髪の毛を、気づいたら抜いている...。やめたいのに、手が勝手に動く。
この「抜毛症(ばつもうしょう)」は、長いあいだ「ストレスやイライラを静めるための行動」だと説明されてきました。
ところが2026年の研究が、その常識をくつがえします。
61人をスマホで10日間追いかけたところ、次の抜毛を予測したのは「退屈」だけでした。
この記事では、その研究の中身と、今日から試せる対策を、簡単に解説します。
そもそも抜毛症ってどんな状態?
抜毛症とは「自分の毛を繰り返し抜いてしまい、やめたくてもやめられず、生活に困りごとが出ている状態」です。
正式にはトリコチロマニア(trichotillomania)と呼ばれ、精神科の診断基準にも載っている、れっきとした病気のひとつです。
抜く場所は頭の髪が多いですが、まつ毛・眉毛・体毛のこともあります。
だいたい100人に1〜2人。
始まるのは10〜13歳ごろが多く、大人では女性のほうが多いと報告されています。
ここで一番大事なこと。
これは「クセ」でも「意志が弱いせい」でもありません。脳と行動のしくみが関わっています。
今回の研究のどこがすごいの?
今回の研究では、「あとから思い出してもらう」のをやめて、「その場で聞く」ようにしました。
これまでの研究の多くは、面接やアンケートで「抜くときはどんな気分でしたか」と後から振り返ってもらうものでした。
でも、人間の記憶はけっこういい加減です。
イヤなことがあった日は、その気分に引っぱられて記憶ぜんぶが塗りかわります。
たとえば、テストで悪い点を取った日の夜、「今日は朝から最悪だった」と感じませんか?
でも朝はふつうだったかもしれません。
これが記憶のワナです。
スマホで1日7回、その場の気分を回収した
そこで研究チーム(Christina Gallinatら/独ハイデルベルク大学ほか)は、経験サンプリング法という方法を使いました。
やり方はシンプルです。
参加者のスマホに1日7回メッセージを送り、そのたびに「今の気分」と「抜いたかどうか」を答えてもらいます。
| 調べたこと | 内容 |
| 参加者 | 抜毛症と診断された成人61人 |
| 期間 | 10日間 |
| 聞いた回数 | 1日7回(スマホの短いアンケート) |
| 聞いた内容 | 抜きたい衝動の強さ(1〜5)、実際に抜いたか、退屈・疲れ・感情など |
記憶に頼らず、リアルタイムの気持ちをそのまま集められる。
これが今回の設計の強みです。
結果は?未来を予測したのは「退屈」と「疲れ」だけだった
結論から言います。
数時間後の抜毛を予測したのは退屈だけで、ネガティブな感情は予測しませんでした。
た。
| そのときの心の状態 | 数時間後の抜毛・衝動を予測したか |
| 退屈 | ○ その後の抜毛エピソードを予測した |
| 疲れ | ○ その後の「抜きたい衝動の強さ」を予測した |
| ネガティブ感情(不安・落ち込み) | × 予測しなかった |
| 反芻(同じ悩みのぐるぐる思考) | × 予測しなかった |
「一緒にいる」と「原因である」は違う
ここが今回いちばん興味深いところです。
不安・落ち込み・ぐるぐる思考は、抜きたい衝動と同じ時間帯にセットで出てきました。
でも「不安になった → 数時間後に抜いた」という順番にはなっていませんでした。
たとえば、アイスがよく売れる日は水の事故も増えます。
でも、アイスが事故を起こしているわけではありませんよね?
どちらも「暑さ」が原因なだけです。
同時に起きているからといって、片方がもう片方の引き金とは限らない。
研究チームが分けたのは、まさにこの違いでした。
【「相関関係」と「因果関係」に関する記事】
抜毛は「刺激の量」の調整かもしれない
研究者は、抜毛のような繰り返し行動は「その人の刺激レベルを調整する働きをしているのかもしれない」と述べています。
つまり、心を静めるためではなく、刺激が足りない状態(退屈・ぼんやり)を埋めるために手が動いている可能性がある、ということです。
じゃあ何をすればいい?今日からできる4ステップ
研究が示したのは、対策の的をずらす必要があるかもしれない、ということ。
感情をなだめるだけでなく、退屈と疲れに直接手を打ちます。
ステップ1:「抜きやすい時間帯」を1週間メモする
抜いた時刻と、直前にしていたことを書くだけでOKです。
動画を見ながら、勉強の合間、寝る前のベッドの中。
多くの人は、決まった場面に集中していることに気づきます。
ステップ2:退屈な時間に「手の仕事」を用意する
これは習慣逆転法(HRT)という、抜毛症でもっとも効果が確かめられている治療法の考え方に近いものです。
抜きたくなったら、手で別のことをする。指輪型のフィジェット、粘土、編み物、なんでも構いません。
コツは「我慢する」ではなく「置き換える」。
手がふさがっていれば、髪には届きません。
ステップ3:疲れをためない
今回の研究では、疲れが「抜きたい衝動の強さ」を予測していました。
睡眠時間を削らない。夜更かしの動画をやめる。地味ですが、衝動そのものの土台を下げられます。
ステップ4:環境を先に変える
鏡の前、ソファ、ベッド。
抜きやすい場所が分かったら、そこでは帽子をかぶる、部屋を明るくする、座る位置を変える。
「気合い」より「配置」のほうが長続きします。

さらに学びたい人・実践したい人へ
ステップ2の「手の仕事」を試すなら、指輪型やキーホルダー型のフィジェットトイが手軽です。音が出ないタイプを選ぶと、授業中や職場でも使えます。
よくある疑問に答えます
Q. ストレス対策は意味ないの?
A.そうではありません。今回わかったのは「ネガティブ感情が数時間後の抜毛を予測しなかった」ということだけです。
不安や落ち込みは衝動と同時には存在していました。
ストレスケアをやめる理由にはなりません。
Q. 意志が弱いから抜いてしまうの?
A.違います。今回の結果はむしろ逆で、心の弱さではなく「刺激レベル」という体のしくみの問題である可能性を示しています。
自分を責めるほど回復から遠ざかります。
責める相手は、あなたではなく「退屈な時間」のほうです。
Q. この研究だけで結論を出していいの?
A.いいえ。
参加者は61人、期間は10日間で、質問の間隔は最大4時間空いていました。その間の細かい気分の変化は取りこぼしている可能性があります。
どこにいたか、誰といたかといった環境も記録されていません。
ここは今後の研究に期待、というところです。
まとめ
- 抜毛症は、毛を繰り返し抜いてしまい生活に支障が出る状態。およそ100人に1〜2人にみられる。
- 61人×10日間・1日7回のスマホ調査で、その後の抜毛を予測したのは「退屈」だけだった。
- 「疲れ」は、その後の抜きたい衝動の強さを予測した。
- ネガティブ感情や反芻は、衝動と同時にはあるが、先に来て抜毛を引き起こしてはいなかった。
- 対策は「感情を静める」だけでなく、「退屈と疲れを減らす」「環境を変える」を組み合わせる。
※この記事は研究の紹介であり、診断や治療の代わりにはなりません。症状が続く場合は医療機関にご相談ください。
【出典】
Boredom and tiredness outpace negative emotions as predictors of hair pulling (PsyPost)
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