若者の不安レベルが過去数十年で大きく上昇していることが、複数の研究で示されています。
その象徴が、「現代の平均的な高校生が、1950年代の精神科入院患者と同じレベルの不安を示す」という衝撃的なデータです。
この記事では、研究の正確な中身、不安が高まった背景、そして家庭と学校で今日から始められる対策を、信頼できるデータに基づいて整理します。
「高校生の不安が精神科入院患者並み」ってどういう意味?
現代の高校生の不安が精神科入院患者並みというのは、数十年前なら治療の対象とされたレベルの不安を、いまの若者は『普通』の状態として抱えているということです。
この主張のもとになっているのは、心理学者ジーン・トウェンギ(Jean Twenge)教授(サンディエゴ州立大学)が2000年に学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』で発表したメタ分析です。
メタ分析とは、複数の研究結果を統合して全体の傾向を見る手法のことで、とても信頼性が高い研究です。
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研究の概要
この研究では、1952年から1993年までの約270本の研究、5万人以上の若者のデータが統合されました。
その結果、不安尺度(不安の強さを数値で測る心理テスト)のスコアが、約1標準偏差分、上昇していたことがわかりました。
標準偏差とは、データのばらつきの幅を表す単位です。
日本のテストでおなじみの「偏差値」は、実はこの標準偏差を基準に作られています。
偏差値は「平均を50」「1標準偏差を10」として計算します。
つまり「1標準偏差分上がった」というのは、全員の平均レベルが偏差値50から偏差値60に跳ね上がったことを意味します。
昔なら「クラスの中でかなり不安が強い方だね」と言われていた上位15%くらいの子が、現代では「ごく普通の平均的な子」になってしまった、というほどの劇的な変化です。
かつての「要ケア」レベルが、今の「平均」という深刻さ
ここで一つ、正確に押さえておきたい点があります。
元の研究で示されたのは、「1980年代の『普通の』子ども(9〜12歳)が、1950年代に精神科のケアを受けていた子どもよりも高い不安スコアを記録した」という事実です。
比較の対象は厳密には『子ども』であり、『入院患者』ではなく『精神科ケアを受けていた子ども』でした。
とはいえ、「かつては治療を要したレベルの不安が、いまや平均的な状態になっている」という傾向そのものの深刻さは変わりません。
家庭・学校で今日からできることは何か?
今日からできることとしては、「スマホとの距離・睡眠・対面のつながり」の3点を整えることが、もっとも効果的な土台づくりが挙げられます。
不安の高まりは社会全体の課題ですが、身近な環境を整えることで子どもを守る効果は十分にあります。
専門家が共通して挙げる対策を、ステップ形式で紹介します。
スマホとSNSを使い始める時期を見直す
『The Anxious Generation(邦題:不安な世代)』の著者ジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt)教授は、以下の事を提案しています。
- 高校に入るまでスマートフォンを持たせない
- 16歳までSNSを使わせない
すでに使っている場合も、利用ルールを家族で話し合うことが第一歩です。
睡眠を守る
寝室にスマートフォンを持ち込まないようにするだけで、睡眠時間と質は大きく改善します。
睡眠不足は、不安や気分の落ち込みを悪化させる代表的な要因です。
対面のつながりと自由な遊びの時間を増やす
- 友達と直接会うこと
- 外で過ごすこと
- 大人の管理が少ない自由な遊び
これらは不安をやわらげる「心の土台」になります。
学校単位で「スマホフリー」の時間や空間をつくる
クラスや学校全体でルールを共有すると、「自分だけ我慢している」という感覚が薄れ、子どもが取り組みやすくなります。
子どものサインに気づく
- 眠れない
- 食欲が落ちる
- 好きだったことに興味を示さない
- イライラが続く
こうした変化が2週間以上続く場合は、スクールカウンセラーや医療機関など、専門家への相談を検討してください。
【よくある疑問と誤解】「スマホがすべて悪い」と考えてよいのか?
スマホは重要なリスク要因ですが、唯一の原因と決めつけるのは誤りで、対策は『禁止』より『置き換え』が効果的です。
ここでは、保護者や教育者が抱きやすい3つの疑問に答えます。
Q1. スマホやSNSが原因のすべてなのか?
A.いいえ、断定はできません。
2012年以降の若者のメンタルヘルス悪化と、スマホの普及には強い相関(同じ時期に一緒に変化する関係)があります。
しかし、相関は必ずしも因果(一方がもう一方を引き起こす関係)を意味しません。
たとえば、アイスクリームの売上と水難事故はどちらも夏に増えますが、一方が他方の原因ではなく、「気温」という別の要因が背景にあります。
専門家の間でも「SNSが主因だ」とする立場と「影響は限定的だ」とする立場の両方があり、議論は続いています。
とはいえ、無視できないリスク要因として真剣に扱う価値は十分にあります。
Q2. うちの子は元気そうだから大丈夫?
A.不安は外からは見えにくいものです。明るく振る舞っていても、内側で苦しんでいることは珍しくありません。
特に、不安や抑うつの増加は女子でより顕著だと複数の調査が示しています。
「元気そう」を理由に油断せず、日常の対話の機会を保つことが大切です。
Q3. スマホを取り上げれば解決する?
A.急な禁止だけでは、かえって反発を招き逆効果になることもあります。
重要なのは「取り上げる」より「置き換える」という発想です。
スマホに費やしていた時間を、睡眠・対面の交流・自由な遊びに振り向ける設計こそが、無理なく続けられる対策になります。
データで見る「2012年の転換点」と「Great Rewiring」とは?
2012年前後にスマホが当たり前になり、子ども時代が遊び中心から画面中心へと一気に置き換わった、その大変化が『Great Rewiring』です。
若者のメンタルヘルスを語るうえで、2012年前後は重要な分岐点です。
トウェンギ教授は、以下のように指摘しています。
2012年以降、ティーンと若年成人のメンタルヘルスと心理的な幸福度の、ほぼすべての指標が悪化している。
2000年代前半は安定していたうつ・不安・孤独感・自傷・自殺念慮が、2010年代初頭から急上昇しました。
たとえば米国では、ティーンのうつ病が2011年から2021年のあいだに約2倍に増えています。
増加は特に女子で目立ちます。
なぜ2012年が転換点なのか?
この時期、スマートフォンが多くの人にとって「当たり前の持ち物」になりました。
学校の外での時間の使い方が根本的に変わり、対面の交流や睡眠の時間が、画面の中の活動に置き換わっていったのです。
ハイト教授は、この大きな変化を「Great Rewiring(脳の配線の再構築、子ども時代の大再配線)」と呼んでいます。
【激変した子ども時代】「遊び中心」から「スマホ中心」へ
1980年代から「遊び中心の子ども時代」が衰退しはじめ、2010年代初頭に「スマホ中心の子ども時代」へと一気に置き換わった。
その移行が、子どもの社会的・神経的な発達に影響を与えているという見方です。
睡眠不足、注意の分散、孤独、他人との過剰な比較といった複数の経路を通じて、若者の心に負荷がかかっていると論じられています。
だからこそ、これは個人や一家庭だけの問題ではなく、教育・家庭・社会全体で向き合うべき課題だとされているのです。
まとめ:若者の心を守るために、いまできること
最後に、この記事の要点を整理します。
- 現代の若者の不安レベルは数十年前と比べて大きく上昇しており、「かつて治療の対象だったレベルが、いまや平均的な状態」になっている。
- もとになるトウェンギ教授の研究は、正確には「1980年代の普通の子ども」と「1950年代に精神科ケアを受けた子ども」を比較したもの。「高校生 対 入院患者」はそれを一般化した表現。
- 2012年前後のスマホ・SNSの普及と、若者のうつ・不安・孤独感の急増には強い相関がある(因果関係は専門家のあいだで議論中)。
- ハイト教授はこの変化を「Great Rewiring」と呼び、社会全体での対応を訴えている。
- 家庭・学校でできることはある。スマホ・SNSの開始時期の見直し、睡眠の確保、対面のつながりと遊びの時間の確保が対策の柱になる。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・助言に代わるものではありません。お子さんの心の健康について心配がある場合は、専門家にご相談ください。
【参考文献・出典】
・Twenge, J. M. (2000). The Age of Anxiety? Birth Cohort Change in Anxiety and Neuroticism, 1952–1993. Journal of Personality and Social Psychology. PubMed
・Jean Twengeらの研究に言及したInstagram投稿. Instagram
・American Psychological Association(2000)プレスリリース「Studies show normal children today report more anxiety than child psychiatric patients in the 1950’s」. apa.org
・Jonathan Haidt『The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness』(2024).
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