私たち人間の頭の中では毎日、どのように膨大な量の情報を処理しているのでしょうか?
一説によると、
など、人は1日に約50,000回も意思決定をしているそうです。
その通りです。
50,000回も一つ一つじっくり考えていたら脳のエネルギーがもたないので、極力エネルギーを使わないように、情報をよく吟味しないで安易に判断します。
つまり、人は情報をじっくり吟味して判断することもあれば、あまり深く考えず安易に判断することもあるのです。
このように人には2種類の意思決定の方法があると考えるモデルを「ヒューリスティック・システマティックモデル」と言います。
この記事では、ヒューリスティック・システマティックモデルとは何なのか、ヒューリスティックにはどのようなものがあるのか、を解説していきます。
意思決定の過程「ヒューリスティック・システマティックモデル」とは?
1989年にアメリカの社会心理学者シェリー・チェイキン(Shelly Chaiken)らは情報を入念に処理するかしないかの違いに注目し、「ヒューリスティック・システマティックモデル(英語:Heuristic-Systematic Model of Information Processing)」を唱えました。
ヒューリスティック・システマティックモデルによると、人の情報処理の仕方は以下の2種類に分けられます。
- システマティック処理‐情報を事細かく分析する
- ヒューリスティック処理‐情報をある手掛かりから簡単に処理する
ヒューリスティック処理はいわば、「思考のショートカット」です。
私たち人間はシステマティック処理よりもヒューリスティック処理を使います。
人の脳は省エネ?キーワードは「認知資源」
認知資源は人が物事に判断を下す度に消費されるエネルギーのことです。
ちなみにメンタリストDaiGoさんは『自分を操る超集中力』という著書の中で、認知資源のことを「ウィルパワー」、つまり「意思の力」と表現しています。
夜にぐっすり眠ると、認知資源ゲージが回復しますが、意思決定をする度にそのゲージは減っていきます。
人は1日に約50,000回も意思決定をする訳ですから、なるべくその消費を抑えなくてはいけません。
ヒューリスティック処理よりもシステマティック処理の方が情報を細かく分析するので、間違う可能性は少ないのですが、それだけ認知資源も消費してしまいます。
社会心理学では、1970年頃まで「人は合理的で、関連する証拠を多く集め、論理的に分析し、最良の答えに到達できる”素朴な科学者”である」と考えられていました。
しかし、その後の研究で人はそんなに丁寧に物事を考えるわけではなく、論理よりも直観に頼りがちで、けっこう判断ミスもしてしまうことが分かりました。
したがって、1980年頃からは「人は普段から出来るだけ時間や労力を無駄遣いしないように努める”認知的倹約家”である」と考えられるようになりました。
2つの処理方法を使い分ける基準
人がどうやってこの2つの処理方法を使い分けているのかと言いますと、
- 対象が自分に関係あるか
- 対象は自分にとって重要か
で使い分けます。
例えば、あなたが恋人にしたいと思う人がいるとします。
その人は自分に関係があり、重要なので「システマティック処理」を用いて、その人の言動・表情・服装などを細かく観察して、時間をかけてゆっくりと判断するはずです。
では、通りすがりの人はどうでしょうか?
その人は自分に関係はなく、重要でもないですよね?
なので、ヒューリスティック処理を用いて「眼鏡をかけているから賢そう」とか「良い時計を付けているから、お金持ちっぽい」などと安易に判断してしまいます。
ヒューリスティック処理を「安易に判断する」と言いましたが、実はヒューリスティック処理の正答率は案外高いです。
ある問題の正解を直観で選んでもらった時と、時間をかけてゆっくりと選んでもらった場合で、約8割も同じ答えを選んだという研究もあります。。
つまり、直観で選んでも、論理的に選んでも、約8割は同じ答えを導き出すなら、時間・認知資源も節約出来るからヒューリスティック処理で良いよねってことです。
代表的なヒューリスティック3つ
ヒューリスティック処理にはいくつか種類がありますが、ここではその代表的なものを3つご紹介します。
代表性ヒューリスティック
太郎くんという几帳面で、物静かな人がいます。太郎くんは「営業職」と「図書館の司書」のどちらである可能性が高いと思いますか?
さて、几帳面で物静かな太郎くんは「営業職」か、「図書館の司書」のどちらの職業に就いていると思いますか?
こう聞かれると、多くの人は図書館の司書と答えがちです。
あるカテゴリーの典型的な例を「代表」と言いますが、人はその典型例に合った特徴を過大評価してしまうという傾向があります。
しかし、営業職の方が図書館の司書よりも圧倒的に数としては多いので、太郎くんの性格しか手掛かりがないなら、営業職と答えた方が合理的です。
この場合は太郎くんの性格が司書のイメージと合致していたので、そのように答えてしまうんですね。
利用可能性ヒューリスティック
「利用可能性ヒューリスティック」は物事の生じやすさを頭に浮かびやすいかどうかで判断するという方法です。
例えば、よくメディアで事件や交通事故が報じられているので、事件・交通事故による年間の死亡者数が高いように感じます。
しかし、あまりメディアでは報じられませんが、乳がんや糖尿病で亡くなる人の方が多いです。
実際の発生件数とは関係がないのですが、メディアで報じられることで頭に浮かびやすくなるので、誤った判断をしてしまうことがあります。
係留と調整
「係留と調整」はよく知らないことについて推測する際に、手掛かりとなる情報を基準として、それより多いか少ないかで考えるという方法です。
例えば、「羽田空港の1日の利用者数を答えてください」と言われたします。
事前に新千歳空港の利用者数が約60,000人という情報を持っていたら、それを基準に、「新千歳空港よりは多いだろうな」と考え「10万人」と答えるという感じですね。
まとめ
人が意思決定する過程には、
- 情報を事細かく分析して判断する「システマティック処理」
- ある手掛かりから簡単に判断する「ヒューリスティック処理」
があり、人はほとんどの場合、ヒューリスティック処理を使っています。
情報を事細かく分析するシステマティック処理の方が、誤って判断する可能性が低いのですが、たくさんの認知資源を使ってしまうため、エネルギーを節約するために、ヒューリスティック処理を多用しています。
ヒューリスティック処理は大雑把な割にはけっこう当たります。
しかし、誤った判断をしてしまうことも多々あるので、ヒューリスティックの種類や特徴を頭に入れておくと、大きな失敗をしなくて済むかもしれませんね。
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