緊張から肩がこったり、胃が痛くなることがあります。
そんなときは、ゆっくり温泉につかったり、好きな音楽を聴いたりすると、緊張が和らいでリラックスできます。
この記事では、私たちが日常的にやっているこのような方法の延長上にある「自律訓練法(autogenic training)」について解説します。
自律訓練法は、自己催眠によって意識的にリラックス状態を作り出し、自律神経のバランスを回復させる自己催眠療法の一つであり、治療法として精神科や心療内科でも導入されています。
ストレスが多い世の中です。
自律訓練法を覚えて、自律神経を整え、リラックスしましょう!
【一人でできる】自律訓練法とは?
「自律訓練法(autogenic training)」とは、心の状態と関連の深い生理的側面の変化を重視した自己催眠方法です。
具体的には、リラックス状態で「言語公式」と呼ばれる決められた自己暗示文を心の中で繰り返すことで、求められる身体感覚(手足の重感、温感など)が生じるように練習します。
自己訓練法はドイツの精神科医シュルツ(J. H. Schultz)によって創始された技法です。
彼は中性的催眠状態の特徴が、安静にしている時と四肢の重たい感じ・温かい感じであることを見出し、これらの感覚を自己暗示的な操作によって段階的に習得する技法を考え、自己訓練法と命名しました。
自律訓練法の特徴
自律訓練法を行うと、生理的な反応としては
- 心拍数の減少
- 末梢の血流の増加
- 皮膚温の上昇
- 脳波の徐波化
などが生じます。
心理的には「受動的注意集中」と呼ばれる状態になります。
能動的注意集中が目標に対しての意図的な努力によって引き起こされ、緊張を伴うのに対して、受動的注意集中は興味・関心・努力を伴わずにさりげない態度で注意を集中することです。
受動的注意集中の状態は、自我の一時的な部分的退行している状態であり、自我の休息と機能回復に役立つとされています。
また、論理的・客観的な批判力が低下しているため、自己暗示がかかりやすくなると考えられています。
自律訓練法は個人のみならず、集団を対象に用いることもできます。
ただし、自律訓練法による効果を得るためには、比較的長期間の練習が必要になってくるため、モチベーションが高くなければ続きずらいのが特徴です。
【モチベーションに関する記事はこちら】
自律訓練法による健康効果
自律訓練法を行うことで以下のような健康効果が得られます。
- 疲労の回復
- 過敏状態の鎮静化
- 自己コントロール力がつくことによる衝動的行動の減少
- 仕事や勉強の能率向上
- 身体的な痛み・精神的な苦痛の緩和
- 内省力がつくことによる自己向上性の増加
- 自律神経系の安定
- 自己決定力がつく
といった素晴らしい効果が期待できます。
適応範囲は広く、精神科や心療内科の他にも、児童生徒に対する教育活動、産業界への導入、あがり症があるスポーツ選手への適応などがあります。
【実践編】自律訓練法のやり方を解説
それでは、自律訓練法を具体的にどのように行うのかを解説していきたいと思います。
準備(環境・服装・姿勢)
【自律訓練法に適している環境】
- 外からの刺激ができるだけ少ない場所
- 適度な明るさと温度のある静かな場所
【服装】
- ベルトやネクタイなどカラダを圧迫するものは緩めておく
【姿勢】
姿勢は自分にとって都合の良いものを選んで大丈夫ですが、原則としてカラダ全体の筋肉が弛緩しやすく、自然で安定したものであることが大切です。
【その他の準備】
- カラダ内部からの刺激を取り除くために、空腹時は避けて、トイレは先に済ませておきましょう
- 心を穏やかな状態にするために目を閉じた方が効果的ですが、目を閉じるとかえって不安感が増す場合は開けたままでOK
標準練習公式
環境が整ったら、いよいよ練習開始です。標準練習は「背景公式」と「6つの公式」から成り立っています。
背景公式は「気持ちが落ち着いている」という言葉で、基本となるものであり、練習の途中で適宜挿入します。
それでは、6つの公式を一つずつ説明していきます。
- 第1公式(四肢重感練習)
- 第2公式(四肢温感練習)
- 第3公式(心臓調整練習)
- 第4公式(呼吸調整練習)
- 第5公式(腹部温感練習)
- 第6公式(額部冷涼感練習)
第1公式(四肢重感練習)
第1公式では、手足が重くなっていくことをイメージすることで、四肢の筋肉をリラックスさせ、血流量の増加や皮膚温の上昇といった生理的変化を得やすくする公式です。
練習は利き腕から始めます。利き腕が右腕の人の場合は、
- 右腕
- 左腕
- 両腕
- 右足
- 左足
- 両足
- 両腕両足
の順番で、「右腕が重たい。左腕が重たい...」と心の中で繰り返します。
少しでも重たい感じが味わえたらOKです。
第2公式(四肢温感練習)
第2公式では、第1公式で得られた生理的変化をさらに強める公式で、四肢の温感をイメージすることで、末梢血管の拡張を図るための練習です。
第1公式と同じ要領で、利き腕から順番に四肢が暖かくなっていくイメージをします。
第3公式(心臓調整練習)
第3公式では、重感・温感練習で得られている心臓の規則正しい動きを確認するための練習です。
「心臓が静かに規則正しく打っている」と心の中で繰り返します。
※心臓疾患あるいは心臓に不安のある人は練習を控えてください。
第4公式(呼吸調整練習)
第4公式は、呼吸を整えるための練習です。
「自然に息をしている」と心の中で繰り返します。
※気管支喘息などの呼吸器系の疾患や機能的障害のある人は練習を控えてください。
第5公式(腹部温感練習)
第5公式では、消化管をはじめとした内臓機能の調整を目的とした練習です。
「お腹が温かい」と心の中で繰り返します。
※この練習は血管を収縮させ、緊張を起こさせる作用があるため、胃潰瘍などの消化器系の疾患や糖尿病、妊娠中の方は練習を控えてください。
第6公式(額部冷涼感練習)
第6公式では、「額が心地よく涼しい」と心の中で繰り返します。
※この練習は適度な内的覚醒と緊張を生じさせるので、脳波に以上のある方は練習を控えてください。
第1公式~第6公式まで心の中で繰り返して、間に背景公式も挿入するので、次のような流れになります。
練習時間と回数と消去動作
練習は毎日朝・昼・晩の3回ずつで合計9回行うのが原則です。第1公式~第6公式までで60~90秒で、これを3回繰り返すのが1セッションです。
第1公式~第6公式まで終了する度に、立ちくらみやダルさ防止するために必ず以下の「消去動作」を行います。
【消去動作】
- 両手を握り、少し力を入れて5,6回開閉する
- ひじの屈伸運動を3,4回行う
- 大きく背伸びをして、2,3回深呼吸をする
- ゆっくり目を開く
最後に
自律訓練法は心が穏やかになる静かな場所で行うのが基本ですが、練習完成後は電車の中などの騒音がある場所でも出来るようになります。
短い時間でいつでもどこでも行えるので、疲れている時やイライラしている時などに、気軽に行える疲労回復の手段として、ぜひ活用してみてください。
【引用文献】
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2.【実践編】自律訓練法のやり方を解説
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