うつ病などの精神疾患によって休職すると、これまでのやり方だと家で休養しながら服薬し、症状がおさまると復職します。
しかしその場合、復職後6か月以内に約55.9%の方が再休職しています(平成24年度うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究より)。
家での療養によってオレンジ色の部分から緑色の部分まで回復します。
多くの方はこのタイミングで復職してしまいますが、上の図を見ていただくと分かるように、働けるレベルはもっと上にあるのです。
精神状態が悪化すると一瞬で落ちますが、回復するのには何か月もかかります。
つまり、きちんと精神疾患が寛解してから復職することが非常に大切なのです。
この記事では、復職するタイミングや再発・再休職しないために大切なことなどを解説していきます。
精神疾患の復職のタイミングとは?
身体的な疾患と違って、精神疾患の場合は治っているかの判断が難しいので、復職のタイミングも判断しづらいのが現状です。
従来の場合、主治医が復職可能かを判断し、産業医や職場側で決断します。
しかし、従来の治療法(家での療養+薬物治療)だけだと、復職6か月の時点での再休職率は55.9%で、復職した方の約2割は最初の1か月で再休職していました。
どうして主治医は、すぐに再休職してしまう患者さんに復職可能の判断をしてしまうのでしょうか?
主治医も復職の判断は難しい
主治医も復職の判断をするのは非常に難しいです。
というのも、主治医は「診察室」という非日常的な場面での患者さんしか見られませんし、復職判断の基準も本人からの自己申告によるところが大きい。
休職した方の多くは「早く会社に復帰しないと!」と焦っていたり、患者さん自身も自分の状態をきちんと把握できていないので、「もう復職できます!」と主治医に言ってしまうのです。
主治医としても「症状が落ち着いてきたし、本人も復職できると言ってるから復職させて大丈夫かな」と考えてしまいます。
しかし、実際は「日常生活が可能なレベル」と「就労可能なレベル」にはギャップがあるため、日常生活が可能なレベルで復職しても再び休職してしまう可能性が高いのです。
残遺症状があると再発リスクはかなり高まる
残遺(ざんい)症状がある状態で復職すると再発率はかなり高まります。
残遺症状とは、疾患の諸症状がおおむね治ったが、後遺症のようにいくつか残っている症状のことです。
うつ病の残遺症状だと、不眠傾向や意欲低下、集中持続困難、疲れやすいといった症状があります。
寛解した患者群と寛解に達していない患者群とを2年間、追跡調査した研究によると、寛解に達していない患者群4.5倍も再発率が高いという結果になりました(Pintor et al,2003)。
再発によるデメリット
再発すると、本人は「やっぱり自分はダメだ」と自信を失くしますし、周りの人からの信頼もなくなっていきます。
そして、居場所がないと感じると退職してしまったり、最悪の場合は自殺ということにもなりかねません。
再発・再休職しないために大切なこと
症状が悪化するとガタガターッと崩れていきますが、回復するのには時間がかかります。
そして再発・再休職すると自己肯定感が低下し、再発しやすくなってしまいます。
ここでは再発・再休職をしないために大切なことについて話します。
リワークプログラムの活用
リワークはReturn to workの略で、うつ病や双極性障害、適応障害、不安症などによって会社を休職した方が再び復帰することを支援するプログラムです。
リワークは2005年に気分障害や不安障害専門の復職支援プログラムとして始まりました。
再休職しないためには、「日常生活を送れるレベル」のもう一段上「勤務可能なレベル」まで回復する必要があり、そのために有効とされているのがリワークです。
リワークプログラムでは、デイケアという枠組みの中で心理教育やSST(ソーシャル・スキルズ・トレーニング)、集団精神療法などのプログラムを行います。
リワークプログラムを通じて、患者さんは自己洞察し、自分が休職になった理由や再休職しないためにはどうすればよいかを考えていきます。
リワークプログラムの利用者と非利用者とを比較した研究によると、リワークプログラムの利用者の就労継続率は有意に良好でした。
リワークプログラムに関してはこちらの記事をご覧ください。
復職を焦らず、しっかり治す
休職している間は経済的な問題などで復職を焦ってしまう人が多いですが、再発・再休職をしないためにはしっかりと治す必要があります。
お金の不安があると治療に専念するのは難しいですが、休職中の経済的な負担を軽減してくれる制度がいくつかあります。
傷病手当制度はその一つです。
傷病手当制度とは、病気で休職している期間中に所得保証するための制度で最大1年6か月間、月給の3分の2が支給されます。
他にも自立支援医療制度という、3割負担の医療費を1割負担にしてくれる制度などもあります。
こういった制度を使って経済的な負担を軽減し、治療にしっかりと専念することが大切です。
まとめ
- 復職するタイミングは主治医でも判断が難しい
- 「日常生活を送れるレベル」と「就労可能なレベル」の間にはギャップがある
- 残遺症状があると再発するリスクが高まる
- 復職するタイミングは疾患が寛解し、休職になった原因が分かってから
- 再発・再休職をしないためには「リワークプログラム」を活用するのが効果的である
【参考文献】
LuisPintor, CristobalGastó, VictorNavarro, XavierTorres, LourdesFañanas(2003)Relapse of major depression after complete and partial remission during a 2-year follow-up Journal of Affective Disorders, 73 (2003), pp. 237-244
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