「これから5分間、シロクマのことを考えないでください。」
さて、あなたは今、何を考えていますか?
普段、シロクマのことなんて考えないのに、北極にいるあの白くて大きなシロクマを想像せずにはいられないのではないでしょうか。
これは「皮肉なリバウンド効果」と呼ばれる心理現象で、何かを考えないようにすると、かえってそのことが頭から離れなくなってしまう、というものです。
皮肉なリバウンド効果は、不眠症の人が「早く眠らないと!」と焦るほど眠れなくなることや、ダイエット中の人が「甘いケーキのことを考えないようにしよう」とすることでケーキのことで頭が一杯になってしまう原因となります。
この記事では、なぜ皮肉なリバウンド効果が起こるのか、ダイエットを成功させるためにはどうしたら良いのか、などについて解説していきます。
【禁欲の科学】ダイエットは「体重を増やす行為」
この記事をご覧になっている方の中には、ダイエットで失敗した経験をされている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それもそのはず、2007年の食事制限およびカロリー制限に関する研究結果のまとめによると、ダイエットによる減量効果や健康上のメリットはほとんど認められず、むしろ害になっていることが明らかになりました。
ダイエットをした人のほとんどは、ダイエット中に痩せた分の体重が戻り、さらに体重が増えてしまうこと多いです。
実際、ダイエットをした人は、同じ体重でもダイエットをしなかった人に比べて、体重が増加する傾向があります。
つまり、ダイエットは「体重を減らす行為」ではなく、「体重を増やす行為」なのです。
体重を減らすために、苦しい思いをしてダイエットをした結果、さらに体重が増えてしまうなんて、最悪ですよね。
なぜこんなことになってしまうのか、解説していきます。
脳のシステム「オペレーター」と「モニター」
考えや感情を頭から消し去ろうとすると、逆にそのことが頭から離れなくなる「皮肉なリバウンド効果」。
ハーバード大学の心理学教授のダニエル・ウェグナー氏は、「何かを考えてはいけない」という指令を脳が処理するプロセスに関係があるのではないか、と仮説を立てました。
そのプロセスは「オペレーター」と「モニター」という2つに分かれており、それぞれ別の脳システムが担当しています。
「シロクマのことを考えないでください」と言われた時に、
と考えてはいけないこと以外に意識を向けさせようとする脳システムを「オペレーター」と言います。
オペレーターが機能している一方の脳システムでは、
と考えたくない、考えてはいけないことについて、考えているという事実を淡々と認識する脳システムを「モニター」と言います。
「オペレーター」は多大なウィルパワーが必要ですが、「モニター」は自動的に作動するので、そこまでウィルパワーは必要ではありません。
起床後すぐなど、頭がスッキリしていてエネルギー満タンな状態であれば、「オペレーター」は正常に働きます。
しかし、疲労・ストレス・お酒・病気などでエネルギーが落ちているときは「オペレーター」はまともに働かず、「モニター」が活発な状態になります。
この状態だと、考えてはいけないこと、やってはいけないことがどんどん頭の中に入ってきて、そのことばかり考えてしまいます。
【意思決定のプロセスやウィルパワーに関する記事はこちら】
脳は認知的不協和を解消したい
ダイエット中で、甘いケーキのことを考えちゃダメなのに、そのことを考えてしまっている、など思考と行動に矛盾があるときに人は不快感やストレスを感じます。
このような状態を「認知的不協和」と言います。
人はこの不快感やストレスを感じる状態に陥ると、思考や行動を変化させて解消しようとします。
例えば、以下のような感じです。
- 喫煙するけど、タバコは体に悪い→「タバコを吸っていても健康な人はいる」と思考を変化させる
- パートナーのことが好きだけど、DVを受けることがある→「別に大した問題じゃない」などと過小評価する
- 仕事が大変だけど、給料も低い→「給料とかじゃなくて、好きで仕事をやっている」
ダイエットにおいても、「ダイエット中だけど、甘いお菓子のことばかり考えている」という認知的不協和を解消させるため、「食べないことがストレスになってるから、むしろ食べた方が健康的かもしれない」と思考を変化させることがあります。
【DVから逃れられない理由に関する記事はこちら】
頭に浮かぶことを脳は「真実」だと思い込む
ここまでで、何かを考えないようにするとかえって頭から離れなくなることがご理解いただけたかと思います。
そして、それは更なる問題に繋がります。
私たちは自分の考えることには、「重要な意味がある」と思い込む傾向があります。
例えば、夢の中にそれまであまり気にしていなかった人が出てきて、それ以降、気になり始めたりとか。
つまり、ある考えが頻繁に浮かんで頭から離れなくなると、それは注意を払うべき事柄に違いないと意識的か無意識的に信じてしまうのです。
ダイエット成功の秘訣は「やらない」を「やる」に変える
「甘い物を食べたい」「お酒を飲みたい」「タバコが吸いたい」などは、「美味しいものを食べたい」「ストレス解消がしたい」「楽しみたい」といった何らかの効果を求めての行動です。
悪い習慣をやめようと意識することは逆効果になるとご説明してきましたね。
そこで、同じ効果を持つ新しい習慣を「やる」ことを意識してみましょう。
美味しいものは甘い物以外にだって、たくさんあります。
また、ストレス解消方法も例えば、運動する、カラオケへ行く、温泉へ行く、友人と出かけるなどなど。
改めたい習慣を再定義する方法もあります。
例えば、「遅刻をしない」を「5分前に到着する」と置き換えるなどです。
やってはいけないことよりも、やりたいことに注目すると、「皮肉なリバウンド効果」を避けることができるのです。
「思考」を抑えず、「行動」をコントロールする
私たちは思考をコントロールすることはできません。
でも、行動はコントロールできます。あなたにもその力があります。
ある考えが思い浮かんだ時、その考えを追い払おうせずに受け入れてください。
その考えを受け入れたからといって、あなたはその通りに行動する必要はないのです。
「思考」を抑えず、「行動」をコントロールする4つのステップについてご説明します。
- 誘惑や欲求を感じていることに気づく。
- 頭に浮かんだ考えを否定せずに、素直に受け入れる。そして、皮肉なリバウンド効果を思い出す。
- 思考や感情はコントロールできなくても、実際にとる行動は選択できることを思い出す。
- あなたが達成したい大切な目標を意識する。
まとめ
- ダイエットをした人のほとんどは、ダイエット中に痩せた分の体重が戻り、さらに体重が増えてしまうこと多い。
- 考えや感情を頭から消し去ろうとすると、逆にそのことが頭から離れなくなることを「皮肉なリバウンド効果」と呼ぶ。
- 「何かを考えてはいけない」という指令を脳が処理するプロセスには、脳の「オペレーター」と「モニター」という別々のシステムが関係している。
- 疲労・ストレスなどでエネルギーが落ちているときは「オペレーター」はまともに働かず、「モニター」が活発な状態になり、やってはいけないことばかり考えてしまう。
- 「ダイエット中だけど、甘いお菓子のことばかり考えている」という矛盾した考え(認知的不協和)を解消させるため、「食べないことがストレスになってるから、むしろ食べた方が健康的かもしれない」と思考を変化させることがある。
- 人は自分の考えることには、「重要な意味がある」と思い込む傾向がある。
- 同じ効果を持つ新しい習慣を「やる」ことを意識するのが効果的。
- 人は頭に浮かぶ思考はコントロールできないけど、行動は選択できる。
【参考文献】
【あわせて読みたい】
▼このブログを応援する▼
1.【禁欲の科学】ダイエットは「体重を増やす行為」
2.ダイエット成功の秘訣は「やらない」を「やる」に変える
3.まとめ