メタ(meta)」には、~を超える、高次の、という意味があります。メタは主に「一段高いところに立って考える」「俯瞰でものをみる」といった意味になります。
メタを用いた言葉に「メタ認知」があります。
メタ認知とは「自分の今の気持ち、感情を自覚する」ことを意味します。
- 自分は今、悲しい気分だ
- 自分は今、この人に対して怒っている
といった具合に、自分の思考・感情・認知を客観的に理解することです。
「メタ分析」は「分析の分析」、つまり、さまざまな実験・研究・調査をいくつか集めてそれらを分析した研究ということになります。
強み
背景が異なるさまざまな集団を対象として行った研究結果をまとめて、再分析(メタ分析)することになるため、複数の研究結果を総合的に判断できます。
そのため、単独の実験、研究、調査よりも、広く一般的に適用しやすくなります。
弱み
メタ分析は現在、最も信憑性の高い情報ですが、万能という訳ではありません。
研究者といえでも、自分たちが立てた仮説が証明されるような結果を望みます。
そうなると、自分たちが望んだ結果が得られなかった研究結果をそもそも論文にしない可能性があります。
そのため、論文の選び方によっては、結果が偏ってしまうリスクがあるということになります。
信頼度‐強:一つ以上のランダム化比較試験
ランダム化比較試験について説明する前に、「ランダム化」とは何かについて説明します。
そもそもランダム化とは?
ランダム化比較試験では、治療法などの効果を調べるために、
- 治療法を施したグループ(治療群)
- 何も施していないグループ(統制群、コントロール群)
に分けて、何もしていない統制群と比較して、治療法を施した治療群に効果が現れているかを確かめます。
ランダム化比較試験とは、研究の対象となる人たちを無作為に選んで(ランダムに)グループに振り分ける手法のことです。
ランダム化の具体例
たとえば、ある勉強法の効果を確かめるために、高校生を対象にして実験を行うことにしました。
高校生を2つのグループ(新しい勉強法で勉強するグループと普段の勉強法のグループ)に分けて、試験を受けてもらい、その点数で新しい勉強法に効果があるかを確かめるという実験です。
このとき、グループの分け方を「試験会場に早く来た順番」で振り分けてしまうと、「試験会場に早く来る=やる気がある」ということが考えられます。
実験の目的は新しい勉強法の効果なのに、「やる気」という邪魔な要素も入ってしまうため、試験結果に差が現れても、新しい勉強法の効果なのか、やる気の違いなのか分からなくなってしまいます。
そのような関係ない要素を排除するために、くじ引きなどによって対象をランダムに振り分けることが偏りのない結果を得るために大切になるのです。
ランダム化比較試験の強み
実験対象をランダムに振り分けるので、関係のない要素を排除することができ、純粋に治療法などの効果を確かめることができます。
ランダム化比較試験の弱み
日本人を対象に行った研究と、アメリカ人を対象に行った研究では、遺伝的な要素・食文化・生活環境などが異なるため、同じ結果が得られるとは限りません。
信頼度‐中の強:ランダム化を伴わない、未来に向かって追跡するコホート研究
コホート研究とは、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡して、研究対象となる疾病などの発生率を比較することで、要因と疾病発生との関係を調べる観察的研究です。
コホート研究には、主に1回の調査を行う「横断研究」と、2回以上にわたって調査を行う「縦断研究」があります。
2回以上にわたって調査する縦断研究において、最初の調査の対象者集団のことを「コホート」と呼びます。
未来に向かって追跡する(前向きに追跡する)コホート研究では、特定の要因への曝露から疾病発生までのプロセスを時間を追って観察することができます。
強み
- 実験対象の時間の経過に伴う変化を調べられる
- 一つの疾病に限らず、複数の疾病についての調査が可能
弱み
- 対象としている疾病の発生が珍しい場合は大規模なコホートを長期間にわたって追跡する必要がある
- 追跡している途中でコホートに事故があったり、失踪してしまったりして追跡が困難な場合がある
- 時間・コスト・労力がかかる
信頼度‐中の強:ランダム化を伴わない、過去に遡るコホート研究
過去に遡る(後ろ向きに調査する)コホート研究とは、すでにコホートに曝露が起こってしまった後で、研究者たちが過去に遡ってそのときの状況を調べ、曝露状況と疾病の発生を確認する調査です。
前向きのコホート研究よりも少しエビデンスレベルが劣ります。
強み
対象者が特定の要因に曝露した後に生じた疾病との関係を調べるため、要因と疾病との時間的前後関係を正しく評価できます。
弱み
- 曝露がすでに起こった後で研究を始めるため、曝露の程度を定量的に評価することが困難な場合がある
- 余計な要因(勉強法の例での「やる気」のような要因)が入っている可能性を否定できない
信頼度‐中:過去に遡る症例対照研究
症例対照研究では、疾病を罹患した集団を対象に、どんな要因に曝露しているのかを観察調査します。
たとえば、「タバコによる肺がん」を調査するとします。タバコ=原因、肺がん=結果ですね。
コホート研究では、タバコを吸っている人たちを集めて、肺がんになるかを調べる研究です。
一方、症例対照研究では、肺がんを発症している人たちを集めて、タバコを吸ったことがあるかを調べる研究です。
強み
- すでに疾病が発症している人たちを対象とするため、疾病の発生を待つ必要がなく、コホート研究に比べて時間もコストもかからない
- 対象としている疾病の原因と考えられる要因を複数調べることができる
弱み
- 疾病に関連していると考えられる要因(上の例でいうと「タバコ」)を過去に遡って調査するために、対象者に過去の出来事を思い出してもらい申告してもらうことになるが、要因との関係を過大評価したり、過小評価したりするリスクがある(思い出しバイアス)
- 研究対象者を偏って選択してしまい、仮説要因と疾病との関連を正しく評価できない可能性がある(選択バイアス)
信頼度‐中の弱:処置前後の比較などの前後比較、対照群を伴わない研究
ある程度の集団に治療を行って、その治療をやる前と後でどのような変化が現れたかを比較する研究です。
強み
ある程度の集団について調べるため、1例だけを調べた症例報告よりも信憑性が高いです。
弱み
その治療方法を行わなかった場合はどうなるのか、を比較するための対照群がないため、本当にその治療の効果なのか判定できないです。
信頼度‐中の弱:症例報告やケース・シリーズ
症例報告とは、ある患者についての症状・兆候・診断・治療などの詳細の報告です。
強み
1例だけとはいえ、客観的なデータであることは間違いないので、専門家個人の意見よりは信憑性が高いです。
弱み
対象となる患者に変わった生活習慣があったり、特殊な環境に住んでいた場合、その人だけに当てはまる特殊なケースになり、他の人には適応できない可能性があります。
信頼度‐弱:患者データに基づかない専門家個人や専門委員会の意見
ある分野の専門家や専門委員会の人が主観的に述べた意見です。
エビデンスレベルの中では、信憑性が最も低いものになります。
強み
権威のある人物の意見なので、説得力があります。
弱み
専門家とはいえ、主観的な意見なので、その人の利害関係や気分、経験によっても変わる危険性があります。
科学的根拠に基づく医療「EMB(Evidence Baced Medicine)」とは?
「EBM(Evidence Baced Medicine)」とは、良心的かつ実直に、慎重な態度を用い、現段階で最良の医療のエビデンスを用いて、個々の患者のケアにおいて意思決定を行うこと」と定義されています。
これまで紹介してきたような研究や臨床データ、論文を広く参照し、場合によっては新たに臨床研究を行うことによって、なるべく客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら、患者と一緒に方針を決めるよう心掛ける医療を指します。
「現段階で最良の医療」と定義されているのは、医療は日進月歩で進化していくため、専門家は常に最新の情報を知っておく必要があるということです。
これまで最良の医療を選択する方法として、個人的な経験が大きな役割を果たしてきました。
といった具合に。
でも、経験主義じゃあ、常に最新最良の医療は難しいよねってことで1990年代に取り入れられるようになったのがEBMです。
まとめ
自分の知らない分野に関する情報は、ついつい専門家の意見を鵜吞みにしてしまいがちです。
また、現代はSNSで個人が簡単に発信できる時代なので、デタラメな情報で溢れています。
その中から正しい情報を探し出すための手掛かりとして、エビデンスレベルは役に立ちます。
何でもかんでも鵜吞みにせず、何を根拠にしているのか調べてみましょう。
論文を調べるツールとして、「アメリカ国立医学図書館の論文データベース(PubMed)」や「Google Scholar」が便利です。
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参考
お薬Q&A~Fizz Drug Information~「エビデンスレベル」って何?~ランダム化比較試験のメタ解析から、専門家個人の意見まで
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1.信憑性の高い情報ランキング「エビデンスレベル」とは?
2.科学的根拠に基づく医療「EBM(Evidence Baced Medicine)」とは?
3.まとめ