うつ病やパーソナリティ障害などの精神疾患の治療には、薬物療法や心理療法などが用いられます。基本的に薬物療法のみを行うということはなく、心理療法と組み合わせて行われます。
心理療法にもいくつか種類がありますが、その一つに「スキーマ療法」があります。
人は物事を理解するとき、外界の情報をそのまま理解するのではなく、既に持っている知識(既有知識)を使って理解します。
「スキーマ」は簡単に言うと、“物事を理解するときに通過するフィルター”のようなものです。
持っているスキーマは人それぞれであり、このスキーマを基礎にして、さまざまな思考が自動的に生まれます(自動思考)。
たとえば、「見捨てられ/不安定スキーマ」を持っている人は、今自分と仲良くしている人でも、自分を見捨てて立ち去ってしまうと感じています。
このスキーマがある人は恋人と口論になったとき「きっと自分のことを見捨てるつもりに違いない!」と考えたりします。
「見捨てられ/不安定スキーマ」は幼少期に形成される可能性がある“悪いスキーマ”の一つでと呼ばれます。
“悪いスキーマ”は全部で18種類あり、それらは「早期不適応スキーマ」と呼ばれます。
スキーマ療法では、患者自身が持っている早期不適応スキーマを自覚させ、その影響を弱めたり、自動思考に流されない方法を考えて、苦痛を解消していきます。
この記事では、もう少しスキーマについて解説し、早期不適応スキーマ18種類をご紹介します。
スキーマを分かりやすく解説!スキーマとは何なの?
認知心理学における「スキーマ(schema)」とは、人間の脳内で知識をある一定のルールをもとに関連づけて、まとめられたものです。
脳内に散らばっている知識をそれぞれ別々に呼び出してたのでは、時間がかかってしまいますし、効率が悪いです。
そこで人間の脳にはスキーマという、ひとまとまりの知識を使って、まとめて思い出せるようにしているのです。
たとえば、「歯を磨く」という行動について考えてみましょう。
歯を磨くためには、
- 洗面所へ行く
- ハブラシを持つ
- ハミガキ粉を持つ
- ハミガキ粉をハブラシに付ける
- ハミガキ粉を置く
- ハブラシで歯を磨く
- ハブラシに付いたハミガキ粉を洗う
- コップを持つ
- コップに水を入れる
- 口をすすぐ
- コップを置く
- 口元をタオルで拭く
といった一連の行動をとることになりますが、一つ一つ思い出しながら行っていたら、効率が悪くて仕方ありません。
「歯磨きスキーマ」を持っていると、上記のような一連の行動を自然と行えるようになるのです。
ただし、スキーマ療法における「スキーマ」はこれからご紹介する“悪いスキーマ”「早期不適応スキーマ」のことを指します。
早期不適応スキーマを18種類をご紹介
早期不適応スキーマ(Early maladaptive schemas)とは、主に幼少期や思春期などの人生の早期に形成され、その当時は必要だったのかもしれないが、今となってはその人を生きづらくさせているスキーマのことです。
早期不適応スキーマは、過去のキズ、悲劇、恐怖、虐待、ネグレクト、安全性のニーズの非充足、一般に正常な人間の愛情の欠如などなど、感情的な思い出によって形成されています(wikipedia,スキーマ療法)。
これらの「傷つき体験」は多かれ少なかれ、誰もが経験することですが、その傷つき体験が大きかったり、繰り返し何度も経験すると、早期不適応スキーマが形成されます。
Young, Klosko&Weishaar(2003)は早期不適応スキーマを18種類発見し、それらを以下の5つのカテゴリーに分類しました。
- 断絶と拒絶(Disconnection/Rejection)
- 自律性と行動の損傷(Impaired Autonomy and/or Performance)
- 他者への追従(Other-Directedness)
- 過剰警戒と抑制(Overvigilance/Inhibition)
- 制約の欠如(Impaired Limits)
それでは、カテゴリーごとに早期不適応スキーマをご紹介していきます。
「断絶と拒絶(Disconnection/Rejection)」
「断絶と拒絶」は、「愛されたい」「理解してもらいたい」といった、他者とのかかわりを求める感情や欲求が満たされないことによって形成されるスキーマ群です。
見捨てられ/不安定スキーマ(Abandonment/Instability)
「見捨てられ/不安定スキーマ」を持つ人は、他人とのかかわりは非常に不安定であり、家族であれ、恋人であれ、友人であれ、いつかは自分を見捨てて立ち去ってしまうと感じています。
このスキーマを持つ人には、見捨てられたくなくて必死にしがみつく人もいれば、「見捨てられるくらいなら...」と逆にこちらから関係を断ち切る人もいます。
社会的孤立/疎外スキーマ(Social Isolation/Alienation)
「社会的孤立/疎外スキーマ」を持つ人は、自分は他の人とは違っており、どのようなコミュニティにも所属することのできない孤立した存在であると感じています。
このスキーマを持つ人は、社交的な場面でも端でポツンといることが多く、自分から他人に話しかけようとすることは少ないです。
不信/虐待スキーマ(Mistrust/Abuse)
「不信/虐待スキーマ」を持つ人は、他人はみな自分につけこみ、自分をイジメ、食いものにするような「虐待者」であり、信用することができないと感じています。
このスキーマを持つ人の多くは、他人を疑ってかかり、誰と付き合うときにも心を開かず、本音を明かすことはありません。
他人と交わらず、コミュニケーション場面でも自分のことや個人的なことを話しません。人から親切にされるとかえって、「何か企んでいるのでは?」と疑い、その人と距離をとろうとします。
欠陥/恥スキーマ(Defectiveness/Shame )
「欠陥/恥スキーマ」を持つ人は、自分は人間として欠陥のある「ダメ人間」で、そのような自分の存在自体を恥ずかしいと感じています。
このスキーマを持つ人は、自分の「欠陥」が他人にバレないように振る舞うことが多いです。そのため、人に評価されるような状況をそもそも避けてしまうことも少なくありません。
情緒的剥奪スキーマ(Emotional Deprivation)
「情緒的剥奪スキーマ」を持つ人は、自分は誰からも愛されず、理解もされず、守ってもらえない存在であると感じています。
このスキーマを持つ人は、もの凄くに「愛されたい」「わかってもらいたい」と願っています。
そういう人の中には、家族や恋人、友人などに対して、「私を愛してほしい」「私をわかってほしい」という思いを、強烈な形で向けてくる人がいます。
「自律性と行動の損傷(Impaired Autonomy and/or Performance)」
「しっかりした人間になりたい」「有能な人間になりたい」といった、自律性や有能性を求める感情・欲求が満たされないことによって形成されるスキーマ群です。
依存/無能スキーマ(Dependence/Incompetence)
「依存/無能スキーマ」を持つ人は、自分は無能であり、他者からの助けがなくてはまともに生きていけないと感じています。
このスキーマを持つ人は、新たな課題に直面すると、すぐに「できない」と思ってしまうため、新しい課題に取り組むことに、尻込みすることが多いです。
巻き込まれ/未発達の自己スキーマ(Enmeshment/Undeveloped Self)
「巻き込まれ/未発達の自己スキーマ」を持つ人は、自分が他者に感情的に巻き込まれており、あたかも他者と一体化しているかのように感じています。
このスキーマを持つ人は、同一化している他者と一緒にいないと、自分がなくなってしまったように感じ、不安になるため、その人と一緒にいようとします。
自分の感情や欲求より、その他者の感情や欲求に目を向け、それを満たすことによって、自分の感情や欲求を満たそうとします。
損害や疾病に対する脆弱性スキーマ(Vulnerability to Harm or Illness)
「損害や疾病に対する脆弱性スキーマ」を持つ人は、今にも恐ろしい出来事が起こり、自分はそれを防ぐこともできないし、対処することもできないと感じています。
このスキーマを持つ人は、
とビクビクし、常に警戒しています。
自分の身体の異変や周囲の状況の変化に敏感で、何か変化を感じると「どうしよう」とさらにおびえます。
失敗スキーマ(Failure)
「失敗スキーマ」を持つ人は、「自分のしてきたことは失敗ばかり」「何をやっても失敗するだろう」と感じ、自分を“失敗者”だと思っています。
このスキーマを持つ人は、自分の行動をことごとく「失敗」とみなすので、自分で自分にガッカリし、「自分なんか」と自分を卑下する発言をすることが多くあります。
また、自分に自信がないので、何か新たなことにチャレンジすることを避ける傾向があります。
「他者への追従(Other-Directedness)」
「自分の感情を自由に表現したい」「自分のやりたいことを要求したい」といった、自由を求める感情・欲求が満たされないことによって形成されるスキーマ群です。
服従スキーマ(Subjugation)
「服従スキーマ」を持つ人は、他者に見捨てられたり報復されないためには、自分の欲求や感情を犠牲にして、他者に服従するしかないと感じています。
このスキーマを持つ人は、
- 相手の機嫌を伺う
- 相手の機嫌を取る
- 相手が自分に望んでいるであろう行動を自ら取る
- 相手の機嫌が悪いとどうにかして挽回しようとする
といった、相手優先の行動を自分の感情や欲求はそっちのけで取ります。
このような状態が続くと次第に欲求不満に陥っていきます。
評価と承認の希求スキーマ(Approval-Seeking/Recognition-Seeking)
「評価と承認の希求スキーマ」を持つ人は、他者から評価されたり承認されたりすることに過度に囚われており、他者の評価によって自尊心が左右され、他者の評価を得るために自らの行動を選択する傾向があります。
このスキーマを持つ人は、自分の意志に基づいて発言したり行動することはなく、いつも「他人に認められるか」「他人に褒められるか」という基準で自らの言動を選択します。
自分の思うように評価されないと、
とひどく落ち込むことがあります。
自己犠牲スキーマ(Self-Sacrifice)
「自己犠牲スキーマ」を持つ人は、自分よりも他者を優先し、他者の欲求や感情を自分自身が満たしたり、癒したりすることに過度に囚われる傾向があります。
このスキーマを持つ人は、常に相手のことを気遣って世話をしたり手助けをしようとします。
自分が相手の助けになれない場合は「自分には何もできない...」と落ち込むこともあります。
「過剰警戒と抑制(Overvigilance/Inhibition)」
「伸び伸びと動きたい」「楽しく遊びたい」など、自発性と遊びに関わる感情・欲求が満たされないことによって形成されるスキーマ群です。
否定/悲観スキーマ(Negativity/Pessimism)
「否定/悲観スキーマ」を持つ人は、人生のネガティブな面ばかりを過大に注目し、ポジティブな面を無視します。
いわゆる“マイナス思考”に囚われていて、いつも心配ばかりしてしまう傾向があります。
このスキーマを持つ人は、「もし~だったら、どうしよう?」といつも物事を悪い方に考え、心配ばかりしてしまいます。
感情抑制スキーマ(Emotional Inhibition)
「感情抑制スキーマ」を持つ人は、感情を抱いたり、表に出したりすることを恐れ、自分自身の感情を抑え込んだり、あたかも感情を持っていないかのように振舞ったりする傾向があります。
このスキーマを持つ人は、自分の心の中がどんな状態でも常に合理的であろうとするため、周りからは「人間味がない」「冷たい人」と思われることがあります。
感情を表出することが健康に良いような場面であっても、怒り・喜び・愛情・もろさなどを決して表そうとしません。
厳密な基準/過度の批判スキーマ(Unrelenting Standards/Hypercriticalness)
「厳密な基準/過度の批判スキーマ」を持つ人は、非常に高い基準を自分や他者に対して設定し、その基準を満たすよう、人はできるだけ努力し、行動すべきであると考えています。
このスキーマを持つ人は、「~すべきだ」「~しなければならない」が口癖で、物事を効率よくやることにこだわり、自分や他者に“完璧”を求める傾向があります。
罰スキーマ(Punitiveness)
「罰スキーマ」を持つ人は、人は失敗したら厳しく罰せられるべきだという信念を抱いており、自分や他者の過失を簡単に許すことができません。
このスキーマを持つ人は、自分や他者に厳しく振舞い、何か失敗しようものなら、自分でも他者でも罰を与えようとします。
「制約の欠如(Impaired Limits)」
「辛くても成し遂げたい」「自分を制御できる人間になりたい」など、自己制御に関わる感情・欲求が満たされないことによって形成されるスキーマ群です。
権利欲求/尊大スキーマ(Entitlement/Grandiosity)
「権利欲求/尊大スキーマ」を持つ人は、自分は他者とは違って特別な存在であり、特権と名誉が与えられて当然だと信じいます。
他者より優位に立つこと、ルールに囚われず自分のやりたいようにすることに過大な価値を置いています。
このスキーマを持つ人は、周囲に対して特別扱いを要求し、それが当然であるかのように振る舞います。そして要求が通らないと、激しくクレームをつけたりします。
自制と自律の欠如スキーマ(Insufficient Self-Control and/or Self-Discipline)
「自制と自律の欠如スキーマ」を持つ人は、欲求不満耐性が非常に低く、自らの欲求や衝動を制御したり、目標に向けて計画的に自己を律したりすることができません。
このスキーマを持つ人は、自分をコントロールすることが非常に苦手です。
やるべきことを後回しにしてやりたいことばかりやるので、期限や締め切りに間に合わなかったり、約束をキャンセルしたりすることも多々あります。
最後に
自分を辛い状況に追い込んでいる“悪いスキーマ”に気付き、その影響力を弱めることは簡単ではありません。
実際、スキーマ療法はクライエントの心の奥深くまで踏み込む心理療法であり、治療には数年を要します。
しかし、生きづらさの根本である自分のスキーマと向き合い、対処法を学ぶことは苦痛を解消するのにとても有効です。
【引用文献】
社会人10年目の僕がスキーマ療法に人生を賭けてみた‐「早期不適応スキーマについて」
Young, Jeffrey E; Klosko, Janet S; Weishaar, Marjorie E (2003). Schema therapy: a practitioner’s guide. New York
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1.スキーマを分かりやすく解説!スキーマとは何なの?
2.早期不適応スキーマを18種類をご紹介
3.「断絶と拒絶(Disconnection/Rejection)」
4.「自律性と行動の損傷(Impaired Autonomy and/or Performance)」
5.「他者への追従(Other-Directedness)」
6.「過剰警戒と抑制(Overvigilance/Inhibition)」
7.「制約の欠如(Impaired Limits)」
8.最後に